今、妄想力が試される…!
偶然の産物
俺が一番最初に彼女を目で追ったのはいつだっただろうか。
その声が、仕草が、ふと見かけた優しい笑顔が、どうしようもなく気になりだしたのは一体いつだっただろうか。
湊友希那。
今年同じクラスになった女子で、周囲からは『孤高の歌姫』などと呼ばれている。綺麗な銀髪を伸ばしていて、よく窓から差し込む太陽の光を浴びてはキラキラと幻想的な輝きを放っているのを見たことがある。
孤高と言っても友達がいない訳ではないらしく、よく女子達と話しているのを見かける。噂によると、彼女がバンドを組んで活動を始める前にソロで歌っていた時期があって、その時に広まった名前なんだそうだ。
それに比べて俺はどうだ。
特に親しい友人もおらず、クラスでもほとんど一人。きっと孤高というより孤立という言葉が俺を表すのにぴったりだろう。あー、友達欲しいなー。その辺に落ちてないかなー。ないか。
話を戻そう。
さっきも少し触れたが、彼女はバンド活動をしている。バンド名は確かRoselia。Roseは薔薇の意味で、liaは多分椿だと思う。
そんな彼女に今、俺は絶賛恋をしているのである。
ただ、恋をしていると言っても話した事はたったの一度もない。高校2年のクラス替えで一目惚れしてから既に3週間程経つが、どう話し掛ければいいかわからず、また現状一つも接点のない自分から話しかける事に恥ずかしさを感じてしまい、結局何も会話ができていなかった。まず話題がないしな。俺のことを認知してるのかすら怪しい。
「はぁぁ〜」
ついため息をついてしまう。早くも前途多難過ぎて辛い。湊さんは多分誰もが認める美少女だ。かたや俺は影の薄い、どのクラスにも一人はいるであろう空気系男子。彼女を想う反面、俺は9割自分の恋を諦めていた。
だから、これは片想い。
太陽を求めて少しづつ翼をはためかせ、いつかきっと地に堕ちるイカロスの物語。
決まった……! (かっこいいつもり)
● ○ ● ○
「移動しないの?」
前の授業が終わったことに気付かず頬杖をついていた俺、本街修哉の耳にふと、綺麗で、美しくて、ずっと聞いて居たくなるような心地よく凛とした声が届いた。
俺はこの声を知っている。いつも聞いていたから。いつか、それを俺に向けて欲しいと望んでいたから。背後から聞こえてきた声は他でもない、俺の想い人の声だった。
「次、教室移動よ」
「え……あ、あー、気付かなかった。……ありがとう」
それだけ言うと、彼女は踵を返して教室を出て行った。
普段は喧騒に満ちた箱の中も、今は静まり返っている。廊下から微かに聞こえてくる隣のクラスの声すらも何処か遠く感じて、この空間、ひいては世界に自分一人しか居ないんじゃないかと錯覚しそうになる。
窓から流れ込んでくる風がカーテンを揺らして優しい音を奏で、そこに壁掛け時計の秒針が確かなリズムを刻む。
春の少し冷たさが残りつつも確かに暖かい風を浴びて、やっと俺は気づいた。
……え? 今俺湊さんと話した?
