「いや~、久々の東京は相変わらず混んでるわね~」
「いつぶりやっけ?」
「あ~……一年以上は経ってるんじゃない?」
「…………」
「どしたん、八幡君?」
「…いや、動きづらいのでそろそろ離れて歩いてもらえないかと」
俺は未だに左右からガッシリ腕をロックされていた。暴力的な柔らかさに頭がくらくらするのもあるが、今度は周りからの殺意のこもった視線に、背筋が凍る思いもしていた。
「うら、やま、し、い……」
「ガッデム」
「美女に囲まれてんじゃねえよ。ボッチのくせによ」
ほら、やっぱり聞こえてきた。ていうか、お前は一体誰なんだ。何故俺がボッチなのを知っている?
さっと目を向けたが、そこにはそれらしき人物はいなかった。
……いずれ決着をつけてやろうじゃないか。明日には忘れてるだろうけど。
「どうしたん、八幡君?柄にもなく戦う男の顔をして……」
「いえ、何でもないのでお気になさらず」
「そうよ。男は外に出れば七人の敵がいるんだから、そっとしておいてあげなさい」
「とりあえずお母さんはそろそろ八幡君から離れよっか」
「しょうがないわねえ」
いのりさんが離れ、ようやく右腕に自由が戻った。だが、ほんの少しだけ名残惜しさを感じたのは何故だろう。冬だからか。
すると、希さんがさらに強く左腕にしがみついてきた。
さすがに力が強すぎませんかねと思い、左側に視線を向けると、彼女は俯いたまま口を開いた。
「……ウチ以外見んといて」
「はい」
可愛い。
いや、マジで。
え?てか、さっきの可愛さ何?やばい。思わず「はい」とか即答しちゃったんだけど。いや、他の人見るつもりなんてないからね。つーか、ほんと可愛い。できればもっかいやってほしいくらい可愛い。
「あらあら。我が娘ったら、そんな表情まで身に付けちゃって……とりあえず仲睦まじい二人をパシャリ」
「ちょっ、い、いきなり何なん?」
「娘の成長の記録を残しただけよ。後でお父さんにも見せてあげなくちゃ」
「やめて」
「孫の顔見るのが楽しみだわ。この二人からなら絶対可憐なチルドレンできそうだし」
「いや、気が早いにも程があるやろ。まだ付き合って1ヶ月くらいやし……」
「あ、着いたわよ」
「聞いてない……いいや、これは人の話を聞く気がないやつやね」
「……似てますね」
「えっ!?ほ、ほんとに!?複雑なんやけど」
「いや、まあ、はい。いい意味で……」
しかし、希さんがこんなテンションになるとは……さすが実の家族。いいぞ、もっとやれ。
二人のやりとりを見ていると、自然とにやけてしまいそうになり、食事中もそれを誤魔化すのに苦労した。
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店を出て、心地よい満腹感に浸っていると、思いきり伸びをしたいのりさんが、こちらを振り向き、満足そうな表情で口を開いた。
「よし。腹も膨れたことだし、そろそろ行くかね」
「え、もう?」
「まだ仕事の合間だからね。でも、安心していい。来年の中頃には二人で戻るから。だから、年末年始は二人きりを堪能しなさい」
「……そっか。最後のは余計やけど。お父さんによろしく言っといて」
「はいよ。じゃあ、八幡君。この子の事頼むわね。まだ今年は半日くらい残ってるから、しっかり楽しみなさい」
「……はい。あ、ご馳走さまでした」
「お母さん、またね」
「うん。それじゃ、二人とも、よいお年を」
いのりさんは軽く手を挙げ、駅までの道を颯爽と歩いていった。
悪ふざけの多い人ではあるが、その背中は大人のそれだった。
「なんつーか……嵐みたいな人ですね」
「ほんとに……ふふっ、だから退屈しないんやけどね。」
そう言って微笑む彼女の横顔は、さっきのいのりさんみたいに写真におさめたくなるくらい魅力的だった。