実はこの◯ート・ア・ライブ感溢れるサブタイトル結構気に入ってます。
見慣れた住宅街。見慣れた道。見慣れたライブハウスのドアを通って、見慣れた内装を目に映す。
最近ようやく挨拶を交わすようになった店員に声をかけ、俺はスタジオの扉を開いた。
「ごめん、遅れた☆」
「あーっ! やっと来たー!」
「本街さん……! 遅すぎます!」
「呼び出し食らってたんだよ! 俺も早くこれるよう努力したんだぞ!? 逆効果だったけど」
「なら呼び出されないようにして下さい!」
「ファッ!?」
チッ、許さんぞ担任……! 一体俺の学校生活のどこが弛んでるって言うんだ。俺ほど常に張り詰めた生徒は他にいないぞ、多分。
「お喋りはいいわ。早く準備をして。あこも紗夜も集中して頂戴」
「はい」
「はーい!」
「それじゃあもう一度全体で通してみるわよ」
湊さんの声で再び鋭く研ぎ澄まされた空気に戻る。
俺は荷物をスタジオの隅に置くと、いつも通りの位置に立った。
皆んなが一生懸命練習しているのに俺だけ座るなんて事は許されない。同様に、多くの意見を伝えるために気になった箇所は全て紙にメモをする。
どれもこの放課後練習に呼ばれた日からずっと続けていることだ。俺にとっては既にここに居ることが当たり前になっていた。
一曲通し終えた湊さん達はこちらに向き直る。
「ふぅ……。どうだったかしら?」
「かなり良かったと思う。でも、宇田川さんのドラムが曲が終わりに近付くにつれてちょっと速くなるクセがあるから、そこを直すと良いと思う。あと間奏の所でリサのベースがもうちょいこう……激しい感じだと盛り上がるんじゃね? って思った」
「分かりました! 気をつけまーす!」
「オッケー! 」
「白金さんのキーボードはちゃんと周りに合わせられてて良かったよ」
「……はい、私も今のはうまく出来たかな……って思ってて……。ありがとう……ございます……」
本当、よくみんなこんなど素人の意見なんか聞いてくれるよな。もし俺が何かに全力で取り組んでいたとして、素人に口出しなんかされたら機嫌悪くなるぞ。
それと比べてRoseliaメンバーは心が広くていい人だらけだ。
「凄いですね……」
「……そうね。ただ、リサのベースの事は私も少し思ったわ。これだけ的確で彼、本当に音楽未経験者なのかしら……」
「……あの、少し思うんですが、本街さんの指摘の幅が広がってませんか?」
「……ええ。以前まではタイミングやミスの指摘だけだったけど、最近は強弱についての意見が出ているわ。それに演奏を褒めるようになった」
「そうですね。『聴き』の才能があるんでしょうか」
湊さん達の方からそんな会話が聞こえてきて、つい頰が緩む。
同じく会話が聞こえていたのか、リサがこちらを向いてサムズアップしていた。俺もそれに応じてサムズアップを返す。
良かった……俺はまだまだ役に立てる。
なぜ俺とリサがそんな事をしているのかと言うと、時は前回のバイトまで遡る。
「お客さん来ないね〜……」
「そうだな〜……」
「修哉が来てからお客さん減った気がするよ〜……」
「おい、それ俺のせいじゃないだろ。……ないよね?」
「あははー、どうだろうね〜♪」
いつものように客足の少ないコンビニのレジで他愛もない話をする。
本当にあんまり人来ないんだよなこの店。潰れたりしないだろうか。不安だ。
「なぁリサ、ちょっと相談あるんだけど」
「なになに!? 話してみ? お姉さんが聞いてあげるよ!?」
「おおう、急に元気になったな……。で、相談って言うのはだな、ぶっちゃけ練習の時に指摘できる所が全然なくて、もう俺って要らない子なんじゃね……? って思うんだよね」
そう、これがまさに俺の最近の悩みなのだ。
いや、努力はしてるんだよ? 音楽について調べたり、色んなバンドの曲聴いたり。
それでも確実に限界が近付いている。
形あるものが崩れる様に、生まれた命が還るように。今、俺が過ごしている放課後の時間にもいつか終わりが来るんじゃないかと、そう思ってしまう。
「うーん、そうだねー……」
リサは手を顎に当てて、如何にも『考えてます』的なポーズをとる。こう言う事を無意識でやるんだから女子高生は舐められない。
しばらくすると考えがまとまったのか、リサが顎の手を下ろした。
「修哉ってさ、今練習の時にしてる事って間違いの指摘が殆どだよね?」
「ああ」
「もう少し色んなことを言ってみたら良いんじゃないかな? 例えばうまく出来てたって思った所を伝えてみたり」
そう言われてはっとなる。
「なるほど……。確かに今までそういうの言った事なかったな」
「でしょ? 次の練習から意識して言ってみたら良いんじゃないかな?」
なんて事だ。リサに話した瞬間あっという間に解決してしまった……。
少しお調子者な面もあるが、改めてリサはリサだということを認識する。
「ありがと。割と真剣に悩んでたから本当に助かった」
「いいっていいって、役に立てるとアタシも嬉しいからね〜。それより、そっかー、そんなに友希那と過ごす時間を大切にしたいかー」
「うるせぇ」
以上、回想終了。
取り敢えず緩んだ頬を引き締める。
スタジオの定位置に置かれている人数分の水が入ったペットボトルに目をやると、ほとんど減ってないことに気付く。そもそも袋から取り出された跡が見当たらない。
「みんな水分摂らないの? 全然水減ってないけど」
「あぁ、本街さんが来るまでずっと練習してましたから。一度水分補給にしますか」
「了解。はいこれ」
ペットボトルを袋ごと持って来ると、1人ずつ配っていく。
「ありがとうございます」
「ありがとう……ございます……」
「ありがとうございまーす! あこ喉カラカラ〜」
「ありがとー♪」
氷川さん達は受け取ったのだが、なぜか湊さんが水を受け取らない。
え、なんで? ボーカルだから喉を潤すのは必須だと思うんだけど……?
