彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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白羽の矢

 

 

 

 俺は今、脳内で思考を巡らせている。

 どうしよう、別にリサとは気まずい関係じゃないが、場所が場所だけに突貫しずらい雰囲気にある。俺が主人公補正の効いたバリバリなイケメンなら、ここで『偶然だな。よければ水着、選んであげようか?』なんて気障ったらしい台詞を平然と吐けるんだろうが、生憎そんな事はない。ただ俺自身が気にしなければ済む話なのだが、そうなれるほど精神的に強くなかった。

 リサは一人なのか、時折見える姿の隣には誰もいない。

 

(意外だな。湊さんとかと来てると思った)

 

 リサといえば湊さん、湊さんといえばリサ。そのくらい二人が一緒にいることは多いし、なんなら一番心を許しあってるのかもしれない。

 

「……まぁいいか。本当に偶然なんだし」

 

 ストーカー疑惑を向けられないか一瞬不安にもなったが、リサならそれは大丈夫だろうと考え直す。そんな風に思われるほど不仲じゃないだろう。

 

「何が偶然なのかしら?」

「……!」

 

 平静を装い一歩を踏み出そうとしたその瞬間、やはりと言うべきか彼女の声が耳に届く。もうそんなに驚いたりはしない。こういう不意打ちには耐性が付いて来たんだ。驚くたびに成長する戦闘民族を舐めるなよ。

 

「やっぱ湊さんもいたのか。いや、水着買いに来たら中にリサいたからさ」

「あなたも……? リサもそう言いだして一緒に来たんだけど……合宿で海には行かないわよ」

「……予想通りか」

 

 やっぱそうなるよね。分かってた。だがここからが本番だ。説得するなら早いうちが良い。どういう方向から切り出そうか悩んでいると、湊さんが先に口を開いた。

 

「……もしかして、2人で行くのかしら……?」

「……は? それはどういう? 」

 

 あまりに唐突な質問にポカンと呆ける。一方湊さんの方は真剣だったのか、至って真面目な表情をしていた。あ、なるほど。目的が同じだったからそう思ったのか。つまり現時点で合宿=海という考えは湊さんの中には微塵もないという事になる。

 否定ついでに説得を始めようと思い口を開くも、またもや湊さんに遮られた。なに? 本街ブレイカーなの? そのふざけた幻想(水着イベント)をぶち殺すの? 

 

「私も買うわ。行くわよ」

「おぉ、分かったけど、いいの?」

「構わないわ。お金はあるもの」

「なら良いんだけどさ。じゃあ行こう。正直1人じゃ入り辛かったんだ」

 

 何故かよく分からない内に自分から行く気になってくれて困惑する。だが一応否定しておこう。こういう所を見逃すと勘違いを生みかねないからな。ソースはラノベ。俺の人生構築材料の大半がこれである。

 

「湊さん、別に俺リサと2人で海行くわけじゃないからね? あくまで合宿の時に行きたいってだけで。今日会ったのだって本当に偶然だし」

「……そうなの? ……ならよかった。あと、合宿中に海は行かないわよ。目的はあくまで練習。遊ぶ暇なんてないわ」

「くっ、手強い……」

 

 バンドのリーダー的存在は湊さんだし、言ってる事はもう反論のしようもないほどの正論だから返す言葉に詰まる。しかし(水着)を諦めきれず、なんとか隙を見て食いつく。

 

「でもほら、ずっと練習っていうのも気疲れしてくるじゃん? 気分転換というか、リフレッシュ的な……」

「確かにそれは一理あるわね。でも各自自由時間はちゃんとある。大体、許可してしまったらリサやあこが一日中遊んでしまって練習どころじゃなくなるわ」

「うわぁこれ説得無理だ」

 

 もう何も言い返せない。切れる手札を全て切って尚、湊さんの方が枚数も強さもレベルが違かった。

 

「でもさ、ならなんで湊さん水着買うの? 合宿で海行かないならいらないんじゃね?」

 

