それから俺と希さんは神社のアルバイトへ向かった。
まだ夕方なので人通りもまばらだが、夜になれば凄まじい混み具合を見せると聞き、少しだけ怯んだが、彼女の楽しそうな横顔を見て、何とか思い止まった。ふぅ、一人なら既にバックレてたところだったぜ……。
互いに着替えを済ませ、外に出ると、見知った顔が近づいてきた。
「あら、来たわね。お二人さん」
「まったく……年末になっても見せつけてくれるわね」
「もう、照れるやろ?」
「……どうも」
全然照れた素振りも見せずに笑う希さんに続き、会釈すると、μ'sの三年生メンバー、絢瀬絵里さんと矢澤にこさんは巫女服を見せびらかすように立っていた。
「わぁ、やっぱり二人共似合っとるやん。ねえ、八幡君」
「……そうっすね」
ぶっちゃけ贔屓目なしに見ても、この三人だけでそれなりに客を呼べると思う。眼福という言葉をはっきり表していると思う。
「比企谷君、そんな…………はっ、だ、駄目!あなたには希がいるじゃない!で、でも、愛人とかなら、まったく考えなくもないというか……」
「エ・リ・チ?」
「はい」
「もう、いつまで失恋を引きずってんのよ。年末なんだから、しっかりしなさいよ」
「にこはまだお子様だからわからないのよ。この胸が張り裂けるような痛みが」
「誰がお子様よ!」
「じゃあ、そろそろ仕事始めよっか。八幡君」
「ですね」
「放置してんじゃないわよ!」
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仕事に入ってからは、その作業量に忙殺され、あっという間に時間が過ぎた。
物を運び、あっちに行ったり、こっちに行ったりを繰り返ししていると、もう休憩時間になっていたのか、希さんがこちらにとてとてと歩いてきた。手にはマッ缶が握られている。
「はい、お疲れ」
「……どうも。まだ余裕ありそうですね」
「まあ、3回目やからね。もう体が覚えとるんよ。どう?騒がしい大晦日は」
「まあ、悪くないっすね……仕事がなければさらにいい」
「あははっ、まあその方が君らしいもんね。うんうん」
「何故頭を撫でてくるのかわからないんですが……」
「嬉しいくせに~♪」
実際疲れが吹き飛ぶ感覚がするから不思議だ。これもスピリチュアルだろうか。すげえな、俺の彼女。ヒーリングっとな力でも持ってるんだろうか。
「さっきμ'sの皆も来たよ。A-RISEの三人も来てたみたい」
「あ、そうなんですね。てか、もう年越してたんですか」
「うん。明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
「…………」
希さんは、そっと近寄ってきて、こちらを上目遣いで見つめてきた。
「ど、どうかしたんですか?」
「……ほんとにわからない?」
「…………」
さすがにそこまで鈍感ではないので、彼女を優しく抱き寄せてから、そのまま口づけを交わす。
これまでで一番長かったかもしれない。
彼女の温もりが体に流れ込んでくる気がした。
唇を離すと、彼女は笑みを見せた。
「今年初のキスやね」
「……そっすね。あの……二回目もいっときますか」
「ん……」
人のざわめきが遠ざかり、夜風がふわりと通りすぎていく。
冬の寒さはあまり気にならなかった。温もりがそれだけ包み込んでくれていたから。
今年もこの人と一緒にいれますように……それだけをしっかり祈った。
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「あわわ……キ、キス……本当にする人いるんだ……きゅう」
「ツバサ!しっかりしろ!」
「まさか、偶然こんな場所に出くわすなんて……ツバサ、ドンマイ」