「あのー、湊さん?」
「……」
「おーい、水飲まないの……?」
「……」
「えぇ……? ……ゆ、友希那?」
「ありがとう。……頂くわ」
「「「「!?」」」」
……恥っず! なんて公開処刑? これ。
みんな驚いてるし湊さんも若干赤くなってるし! ……あぁ俺も暑くなってきた。
「ちょ、ちょっといい? 湊さん」
「……」
「友希那さん!? ちょっと!」
「何かしら?」
他4人の好奇な視線に耐えられずに湊さんを呼ぶ。部屋の隅に移動して、俺は説得を始めた。
「さすがにみんなの前で名前呼びはキツいんですけど!?」
「? リサは普通に呼んでるじゃない」
「リサとはまた意味合いが変わって来るんですよ!」
おっと、これ以上は気付かれる可能性が微レ存。言い過ぎた。確実に微分子よりも大きい。
それにしても最終目標が告白からのハッピーエンドなのに気付かれたくないとか、全くめんどくさい男だなー。誰だよ全く……。
俺か。
なぜ俺がこんなに必死なのかが理解できないのか、湊さんはキョトンと首をかしげる。
くっ、可愛い……!
「じゃあ周りに人がいない時はちゃんと名前で呼ぶから今は勘弁してくれ!」
流石に俺の精神が持たないので折衷案を出す事にする。妥協は交渉において基本中の基本。お互いに最低限譲り合って納得するための歴史的文化だ。
「……仕方ないわね。納得はいかないけど……それでいいわ」
「ふぅ……分かってくれて良かった……。じゃあ、戻ったらまた今まで通りに『湊さん』で」
「……ええ、分かったわ」
……なんで名前で呼ぶか呼ばないかでこんなに話し込んでるんだろうか。
だが、これでまたいつも通りに戻るのだ。
俺が湊さんを名前呼びって、嬉しいけど何か違和感あるんだよね。馴れ馴れしい感じがするんだろうか。
いつか、もっと距離が近づいた時は堂々と名前で呼ぼう。そう心に決める。
「じゃあ戻ろうぜ。練習まだ続けるんでしょ?」
「ええ、もちろんよ」
「よし、頑張りますか」
話を終えてみんなの場所に戻る。が、こちらもこちらで何やら話し込んでいた。声が小さいため内容までは聞き取れないが、確実に俺たちの事だろう。
やめて! やっと落ち着いたのにまた俺のメンタルを削らないでぇ!
「時間を取らせたわね。水分を摂ったなら練習に戻るわよ」
「わかりました」
「……はい」
「はーいっ!」
「後できっちり話聞くからね〜♪」
「Oh.」
やけに機嫌がいいなぁと思ったらリサに死刑宣告をされた。さながら俺は死神に鎌をかけられた咎人。多分死は間逃れない。
なにその未来超帰りたい。
結局、練習終了直後は何とか逃げ切る事に成功した。
が、後日クラスにリサが突撃してきて屋上に連行。逃げ道を塞がれた状況で根掘り葉掘り聞かれたのは別の話。
「……今の話、他のRoseliaメンバーには秘密でお願いします……」
「えー? どうしよっかな〜? ……あっ、もしもし紗夜? あのねー」
「……ねぇ? ちょっとリサさん! リサさん!? やめてぇぇぇえ!」
※主人公はホモではありません。
新しく評価してくださったミキわっちさん、マヨネーズ撲滅委員会さん、神薙 聖さん、ハムスターさん、ライギオンさん、ありがとうございます!
それと感想をくれた方、お気に入りにしてくれた方もありがとうございます!
今後もよろしくお願いします。