 もう既に店内に入っていて、陳列棚には数多くの水着が並んでいる。下着と水着って名前違うだけでほぼ同じだよな……。けしからん。

 そんな事を思いながらも湊さんの返事を待つ。しかし考え込んでいるのか言葉が返ってくる事はない。……ここだ! 一筋の光を見出した俺は、思いつくまんまに喋る。

 

「買うなら折角だし行こうよ。この近くって全然海なんてないし、俺も行きたいし」

「……考えておくわ」

 

 よし! 状況はさっきより確実に好転した。あともう一押しでいけそうだが、生憎もうゴリ押し以外に手がない。あまりしつこく言いすぎても機嫌を損ねてしまうことになり兼ねない為、これ以上の応酬をやめる。

 

「希望が見えてきたぞ、リサ!」

「へっ!?」

 

 ハンガーに掛けて並べられている水着に手を伸ばすリサに声をかける。背後から近づいた所為でこちらに気付いておらず、素っ頓狂な声を上げた。

 

「オッス、オラ◯空」

「……? ごめんなさい、少し遅れたわ」

「なんで修哉がいるの!? ってか◯空って……」

 

 テンションが上がっていたためふざけた挨拶が飛び出す。俺の発言がつまらなかったのか表情をカケラも変えない湊さんとは違い、リサは驚いた顔で俺達を見やっている。

 

「水着買いに来たらそこで会った。偶然って怖いよな」

「うわーっ、すごいねそれ。偶然って言葉で言い表せない気がして来た」

「俺もそう思う」

 

 合流できたのは良かったが、男物の水着コーナーが別方向なため居心地の悪さを感じる。俺が1人でここにいたら確実に不審な目で見られていたこと間違いない。

 

「じゃあな。俺あっちで自分のやつ買うから」

「オッケー」

「分かったわ」

 

 それだけ言ってそそくさと退散する。売り場に辿り着くと、無難な色の水着を求めて俺は棚から選び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさか修哉がそこまで楽しみにしてたとはね〜♪ 」

「ただの合宿で大げさね」

「合宿で大げさなの!? もしかして盛り上がってるのって俺だけパターンかよ」

「そ、そんな事ないよ! アタシも超楽しみだから、ね? 友希那」

「……確かに新鮮味はあるわね」

「冷静すぎる……」

 

 水着を買い終わった後、そのまま本屋に直行して帰ろうとした俺をリサ達が引き止めた。いやセコイでしょこいつら。店の前で出待ちとかお前ら警察かよ。折角2人で来ているんだから俺がいては邪魔だろうに。そりゃ誘って貰えるのは嬉しいが、何となくそんな事を気にしてしまう。

 そんなこんなで今、俺は最近開店したらしい人気のケーキ屋に来ていた。勿論提案者はリサ。本当女子ってこういう情報仕入れるの早いよな。

 ただ『来ている』と言っても流石に人気店というだけの事はあり、店の前には大行列が出来ている。そこの中間付近に俺たちは並んでいた。

 

「にしてもすごいなこの列。売り切れるんじゃね? 最後尾とかもう見えないし」

「確かにすごい人ね。こういったお店はこれぐらい混むのが普通なのかしら?」

「うーん、どうなんだろ。お店の種類によるけど……でも多分売り切れとかはないと思うよ」

 

 確かこういう順番待ちの時に会話が途絶えるとまずいんだっけ。今は3人だから気にならないが、某夢の国のアトラクションの待ち時間を2人で経験したカップルは別れるとか言うジンクスがあるくらいだからな。

 会話が途切れる。つまりそれはお前に興味はないと、これ以上話す事などないと暗に相手に受け取らせてしまう事に他ならない。それを気にしない関係性ならば理想的で何も問題はないが、少しでも意識して気まずさを感じてしまえば、もう崩壊への賽は投げられている。

 つまるところ、こう言った場において求められる行動とは『いかに自然体で居られるか』の一点なんだろう。無理に取り繕って空気を読んだ所で状況に変化は生まれない。相手も自分が空気を読んだことを読んでいるのを忘れてはいけない。◯ッキーに助けて貰おうだなんて思うな、ミッ◯ーは敵だと思え。

