「え?高坂さんとはぐれた?」
「うん、そうなんよ……」
ホテルに戻ると、μ'sのメンバーが先程とは真逆の暗いテンションでたむろしていた。
何人かはこちらを見て「え、何でここにいるの?」みたいな表情をしたが、すぐに暗い表情で俯いた。華やかなホテルのロビーで、この一角だけがやたらと不釣り合いに見える。
「この辺りに来たことあるのがウチだけなんやけど……」
「さすがに希一人に探しに行かせるわけには行かないわ」
確かに絢瀬さんが心配する気持ちもわかる。
本当は皆探しに行きたいのだ。
だが、よく知らない街で行き当たりばったりに移動して、自分や他のメンバーが迷子になったら目も当てられない。
そう考えながらも自然と口は開いていた。
「俺も一緒に行きましょうか。それなら一人にしないで済むし」
「……ええの?」
「あー、大丈夫ですよ……多分」
親父と母ちゃんに目配せすると、二人とも黙って頷いてくれた。写真さえ見せてくれればこの二人ならある程度の範囲は探してくれるだろう。
「小町、悪いがそこで他のメンバー留守番しててくれ」
「うん。お兄ちゃん、希さんから離れないようにね。お兄ちゃんまで迷子になったらいやだよ?」
「おう」
希さんに目を向けると、彼女は力強く頷いてくれた。
ぶっちゃけかなり不安だが、それも少し薄らいでいく。
そして、ホテルの外へ足を踏み出した……のだが。
「あ、みんな~!!」
「穂乃果ちゃん!?」
なんと高坂さんがホテルの前まで来ていた。手に持っているあれは……何かのケースか。
希さんは慌てて駆け寄り、高坂さんの肩に手を置いた。
「大丈夫やった?よく一人で帰ってこれたね……」
「一人じゃないよ。ここまで優しいお姉さんが連れてきてくれたんだぁ」
「え?誰もいないけど……」
「そんな……あれ?いない……」
「…………」
確かに誰もいない。いや、てか何だそのファンタジーみたいな話……ま、まあ、いいか。無事帰って来れたんだし……。
希さんがこちらに申し訳なさそうな笑顔を見せたので、とりあえず頷く。
その後、高坂さんは園田さんに雷を落とされていた。
あまりの勢いに、とりあえず部屋に戻ろうとすると……
「ねえ八幡君……ウチの部屋に来て」
「…………は?」
やたらと優しい笑みを浮かべた希さんから、お呼びだしを喰らった。
*******
一応小町に伝えてから彼女の部屋に行くと、中は彼女一人だけだった。
「……一人部屋なんですか?」
「違うよ。真姫ちゃんが気を利かせてくれたんよ」
「ああ……なんか悪いですね。明日ライブなのに」
「そう。明日はライブだから、八幡君が浮気せんようにウチだけを見るようにしとかんとね」
「ど、どうしたんですか、いきなり……んんっ!?」
何の前振りもなく重ねられた唇。
彼女は俺をベッドの方へ押しやりながら、舌を卑猥に絡めてきた。
それに応じていると、乱暴にベッドに押し倒された。
軋んだ音がまるで遺物に感じられるくらい、もう既に二人きりの世界になっていた。
希さんはチロリと唇を舐め、再び強引に唇を重ねてきた。
「んん……!」
「んくっ……ん……」
頭の中に炎が燃えたぎり、何も考えられなくなりそうだ。
俺は今度はこちらのターンだと言わんばかりに彼女と位置を入れ替わり、ベッドに押し付け、唇を雑に重ねた。
何だか獣になったかのような気分だが、不思議と悪い気はしない。
微かに手の震えを感じながらも、今度は彼女のコートを脱がす。
さらに、その下に着ていたシャツのボタンを不器用に外すと、紫色の下着と豊満な谷間があらわになった。
どくん……どくん……と未知なる興奮が胸を叩くのを感じながら、俺はもう一度希さんと目を合わせた。
……彼女はぎゅっと目を瞑っていた。
その様子を見た瞬間、急に体から力が抜け、俺は彼女の隣で仰向けになった。
「……ええの?」
「無理しなくていいですよ。……なんかありました?」
「ヤキモチ……やね」
「ヤキモチ、ですか。……え?俺なんかしましたっけ?」
「……めっちゃ綺麗な子に声かけられてデレデレしとったね」
「っ!い、いや、別にデレデレはしていませんが……」
ていうか、あれ見られてたのか……あの時の悪寒は気のせいじゃなかったのか。
希さんはさっきまでとは違う感じで俺の上に寝そべり、ふるふると首を振り、頬を膨らませた。
「してた。してたよ。それでね、もっとウチに夢中にさせたいなぁって……」
「もう夢中ですよ。出会ったその日から……」
「ほんとかな~?」
「信じてもらえるまで何度でも言いますよ。……愛してます」
「っ……きゅ、急にそんなんずるい~!」
「先に仕掛けたのはそっちですよ」
「むぅ……あ、そうだ!」
何か思いついたかのような表情を見せた希さんは、俺の手をとり、ぐいっと自分の胸に押しつけた。
「はっ!?」
「ウチの鼓動、わかる?」
「は、は、はひゃい……」
暴力的な感触に頭の中が真っ白になりかけるが、何とか持ちこたえる。噛んだけど。
そんな俺のリアクションを見た希さんはいつもの悪戯っぽい笑みを見せ、口を開いた。
「今、すっごく高鳴っとるんよ」
「は、はい」
「この高鳴りの分だけ、ウチは……私は、君を愛しています」
「…………ありがとうございます。てかまた俺が暴走したらどうすんですか?」
「大丈夫。信頼してるから」
「そりゃあ裏切れませんね」
やっぱりこの人には勝てそうもねえな。
俺達はどちらからともなく微笑み、長く甘い口づけを交わした。
窓から見えるニューヨークの夜空は東京と大して変わらないように見えた。