はい、何度も消しては書き、消しては書きを繰り返してようやくケリをつけました、作者です。
それはそうと紗夜とりんりんを迎えられないんだけど? (悲しみ)
「友希那さーん、リサ姉ー、また明日〜! あっ、あと修哉さんもー」
「ええ、また明日」
「またね〜! 紗夜も燐子もじゃあね〜♪ 」
「ちょっと? その俺だけ思い出したように挨拶するのやめてね? 虚しくなるから」
元気な声と、それに答える声が響く。アタシがあこに手を振り返していると、『時間帯を考えてください!』なんて紗夜に叱られながらみんなは遠ざかっていった。
夜も遅くなり閑散とした路地。所々にできた水溜りが街灯の光を浴びてゆらゆらと揺れている。
「雨、急に止んだね〜」
「そうね」
お昼頃に止んでから雨は降ることはなく、アタシ達は手持ち無沙汰になった傘を持ちながら3人で帰路についていた。
「そうだ、アタシ帰ったらクッキー焼こうと思ってるんだ〜。上手くできたら明日あげるね♪ 」
「そう、ありがとう」
「任せて! 今回も腕振るっちゃうよ〜♪ 」
さーて、今日は何味に挑戦してみようかな〜。チョコクッキーは定番すぎるし、ラングドシャ風のやつはこの前作ったし…….友希那の好きなハチミツティーを元にハチミツクッキーとか? うん、アリかもしれない。そうなると修哉にも作ってあげたいけど……。
そこまで考えてアタシは修哉の好みを何も知らない事に気がつく。バイト先が同じになってから約3ヶ月近くが経つ。ほとんど毎日顔を合わせているのに、驚くほどアタシは何も知らなかった。
どんな味がいいか聞こうと思い、友希那を挟んで道路側を歩いている修哉へと顔を向ける。薄暗い色に包まれているせいではっきりと視認できないが、その表情は何か考え込んでいるようだった。
「あのさ、ちょっと話あるんだけど……時間いい?」
「ん、どうしたの? 改まって」
「……何かしら」
何でもないように聞き返すが、アタシはなにか嫌な予感がしていた。それこそ昨日の事だったり。
その場の雰囲気で立ち止まると、一歩遅れて修哉も立ち止まった。そしておもむろに腕を捲る。
「って、どうしたのそれ!? すごい痣じゃん!」
「……どういうこと」
「今から話すよ。これは───」
修哉の口から語られる出来事に、アタシはただ固まる事しかできない。信じられない……と思う反面、どこか納得をしている自分がいた。
(ってことはあの時のは見間違いじゃなくて……)
これに原因があったということだ。その痕は見ているだけでも痛々しい紫色で、内容からして腕だけじゃないことが容易に想像できた。
辛いはずだ。痛いはずだ。だというのに、本人が語る口調は暗い色など映しもしない。昨日だってあんなに明るくスタジオに来て、何一つ変わらぬ笑顔を浮かべていた。ただあの一瞬だけ耐えることができなかったんだろう。
「……ねぇ、修哉───」
言いたいこと、聞きたいことは沢山あるのに何一つ言葉に変わらない。ただその目を見つめて話を聞く事しか、今の私には叶わなかった。
そんな視線に耐えかねたのか、修哉は無理に笑顔を作りおどけた様子で言い放つ。
「でも別に大丈夫だから。元々昔からこんな感じのことはたまにあったからさ」
「…………ないわ……」
「……え?」
「何も……大丈夫なんかじゃない……ッ」
「ちょ、友希那!」
瞬間、それまで喋っていなかった友希那が声を上げる。それは絞り出しているような、叫びたいのを我慢しているかのような、そんな声。突然の事に立ち尽くしていると、友希那は何処かへ走り出す。
アタシはそんな状況をただ見ている事しか出来なかった。
「っ…………修哉! 追いかけて!」
「でもリサは……」
「アタシはいいから! ……早く友希那の所に行ってあげて」
「……分かった。絶対湊さん連れて戻ってくるから!」
強い口調でそう言うと修哉は弾かれるように走り去って行く。普段ぶっきらぼうな横顔は真剣そのもので、微かに見えた歯は食いしばられてした。
「……なんだ、足速いんじゃん」
遠ざかる足音がアタシを置き去りにする。誰もいなくなった路地の静寂を切れかけた街灯の明かりが彩っていた。道路の塀に軽く背中を預けると、息を吐き出し空を見る。
なんで、修哉はこの事をアタシ達に話したんだろうか。修哉ならアタシ達が責任を感じてしまう事くらい、簡単に予想できるはずだ。友希那が走り出したのは予想外だとして、実際アタシも責任を感じている。他にもまだまだ聞きたいことはあるが、今はその一点が気になっていた。
まだ足りない。まだ修哉の話は終わってない。アタシ達は修哉が打ち明けた理由について知らないといけないのだ。
「それにしても意外だったな〜……」
あの友希那があんなに感情的になるなんて。
