彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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はい、新しくタグを追加しました、作者です。控えめに書いたつもりですが、そういう描写が苦手な方はブラウザバックをおすすめします。

では本編、どうぞ。



欠損

 

 

 

 

 

「でさー、その時モカが──」

「ふふ、マイペースね」

「でしょー?」

 

 修哉と別れてから、アタシと友希那は他愛もない話をしながら帰路に着いていた。既に時刻は6時を回っているものの、日が長くなってきた今の季節では外はまだ明るい。

 

「それでねー……って、友希那?」

「……なにかしら?」

「いや、ぼーっとしてたからさ。どうしたのかなーって思って」

「……大丈夫よ。少し、考え事をしていただけ」

「なになに? どんな考え事してたの? お姉さんに言っちゃいなよ〜」

「…………」

 

 軽い口調でそう言ってみるも、友希那は口を閉ざしたままだ。あ、あれ? ちょっとまずい内容だったのかな……?

 燃えるような夕日のせいか、隣を歩く友希那の顔は朱に染まって見える。ゆっくり顔をこちらへ向け、アタシの目を見てから友希那は小さく言葉を零した。

 

「……しゅ、修哉の好きな人に、心当たりはあるかしら……?」

「……へっ?」

 

 突然の問いに間の抜けた声が出る。

 

「ちょ、ちょっと待ってね。友希那、もう一回お願い」

「だから……修哉の好きな人に心当たりはない? って聞いたのよ。……何度も言わせないで」

「ご、ごめんごめん!」

 

(え、えぇー!? あの友希那が自分からそんな質問を……! もしかしてこれは……!)

 

 友希那は恥ずかしさからか目を伏せ、腕をもじもじさせている。今ならばこの表情が夕日のせいではないとはっきり分かった。かわいいなー、もう。修哉が好きになるのも分かるかもしれない。

 

「でも、なんで急にそんな事を?」

「……私も分からないの。この気持ちが何なのか。苦しいような、嬉しいような。気付けば修哉の事を考えてしまって……前も一度リサに聞こうと思ったんだけど、タイミングが悪くて」

「あの時のはそういう……」

「修哉、前に好きな人がいるって言っていたの。私はリサかと思ったんだけど、本人が違うって言っていたわ。修哉の身近な人だとは思うんだけど……」

「う、うーん……ごめん、ちょっとアタシは分からないかなー」

「……そう」

 

 嘘を付いていることに若干の心苦しさを覚えるが、こればっかりは仕方がない。今ここでバラしてしまうのは、修哉に申し訳なく感じたからだ。あれだけ真剣に悩んでいたんだ。アタシが勝手に言っていい筈がなかった。

 ……それにしても友希那、自覚無いのかな? 修哉、普段からあれだけ友希那にアタックしてたのに。

 

「ちなみにいつからそう思い始めたの? 」

「いつからだったかしら……。気づいたらこうなっていたわ」

「そっか」

 

 友希那はこう言っているが、多分、前々から悩んではいたんだろう。こうやって意識し始めたのは最近だが、確実にそうだと思えた。だって、あの友希那が料理をしようって言ったんだよ? もしかしたらこの時から薄々勘付いていたのかも。

 

「──ねぇ、友希那。本当に分からない?」

「な、なにを」

「その気持ちのこと、本当に心当たりない?」

 

 ただ、気付かせるようにそう問いかける。これはアタシの問題じゃない。友希那と修哉、2人の問題だ。

 

「あ、家着いちゃったね。友希那、また明日」

「え、ええ。また明日」

 

 笑顔で軽く手を振り、アタシは振り返って歩き出す。そんな中、小さな声が確かに背中に届いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私は、修哉の事が……好き……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多くの生徒が友人と駄弁りながら登校する中、俺はその隙間を縫うように歩く。学校に近づくにつれて次第に増していく喧騒が、まだ眠気を訴える思考をクリアにしていった。

 

「あ、修哉。やっほー☆」

「……おはよう」

 

 朝から元気だなぁ……なんて思いながらも気怠げな挨拶を返す。何やら語尾に星が見えた気がする。

 うっわ、テンションひっく〜……なんて言いながらリサは呆れ顔を向けてくる。

 

「ちょっと色々あって寝るの遅かったんだよ。で、なんでお前いるの?」

「アタシは朝練だよ〜。いやー、朝からテニスっていいねー! 修哉もやらない?」

「死んでもやらない。むしろやったら死ぬまである」

 