 

「進んだわね」

「あ、本当だ」

 

 気がつけばかなりの人数が並んでいた列は消化され、前方数人前にはショーケースが見え始めていた。店側はこの売れ方など想像通りとでも言うように、裏からどんどんケーキを運んで来ては追加している。

 まだ待っている人も多い為、早めに選んで会計を済ませる。ちなみに俺はチーズケーキを買った。個人的に一番好きなスイーツだからな。

 

 店を出ると、数十秒遅れて2人も出てくる。リサは買えたことへの満足感が、湊さんは列から抜け出せた達成感と疲労感が見え取れた。……まぁ、こういうの得意じゃなさそうだもんな。

 

「そっちで食べてかない?」

「構わないわ。少し疲れたから、休むのにちょうどいいわね」

「俺も賛成。この箱持ったまんま歩くのは邪魔になるしな」

「それもそうだね〜」

 

 自由に座れるテーブルや椅子が並べられているスペースに座り、それぞれが購入したケーキを食べていく。その後も、結局俺はリサ達に言われるまま服屋、アクセサリーショップ、楽器屋、ペットショップに行った。猫を愛でる湊さんが可愛すぎてやばかったです(語彙力の消失)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜! 楽しかった〜!」

「疲れた。超疲れた」

「私も疲れたわ」

「も〜、2人して何言ってんの〜? 高校生なんだからもっと楽しまないと!」

「青春万歳できるほど明るい人生じゃないんだよなぁ……」

「でも……たまには悪くないわね」

「友希那ぁ〜〜」

 

 空気舐めんな空気。そのうちエアとか撃てるようになるんじゃないだろうか。1人げんなりする俺の横では、リサが湊さんに抱きつくという百合展開が繰り広げられている。まさにA.Tフィールド。絶対不可侵領域である。

 

「俺夕飯の材料買ってから帰るからこっち行くわ。じゃ」

「ええ、また明日」

「じゃあね〜」

 

 日中と比べ少しはマシになった気温の中、夕日を背に歩き出す。

 全く、数ヶ月前の俺が見たらこの状況を何と言うだろう。良かったな、と賛辞を送るだろうか。様々な文句を連ねてくるかもしれない。あの日、あの時からは考えられない程に今の俺は充実している。それこそ夢のような出来事だ。散々現実を軽視していたが、きっかけ次第でこうも変化が起きることを身をもって実感する。

 

「──ま、俺は何も変わってないんだけどな」

 

 そう、どんなきっかけを与えられても、俺は何一つ変わっていない。周囲が、誰かが、俺を取り巻く環境が変わっただけの話。その中にただ存在している俺自身は昔のままで、お調子者の顔を前面に出してはいるが、その実ただの臆病者だった。

 そんな自分を分かっていながらも、この現状に頰を緩ませる。

 だって、変われそうだから。彼女に出会ってから抱いたこの感情が、俺に変化をもたらしそうだから。一歩を踏み出せない臆病者が、小さな覚悟を抱いたから。

 

 ──告白。

 

 うじうじと足踏みを繰り返す中、どこかでこれは決めていた。運良く場所もセッティングされたんだ。これに乗らない手はない。

 合宿中、湊さんに告白しよう。3か月という短い間に大きく育てたこの感情を、本人へと伝えよう。ただの臆病者から進むために。この現状に一石を投じるために。

 俺も男だ。決める時はしっかり決める。例えそれがどんな結果になろうとも、進めた足に迷いはないから。だから、それまではこの幸せを噛み締めよう。

 

 内心の重さに対し、アスファルトに反響する足取りはどこか軽い。その足音を耳で受けながら、俺はそのまま歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───そんな事を考えて気が緩んでいたのかもしれない。だから俺は今日、俺を影から見てはその口元を歪めて嗤う存在に気付くことが出来なかった。

 

 

 

 

 





矢は射られた。

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