捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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Your eyes #10

 ライブ開始まであと数分。

 雪はいつの間にか止んでいて、そのせいか音を立てるのも躊躇うような静寂が観客席に充満していた。

 無事にライブができるという安堵もあるが、やはり緊張感のほうが勝ってしまう。

 すると、照明が落ち、ステージがライトで照らされ、メンバーの姿が見えた。

 それだけで、想像以上の歓声が上がり、一気に会場内のボルテージは上昇した。

 やがて、曲の始まりを悟ったように熱気はそのままに会場内が静まり返った。

 数秒後、まるで雪がちらつくような雰囲気のイントロが鳴り響き、歌が始まる。

 そこからはまるで夢の中にいるみたいだった。

 切ない歌詞も華やかな演出も、すべてが心に刺さる感触を確かめながら、気がつけば先程の倍はあろうかというくらい大きな歓声が沸き上がっていた。

 俺も出遅れた分を取り戻すようになるべく大きな拍手を送る。

 彼女に聞こえるように。彼女に届くように。

 すると、彼女がこちらを見た……気がした。

 現実的に考えて、俺の拍手の音を聞き分けられるはずもないし、見つけるのも至難の業だが、今ならばそんな奇跡を信じてもいい気がした。

 

 *******

 

 会場を後にし、火照った身体を冷ますように、駅までの道をゆっくり歩いていると、ポケットの中で携帯が震えだす。

 一応確認すると、いつもの名前が表示されていた。

 

「……はい」

「あ、八幡君?今どこ?」

「会場出て駅に向かってるとこですよ」

「え~!?せっかく会おうと思ったのに……」

「いや、さすがに人多すぎて無理かと思って……てか、他のメンバーと一緒にいなくていいんですか?」

「んー、むしろ皆から行くように言われたんよ。今日のお礼もかねて」

「ああ、まあ、その……たまにはボランティアでもやろうかと」

「へえ、わざわざライブの日に?」

「…………はい」

「穂乃果ちゃん達に抱きつかれたって本当?」

「っ!……いや、あれは不慮の事故で……」

「そっか。じゃあ、上書きしとかなあかんねぇ」

「は?」

「ど~ん!」

「っ!」

 

 背後から突然の襲撃、もといハグ。

 …………からのワシワシ!!

 

「~~~~~!!」

 

 凶悪なコンボに思わず変な声を出しながらも、解放されると同時に振り返る。

 すると、そこにはにっこり笑顔の希さんがいた。

 本当にいつもの笑顔で、さっきまでのステージが嘘みたいに思えた。

 

「やっほー。今日はお疲れさんやったね」

「いや、そっちのほうが疲れてるでしょ。……あー、ライブ観れて本当によかったです」

「そっか。八幡君も最近すっかり素直になったねえ。よしよし」

「昔から素直ですよ。自分には」

「そういうところは相変わらずやね~。よしよし」

「いや、どんなテンションなんですか」

「この解放感に浸ったまま君を可愛がりたい気分やね」

「……打ち上げとか行かなくていいんですか?」

「それは結果発表終わってからやね」

「そうですか……じゃあ、もしよければ今日は一緒にいませんか?」

「もちろん」

 

 その言葉を合図に、どちらからともなく口づけを交わす。

 甘い感触が心を満たしていく。

 寒さなんて気にもならなかった。

 そう思った直後に、手の甲にひんやりした粒が落ちてきた。

 

「あ、また雪が……」

「さっき雪かきしたばかりなんですが」

「あーあ、このまま積もって明日の電車止まればいいのに」

「あんたが言うと現実になりそうだからやめてくださいね」

 

 とりあえず希さんの家へ向かうことにした。

 鍵は俺が開けよう。

 彼女の前で彼女の部屋の合鍵を使うのは、一体どんな気分だろうか。

 弾む会話の片隅で、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

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