東條さんと連絡先を交換してから一週間後、彼女の方から休日の夜に電話がかかってきた。その間、特にメールなどのやりとりもなかった。中学時代なら、きっと悶々とした日々を送っていたことだろう。そして、しょうもないメールを送り、黒歴史を1つ増やしていたかもしれない。
まあ、仮定の話はいいとして、とりあえず東條さんから電話があり、彼女の方は何となくかけてみただけという謎な理由だったので、こっちが今日学校であった出来事を話したのだ。
「奉仕部?」
「はい」
「学校生活を振り返って書いた作文で、おかしな事書いたから?」
「……はい」
奉仕部というよくわからん部活に入れられた経緯を話すと、東條さんからはキョトンとしたような、または呆れたような反応が返ってきた。まあ、当然といえば当然の反応だろう。
なんて考えたところで、今度はクスッと笑う声が漏れ聞こえてきた。
「君はおもろいなぁ」
「今、面白い要素ありましたっけ?」
「ふふっ、今度その作文見せて♪」
「……絶対に嫌です」
「ええやん。減るもんでもないし。一度は先生に見せたんやろ?」
「それとこれとは話が別ですよ。つーか、わざわざ見せに行くのも……あ」
未だに玄関に置いてある傘を思い出す。
……早く返さなきゃいけない。
まあ、傘のお礼に作文を見せるくらいなら別にいいか。実際に減るもんでもないし。減るのは東條さんからの僅かばかりの好感度くらいだろう。うわ、哀しすぎる。何でわざわざ自分から好感度を下げに行かなきゃならんのか。
「じゃあ、今度傘と一緒に持って行きます」
「ありゃ、どうしたん?急に……」
「いや、今度こそ傘を返さなきゃいけないんで、そのついでに……」
「ああ、忘れとった!ふふっ、また忘れたら面白いんやけど」
「いや、それはさすがにないですから」
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「それで、また忘れたんやね」
「いや、何と言いますか……作文の方に気を取られすぎていまして……」
「あはは!まあええよ♪おもろいし、カードがそう告げとったし、作文もってきてくれたし」
カードが告げてたなら、教えてくれてもいいんじゃないですかねえ……。いや、別にいいんだけどさ。
ちなみに、今は秋葉原駅近くの喫茶店で話している。今日は偶々神社でのバイトが休みだったらしい……連絡先交換してよかった……これもスピリチュアルパワーだろうか。
東條さんは既に、例の作文を読み始めている。
口元の笑みは残したまま、視線を原稿用紙に走らせる姿は、彼女の知的な美貌を一層引き立たせた。
そして、大した量はないので、すぐに読み終えた。
彼女の視線がこちらを向き、口元に貼りついた笑みが、次の言葉を想像させる。
「やっぱり君、おもろいなぁ♪」
「本当に面白けりゃクラスの人気者ですよ」
「あははっ、わかる人にはわかる面白さって事でいいんやない?」
「…………」
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「ん?」
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
「いえ、何でもないわ」