1日に2度投稿したっていいじゃない、人間だもの。
「それじゃあ、いっちょやりますか」
家に着いた俺は早速準備に取り掛かる。さて、夕飯を作って待ってると言ったがメニューはどうしよう。せっかく2人が来るんだ、俺の料理の腕を存分に振るった料理を作りたい。確か前に買ったカレーも残っていた気がするが、今回はやめておく。もう少し手の込んだものが作りたい。こう考えてる時点で既に軽く無いんだよなぁ……。
さっきファミレスでポテトを食べたから、あまり重いものは無しの方向で行こう。……いや、そうでも無いのか……? よく思い出してみるとほとんど1人に吸われていた気がする。個人の尊厳を保つためにあえて名前は出さないが……まぁ、あの人です。
それはさて置き、重いものは無しという時点でまずサラダを作ることは確定した。
「……和食でいくか」
それなら後は味噌汁と白米で完成したようなもんだけど……あと2、3品欲しい。タンパク質を摂れる和食ならやっぱり魚料理か。ブリの味噌煮なんでいいかもしれない。あとは卵料理が定番か……。玉子焼き……いや、茶碗蒸しでも作ろう。ついでに煮物とかも作ってみるか? それならサラダで取りきれない野菜や栄養もちゃんと含まれてるし、それほど時間がかかる料理でも無い。
よし、これで行こう。今晩のメニューは白米と味噌汁、ブリの味噌煮、シーザーサラダ、茶碗蒸し、それと筑前煮だ。これならそんなに重くなく、適度にお腹を満たせるはずだ。
大丈夫だよな……? あの2人好き嫌いとかないよね?
大方方針が決まった所で冷蔵庫を開く。が、俺は失念していた。逆になんで今まで気付かなかったんだろうか。フレンチドアタイプのそれの中身はすっからかんで、めぼしい食材が殆ど入っていなかった。
「……40秒で支度しろぉぉお!!」
これはまずい! 企画倒れもいい所だ! なんだよ俺、間抜けすぎるだろ。あれだけ悩んだくせに前提から成り立ってなかったじゃねーか。
俺は急いで階段を駆け抜け、自室から財布だけ掴み取ると家を飛び出す。自転車にまたがると、全速力で足を動かしながら人気のない道を走り抜ける。いつもは運動がてら歩いて向かうスーパーだが、今回ばかりはのんびりしていられない。俺より先に湊さんたちが家に来てしまった、なんて事になったら流石に笑えないだろう。
「飛べよぉぉぉぉおおお!」
これもシュタインズゲートの選択なのか……。そんなくだらない事を考える思考を投げ捨てて、俺は死ぬ気でペダルを漕ぐ。
目指すはスーパー、買うは食材。願うは売れ残りがあらんことを。
● ○ ● ○
数十分後。
無事にスーパーで野菜と必要な材料、ついでにジュースなども揃える事に成功した俺は、行き程ではないが急いで家まで戻っていた。
リサと湊さん、まだ来てないと良いんだけどなぁ。『待ってる』と言った手前、言い出しっぺが家にいないなんて事態だけは避けたい。自然にペダルを漕ぐスピードが上がり、我が家までの距離は着々と縮まってきていた。もう視界に入るまで近づいている。
「到着ッ! ……よし、まだ来てないな」
「誰が来てないって? 」
「ヒッ!? 」
ビクンッ! と肩が跳ね上がる。喉からは軽い悲鳴が上がり、駐輪しようとしていた自転車には俺の手が当たってガタンッと硬い音が鳴った。
「ビビった……マジで死ぬかと思った……」
「あはは〜、大げさだな〜♪ 」
いや、実際のところ全然大げさじゃなく、今の俺なら一歩間違えれば気絶してたまである。全く、激しい運動で心臓が忙しい時に驚かせるんじゃないよ。変な汗かいてきたわ。
一通り呼吸を整えて顔を上げると、リサの横に湊さんもいる事に気付く。
「こんばんわ。早過ぎたかしら?」
「こ、こんばんわ。いや、ナイスタイミング。とりあえず家に入ろう」
「お邪魔しまーす」
「……お邪魔します」
玄関を開けて家の中に先導すると、2人も付いてきて靴を脱ぐ。リビングへ案内すると、リサがソファーに腰を下ろした。
……ちょっと? なんでお前そんなにくつろいでんの? 人の家だぞ人の家。まぁ自然体の方が俺も嬉しいんだけどさ。
一方、湊さんはリサとは違いソファーに座らずに立っている。その手には泊り用の着替えなどが入っているであろうバッグを持っていた。
「湊さんも座って良いよ。遠慮なんかいらないから楽にしててくれ」
「そう、ならそうするわ」
「そうそう、このソファー沈んで気持ちいいよ〜? 」
「お前は自重しろ」
ソファーの感想を含めた雑談を交わす2人。こうして見ると、本当に仲がいいんだなぁと思える。そんな和やかな雰囲気が漂う前方とは裏腹に、俺は別の意味で和やかな雰囲気を発していた。
