それから作業が始まり、ただの空洞のようだった会場内はそれらしい雰囲気になっていった。
「ヒッキー、休憩行ってきたら?」
「……ああ、もうそんな時間か」
やはりこの手の単純作業は集中できる。ボッチ経験者なら納得してくれるはずだろう。
それ故に時間が経つのも早く、作業は既に折り返し地点を迎えていた。
確かに休憩に行くにはいいタイミングかもしれない。
「じゃあ比企谷君のグループは休憩に行ってきて。それと比企谷君、ちゃんと10分後には戻ってくるのよ」
「ちょっと?何で遅刻常習犯みたいな扱いなんですかね」
「正確には、警戒しているのは貴方ではないけれど」
「……お前がそういう冗談言うようになるとはな」
「誰の影響かしらね」
雪ノ下の言葉に苦笑しながら、俺は戸塚達と一緒に休憩に入った。
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「やっほ~」
「……あ、どうも」
一人になったところで、まさかの普通に遭遇。
いや、もっとこう……サプライズみたいなね?別にいいけどさ、嬉しいし。
だがそれがあまり伝わっていないのか、希さんは不満げな表情だ。
「あ、どうも。なんて、他人行儀な挨拶やねえ。やり直しを要求する~」
「いや、ほら。ここイベント会場だからね……誰かに見られたらアレと言いますか……」
「ほう、八幡君は人に見られたらあかんことをしたいんやね」
「いや、そういう話じゃなくて……」
「ちなみに、さっきの女の子は初恋の相手かどうかを聞くのは後にするから心配せんでええよ」
「……は?どこから見てたんですか?」
「君達がいたところからは正反対の入り口」
「どんだけ目と鼻利くんですか」
「スピリチュアルやね」
「万能すぎやしませんかね、その台詞」
「まあ、見えた聞こえたは嘘やけどね。ただの女の勘」
「それはそれですごいと思いますが……」
それこそスピリチュアルというやつではなかろうか。
すると、彼女は急に言いづらそうに口をもごもごさせた。
「それで……ああ、これ言うてええんかなぁ」
「せっかくだから言ったらどうですか?」
続きを促すと、彼女は髪の毛を弄りながら数秒俯き、そして何かを誤魔化すような笑みを見せた。
「うん。嫉妬やねえ。こんなんウチらしくもないけど」
「……言うまでもなく付き合ってたとかじゃないですよ」
「わかっててもつい出ちゃうんよ~。ほら、恋は盲目って言うやん?」
「…………」
そして希さんはこちらに距離を詰め、つむじを見せてきた。
「だから……色々終わるまで我慢する分、心を込めてよしよしして欲しいなあ」
「……それぐらいなら」
一応周りを確認してから、その頭に手を触れ、優しくいたわる。
猫のように目を閉じた彼女を見て、そろそろかと思い、そっと手を離すと、彼女は満足そうに笑った。
「ん……充電完了。リハーサルもいけそうやね」
「……リハーサルで燃え尽きないでくださいよ」
「その時はまた充電してもらうもん」
「そりゃ、何度でも構いませんけど」
「ふふっ、じゃあお礼に……」
今度はこっちの頭を撫でられる。
だいぶ慣れたが相変わらず破壊力は抜群である。
いつもより短めの時間だが、それでも身体が癒された気分がした。
「よし、じゃあこの後も頑張らんといかんね」
「……ええ」
そう言って、手をひらひら振る彼女の笑顔は、スクールアイドルの顔だった。