彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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はい、軌跡が追加され悲しさと感動に襲われ、Roseliaイベが始まって走り回っている作者です。しかも星4がりんりんと紗夜姉っていうね。迎えにいきます。
それにしてもあのイラスト見たときに、ふと一航戦のあの人を思い出した(やりました)

では本編、どうぞ。





異なる一歩を

 頬杖をついて流れる雲を眺める。空は今にも落ちて来そうなほど重い黒に染まっており、そこから降り注ぐ雨が地を濡らす。全く内容が入ってこない授業に1割ほどの意識を割り振りながら、頭に浮かぶのは昨日のこと。

 

 ──あの男子、結局誰なんだろ

 

 まぁ、このクラスにいない時点で他クラスってことは確定してるんだけど。登校時、下駄箱を開いた時点で手紙が入っているという事はなかった。つまり、今は様子見の期間なんだろう。きっと再び俺が調子に乗ったタイミングでまた呼び出される。出る杭は打たれるのが必然。この思春期における監視社会のルールがある限り、100パーセントの尊厳が保たれる事はない。

 

(でも、気になる部分もあるんだよな)

 

 一番のポイントはあいつが単独で行動に出たことだ。通常ならば頭数を増やし、群れをなして獲物を襲う。人間にも通用する自然界の掟というやつだ。だというのに、あいつはそれをしてこなかった。ということは、集団で来れない理由、もしくは来なくてもいい理由があったという事になる。

 例えば、周囲と共有できない感情のもとで動いていたから。或いはあいつもぼっち説。ふ、これだったら笑えるな。

 それに、普段から俺とリサはよく校内を歩いたり屋上で弁当を食べたりしている。にも関わらず、あいつが材料にしたのは一昨日の目撃情報だけ。なにかがおかしかった。

 

「いっ……」

 

 これ以上進まない考えを打ち切ると同時に頬杖を止め腕を下げると、肩から二の腕にかけてじわじわと蝕むような痛みが走る。その跡をそっと撫でると、ふと今朝のことを思い出した。

 起床してから確認してみたところ、目に映るのはやはり痣。それもかなり多く、背中や足などにも紫がかった打痕が残っていた。

 

 俺はちゃんと笑えていただろうか。気付かれていないだろうか。あの時からどうも記憶が曖昧ではっきりしない。自分自身で何をしでかしたのかが分からないなんて馬鹿な話だが、そんな不安を昨日の夜から感じていた。

 

(湊さんが傷つくような事がないといいんだけど)

 

 あんなに心が痛んだのに、今もこんなに痛みを感じているのに考えるのは湊さんのこと。昨日の態度で嫌われている線の確率は上がってしまったが、それを勘づきながらもこうして想ってしまう。

 一度知ってしまった蜜の味は忘れることが出来ない。何度でも盲目的かつ永続的に欲してしまう中毒性、依存性が確かにあって、そんなものを俺は今も求めてしまっていた。

 

「じゃあ、今日の授業はここまで。各自必ず板書を写しておくように。日直、号令」

 

 静寂を打ち破る教師の声に思考を切り替える。ハキハキとした日直の令で授業は終わり、今の時刻は昼休み。今日は弁当を作らなかったため、購買へ向かおうと席を立つ。

 

「あっ、いたいた〜! おーい、修哉くーん!」

 

 窓の外とは真逆のような明るい声がクラスに響く。……あの馬鹿野郎。

 

「……なんの用だよ」

「ちょっと来てくれない?」

「は、なんで?」

「なんでも! ほら、ババーンと行くよ〜!」

「っ……分かった、分かったから離せ! 離して!」

 

 咄嗟に近付き小声で要件を訪ねるも、そんな事は関係ないと言わんばかりに氷川は声のボリュームを下げない。終いには手首をがっちり掴み始め、そのまま俺は引っ張られていく。意外と力が強く、肩の痣を刺激する鋭い痛みが走る。

 

「とうちゃ〜く! ここだよ」

「……天文部? こんな部活あったのかこの学校」

「ま、部員はあたし一人なんだけどね」

「それ同好会じゃないの? よく存続できてるな」

「細かい事は気にしないの。さ、入って入って」

 

 促されるまま部室に入ると、そこには天文部らしい物はなくただの軽い物置き兼空き教室のような空間が広がっていた。

 

「ここから見えたんだよ」

「……なるほど」

 

 確かにここなら丸見えだ。窓の外には校門から昇降口までが一望できる景色が広がっている。

 

「……それで、あの時何があったの?」

「……何もなかったって言わなかったか? それにお前は『もう何も聞かない』って言った筈だろ。この状況は何だよ」

「だって! あんなの明らかにおかしいし……見ちゃったから気になるし……」

「人の昼寝が気になるとは……。お前、天文部じゃなくてお昼寝同好会とか向いてるんじゃね?」

「ふざけないで」

 

 諌めるような声音で言い放つ。本当に何なんだこいつは。なんでそこまで俺に干渉してくる。見なかった事にして全て忘れてしまえばいいものを。

 沈黙により答える意思はない事を示していると、責めるような表情でさらに言葉を続ける。

 

「……それに、さっきだってあたしが引っ張った時痛がってたでしょ」

「手首の皮が一緒に引っ張られて痛かったんだよ。てかなんでお前そんな細かい所まで見てんの? 感覚派のキャラどこいった」

「……そうやってどうでもいい人の前だと平気で嘘つけちゃうんだ」

 