湊さん、リサ共に今は私服。バンド練習は放課後直接向かうことが殆どのため、普段見かけるのは制服姿に限られる。しかし目の前の景色はどうだろう。リサはいかにも夏を先取りしたような服装をしていて、そのため若干露出が多い。だが、そこはリサだからこそ似合っている。着こなしが上手いのだろう。
その一方、湊さんは清楚な服を纏っている。前に一度コンビニで私服を見たこたとがあったが、それとは別の印象を抱く。こちらも少し夏を意識しているのかもしれない。リサはホットパンツを履いているのに対し、湊さんはスカート。端的に言って可愛い。最強の一言に尽きるのがこの景色だった。
「ってやば、そろそろ作り始めなきゃ」
ふと我に帰り、手に持っているレジ袋をキッチンに運ぶ。まな板を洗ってから上に野菜を置き、順番に切り始めた。
「アタシ手伝うよ。何作るの? 」
いつの間にソファーから抜け出したのか、リサが隣で俺の野菜カット技術を見ていた。ふっ、見惚れるのも無理はない。日頃から全ての料理を己の腕で作り上げているのだ。スキルポイントはもう上限突破している。
「……リサって料理できるの? ……取り敢えず献立は和食メインで、ご飯と味噌汁、ブリの味噌煮とシーザーサラダと茶碗蒸し。それプラス筑前煮で考えてるんだけど」
「筑前煮!? やったー! アタシ大好物なんだよね〜。よしっ、全力で手伝うよ〜! 」
「大好物なのか」
正直意外だ。ギャルっぽい見た目なのに和食が好きなのか。いや、ギャルに対する偏見とかじゃなくてですね、こう……ギャップに驚いたといいますか。優しくて家庭的で見た目もいいとか、やっぱリサって結構モテるんじゃないだろうか。
「修哉……私も手伝うわ。何をすればいい? 」
「友希那? 」
「ありがと、助かるよ湊さん。じゃあちょっと食材切ってくれない? ここにある鶏肉は一口大、人参とごぼうは乱切りでお願い。こんにゃくはスプーンで一口大にしたら塩揉みして水洗いよろしく」
マジか……! 湊さんと料理とかやばいだろ。既に嬉しさで頰が緩み始めてきた。頑張れ表情筋、負けるな俺。ポーカーフェイスを意識しろ。恋は駆け引きって誰かも言ってただろ。
「修哉……ちょーっといいかな……? 」
「なに? リサは味噌汁の具材とか味噌煮の準備して欲しいんだけど」
「友希那を見てあげて……? 」
「え? 」
そう言われて湊さんを見てみると、野菜を持ったまま硬直していた。……あれ? どうしたんだろ。ザ・ワールド?
「修哉、さっき言われたのはどうすれば良いのかしら」
「湊さん……もしかして料理初めて? 」
「ええ」
「ちょうどいいんじゃない? 修哉、友希那に料理教えてあげなよ♪ 他の作業はアタシがやっておくから、ね? 」
「……分かった。じゃあその、良ければ一緒にやる……? 」
「! ……もちろん。やるわ」
内心、リサ先生に感謝する。なんて計算高いんだ……! まさかお泊まり宣言した時点でここまで読めていたのだろうか。なんて恐ろしいお方……! 一生ついて行きます!
俺は鶏肉やその他の野菜をまな板の上に乗せ、一度お手本を見せる事にする。
「一口大ってのは、簡単に言うとまぁ読んで字の如く一口で食べられる位の大きさにする事ね。まず鶏肉をこの大きさに切ってみて? 」
「分かったわ」
「包丁の使い方は分かる?」
「……包丁?」
「えぇ!? まさか認知してないパターン? おいおいそれは想定外だぞ」
「じ、冗談よ。包丁くらい使えるわ……多分」
「聞こえちゃったんですけど。ねぇ、今俺聞こえちゃったんですけど?」
……大丈夫だろうか。とりあえず不安に思った俺は包丁の持ち方、切り方から教えていく。一通り説明した後、横で俺がしっかり見守っている状態で湊さんは肉を切っていく。まだ包丁の扱いが少し怖いが、この位なら怪我はないだろう。何より俺が見ている。絶対に怪我なんてさせるもんか(使命感)
「ふぅ……出来たわ」
「おっけー、上手く出来てるよ。じゃあ次はその肉を一旦ボウルに移してまな板を洗う。そしたら人参から切ってこうか」
言われた通りに作業をこなす湊さん。そんな湊さんを見て、俺は幸福感を得る。そしてさらにそんな俺たちを見て、調理中のリサはニヤニヤしている。……うん、きっかけを作って貰ったんだ。いつもならチョップの1発くらい入れる所だけど、感謝はしてるし見なかった事にしよう。
まな板を洗い終わり、野菜を切る工程に移る。この時の俺は、『この調子なら問題無いな』なんて事を考えていた。が、ここから全てが始まったのだった。
「修哉、人参の皮を剥いたらどう切るのかしら」
