捻くれた少年と寂しがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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風をあつめて ♯8

 東條さんと連絡先を交換してから一週間後、彼女の方から休日の夜に電話がかかってきた。その間、特にメールなどのやりとりもなかった。中学時代なら、きっと悶々とした日々を送っていたことだろう。そして、しょうもないメールを送り、黒歴史を1つ増やしていたかもしれない。

 まあ、仮定の話はいいとして、とりあえず東條さんから電話があり、彼女の方は何となくかけてみただけという謎な理由だったので、こっちが今日学校であった出来事を話したのだ。

 

「奉仕部?」

「はい」

「学校生活を振り返って書いた作文で、おかしな事書いたから?」

「……はい」

 

 奉仕部というよくわからん部活に入れられた経緯を話すと、東條さんからはキョトンとしたような、または呆れたような反応が返ってきた。まあ、当然といえば当然の反応だろう。

 なんて考えたところで、今度はクスッと笑う声が漏れ聞こえてきた。

 

「君はおもろいなぁ」

「今、面白い要素ありましたっけ?」

「ふふっ、今度その作文見せて♪」

「……絶対に嫌です」

「ええやん。減るもんでもないし。一度は先生に見せたんやろ?」

「それとこれとは話が別ですよ。つーか、わざわざ見せに行くのも……あ」

 

 未だに玄関に置いてある傘を思い出す。

 ……早く返さなきゃいけない。

 まあ、傘のお礼に作文を見せるくらいなら別にいいか。実際に減るもんでもないし。減るのは東條さんからの僅かばかりの好感度くらいだろう。うわ、哀しすぎる。何でわざわざ自分から好感度を下げに行かなきゃならんのか。

 

「じゃあ、今度傘と一緒に持って行きます」

「ありゃ、どうしたん?急に……」

「いや、今度こそ傘を返さなきゃいけないんで、そのついでに……」

「ああ、忘れとった!ふふっ、また忘れたら面白いんやけど」

「いや、それはさすがにないですから」

 

 *******

 

「それで、また忘れたんやね」

「いや、何と言いますか……作文の方に気を取られすぎていまして……」

「あはは!まあええよ♪おもろいし、カードがそう告げとったし、作文もってきてくれたし」

 

 カードが告げてたなら、教えてくれてもいいんじゃないですかねえ……。いや、別にいいんだけどさ。

 ちなみに、今は秋葉原駅近くの喫茶店で話している。今日は偶々神社でのバイトが休みだったらしい……連絡先交換してよかった……これもスピリチュアルパワーだろうか。

 東條さんは既に、例の作文を読み始めている。

 口元の笑みは残したまま、視線を原稿用紙に走らせる姿は、彼女の知的な美貌を一層引き立たせた。

 そして、大した量はないので、すぐに読み終えた。

 彼女の視線がこちらを向き、口元に貼りついた笑みが、次の言葉を想像させる。

 

「やっぱり君、おもろいなぁ♪」

「本当に面白けりゃクラスの人気者ですよ」

「あははっ、わかる人にはわかる面白さって事でいいんやない?」

「…………」

 

 *******

 

「ん?」

「どうかしたの、お姉ちゃん?」

「いえ、何でもないわ」


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