 俺はお前と違って超人でもないし、オーバーワークに耐えうる体も持ってないんだよ。

 相変わらずの多忙っぷりに苦笑いが溢れるも、本人が元気なんだから良いんだろう。

 

「あ、おーい、友希那〜!」

 

 気が付いたように俺の後方へ視線を移し、手を振りながら声を上げる。つられて俺も振り返ると、少し離れたところから湊さんが歩いてきていた。

 

「湊さんおはよー」

「……お、おは……」

「……おは?」

「〜〜っ! 何でもないわ」

 

 途端、湊さんは目も合わせずに横を通り過ぎていく。状況が飲み込めない中、俺とリサだけが取り残されていた。

 

「……ねぇ、俺なんかしたっけ」

「友希那が……! あの友希那がついに……っ」

 

 

 ……駄目だこいつ、早くなんとかしないと(使命感)

 ぽわぽわと花が咲き、脳内どころかその半径1メートルがお花畑と化しているリサを置きざりに考える。……駄目だ、考えてもさっぱり分からん。

 

「リサ、おいリサ? 帰ってこい!」

「はっ、そうだった! アタシ朝練戻らなきゃ! 」

「え、いや違う違う、帰るのそっちじゃない。こっちだこっち」

「じゃあね修哉、また後で〜!」

 

 思い出したように走り去っていく体操着姿の女子高生を、ただ後ろから眺める事しか出来ない男子生徒の姿がそこにはあった。

 ……というか、俺だった。

 

「マジで帰りやがった……」

 

 追いかける訳にもいかず、スッキリしない気分で昇降口へと向かう。自分の靴を取り出すためにロッカーを開くと、すぐ手前に見慣れない手紙が置かれていた。

 

「……なんだこれ」

 

 小さい正方形に折り畳まれたそれに手を伸ばし、一応ポケットに突っ込む。

 流れでそのまま靴を履き替え、教室へ向かう。

 ポケットに入れた手紙を取り出すと、歩きながらそれを開いた。

 

『大切なお話があるので今日の放課後、体育館裏で待ってます』

 

 うっわぁ。マジでなんだこれ。

 あれだろうか、俗に言う「嘘告白」というやつだろうか。

 

「……くだらない」

 

 自分でも全く意識していないのにため息が出る。

 まず前提から落第点だ。相手が悪い。俺だぞ俺、馬鹿にしてもらっては困る。

 次に名前がない。まぁこの時点でこの要求に応じるやつは馬鹿かアホの二択だ。100歩譲って呼び出すのは良しとしても、放課後というのがアウト。俺の放課後をそう簡単に奪えると思うなよ。

 あと紙が安い。これでは行きたい心があっても瞬間的に萎えてしまうだろう。和紙だ、和紙を使って出直してこい。

 

 脳内で名も無き手紙に評価をし終えると、そのまま細かく破ってゴミ箱へ投げ入れる。教室内には俺より先に行ったはずの湊さんの姿はない。

 

(あれ、本当になんだったんだろうな)

 

 原因に心当たりが無さすぎる。挨拶か? 挨拶に何か問題があったのか……? あの時、湊さんはやや顔が赤くなっているように見えた。つまり、考えられるのは四つ。

 一つ、俺からの挨拶に照れた可能性。……うん、自分で言ってて思うけどこれは無いな。さすがに自意識過剰すぎる。

 二つ、体調が優れていなかった可能性。これは……どうなんだろう。現状一番それっぽいな。だとすれば今ここにいないのも保健室だと説明できる。

 三つ、顔を真っ赤にするほど怒った。これは絶対ない。意味わかんねぇよ。世の鈍感系主人公はしょっちゅうこんな勘違いしているが、どういう思考回路してるんだろうか。確実に正常じゃない。

 四つ、もっと別な『何か』がある可能性。これに関しては漠然としすぎて影を掴むことは出来ないが、あり得ないとは言えない。

 

「あぁ〜、分かんねぇ……」

 

 どれもいまいち説得力に欠け、俺の頭では見当が全くつかない。

 まぁ、後で話しかけてみればいいか。そう無理矢理結論付け、俺は机に突っ伏したまま時間が流れるのを静かに待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、つい先程まで静寂に包まれていた教室内も再びざわめきを取り戻し始める。部活に向かう生徒、教室に残り自主学習に励む生徒、委員会に向かう生徒、恋人同士でどこかへ向かう生徒。そのどれにも当てはまらない俺は、クラスの喧騒を背に一人廊下を歩いていた。

