あの熱狂から少し時間が経ち、今日はバレンタインデー。
街が色めき立ち、冬の寒さも忘れるくらいに盛り上がる一日。
もちろん自分には関係ないと思っていた。
だが今年は……
「あ、八幡君お待たせ~」
「……いえ、今来たところなんで……」
「おお、その台詞が出るとは……八幡君ノリノリやねえ」
「ええ、まあ。一回言ってみたかったんで……」
「そういうのあるよね、わかるわかる」
「わかるんですか。ちなみに、どんな台詞ですか?」
「ヒ・ミ・ツ♪」
そう。今年は一緒にいる相手がいる。
俺と希さんは現在千葉にある某遊園地の前にいる。
今思えば、付き合い始めてからこういう場所に来たのは初めてだ。
まあ、これまでお互いに忙しかったのもあるが……。
すると、希さんが流れるような動きで腕を絡めてきた。
「じゃ、行こっか」
「は、はい……」
うわ、何この人。いきなり普通のカップルみたいなことしてきたんですけど。可愛いすぎて涙出そう。
「ふふっ、今日はしっかりエスコートお願いするからね」
「いや、俺は三歩後ろを黙ってついていく大和撫子タイプなんですけど」
「あははっ、確かにそうかもしれんね。じゃあ、今日はウチがエスコートしてあげよう」
「よろしくお願いします」
「八幡君は初めての遊園地やからね。お姉さんから離れないように注意しとかなあかんよ」
「いや、さすがにそこまでしなくてもいいんで。てか、初めてじゃないので。久々すぎるだけなので」
「そう?その割には珍しそうにキョロキョロしてるけど」
「……前に来た時と比べると、だいぶ変わってたんで……」
「う、うん。細かくは聞かないでおこうかな」
なんか少し引かれた気がするが、まあいい。テンションが高い今は細かいことなど気にならない。
ていうか、さっきから肘に柔らかいものが押しつけられてて、そっちの方が気になって仕方ないんですけど!
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「そういや、ラブライブ優勝のインタビューはもう落ち着いたんですか?」
「うん。ようやく、やね」
先日のラブライブ全国大会でμ'sは見事に優勝を果たした。
ぶっちゃけ感動しすぎて涙で顔がぐしゃぐしゃになり、由比ヶ浜と戸塚の表情がやや引き気味だったぐらいだ。
テレビにも取り上げられ、学校前にファンが来たりしているらしい。
「あれからドタバタしとって落ち着かんかったからね。落ち着いてからやっと優勝した実感も沸いてきたというか……」
「まあ、あの後会う暇もなかったですし……」
「そう。だから寂しかった分を埋めんといかんからね。よし、じゃあさっそくあのジェットコースター行くよ~」
「……いきなりですか。いや、別にいいんですけどね」
「ふっふっふ。今日はとことん付き合ってもらうよ~。そのためにさりげなくサービスしてるんやからね」
「あ、そういうことだったんですね……ちょっと……いや、かなりずるくないですかねえ」
「そんなん今さらやん?」
見ました?この人の開き直り方ハンパないですよね……。
そうこうしているうちに、俺達はアトラクションの前まで来ていた。
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「はぁ……はぁ……」
「いやあ、いきなりこれはなかなかハードやったね」
「……ええ。ていうか、何すか世界最長って……」
「世界で一番長いって意味やね」
「いや、そういうことではなく……」
「大丈夫。ほら、そこベンチあるよ」
希さんと近くにあったベンチに並んで座ると、何だかさっきまでの急転直下が夢の中での出来事みたいに思えた。
目の前を通過していく家族連れが何だか微笑ましい。
「ちち、はは、アーニャあれのりたい」
「あれはお前の身長じゃダメだ」
「あら、残念ですねえ」
……仮に乗れたとしても子供にあれはきついだろう。
行き交う人の流れをぼんやり眺めているうちに、体力が回復したので、俺は柄にもなく気合いを入れて立ち上がった。
そして、彼女にそっと手を差し出した。
「……そろそろ行きますか」
「そうやね。ふふっ」
小さな手の感触は柔らかく、ほんのり温かかった。