捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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FUTARI #6

 昼過ぎまでだらだらと過ごしてから外出すると、陽射しがやけに眩しく感じられた。

 

「今日もいい天気やねえ。八幡君の目つきも……ああ、うん。ごめんね」

「いや、今さら何の確認してんですか。わかりきったことでしょうに」

「あははっ、でもこの目つきがええんやけどね。あと八幡君、お父さんと目つきそっくりやね」

「うわ、すげえやだなんですけど……そういや、希さんは母親似でしたね」

「まあ、そうやね。あ、胸はまだあっちのほうが大きいよ」

「どうしたんすか、急に。何すかその情報……」

 

 とりあえず記憶の片隅くらいには留めておこう。別に変な意味などない。多分。うん、多分。

 

「そういえば八幡君。彼女にして欲しいコスプレとかある?」

「唐突ですね。どうしたんですか?」

「いや、これからからかいのバリエーションを増やしていかないと飽きられるかもしれんからね」

「飽きませんよ。てか、からかいのバリエーションって何ですか。それがコスプレとどう繋がるんですか」

「ほら、例えばチアガールが応援してる風にからかうとか」

「いや、そんなの……悪くないですね。むしろいいと思います」

「うん。たまに必要以上に素直になるところ、ええと思うよ」

「……とりあえず、総武高校の制服を……」

「おっと、これは予想以上にドス黒い要求がありそうやね」

「たまにはそのぐらいあったほうが健全ですよ」

「そう、やね……うん?そうなんやろうか?」

 

 特に意味のない楽しい会話は、冬の乾いた空気の中でどんどん弾み、いつまでも続けられそうだった。

 だが俺はある事実に気づき、立ち止まった。

 

「そういや、俺達は今どこに向かってるんですかね?」

「ん?あ、てっきり八幡君がどこか決めてるかと……」

「……とりあえずバスでも乗りますか」

 

 とりあえず……夢中になりすぎるのは注意したほうがいい。

 

 *******

 

 千葉駅まで行き、目についた喫茶店に入ると、店内はそれほど混んでおらず、ちょうどいい雰囲気だった。

 ゆったりメロディーをなぞるような穏やかなジャズを聞き流し、希さんの表情が少し真面目になったのを見て、俺は話を聞く態勢を整えた。

 希さんも俺のその様子に気づき、頷いてから口を開く。

 

「ウチ、大学も東京のに行くことになったよ。本当はちょっと前に決まってたんやけどね。ドタバタしてて落ち着いて言うタイミングがなくて……」

「ああ、確かに……おめでとうございます」

「ありがと。まあこれからも巫女のバイトは続けるから、巫女服のウチは見れるよ」

「そりゃあラッキーですね。そういや、μ'sはどうするんですか?」

「う~ん、そっちはまだ色々と話し合いしてる途中かな」

「そうですか」

「八幡君も何か言いたいことがあるんやないの?」

 

 さすがに読まれていたようだ。最早スピリチュアルとかではなく、表情で悟られたのだろう。

 俺は気を取り直すように、運ばれてきたアイスコーヒーに口をつけ、気持ちを落ち着け、口を開いた。

 

「……俺、東京の大学目指そうと思います」

「……ほんと?……」

「まあ、まだ受かるかわからないっすけど。もし受かったら、その時はよろしくお願いします」

「うん。もちろん……そっかぁ、楽しみやねえ」

 

 希さんはやたらとにこにこして、こちらを見つめてきた。その表情はいつもより幼く見え、こちらもつい頬が緩んでしまう。

 

「あと一年くらいでいつも一緒にいられるんやねえ」

「……受かってからね。そこ重要だから」

「大丈夫。ウチが春頃からみっちり勉強教えてあげるから」

「うわあ……効果ありそうだけど、なんか怖いっすね」

「ふふふ、今夜は寝かさんよ」

「いや、何で今夜なんですか。まあ、やれるだけやりますので、よろしくお願いします」

「うん。あ、今のもしかしていやらしい意味?」

「ち、違います、勉強ですよ……」

 

 まったくこの人は……テンパりそうになる俺も俺だが。

 希さんは、いたずらっぽく目を細め、小さいがよく通る声で囁いた。

 

「ねえ、八幡君。もうしばらくここで話さん?」

「……いいですね」

 

 再びコーヒーを口にすると、いつもより砂糖が少ないことに気づいた。

 ……まあ、たまにはいいか。

 このコーヒーの味と共に、会話の一つ一つを刻んでおきたくなった。

 こういう日常の先に、さっき話した未来が待っているなら、それはとても素敵なことなんだろう。

 

 

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