深夜投稿でもいいじゃない、人間だもの。
「……っていう事があったんだよ……。怖くね? 」
「「「「「…………」」」」」
いつも通りRoseliaの練習終了後。リサ達にファミレスに行かないかという提案を受け、まず湊さんが了承、そして当然のように氷川さんも承認する形で今に至る。
俺? 俺はもちろん即答で返事したとも。なんだかんだ俺は練習中とは真逆のこの緩い空気感が気に入っていた。
今朝、と言っても朝の3時くらいに俺は目を覚ました。今度こそ体は健康そのもので、念のため体温を測ってみたが36°でばっちり平熱。全くと言っていいほど感じられなかった食欲も無事復活していた。
唯一困ったことがあったとすれば、寝すぎて寝れないあの現象が起きてしまった事だろう。まぁ、そのおかげて登校するまでネトゲできた訳だけど。普通に考えて病み上がりの人間がする事じゃないですね。
ただ、不思議な事がいくつかある。一つは体温計の位置だ。今回は別だが、俺は日常的にほとんど体調を崩さない。だから体温計の場所は決まっていて、そこから動くはずがない。だというのに、目が覚めた時に体温計は机の上に置きっぱなしになっていた。どこかのタイミングで自分で起きて測ろうとしたと考えるなら説明出来なくもないが、どうも現実性がない。第1その場合俺はそのことを覚えていないから完全に無意識な行動、風邪と同時に夢遊病を患っているという事になる。なにそれ怖い、この説無し。考えないようにしよう。
もう一つはリビングにある。食欲を満たそうとした俺は階段を降りて一階に向かった。その時点でまずリビングのドアが開いている事に気付く。普段からドアは閉めるようにしているから、普通なら開けっ放しにはしない。
だがそこで一度冷静に考える。昨日の俺の事だ。調子が悪すぎてそこまで気が回っていなかった可能性もある。閉めたつもりが閉めてなかったなんて事も十分にあり得る。だから、それはまだいいのだ。
本当の問題はその次。
……テーブルの上におかゆがあったんです……。
どう思う!? これ? さすがに理解に苦しむわ。しかも丁寧にラップがかけられていて、その横には梅干し、塩などのトッピング用の具材や調味料まで準備してあった。これを見た瞬間、俺本気で夢遊病かどうか疑ったからね。
でも、おかゆがあるという事は確実に調理をしたという事だ。そこで慌ててキッチンを確認しに行くも、特に変わった様子はない。米を煮た筈の鍋も、その他使ったであろう調理器具も、何もかもが定位置にあった。昨日の朝はまだそこまで体調を崩していなかったからこの記憶に間違いはない。
──Oh……おばけなんてないさ……。
内心本気でビビっているが、今は食欲を満たす事が優先事項だと判断し、席について恐る恐るおかゆを口に運ぶ。その際、梅干しのトッピングも忘れない。
「……うめぇ……なにこれ……」
……うん、なんだろうこの複雑な感じ。体は正直だと言わんばかりに舌が喜んでいるのがわかる。空腹は最高のスパイスとも言うくらいだからな。今なら何でも食べられるかもしれない。
その後、あっという間におかゆを食べ終えた俺は思い出すように怖くなり、慌てて自室に避難。思わず『自宅 心霊 除霊』で検索をかけるレベルでビビっていた。
そこで、恐怖を紛らわせるために始めたのがネトゲだった。このゲームは二日に一回は必ずログインして遊んでいる程度のやり込みだ。ただ、イベントが来た場合のみガチでプレイしている。よくチャットでやり取りするフレンドもいて、現実での繋がりがない分、こちらの方で満たしていた。まぁ、所詮顔の見えない相手とのやり取りだからな。虚偽、虚無、虚構の関係性だ。うわぁ自分で言ってて悲しくなって来た。
しかし、一度やり始めるとこれがまた楽しくて、つい時間を忘れて遊んでしまう。気が付けば朝日が顔を出していて、毎日家を出る時間になっていた。慌ててパソコンをシャットダウン。モニターの電源を切って、スクールバッグを肩から下げる。開いてないとは思うが一応戸締りを確認して玄関とドアに手をかける。
が、そこで再び違和感に襲われた。
──あれ……? なんで鍵開いてんだ……?
そこからはもう速かった。速攻で外から鍵をかけ、家から離れる。目指すは学校、目的は湊さん。この恐怖を打ち消す術はもうこれしかないっ……! 今の俺なら胸を張って言えるだろう。『速さは足りた』と……!