 ……あぁ、やはりこいつは俺が苦手なタイプの人間だ。読めない行動力だけじゃない。この核心を突くような、心を覗き込むような、どこか逸脱した影に恐怖すら覚える。

 さらに、氷川の目が俺に刺さるのだ。昨日、いやそれ以上の憐れみと同情、不安、怒り。そこに無理して作っているのが丸見えな微笑が加わって、残酷味を増している。

 

「……嘘かどうかなんて分かんないだろ。つーかそもそも、いきなり教えろとか言われても意味分かんなくて困るんだけど? 」

「……腕に痣できてるのに?」

「!?」

 

 急な一言につい反射的に腕を確認してしまう。ワイシャツは肘まで捲っているが、その場所には痣はないはずなのに。氷川に鎌をかけられたと気付いたのは数秒後だった。

 

「……分かった。誰にも言うなよ?」

「うん」

 

 もう、話そう。ここまできたらどちらも同じだ。表情を整えてからそう腹をくくると、俺は一昨日の事から話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜、ムッカーってする! もうドッカーンって感じ!」

 

 話し終えた途端、そう言って氷川は怒りを露わにする。だというのにその表情は晴れやかで、先程とは真逆と言ってよかった。

 

「相変わらずの超感覚言語……。よく聞くと普通に理解できるから困るんだよなぁ」

「え、分かるの? じゃあ修哉くんも使ってよ! 絶対るんっ♪ ってするから!」

「それはお前だけだ。俺が使ったらもうアウト」

「ぶー」

「ぶーって……さっきと雰囲気違いすぎない……?」

 

 気になっていることを問いかける。すると、氷川は小さく微笑みながら腕を後ろに組んだ。

 

「だって、ちゃんと話してくれたからね」

 

 その笑みは純粋なもので、先程の残酷さなどカケラも残っていない。

 

「誰にも言うなって言ってたけど、この話ってリサちーと友希那ちゃんにはしたの?」

「……してない」

 

 したくない、と言うのが正しいか。優しい2人の事だ。この話をしたら確実に自分のせいで……なんて責任を感じてしまうだろう。それが何よりも嫌だった。

 

「あたしはするべきだと思う」

 

 諭すような口調で氷川は俺をじっと見る。

 分かってる。俺の私情を除いて、普通は話すべきだ。それを分かっていながらも俺はどうしても動けない。

 人は皆、正しいわけじゃないから。選ぶ答えが正解とは限らないから、間違える事で真実味を持たせようとする。悪知恵を覚えた中学生なんかが宿題の答えを写す途中でわざと間違えるのに感覚は近い。事実だけで成り立つ関係なんてきっとないから、だから今でさえ俺は嘘で取り繕おうとしている。

 

「……例えば、ifの話で。氷川ならさ、大事な人が自分のこと嫌ってるかも知れない……って状況ならどうする?」

「……! あたしは、自分から近づく。と思う」

「さらに嫌われるかも知れないのに……?」

「それでもだよ。それで離れちゃったら、ずっと分からないままだから」

 

 氷川の妙に感情のこもった言葉を受け止めながら俺はただ息を飲む。

 ……そうだ、馬鹿か俺は。いや馬鹿だな。まだ決まった訳じゃない。『かもしれない』で何をこんなに落ち込んでるんだ。らしくない、全くもってらしくないぞ本街修哉。

 

(……今日、全部話そう。それで全てはっきりする)

 

「氷川……助かった」

「どーいたしまして。……友希那ちゃんのこと、大事に思ってるんだね」

「ちょっと? 俺例えばって言っただろ。──でも、そうだな」

「うん、そうだね。今の修哉くん、スッキリした顔してるよ」

 

 外を見るといつのまにか雨は止んでいた。晴れとまではいかないが、厚い雲が薄まる程度にはなっている。電気をつけていないこの部屋は暗いままだが、それも今を持って終わろうとしていた。

 

「修哉くん。頑張ってね」

「……ああ」

あたしも、頑張るから

 

 ポツリ、と僅かに零れた小さな言葉を確かに拾う。その表情は窺えないが、何処か自分に言い聞かせるように聞こえた。

 

 多くの人が苦悩を抱えるこの日常で、氷川日菜もきっと何かに悩んでいた。恐らく、先程の俺の質問がその一端を掠めたのだろう。だから、俺とこいつは少し似ている。閑散とした部屋の中で、ただそんなことを思った。

 

「さて、じゃああたしはお弁当食べよっかな! ばいばーい!」

「そういえば俺も昼まだだった……ってもう行ったか」

 

 相変わらず唐突な奴だな……なんて思うが、不思議と今はそれに対する嫌悪感はない。その足跡をなぞるように俺も天文部の部室を出ると、購買に向けて歩き出す。

 

 

 校舎の中でも人気が少ない部類に入る廊下に、リノリウムの床を進む俺の足音が響く。今日の放課後が決戦の第1段階だ。上手くいくかなんて分からないが、確かに背中を押されたから。同時にそれが背中を押すことに繋がったから、俺は頑張れる。また一歩を踏み出せる。

 

 

 

 

 だから───

 

 

 

 

「頑張れ」

 

 

 

 

 何一つ事情は知らないが、静かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 





相変わらず話が進まないね。許してください。しかも今回はキリを良くしたかったので文字数も少なめです。
でも日菜って書いてて楽しいんですよね。完結したら新作書いてみようかしら…?

ではまた次回。

─追記

修哉にキャラブレが見られたので若干修正を入れました。
他にも何か意見、指摘などがあればどんどんお願いします。
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