彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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はい、前話投稿後に感想をいただいたのに投稿ペースが変わらなかった作者です。すいませんでしたぁ! ちょっと忙しかったと言いますか、受付嬢を許さないといいますか、あまり時間が確保できなかったんです。許してください!



逃げの先に

 

 

 

 

 逃げるは恥だが役に立つ、という言葉がある。いや、正確には作品か。細かい所は置いておくとして、この言葉は読んでそのままの意味で捉えれば『逃げる事は悪ではない』という風に受け取れる。逃げるのが恥だというならば、じゃあ戦う事が必ずしも誉れなのか? と聞かれれば、イエスとも言い難いだろう。戦略的撤退という言葉があるように、『逃げ』が弱者の行動という訳ではないのだ。言ってしまえば逃げる事も強さ。つまり、現在進行形で逃げている俺も強いということになる。……違うか。

 

 

「はぁっ、はあっ」

 

 

 見慣れない道から一気に見慣れた道に辿り着く。もう背後からチャラ男達の声は聞こえないが、聞こえない事が逆に恐怖心を煽っていた。どこにいるか、どこから出てくるかが予測できない。

 先回りはあり得ないだろうという結論を出し、まばらにいる人の横を走り抜ける。避ける時や曲がり角の動きは最小、最短を心がけ、一刻も早くコンビニを目指す。

 

「湊さん……! 大丈夫……っ!?」

「私は大丈夫よ。でも修哉が……」

「なら良かった……! もうちょっと我慢してくれ!」

 

 しばらく進み続けると、目的地を告げる看板が視界に映り始めた。ラストスパート、と限界の近い心を奮い立たせて、ようやく店の前に到着した。身体的にも精神的にも焦っているせいか、普段は何も感じない自動ドアの開閉さえひどく遅く感じる。開いた途端に店内に駆け込むと、レジの青葉と目があった。

 

「すまん! あとで説明する!」

「えぇ〜?」

 

 相変わらずののんびりとした返事を背に受けながら、バックルームへ移動する。

 休憩中で外出しているのか、はたまたそもそもシフトがないのか、そこには誰も居なかった。え、今青葉一人なんじゃね? 本格的に大丈夫かよこの店。

 

 近くにある椅子のそばに湊さんを降ろすと、俺はその場に座り込んだ。

 

「あぁ〜〜……死ぬかと思った……」

 

 いや、確実に死んでるなこれ。運が良かっただけで、普通なら追いつかれてバッドエンド一直線だった筈だ。やっぱ人生って運ゲー。

 

「その……修哉」

「湊さん大丈夫? あいつに掴まれた所とか痛くないか?」

「……ええ、大丈夫よ。あなたこそ大丈夫? 私をおぶってあんなに走ったのに……」

「俺は全然大丈夫……。今はただ一気に緊張解けて脱力してるだけ。てか前も思ったけど湊さん軽すぎでしょ」

「そうかしら……?」

 

 大丈夫、とは言ったが実際のところかなりキツい。それもそうだろう。部活にも入らず普段から激しい運動なんかしない俺が、あんな急な展開でいきなり走ったんだから。途中で何度膝から崩れ落ちそうになったことか。恐怖でまだ少し膝が震えている。

 

 ため息を吐いて顔を上げると、湊さんと目が合う。余裕の無さが表情に出ていたのか、その瞳には心配の色が見えた。

 

「……ありがとう。修哉が居なかったらきっとあのまま連れて行かれていたわ」

「どういたしまして。そしてごめん、かなり無理矢理引っ張ったりおぶったりして」

「気にしてないわ。……修哉が私を助けようとしてたのは、分かったから」

 

 そう言ってはにかむ湊さん。

 無性に気恥ずかしい空気が流れ、少しの沈黙が生まれる。その後、どちらともなく小さな笑いが漏れ、一気に安心感が湧いてきた。

 

「あ。湊さんちょっとごめん」

「? なにかしら」

 