「人参っ!? お前人参か!? しっかりしろ! 湊さん、流石に細すぎだよこれ! 」
「修哉、乱切りが終わったわ」
「それみじん切りィィイ! 乱切りどころか人参本体が終わってるよそれ! 俺お手本見せたよね? あれ? 見せたよね!? 」
「修哉……」
「こ、今度は何でしょうか……? 」
「……これ、ごぼうで合ってるわよね? 」
「ご、ごぼう!? お前まで……! 安心しろ、美味しく食べるから……」
「……なにやってんの……? 2人とも」
● ○ ● ○
「やっと……やっと完成だ……。すげぇ疲れた……」
俺たちがわちゃわちゃ騒いでいる間にリサがどんどん調理を進めて行き、あとは煮物を待つだけになった。味噌汁や魚も完璧、ご飯は釜で保温してある。サラダや茶碗蒸しに関しても言うことはない。煮物の中身に関しては……まぁ、想像にお任せする。
それにしても、湊さんがこんなに料理音痴だったとは……。普段の姿がクールでカッコいいだけにギャップを感じる。今の俺の中での湊さんの印象はポンコツ可愛いに上書きされていた。
「よし、そろそろいいかな」
煮物が出来上がったタイミングを見計らって火を止める。大きめの深皿に盛り付けると、食器やコップと共にテーブルに運ぶ。リサや湊さんもそれに習い、軽く後片付けをする。リサが人数分の茶碗にご飯を盛り付けて運んだ後、みんなでテーブルの席に着いた。
「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます」
「いただきます」
「いただきます!」
そんなこんなでやっと夕飯にありつける。時刻は9時を過ぎていて、ファミレスで飲み物しか口にしていなかった俺の腹は警鐘を鳴らしていた。食欲の赴くままに料理に手を伸ばして飲み下していく。
「うっまぁ……。これ、煮物以外ほとんどリサが作ったんだよな。料理スキル極めてんの? 普通に凄いわ」
「大したことないって〜。でも、美味しくできてて良かったよ!」
「ま、俺と湊さんで作った煮物も負けてないけどな」
所々形の崩れたごぼうや人参、里芋にこんにゃくが入っている筑前煮は、見た目に反してかなり美味しい。リサも湊さんもそう感じているのか、口に含んだ時の表情は柔らかい。
いつかリサと食戟してみたいな。おあがりよ! とか超憧れる。
「ん〜〜♪ 美味し〜!」
「……美味しい。リサ、昔から料理が上手かったわよね」
「え、えへへっ。まあね。うちはお母さんと一緒に作る家だったから」
「湊さんもこれからもちょっとずつ料理の練習していこうよ。そうすれば1人でもこれくらい作れるようになるはず」
「……そうね。料理、やってみようかしら」
湊さんは味噌汁の茶碗で顔を隠しながらぽつりと呟く。その表情は窺えないが、きっと微笑んでいるのだろうと、なんとなくそう思う。
それから取り留めもない会話に花を咲かせ、気が付いた時には皿の上にあった料理はそれぞれの胃袋の中へ入った後だった。
コップの水を飲み干すと、俺は席を立って伸びをする。
「あ〜、楽しかった。こんなに楽しい調理と夕飯は初めてだよ」
「……ええ、私も。普段の食事はこんなに会話がないから」
「うんうん、アタシも楽しかったよ♪ 」
「じゃ、そろそろ片付けるか。食器持ってきてくれない? 俺洗っちゃうから。2人はソファーでくつろいでてくれ」
「了解〜」
「わかった」
自分が食べた食器を重ねて持ってくると、2人はソファーへ向かっていった。気を利かせてテレビを点けて、再び皿洗いに戻る。
あぁ、本当に楽しい食事だった。Roseliaメンバーと行くファミレスを除けば、自宅でこんな賑やかな食事をとったのはこれが生まれて初めてだ。それに、湊さんと料理ができた。作業中は意識しないように頑張っていたが、お互いの距離が近過ぎてつい顔が赤くなっていたかもしれない。今回は俺が教える立場だったが、いつか湊さんが料理をできるようになった時、一緒に作れたらいいなぁなんて思う。
ソファーからは2人の話し声が聞こえてくる。それと対比して俺は無言。しかし、自然と表情は柔らかい。流れる水の音が耳に届き、妙な安心感を覚える。
──またいつか、こうやってお泊まり会的なことやりたいな──
洗い物を進めていく中、俺はそんな事を考えたのだった。
あともう一話続くよ!
話を進めるために会話を増やすか、内容を濃くするために地の文を増やすか。最近考えてみた結果、地の文成分多めで試してみてます。
新しく評価してくださった貧しい蛇さん、鏡月紅葉さん、ありがとうございます!
あと、昼頃に見てみたら日刊ランキング16位に載ってました!感謝…圧倒的感謝…!