僕の/私の3周目   作:雨後の筍

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どうも作者です

なんていうか書いてる時よりも夢想してる時の方が楽しい
頭の中に思い描いてる映像だけで砂糖吐きそうなうです

そんな感じで短いですが本編をどうぞ
しばらくはこんな感じの日常回ですー


日∽仏

「わー、お兄ちゃん見て見て! まるでおとぎの国みたい!」

「ああ、そうだな。まぁ、ヨーロッパの町並みなんてどこもこんなもんだろう」

「ええー、お兄ちゃん夢がないよ夢が! こんなふぜいあふれるじょうけいなんてなかなかないよ!」

「その風情あふれる情景もこれから毎日見ることになるんだ。すぐに目新しくもなくなるさ。それにしても藍、よくそんな言葉知ってたな」

 

 ここはフランス、ストラスブール。

 ここへは父さんの出世に合わせて引っ越すことになった。

 領事官であるところのうちの父さんは出世頭らしく、弱冠32歳にして副領事になり、この度ストラスブールの日本領事館で海外勤務をすることになったのだ。

 藍は住み慣れた日本を離れることを嫌がったが、母さんが乗り気で、そのうえ俺まで賛成したもんだから、いやいやながら頷いた。

 その割には飛行機に乗るときも、こちらについてからも上機嫌そのものなのだが。

 

「この前テレビでやってたよー。あ、そういえばこっちだとテレビも全然違うんだよね。うわー、ペケポンとかもう見れないのかぁ」

「内容だけじゃなくて喋る言葉からして違うけどな。フランス語かぁ、英語とかドイツ語ならわかるんだけどなぁ」

 

 俺がこの世界に降り立ってから一年が過ぎた。

 俺が成り代わった当初は性格の違いなんかから父さん母さんには心配されたけど、体が丈夫になったことなんかもあって、いい方向に向いたんだと納得された。

 おかげで最近は結構自由にやらせてもらっている。

 本当に最初の頃はひどかった。それはそれは過保護で……思い出すだけで疲れるほどだ。

 

「お兄ちゃんはいいよね。前の世界で外国にいたことがあるんでしょ? 私なんて最初から覚えないといけないんだよ? 人って生まれた時から聞いていた言葉が一番馴染むんでしょ、私知ってるんだから!」

 

 藍が耳元で囁く。

 両親に俺の事情は喋らないことに決めたのだ。

 余計な心配をかけるし、彼らからすれば俺は息子であって息子じゃない存在だからだ。

 不義理ではあるが、その方が彼らの精神衛生にはいいだろう。

 いくら優しいヒトたちではあっても、いきなり黒科學やら悪魔やら世界の話をして、そのうえお宅の息子さんは消えました、なんて言われても全く整理がつかないだろうし。

 話して拒絶されたりしたら大変だ。

 こっちの世界ではまだ八つの俺が社会に放り出されても、何もすることはできないのだ。

 だから、これは仕方ない対応だと藍と話し合って決めた。

 自己中心的な考えではあるし、もしかしたら話したら受け入れてくれるかもしれない。

 でもそれは我慢を強いることであって、違和感はあっても悲しみのない今のほうがいいはずなのだ。

 藍も俺もこれがエゴだと分かっている。

 二人とも胸の内に罪悪感はあれども、それを抱え込んで生きていかねばならないのだ。

 

「馬鹿言うなよ……俺だって覚えなおしだ。外国語なら全部同じようなもんだと思うなよ? 俺がドイツ語の習得にどれほど時間を割いたか聞いたらお前泣くぞ。英語を覚えるのすら手間取ったのにもう一言語なんてどれだけ……ああ、藍一緒に頑張ろうな。思い出したら泣けてきた」

 

 そういえば、俺たち兄妹に外の世界を見せてやりたいんだ、とうちの父さんは言っていたが、俺自身はまだ2周目の世界にいた頃にドイツに留学していた時期がある。

 黒科學の源流はドイツからだからな。

 錬金術の流れを汲み、かのファウスト博士が存在を示した黒科學。

 その流れは脈絡と流れ続け、今もドイツを主流としてヨーロッパを中心に発展を続けていた。

 最近はイギリスが本場となりつつあったようだが……まぁ時代の変遷で源流が衰えるのも宿命だな。

 おかげでドイツ語と英語だけは苦労することなく話せる。

 実は、今回の引越し先もストラスブールと聞いていたからドイツ語が使えるんじゃないかと少し期待していた。

 それが蓋を開けてみれば、街中では全くと言っていいほどドイツ語が聞こえてきやしない。

 たまにわかる言葉が聞こえてきても精々英語だ。

 フランス語ばっかりでこれから苦労することが目に見える。

 なぜまだ十にも満たない歳ながら、四言語も操れるようにならなければならないのだろうか。

 前の世界の時ですら一八で三言語だぞ。

 それも血反吐を吐くような努力でやっと話せるようになったものだ。

 少しばかり努力しただけもう一言語習得できたら苦労せんわ!