ある程度離れた事を確認すると、未だ少し恐怖に震える体に鞭を打って少しでも人が多い方へ歩き始めた。
──というのが一連の流れだ。
俺の説明が理解できないのか、怖くてビビっているのか。はたまた別の思いがあるのか、話を聞いたみんなは黙り込んでいる。
「これ、どうしたらいいと思う……? 正直俺お家帰りたくない」
ここに来て急に心霊現象発生とかマジで笑えないから。生まれてから時間を共に過ごして来た我が家に霊だと? ふざけんな。エスカレートするようなら証拠炙り出してテレビ局に送りつけてやる。あわよくばお金とか欲しい。むしろそっちが目的だ。
すぐに呼びましょ陰陽師! レッツゴ-!
とは言え、帰りたくないのは本当だ。今までそういう現象は全くと言っていいほど信じていなかったが、実際この身に起きた途端とどうも敏感になってしまう。
「あの〜……修哉? 」
「リサ……。なんかいい考えある? つってもどうしようもないんだけど」
「あの、もしかして覚えてない……? 」
「……は? 何を? 」
「あちゃー……」
「予想外ですね……」
「な、なに? なんなの? 」
今度ははっきり分かるぞ。これは呆れている目だ。くそっ、話が噛み合わない……! 何故だ? 俺がなにを忘れてるって言うんだ。
こいつら、自分達しか知らない内容を俺に振ってきてあまつさえ呆れるだと……? 流石に失礼だろそれは。
「だーかーらー、アタシ達が昨日お見舞いに行ったの覚えてないの? って聞いてるの! 」
「はぁ? お見舞い? なにそれ」
唐突に全く記憶にない事を言われて混乱する。まさか嘘ついてるわけじゃないよな……? 100歩譲ってあのRoseliaが練習をせずに俺のお見舞いに来たとしよう。うん、普通に嬉しい。
だが、少し待て。確かにそれっぽい事はあったがあれは夢じゃないのか? 第1あんなものはお見舞いとは呼ばねぇ。唯一看病してくれてたのは湊さんだけじゃねーか。
「あぁもう、だから────」
理解が追いつかない俺を見て、リサが説明を始めた。俺は頭の中を整理しながらそれを聞く。
「────ってこと。だからそのお粥も作ったのはアタシで、リビングのドアとかその他も全部アタシ達がお見舞いに行ったから起きたことなの」
「……マジ? 」
「本当よ」
「夢じゃなかったのか……」
なるほど、確かにそれなら不思議な現象にも納得がいくと言うものだ。だがまだ足りない。あと一つ、重要なことが残っている。
「玄関の鍵ってどうした?」
「アタシ達が行った時にはもう開いてたんだよ。心当たりない?」
「心当たり…………あっ、そう言えば朝にゴミ捨てに行ったわ」
「それね」
「間違い無いですね」
なんで今までその事を思い出せなかったんだ俺。完全に心霊現象方向に思考が持ってかれてて気づけなかった。確かにゴミ捨て行ってから鍵かけた覚えないわ。
全てに説明がついて急に安心感に襲われる。つい力が抜けた俺は、ため息とともにテーブルに突っ伏した。
「あははー、ごめんごめん。そんなに気にかけてたとは知らなくて……」
「いやお前、流石に気にするだろ……」
「ところで修哉さん、ゴミ出しとか掃除って言ってましたけど、家の人はいないんですか? 」
「あ、アタシもそれ思ったー」
それまでただ話を聞いていた宇田川さんから質問が飛んでくる。その手にはファミレス定番のポテトが摘まれていて、放り投げるように口の中に入れると、また次のポテトに手を伸ばす。その横にいる白金さんも気になっていたのか、宇田川さんの質問に相槌を打っている。
「あー、俺母さん居ないんだよね。仕事とかじゃなくて、もうこの世にいない。父さんは出張とか多い仕事でさ。今もどっかで社畜ライフ送ってるんじゃないかな」
父さん、元気にしてるだろうか。過労で倒れてないと良いんだけどな。曰く、そこまでブラックじゃ無いとの事だからそこは安心しているが。
一瞬の沈黙が流れる。あ、重かっただろうかこの話題。
「そ、その……ごめんなさい」
「いいよいいよ、別に気にしてないから。むしろ一人暮らしの必須スキル覚えられて得してるまである。だからこの重い空気なんとかしてくれ。いや、してください」
そう言って拝むようなポーズをとると、幾分か空気が柔らかくなった気がした。うんうん、ファミレスはこうじゃないと。
だが、未だに俺の頭の中にはこれから家に帰る事に抵抗があった。いやさ、分かってるんだよ。結局はみんなが家に来たってだけで俺の勘違いだってことは。でも一回脳がそういう風に捉えちゃうとなかなか離れないじゃん? 離れないじゃん!?
