「……えーと」
「どうかしたん?」
「いや、その……なんか雰囲気変わりました?」
「そう?成長期やからやない?」
そう言いながら、希さん(?)は自分の胸をわしわしした。
……べ、別につい目が吸い寄せられてなんかない。ていうか、今そうなったらやばいと本能が告げている。
「なんやなんや、これくらいで照れちゃってもう♪八幡君は可愛いなぁ」
「ぅぷっ!?」
いきなり顔面を胸に押しつけられ、その柔らかさのせいか呼吸困難になる。
やばいよやばいよやばいよ!普段なら心の中でガッツポーズくらいするのだが、これはやばい気がする。何がやばいって、よく理由もわからないのにやばいとハッキリ思える部分がやばい!
しかも、気のせいだろうか……どこからか殺気じみたものを感じてしまう。スピリチュアルやね。もう何が何だかわからん。
「ん~、そのリアクション……本当に可愛いなぁ」
「え?え?」
希さん(?)が至近距離で、こちらの顔を覗き込んでくる。
あれ?いや、間違いない!この人は……!
「ストーップ!!」
すると、希さん(?)がハリセンで誰かに頭を叩かれる。
「いったぁ~い!ちょっと何すんのよ、希~!」
「うるっさい!私の恋人に何しようとしてんの、お母さん!?」
「……やっぱりか」
「え?気づいてたの?」
「まあ、その……途中から雰囲気似てるけど、別人かなと……」
本当はお姉さんだと思っていたのだが、今言うと面倒そうなのでやめておこう。
希さんのお母さんは、ハリセンの痛みから立ち直ったのか、再度俺の顔を覗き込んできた。ふわりと漂う大人の香りに、何ともいえない気分になっていると、希さんがジトーっとこちらを見ていた。そりゃもう効果音がしそうなくらいに。
「ふむふむ、ふむふむ。しかし意外ね。まさか年下と付き合い始めるなんて……ほら、あの子ってああ見えて寂しがりで甘えんぼじゃない?」
「もうっ、余計なこと言わないの!」
再びハリセンでツッコミを入れようとする希さん。
しかし、その一撃は不敵な笑みと共に、あっさり受け止められた。
「甘い。その攻撃はもう見きったわ」
「くっ……!」
「…………」
おーい。もしもーし。来客が置いてきぼりになってるよー。
とはいえ、このままでは陽が暮れそうな気がしたので、俺は二人の間に割ってはいった。
「希さん、今日はバイトもあるので……」
「あ、そうやったね。ていうかごめん。玄関で……じゃあお母さん、続きは後で」
「しょうがないわね。じゃあ、今から用意して出かけるわよ」
「「え?」」
「神社のバイトは夜からでしょ。それまで積もる話でもするわよ」
「もう、強引なんやから。八幡君、大丈夫?」
「俺は大丈夫ですけど、いいんですか?親子水入らずの時間を……」
「もちろん♪君にはたっぷり話を聞かせてもらわなきゃだからね。あ、私の名前は東條いのり。いのりって呼んでもいいわよ」
そう言って、希さんのお母さんはがっしりと腕を組んできた。
すると、ぎっしりと柔らかな何かが詰まったような感触のものが、肘の辺りに押しつけられる。こ、こういう時は念仏を……宇宙天地與我力量降伏群馬迎来曙光……
「あーもうっ!そこはウチのポジション!」
「じゃあ逆で……」
「そっちもダメ!」
「…………」
左右からもう色々とやばい。やばすぎてやばい。
もう年の暮れだというのに、さらに騒がしくなるとは……。
どうやら今年は最後まで楽しすぎる一年になるらしい。
既に確定していた。