朝起きると、昨日見た街の風景が偽物だったのかと思えるくらいの白銀世界。
外泊という特別な状況も相まって、まるで異世界にいるかのような変な高揚感が湧いていた。
「わあ、八幡君こっち来といてよかったねえ」
「そうっすね」
「ふぁああ、まだ眠たいなぁ。昨晩八幡君が寝かせてくれんかったからやろうか」
「……言うと思いました」
「まあ、お約束やからね。夜更かしは今度泊まりに来た時にお預けやね」
「そりゃあ生きる希望が湧いて助かりますね」
「ウチはちょっと早めに出るけど、八幡君はどうする?ライブは午後からやし、もう一眠りしとってもいいけど」
「……あー、じゃあ俺は準備して、神社に行っときます」
「そっかぁ。あ、これ……」
希さんは引き出しから何か取り出し、俺の手に握らせた。何だ?お小遣いか?
手を開いてみると、そこには……
「鍵?」
「そ、鍵やね。まあ細かくいえば合鍵やね」
「…………」
マジか。
高校生にして女性の部屋の合鍵を渡される日が来るとは……これ結構でかいイベントじゃね?
「八幡君、なんか目がいやらしいよ」
「い、いや、そ、そそ、そんなことはないにょろよ!」
「慌てすぎやろ……まあ、いいけど。その……いつ来てもええよ」
「……まあ、その、時間があればいつでも」
それから特に意味のない笑みを交わす。
このくすぐったい感じは割と嫌いじゃない。
希さんはくるりと身を翻し、台所へと向かった。
「それじゃあ、朝御飯にしよっか」
「そうですね」
右手に握りしめた鍵の感触は、自分の家のものと大して変わらないはずなのに、まったく違うものに思えた。
*******
朝食を終えてから、希さんはさっき言ったとおりに学校へと向かった。
彼女の表情は、いつもどおりに見えて、微かに緊張を滲ませている。
「じゃあ、また後でね~」
「ええ。足元気をつけて」
「うん。八幡君も来る時気をつけてね」
彼女を見送り、片付けを済ませると、まだ大して時間は経っていないが、出かけるにはちょうどいいくらいにはなっていた。
「それじゃあ、俺も行きますかね」
せっかく時間があるのだから、まあ少しくらいは役に立っておこう。
*******
予想外の事態。
昼頃には止むと言われていた雪は、一向に止む気配はなく、東京の街を白く染め続けていた。
「え~!!穂乃果ちゃん達、間に合わないかもしれないのぉー!?」
「ば、ばかっ!縁起でもないこと言うんじゃないわよ!」
「そうよ。そろそろ説明会も終わる頃だし、急げば余裕で間に合うわよ」
「うん、はやく雪止むといいなぁ……」
「……希、どうかした?」
「……ううん。何でもないよ」
仮に雪が止んだとしても、道に雪が積もっていたら走るのは難しいし、何より転ぶ危険がある。もし転んでケガでもしたら……。
悪い想像が一瞬頭をよぎりかけたが、それを何とか抑え込む。
大丈夫。きっと大丈夫。カードも良い感じやったし。
絶対に9人揃って最高のパフォーマンスをすると決めたから。これまで応援してくれた人のために、自分のために、大事な人のために。
「あら?ミカさんからだわ」
穂乃果ちゃん達の友達で、何かとμ'sを手伝ってくれているメンバーの1人からの着信に、皆の視線が集まった。
「はい、もしもし。…………えっ!?本当に!?……比企谷君が!?」
「え?」
いきなり出てきた彼の名前につい目を見開いてしまう。どういうことなんやろ?
通話を終えたエリチが、にっこりと笑顔をこちらに向けた。
「穂乃果達はもうじき到着するわ。音ノ木坂の皆が雪かきを頑張ってくれたそうよ。なんとその雪かきには比企谷君も参加してくれて、とても活躍したそうよ」
「そうなん?昨日、説明会あるのは話したけど……もう、言ってくれてもええやん?」
とはいえ、何も言わないあたりが八幡君らしいので、まあ良しとしておこう。
うんうんと頷いていると、エリチが何ともいえない笑みを見せた。
「ちなみに、穂乃果達がお礼を言おうと駆け寄った時に転んで、3人が抱きつくような感じになったらしいわよ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………ふぅーん。さ、エリチ。ウチらも準備始めるよ」
*******
「っ!!」
「どうかした、比企谷君?」
「大丈夫、比企谷君?」
「私達がメインのシナリオまだ?比企谷君?」
「あ、ああ、問題ない。てか、最後の質問意味わからん」
今、何か寒気がしたんだが……。
き、きっと寒さのせいだよね!うん!