 

「えへへ、フランス語かー。ちょっと楽しみだなー」

 

 ……どうせ我が家の妹様はすぐ身に付けるんだろうけどな。

 藍の頭の良さは身にしみている。俺が留学してる間に苦労して習得したドイツ語を、日本に帰ってきた途端に藍から聞いた時の記憶は今でもトラウマだ。なんで俺みたいに身につけなきゃやっていけないとか、そういう縛りがあったわけでもないのにあんなに簡単に喋れるようになったのか、当時の俺にはさっぱり理解できなかった。

 おかげで少しの間仲がこじれることになってしまったし、そのせいで藍は体を失った。

 あの時俺がもっと大人だったならば、きっと藍も俺も今頃もまだ一般人として過ごすことができていたのだろう。いや、それには少し語弊があるか。きっと黒科學の研究者としての一般的な人生を過ごすことができたのだろう。

 今では藍と俺を比べることはない。藍は天使だし、俺は多少大目に見ても秀才だからだ。そのことを嫌というほどに味わった。俺が藍に勝てる分野は少ない。だが、だからこそ俺が藍を守ってやらなければならない。

 2周目の世界の時みたいに、俺が不甲斐ないばかりに藍に重荷を負わせるわけにはいかないのだ。

 

「よーし、家に着いたぞー」

 

 少し先を歩いていた父さんが告げる。

 どうやらいつの間にか新たなる我が家の前までたどり着いていたらしい。

 ヌオフ・ロドルフ・ルスという駅でトラムを降りて少し歩いたポリゴン地区に新居はある。

 なんでまたこんな辺鄙なところに居を構えたのかはわからないが、どうせ子供たちにいい空気を吸わせたかった、とかそんな理由だろう。もっと街中でよかったのに。

 

「わー、新しいおうちだー」

 

 藍がはしゃいでいる。

 うちの妹は3周目の知識があるせいか賢いせいか、下手な大人よりもよっぽど大人びているが、こういうところは歳相応だ。

 普段から落ち着きすぎている俺が隣にいるせいかそんなに目立ってはいないが。

 今日ははしゃぎ疲れただろうから、どうせ一通り家の中を見て回ったらすぐに眠ってしまうだろう。

 流石にどんなに大人びていても所詮六歳児ということだ。

 

「ふふ、みんなよく来たわね。さぁ上がって頂戴、もちろん靴は脱いでね」

 

 出迎えてくれたのは一足先に家に着いていた母さんだ。

 これから暮らす家なのにその中身を全く知らないで何が主婦か、と謎の女気を見せて俺たちより先に日本を発ち、内装をいじったりだの食材を安く買えるスーパーを探したりだの、主婦力全開でここ一週間を過ごしていたそうだ。

 全く理解できない。

 

「それにしても家の中は普通だな。もっと日本と違いがあるのかと思ってた」

「うーん、最初はちょっと異国情緒溢れる感じだったのだけれど、日々を過ごすならこっちの方がいいかなって。あんまり慣れない環境にずっといるのも気疲れしちゃうから」

 

 まぁ全く理解できないなりに、こちらのことをよく考えていてくれるということはわかる。

 こちらのことをよく考えているからこそ色々とやりにくいことになることもしばしばなのだが。

 

「わーい、いいおうちだね! 私このおうち大好き!」

 

 早速家の中を走り回ってきた藍が戻ってきた。

 玄関を抜けてすぐがリビングだったのでそこに一週間ぶりに家族四人が揃う。父さんは藍に付き合ったからか多少息が荒いが、まぁ問題ないだろう。

 

「ハァハァ……さて、今日からここが我が家だ。今までとは全く違った生活になるが、まぁ楽しくやっていこうじゃないか」

 

 そうニヤリと笑いながら言う父さんは、なんだかいつもより格好良く見えて、横目で母さんが頬を染めてるのを見ながら、ああ大人ってのはよくもまぁ格好つけるもんだな、と思った。

 だからお願いだから、息が整いきってないのに眠たそうにしている藍にふらふらと歩み寄るのはやめてくれ。変質者にしか見えないから。

 

 

 

 そうやって俺たちのストラスブールでの生活は幕を開けた。

 このストラスブールでの生活が俺の人生をまた左右するわけだが、それはまたもう少しあとの話。

 

 




いかがだったでしょうか?

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それではそれでは

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