捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Someday #10

「…………あれ?」

 

 目が覚めると、白い天井がこちらを見下ろしていた。

 ……俺は何をしていたのだろうか。何かこう……物凄く幸福な体験をした気がするんだが……ハチマン、キオクナイ。

 すると、奥から希さんが出てきた。彼女は目が合うなり、こちらに駆け寄ってきた。

 

「あ、やっとお目覚めやね」

「……希さん?え、あれ?」

「いやあ、君をここまで運ぶの大変やったよ。おまけに着替えまで……」

「え?着替え?……あ」

 

 なんか色々と蘇ってきた。

 さらに、今自分がぶかぶかのスウェットを着用していることに気づく。

 

「あ、それお父さんの」

「いや、まあ、その、ありがとうございます……え?い、一応聞きますけど……」

 

 今頭の中に浮かんでいる最大の疑問を口にしようとすると、希さんはそれを手で制止した。

 

「まあ、皆まで言わんでええよ。ね?」

「……うわあ」

 

 まさか付き合い始めた初日に全部見られてしまうとは、いやおかしいだろ。このシリーズ、大概こっちが見る側だったじゃねえか。うん、メタい。

 

「そんなに落ち込まんでもええやん?どうせいつか見ることになるんやし」

「いや、いきなり何言ってんですか……」

「あ、ごめん。どうせいつか見せ合うことになるんやから、やね」

「……い、いや、まあ、そうなのかもしれないんですけど」

 

 もしかしてだけど、俺が欲しくてたまらないんじゃないの?と勘違いしちゃいそうになるから、もうちょい控えめにして欲しいものだ。じゃないと、そのうち勢いでいっちゃいそうな気がする。

 

「それじゃあ、ご飯も食べたし、お風呂も入ったし、もう寝よっか」

「あ、はい……」

 

 布団を敷くくらいは自分でやろうと思っていたが、もう既に、ベッドの隣に敷いてあった。

 

「それ、エリチがうちに泊まる時に使う布団なんよ」

「はあ……」

 

 何だ、その情報……ありがたいような、聞かずにいたほうがよかったような……ほら、色々気になっちゃうし?

 

「だから、浮気はあかんよ?」

「……はい」

 

 じゃあ何故言ったのだろうか。いや、まあいいんだけど。仮に絢瀬さんの残り香がかなり残っていたとしても心が揺らぐことはない。ハチマン、ウソ、ツカナイ!てか、浮気のボーダーライン低すぎやしませんかねえ。

 すると、希さんはにこにこしながら上に向かって手を伸ばした。

 

「じゃあ、電気消すからね~」

「え?あ、はい……」

 

 いきなり視界が真っ暗になり、何とも形容しがたい不思議な気分になる。

 部屋が暗くなり、静かになったせいか、外から聞こえてくる音が、やけに強調されている。それも普段自分の部屋で聞くものよりは少しだけ賑やかな気がするのは、東京という街の空気がそうさせているのだろうか。

 そして、この前とは違い、今回はこういう細部を気にすることができている自分がいる。いや、無理矢理にでも考えないといらんことを考えそうだからか。

 

「八幡君、寝心地はどう?」

「……いいですよ」

「そっか。じゃあ、そっち行っていい?」

「え……」

 

 いきなり何を言い出したかと思えば、こちらが返事をするよりはやく、希さんは布団に潜り込んできた。

 

「はっ!?」

「大丈夫。隣で寝るだけやから」

 

 いや、それが色々と問題なんですが……この人、俺の理性を過大評価してなかろうか。

 包み込むような甘い香りに、落ち着かない気分でいるとと、彼女はそっと手を握ってきた。

 

「ふふっ、あったかいなぁ」

「……そうですか、ならよかったです」

「まだ緊張してる?」

「……そりゃあ、まあ……なんつーか……信頼を裏切らないようにしなきゃいけないので……」

「あらあら、なんか申し訳ないなぁ」

「絶対思ってないですよね……」

「それじゃあ、もっかいキスする?」

「……いいですね」

 

 彼女が動く前に、俺の方から覆い被さるように口づけると、微かに驚く気配があった。このぐらいの仕返しはしていいだろう。 

 それから、手を繋いだまま無言になり、甘い余韻に浸った。

 互いの息づかいと温もりが満たす時間に、極上の幸福が宿っているのが、ありありとわかる。

 やがて、どちらも意識を手放して、ゆっくりと穏やかな眠りについた。

 

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