 基本的に、俺がスタジオへ行くタイミングはリサや湊さんと違う。彼女たちは一度全員で集合してからCiRCLEに向かう事がほとんどだが、俺は一人で向かう事にしている。

 

 今、俺の頭の中に浮かぶのは今朝の手紙の事。あれは確実に偽物だ。断言できる。文字こそ女子の筆跡だったが、そんなもの頼めば幾らでも代筆は可能だし、そもそも俺なんかにラブレターなんぞ縁がなさすぎる。

 ならば何故こんな事をするのか。それは、恐らく何らかの理由を俺に見出したからだ。単なる愉快犯の可能性もあるが、そう楽観視もしていられない。誰かの悪意ある行動なんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

「ま、帰るから関係ないんだけどな」

 

 昇降口で靴を履き替えながらそんな事を呟く。外に出て、校門までの道を一直線に進んで行く。お、これは行けたな。全く、穴だらけの作戦だったな、送り主よ。俺が無視して帰るという予想をできなかったんだろうか。

 

「も、と、ま、ち、くーん」

 

 突如横から聞こえてきた声に肩が震える。その声は周囲の会話をすり抜け、俺の耳に直接届く。

 

「ひっどーい、待ってるって言ったのに〜。おい、ちょっと面貸せよ」

「……分かった」

 

 ……失念していた。複数犯によるものなら見張りがいる可能性を考慮するべきだった。

 ひと睨みされ、ただ俺は頷いてその男子について行く。道中、バレないように携帯を操作し、リサにただ一言『遅れる』と連絡を入れる。やがて人気のない体育館裏に着くと、ゆっくりとそいつは振り返って俺を見た。

 こいつ一人なのか……? 他の仲間は? 

 

「俺しかいねぇよ」

「……なんであそこにいたんだ?」

「本当にここに来るにしろ、無視するにしろ、帰るなら必ず校門を通らないといけないからな」

 

 なるほど。頭の方はキレるらしい。チャラ男に絡まれた時並みの緊張で心臓が騒ぐ中、極めて平静を装い問いかける。

 

「……で、何の用だよ」

「あぁ……それはな。こういうことだ、よォッ!!」

「────ぁ……!」

 

 ──痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 

 

 一瞬視界が白く染まり、ひたすらに痛みの信号が脳へ送られる。鳩尾を殴られたと気付いたのは、数秒経った後だった。

 

「ぁ、ぁあ……」

「お……らぁっ!」

 

 丸くなった背中にまたもや鈍い痛みが走る。そのまま地面に倒れ伏した俺に、繰り返されるように蹴りが飛んでくる。土と草の匂いが鼻につく中、俺はただ丸まって耐えるしかない。反撃なんて無理だ。それほどまでに一方的な光景だった。

 

「お前、影薄い陰キャラのくせに随分と楽しそうじゃねぇか! 歌姫達とのお買い物は楽しかったかよぉ、なぁ!」

 

 背中、腕、足。まるで何人かに囲まれて蹴られているような感覚に襲われる。終わりが見えない痛みのせいか、聞こえる声はぼやけて上手く聞き取れない。

 

 やがて痛みの雨が止むと、ただ一言、貫ぬくような言葉が俺の耳を突き抜けた。

 

「あんま調子乗んなよ、ぼっちが」

 

 途端に止んだ蹴りを置き去りに、そいつの足音が遠ざかって行く。丸めていた体を伸ばすと、全身にじわじわと感覚が滲む。

 あぁ、これ痣になるパターンだ……。地に伏したまま仰向けの体勢になり、俺は空を見上げる。

 

「調子に乗るな……か」

 

 確かに調子に乗っていたのかも知れない。

 近づけてると思って、仲良くなった気になって、その実何もわかっていない。今朝だってそうだ。湊さんの様子がおかしい原因に、俺は心当たりの一つもない。

 もし、もしもだ。湊さんが何らかのきっかけで俺を嫌っていたとしたらどうだろう。

 

「いや、そんな訳──」

 

 言いかけて、口籠る。なぜかいつものように容易に否定する事ができない。そんな訳ないと思っている筈なのに、どこかにしこりが残る。

 

 歌姫達とのお買い物。あいつはそんな事を言っていた。ということは、昨日の俺たちを見たんだろう。それがきっかけでこんな形で接触してきた訳か。

 芸は身を助けると言うように、今まで教室で話しかける事が出来なかった俺の臆病さが俺の身を助けていたんだろう。なんて皮肉だ。

 

「はは……痛ぇなぁー」

 