場面は変わって再び教室。
俺は窓側の前から三番目の自席に座り窓の外を眺めていた。
あの後急いで移動先の教室に向かい、チャイムと同時に駆け込んだ事で教師からの説教を受けることなく済んだ。あの先生ほんと怖いんだよなー。あと少し行動が遅れていたらどうなっていたことやら。
でも肝心の授業内容が全く頭に入っていない。まるでさっきまでの記憶が全て吹き飛んでしまったような感覚に、3次元でも本当にこんなことってあるんだなーと思ってしまう。
多分あの時の俺の頭は嬉しさやら驚きやらでショートしてしまっていたのだろう。
だって、初めて話すことができたから。
だって、湊さんの方から話しかけてくれたから。
あの会話とも言えない短い応酬には、きっと意味はない。あの場にいたのが俺じゃなくても湊さんは声をかけただろう。そんな事は分かっている。自分が特別なんじゃない。偶然、たまたま、運良くそこに居ただけの話。だから、この邂逅に運命だなんて陳腐な言葉を当てはめるのはきっと違う。
だけど、少なくとも俺だけは。俺にとってはあの会話は特別なものだった。
それ程までに、俺は彼女に惚れ込んでいた。
空に浮く雲の流れはゆったりしていて、時折隙間から差し込む太陽の光が眩しくてつい目を細める。
窓側の前から三番目。名簿順で決まったこの場所に、俺は若干の不満があった。やっぱ窓側って言ったら一番後ろの席が最強じゃん。
だが今は三番目というこの中途半端さが気に入っている。ちょうど中間。前に出てる訳でもなく、後ろに下がってもいない。
どっちつかずの俺の現状によく合ってる気がして、気付けばこの席はは学校で唯一落ち着ける場所になっていた。
……とまあ、こうやってわざと変な言い回しで無理矢理平静を保ってはいるが、現在俺の顔はどうしようもなく緩んでいた。
授業中に外を眺めながらニヤニヤしている男子高校生……うん、キモいな。
自分の表情を自覚してから暫く経つが、一向に治る気配がない。今だって思い出すだけでニヤニヤレベルが上がっている。ちなみにレベル最大になると口が横に裂ける。多分。
あー、マジでやばい。これからどんな不幸に見舞われても大抵は許せそうだ。気分は最高にハイ。今の俺に敵などおらぬわァァア!!
そこでふと外の景色から教室の中へと視線を移す。何やら縦文字で埋まった黒板の目の前、現在進行形で教卓の前に立ち授業をしていたであろう教師と目が合う。
あっ……。
「おい、本街。そんなにニヤついてどうした。そんなに俺の授業が楽しいか?」
「は、はい!」
「そうかそうか〜、なら次の文読め」
「えっ」
「早く」
嫌な予感が的中し、有無を言わさぬ声色で指名される。
話聞いて無かったから分かんねぇよ! 次ってどこだよ次って!
そもそも授業そのものを把握しておらず、急いで机から教科書を取り出す。
ひたすらページを捲って次の文とやらを探す俺に、クラス中から早くしろよオーラが流れ着いてくる。やめて! 俺も困ってんの! だからそんな目で見ないでぇ!
いよいよ頭の中で警鐘が鳴り響き始めた。
『神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと……』
あぁ、ついに声も聞こえ始めた。しかもさりげなくありがとう神様。
自分だけでは絶対に分からないと気付き、すかさず隣の席の人にヘルプの意味を込めた視線を送る。が、右側を見た瞬間クラスの大半が俺を見ていることに気付く。
その途端急に恥ずかしさと惨めさを覚えてしまい、ページを捲る手を止め静かに教卓に視線を戻した。
「すいません、聞いてませんでした」
「はぁ……。もういい。じゃあ代わりに湊、読んでくれ」
「はい」
最悪だ。よりによって湊さんに迷惑をかけてしまうなんて。おい神、思いっきり死んだじゃねーか。
さっきまでは高かったテンションも急降下の大暴落だ。今ならどんな偶然も不幸に捉えてしまえるまである。
湊さんの声が聞こえる中、もう決してニヤつくもんかと決意しその後の授業を全て真顔で過ごした。
● ○ ● ○
「あ゛あ゛ぁぁあ〜〜、疲れた〜……」
家に着くなり速攻で自室のベッドに倒れこむ。俺は部活に入っていない為、学校が終わって家に着いても午後6時を回っていないことが多い。
あまりに疲れているのか食欲が全く湧かず、ただベッドの魔力に囚われていた。
この柔らかさには逆らえない……! もうベッドと結婚しようかなぁ(錯乱)
どうやって婚姻届を準備しようかと考えていると、ふと部屋の壁に掛けられたカレンダーの土曜日と日曜日に赤ペンで文字が書かれているのが見えた。
そういえば今週末からバイトだった。場所は家からそう遠くないコンビニ。
えーと、今日は金曜日だから……
……ん?
「あ、明日からじゃん」
初投稿なので文や言い回しがおかしい所があれば指摘してもらえればなおします。
次回!はいつになるかなぁ……。