 先に謝罪をしてから、俺はポケットから携帯を取り出す。ロックを解除し連絡先を開くと、急いでその名前をタップした。

 

 プルルルル、という呼び出し音が数回聞こえたと思うと、相手と繋がり声が聞こえてくる。

 

「もしもし、リサ?」

『そうだけど、どうしたの? 』

「見るからにチャラい男三人組に気をつけてくれ! ちょっと色々あって追いかけられた」

『ええ!? 今どうしてるの!? 友希那は!?』

「とりあえず逃げ切って今はコンビニのバックルーム。湊さんも一緒にいる」

『無事なんだね。オッケー、アタシも気をつける。そっち行った方がいい? 』

「いや、逆にコンビニ付近の方がまだいるかもしれないから危険だと思う。リサが一人で歩いてたら絶対絡まれるぞ」

『分かった。じゃあアタシは帰るから修哉達も気をつけて帰ってね。友希那のこと、頼んだよ』

「任せろ」

 

 通話を切ると、再び携帯をポケットにしまう。この先のことを話そうと思い湊さんに視線を向けると、難しそうな顔で視線を宙に漂わせていた。

 

「湊さん?」

「っ、なにかしら」

 

 声に対し、はっと息を飲むように言葉を詰まらせる。考え事をしてたんだろうか、それともこの状況が不安とか。

 ……あり得るな。湊さんだって女子だ。男達に腕を掴まれれば怖くだってなるし、当然不安も感じる。しかも自分の足で走るんじゃなくて俺が背負っていたのだ。俺が転んだら、追いつかれたら、など色んなことを思ったはずだ。自分の身を相手に任せているのだ。それも今回の場合は俺が一方的に背負ったんだから、逃げている間ずっと不安だったはず。

 

 もう一度謝ろうかと思ったその瞬間、バックルームの扉、普段は従業員以外立ち入り禁止と注意書きがされているそれが、ゆっくりと開き始めた。そののんびりとした開き方に、扉の向こうにいるのが誰なのかすぐに想像することが出来る。むしろ今店内にここ開けられる奴がそいつしかいない。

 

「修哉さん、こんにちは〜。友希那さんも〜」

「……こんにちは、青葉さん」

「青葉……。さっきは騒がしくして悪かった」

「それは良いんですけど、何があったんですか〜?」

「訳あって男達に追いかけられてた」

「ほうほう〜、それであんなに必死そうに走ってきたんですか〜」

 

 自分でも掻い摘んだ説明だと思うが、青葉は特に深くまで追求することはない。

 こいつと話してると自然と会話がゆっくりになるからかなり心に余裕ができる。いつもは特に気にしていなかったが、こういう状況になるとこのペースは有り難かった。

 

「それにしてもあの時の修哉さん、かっこよかったですよ〜。男、って感じでした〜」

「そ、そう……?」

 

 圧倒的恐怖による生存本能で逃げ出した俺がカッコいいだと? ならライオンから逃げるシマウマなんか超かっこよくないとおかしいんですけど?

 とか内心でふざけながらも照れる俺。うっわチョロい。もうちょっと耐性つけとけよ。相変わらず自分が弄られるのには弱いらしい。

 そんな俺の反応を見て満足だったのか、青葉はちら、と店内の方へ視線を移した。マジックミラーのようになっている扉からは店内の様子が伺える。相変わらず人がいないのが悲しいが。

 

「じゃあモカちゃんは戻りますね〜。お二人とも、ごゆっくり〜」

「バイトの途中に邪魔したわね」

「お気になさらず〜」

 

 来た時同様ゆっくりと扉が閉まり、青葉はレジへと戻って行った。

 

「それで湊さん、この後どうするかだけど」

「いつまでも此処にいる訳にもいかないでしょう」

「うん、だから帰ろうと思うんだけど……湊さんってここから家までどのくらい?」

「歩いて10分くらいかしら……」

「そんなに遠くないな。なら行こう、家まで送ってく。さすがにあいつらもそこまで執念深くないだろ」

「分かったわ」

 