 つい自嘲的な笑みが漏れる。なるほど、あの手紙は俺に立てられた白羽の矢だった訳だ。あぁ、面白い。だと言うのに笑えない。

 

 透き通った夏の空。倒れる俺を嘲笑うかのように浮かぶ太陽の光が、とてつもなく嫌らしい。

 確か、前に一度かっこつけて自分をイカロスとか言った事があったっけか。父、ダイダロスから忠告を受けたにも関わらず、太陽を目指して彼は失墜した。つまり、己を過信し『調子に乗った』のだ。あぁ、これまたなんて皮肉だろうか、過去の俺。ノストラダムスもびっくりの大予言じゃねーか。

 

「やめだやめ。ネガティヴ思考は捨て去れ」

 

 このままだと負のスパイラルだ。これ以上深くまで考えないようにし、俺は起き上がろうと力を込める。が、思い出したように痛みが走り思うように体が動かない。

 

 ゆっくり、ゆっくり体を起こしていると、タッタッタという軽快な足音が近づいて来る。瞬間的にやばいと判断し、急いで体を起こそうとするもやはり激痛で動かない。

 ついその場に再び倒れ込んでしまった俺の近くで、その足音は止まった。

 

 ──あぁ、これなんて説明しよう。それともあいつのお仲間さんか? 

 

「修哉くん!」

 

 ……誰だ? 俺をそんな呼び方で呼ぶ奴に心当たりがない。だが、呼びかける声には聞き覚えがあった気がした。

 

「大丈夫!? 何があったの?」

「……やっぱお前か」

 

 そこにいたのはいつぞやの超感覚少女、氷川日菜だった。

 

「なんでここ来たの? 」

「部室から修哉くんが連れてかれるのが見えたから。もしかしたら、って思って。ほら、修哉くんって友達いないから」

「おい、なんでそんな平然と追い討ちかけられるの? つーかなんで知ってんだよ」

「リサちーがたまに話してるからねー」

 

 くっそあいつ。よりによって何故そこを人に話した。

 

「……それで、何があったの? もしかしてあの男子に……」

「いや、特に何もなかった。ちょっと話し合いしただけだよ」

「嘘。ならなんで倒れてるのさ。それはあんまりるんっ、てしないよ」

「嘘じゃねーよ。あとお前、これ昼寝だからな昼寝。知らないの? これが俺流のやり方なんだよ。だから、何でもない」

 

 最後だけ語気を強めて言い切る。ここであまり深く事情を追及される訳にはいかない。こいつの行動は予測不可能だ。それに姉の氷川さんに余計なことを言われるのは避けたかった。

 

「……そっか。ならあたしはもう何も聞かない。一人で立てる?」

「当然。自分で寝たのに起きれないとか致命的にも程があるからな」

 

 痛みに耐えながら、なんとか自然を装って起き上がる。大丈夫だ、お前ならやれる。いつものぶっきらぼうな表情を作れ。出来るだけこいつに与える情報は最小限に抑えろ。

 立ち上がり終わり、体についた土を払っている途中、氷川の悲しそうな瞳が目に映る。

 

 ──なんなんだよ。

 

 なんでここから立ち去らない。なんで俺にそんな目を向ける。憐れむな、同情するな。そんな壊れてしまいそうな物を眺めるような目で俺を見るな。

 

「で、なんで修哉くん? ちょっと違和感あるんだけど」

「えぇー、なんでー? いいじゃん、この方があたし的にるんっ、てするんだよね〜!」

「さいですか……」

 

 よかった、これでこそ俺が知る氷川日菜だ。

 スクールバッグを肩からかけると、昇降口へ向かって歩き出す。途中まで氷川も一緒についてきたが、その間俺たちの間に会話はなかった。

 

「さてと、俺は帰るわ。じゃあな」

「うん、またね!」

 

 そのまま踵を返して歩き出す。さーて、遅れた代わりに何か奮発して差し入れでも持って行こうかな。確か商店街の方に青葉オススメのパン屋があった筈だ。

 意識的に少しでも明るいことを考えて、それ以外の思考を切り捨てていく。宇田川さんとか特に喜びそうだなぁ、なんて考えながら、俺はとりあえず商店街を目指す。

 

 氷川と別れた昇降口にはもうあまり人がおらず、静かな風の音のみが存在している。

 歩き出す俺の足音は自分の耳に入ったが、反対に校内へと戻る氷川の足音は聞こえて来ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 





少しずつ、少しずつ。


感想をくれた方、お気に入りをしてくれた方、ありがとうございます!

ではまた次回。
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