「……ちょっといいか?」
「「え?」」
カーテンの隙間から西陽が差し込む放課後の部室。
それまでの鉛のような沈黙を破り、いきなり声をかけてきた俺に、雪ノ下と由比ヶ浜は驚きを隠すこともなく、ただ視線をこちらに向けている。ついノックもせずに入ったことは後で謝ろう。
「次の生徒会選挙の事なんだが……」
「ああ、いろはちゃんの依頼だよね?」
「前も言ったけど、貴方のやり方を認めるわけにはいかないわ」
「まあ待て。それなんだけど、俺が立候補しようと思うんだが……」
「…………え?」
「どういう事かしら?」
「言ったまんまの意味だ。俺が立候補して当選する。それだけだ」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせた。多分だが、内心ではかなり驚いていると思う。
「一体どういう風の吹きまわしかしら」
「さあな。なんつーか……」
この感覚は何なのだろうか。
成長とか、そういうかっこいいものとは違う。
もっと泥臭い何かだと思う。
俺は自然と思いついた言葉を口にしていた。
「あがいてみたくなったんだよ」
二人は、どういう心境かは知らないが、はっとした表情になった。何言ってんだ、こいつみたいな雰囲気になってないことは何となくわかるが……。
雪ノ下はしばしの間、瞑目して考え込む素振りを見せてから、やがて小さな笑みを見せた。
「それで……依頼は何かしら?比企谷君」
さすが察しがはやくて助かる。
由比ヶ浜もうんうんと勢いよく頷いていた。
ならば、もう迷うことはない。
俺は少しだけ背筋をしゃんと伸ばし、口を開いた。
「生徒会役員になりたい……協力してくれ」
「それはかなり難易度の高い依頼ね。二重の極みを習得するほうが遥かに簡単そうだわ」
「え、マジで?そんなに?」
雪ノ下から『二重の極み』という似つかわしくない単語を口にするくらいには難しいらしい。
「で、でもでも!ほら、何とかなるかもしれないじゃん?えと……同情票とか!」
「それフォローになってないからね。あと、お前よく同情票なんて言葉知ってたな」
「馬鹿にすんなし!!」
気づけばいつもの奉仕部に戻っていた。
自分から一歩踏み出す勇気をくれた希さんには感謝だな……
「あ、そういえば希さんから聞いたよ!ヒッキー達付き合う事になったんだって!」
「へえ……あの人も物好きね。色々と話を聞いてみたくなるわね」
あの人……後で覚えてろよ。いや、そのうちバレそうだからいいんだけどさ。
*******
その日の夜……。
「そっかぁ、奉仕部元通りになったんやね。よかったよかった」
「……まあ、その後からかわれまくりました」
「うんうん、いいことやね」
「いいことなんですかね」
「あっ、ごめん!やっぱり君をからかうのはウチやないと、本領発揮せんよね」
「これまでどう本領発揮したのか聞きたいところなんですが……」
「生徒会選挙、いい結果がでるように祈ってるからね」
「カードは何て言ってるんですか?」
「ひ・み・つ♪」
「勿体ぶるということは、まあまあいい結果みたいですね」
「……君、そういうの上手くなったね」
「生憎この読みは一人にしか通用しないんですけどね」
「あらら、それは気をつけんといかんね。ウチの気持ちが筒抜けになったらあかんから」
「もうだいぶ筒抜けになってますよ。つっても人の事は言えませんが……」
「それもそうやね。あ、もうこんな時間やん。じゃあウチはもう寝るね」
「ええ。俺もそうします。それじゃあ」
「うん。おやすみ~」