「ぁぁー……帰りたくない……」
自分で思っておいてなんだけど、ビビりすぎだと思う。俺ってこんなに幽霊とか苦手だったっけ。
「それなんだけどさ、修哉」
「なに?」
「その……修哉がよければなんだけど、今日修哉の家泊まってもいい?」
「……頭でも打った?」
「打ってない! ほら、色々積もる話もあるしさ〜♪」
そう言って俺にウインクをしてくるリサ。その目の中にはひたすらに『察しろ』という意味が込められている気がした。
……そうか、リサは俺の湊さんへの好意を知っている。それに関して何かアドバイス的なものがあるのかも知れない……! ちょうど良い。作戦会議と行こうじゃないか。
「おっけー。俺も自慢じゃないが家に1人は心細かったんだ」
「……本当に……自慢じゃない……」
話はお泊りコースに向かっていく。そんな中、それを許さないと声を上げる人物がいた。『ポテ川さん』こと氷川さんだ。
「本街さん! 今井さんも、不純異性交遊は風紀委員として見逃せません」
「えぇー、固いなぁ紗夜は〜。何も起きないって! ね? 修哉」
「リサ相手に間違いなんか起こすわけ無いだろ。俺だぞ? 俺」
「うん、それで良いんだけど言い方に棘ない……?」
なんて悲しいQ.E.Dだ。まぁ湊さんが好きな以上、男のプライドにかけてもリサに手を出すなんてことはあり得ないだろう。俺をなめてもらっては困る。
しかし氷川さん、風紀委員だったのか。このまま破廉恥です! とか言い出さないかな。それどこの古手川さんだよ。
「ですが……」
「……なら、私も行くわ。紗夜、これなら問題ないでしょう?」
「えっ」
「み、湊さん?」
俺を含め表情を驚愕の色に染める中、リサだけが含みのある笑みを浮かべていた。
こっ、こいつ! まさかこれを狙っていたのか……? 湊さんの幼馴染で、氷川さんが風紀委員という事を知っている。つまり、自分が泊まる宣言からこの流れに持って行くのは計算済み……?
今決めた。心の中でリサのことを先生と呼ぼう。
「はは〜ん、友希那も来るんだ〜」
「ええ、何か不都合でもあるかしら? リサ」
「んーん、大丈夫だよ。修哉も大丈夫? 」
「当然。むしろありがとう」
トントン拍子で話が進んでいく。湊さんが参加した事で強く言えなくなったのか、氷川さんが『それなら……』と納得しかけている。湊さんへの信頼の厚さが成した技だ。
「ならそろそろ解散にしよっか。時間も遅くなって来たし」
リサの一言で解散ムードになり、それぞれが席を立つ。ファミレスの時計を見てみると、時刻は8時近くになっていた。
俺が代表で会計を済ませている間に、他のみんなは外に向かう。遅れて俺が外に出ると、そこでやっと解散になった。
元気に手を振る宇田川さんと、控えめな白金さんに手を振り返し、俺はリサと湊さんと共に自宅を目指して歩き出した。
「ねぇ、着替えとかってどうすんの? 流石に家に女性用のはないんだけど」
「アタシは一回家に帰ってから行くよ。昨日でもう場所は分かるからね」
「了解。湊さんは?」
「私も一度帰るわ」
「おっけー。なら俺軽く夕ご飯作っとくわ」
そんな会話をしながらいつもの分かれ道に着く。俺は2人に『また後で』と告げて1人家を目指す。
──あれ、これ冷静になると結構やばい状況じゃね?
なに普通に女子とお泊まり会開こうとしてんだよ俺。なんなの? リア充に出世でもするの?
こんなの人生で初めての経験だぞ。あぁぁどうしようどうしよう、急に緊張して来た。
「あの2人もなんであんな事言い出したんだろ……」
リサは……まぁ分かる。湊さんは何で……? 女子ってそういう警戒心強いんじゃないのん?
それともあれだろうか、俺がそもそも男として見られてないとか、そんな度胸も根性もないと舐められてるのか。間違ってはいないが、それもそれで悲しい。
──何があっても耐えろよ、俺の鋼の理性……
そんな事を思いながら、これから起こる事への期待と緊張を抱いて俺は進む足を早めた。
ポテ川さん…いい響きだ(?)
今回5000字近くになったけど読みやすいかな…?
予定としてはあと30話?40話?とかそのくらいで完結させたい。でも長々書いてると話がグタグタして来そうだからなぁ。そんな事を考えてます。
新しく評価してくださったたんきさん、櫛菜さん、ありがとうございます!
わざわざ書き込む感想もないかもしれませんが、それでも感想くれると嬉しいです!
次回は前々から書きたかったお泊まり会。楽しみにして貰えると嬉しいです(自らハードルを上げて行くスタイル)
では、また次回。