 見失った相手を探し続けるほど暇なら別だけど、と心の中で補足する。普通ならどこに行ったかも分からないものを探し続けても時間の無駄だろう。範囲も広いから尚更だ。

 立ち上がりながら湊さんを見てみるも、さっきのような難しい目はしていなかった。俺に習って湊さんも立ち上がると、二人で店を出て家を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ」

「ええ、また学校で」

 

 コンビニでの言葉通り修哉は私を家へと送る。歩いている途中の修哉はちらちらと辺りを警戒していたがそれも杞憂に終わり、無事帰宅することができた。

 軽く挨拶をして、修哉はそのまま踵を返し歩いていく。私を背負い、さっきまでは隣に並んでいたその背中や肩が遠くに見える。

 家に入ると、真っ先に自室へ向かう。ベッドに腰を下ろすと、コンビニよりも一層の安心感に襲われた。

 

 ……初めてだった。

 今までも何回か声をかけられた事はあったが、その時はリサがやんわり断っていた。相手もそこで諦めていたから良かったが、今回は違う。手首を掴まれた力は強く、あのまま引っ張られていれば私は確実になすがままにされていた。

 恐怖、不安。この二つの感情に心を埋め尽くされる中、男の腕を振り払い、私の手を取って走り出したのは修哉だった。走り回り、時には隠れ、靴の踵が高い私を気遣っておんぶまでして、ひたすらに逃げ続ける。家じゃなくコンビニに逃げ込んだのも、逃げている間に必死に考えていたんだろう。修哉は謝っていたが、謝るのは私の方だった。

 

「……なんなのかしら、これは」

 

 修哉のことを考えると、自然と心が締め付けられるような感覚に襲われる。苦しいような、むず痒いような、嬉しいような、それでいて手放せないような、形容し難いこの気持ち。さっきおんぶされた時だって心臓がうるさかった。恐怖と緊張によるものかとも思ったが、今ならそれ以外にも原因があったと言える。音楽以外のことに疎い私でも、修哉が私を守ろうとしてくれているのが痛いくらいに伝わっていた。

 

 いつからだろう。彼と出会ってから数ヶ月経つが、一体いつから私はこうなってしまったんだろうか。遠足の時? それとも前に泊まった時だろうか。普段の何気ない会話や放課後の練習の時かもしれない。明確な時期は思い出せないが、時が経つにつれて徐々に心の中の修哉の割合が増えていく気がした。

 

「……そういえば、リサに聞けていなかったわね」

 

 リサ、と言えばさっき修哉がリサと通話をしている時、私の心には泊まりの時のような靄がかかっていた。いや、修哉の行動は正しい。男達がどこにいるかも分からない状況で、注意するように伝えるだけでも大切な事だ。それによりリサの安全性が大きく上がる。だというのに、私はあまり良くない感情を抱いていた。多分、あれは嫉妬だ。自分自身、なぜ嫉妬していたのかが理解できないがそれは間違いなかったと思う。あの時、修哉には心配をかけてしまったかも知れない。

 

 ──まただ。

 

 気が付けばすぐに修哉の事を考えてしまう。

 この妙な気持ちについて、私は結局聞けていない。なんでも知ってるリサのことだ、案外あっさりと答えてくれるかもしれない。それこそ私が考えるのが馬鹿らしいくらいに。

 

 でも、この気持ちも悪くない。このふわふわと浮かびそうな気分に、今日感じた疲れも消えていく気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





基本的にプロットというものを書かないので思いついた内容を思ったように書くスタイルなんですが、今後の展開は大体イメージ出来ているので次こそは今回より早めに投稿できると思います(思います…)
モチベが下がったとかじゃないからそこは安心して!

新しく評価してくださった大和兎さん、白い稲妻さん、セツナの旅さん、黄昏の魔弾さん。そして評価を上げてくださったsteelwoolさん、ありがとうございます!感想をくれた方もありがとうございました!

ではまた次回。
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