昔はよく笑ったのに、お父さんの事があってから友希那は変わってしまった。いつもどこか冷たくて音楽の事しか見えていない。そんな中にも暖かさはあったけど、アタシ以外の人はそれに気づかない。そのせいで常に周りとは一歩引いた立ち位置にいて、学校でも友達は少なかった。
だから、そんな友希那を見守りたくて、支えたくてアタシはいつもそばにいた。ううん、それだけじゃない。また友希那に笑ってほしい。友希那はこの話をあんまりして欲しく無いようだけど、アタシはまた昔みたいに楽しく過ごしていたかった。
そのためにRoseliaに入って、一緒の時間を過ごして来た。それでも友希那の目的は変わらないから、根底からの変化は見られない。
修哉は、そんな友希那を変えたんだ。あの日、アタシが練習に誘った時を境に友希那は少しずつ確実に変化していた。さっき逃げ出したのが何よりの証拠だろう。友希那は音楽以外に興味を引くもの……恋を知ってしまったのだ。
「あ〜あ、こりゃアタシはもう要らないのかな〜…………なんて」
いつか修哉が懸念していたことがアタシを襲う。きっと、修哉なら友希那を何とかしてくれる。そしてこれからもずっと側にいるだろう。修哉は友希那が好きで、友希那も修哉への思いを自覚した。ならもうその先の結末は一つしかないんだ。
そこには二人の気持ちを知っているからこその確信があって、それが逆にアタシの心の隙間に入り込んでいた。
○ ● ○ ●
「はぁ……はぁ……」
どれくらい走っただろうか。
ぐしゃぐしゃになった頭の中を整理するように、その場で大きく深呼吸をする。
────ここは……
ふと周囲を見渡して見ると、小さな公園にいる事に気づく。夜光灯に仄かに照らされながら、静かにその存在を保っているベンチに腰を下ろした。
マシにはなったが、未だ僅かに荒い呼吸のせいで肩が上下する。夜の少し冷えた空気を喉で感じながら、私は先程の光景を思い返していた。
(私、何も気づかなかった……)
修哉があんなに傷ついていたのに、私は自分のことで浮かれていて何も見えていなかった。そんな自分に酷い嫌悪感を抱く。
修哉はあんなことを言っていたが、元はと言えば私のせいだ。あの時、私が声をかけていなければ。行こうなんて言わなければ、修哉は傷つかなかったなかったんじゃないか。そんな取り返しのつかない過去への後悔が次から次へと湧き出しては蓄積する。
Roseliaは──私は修哉を傷つけている。そんな黒い思いが心を蝕んでいく。最初から、修哉は何一つ大丈夫なんかじゃなかった。
「湊さん……っ!」
「…………っ」
聞こえてきた声に体が揺れる。顔を上げると、公園の入り口に立つ修哉の姿が目に映った。
体が痛むはずなのに、彼は息を切らしながら近づいてくる。
「湊さん、ごめん」
「……なんであなたが謝るの。わたしが、わたしが…………っ」
「……ごめん。いいんだよ。湊さんは悪くない。だからそんなに自分を責めないでもいいんだ」
涙が頬を伝って零れていく。泣きたくないのに、泣きたいのは修哉のはずなのに、この感情を抑える事が出来ない。
気づけば、私は優しい腕に包まれていた。目の前には修哉の胸が広がっていて、そこに顔をうずめるようにしがみ付く。
「……本当は話す気なんか無かったんだよ。もし話したら湊さん達は絶対に責任を感じる。俺が気にするなって言っても気にしちゃうから」
「……なら、どうして……」
「それでも、話さなきゃって思ったから。ずっと隠したままだったら、絶対どこかで崩れてたと思うから」
優しく静かな声が耳に届く。私の顔のすぐ上から発せられるその声音には、確かな意思が宿っていた。
「自分勝手でわがままかも知れないけどさ……俺、嫌われてても一緒に居たいんだよ。初めての時はそりゃ緊張したけど、今はあの時間が……Roseliaが居場所みたいになってるんだ」
「でも、Roseliaはあなたを……っ。私が傷つけて……」
「Roseliaが俺を……? 何のことか分かんないけど、俺はずっとああやってスタジオで過ごしてたいんだよ。いつか役立たずになるんだろうけど、それでも近くに居たいんだ」
嗚咽が混じって上手く言葉が出ない私の背中を、修哉はそっと撫でてくれる。それだけで酷く安心して満たされてしまう。
修哉の匂いが、優しさが、温もりが渇いた心に染み込んでいく。あぁ、駄目だ。もう止めることなんて出来ない。
「……ずるいわ」
「……うん、ごめん」
涙は未だに流れ続ける。だが、その意味はもう違った。悲しいものから嬉しいものへ。私は小さく頬を緩ませ、離さないように抱き返す腕の力を強めた。
○ ● ○ ●
「もう大丈夫?」
「……ええ、大丈夫よ」
ひとしきり泣き終えた後、俺たちはベンチに座りなおしていた。涙で目を赤くした湊さんは暴力的なまでに美しくて、それだけで守ってあげたい衝動に駆られる。
「ワイシャツ、汚してしまったわね」
「気にしないで。湊さんの涙で濡れたんだから本望だよ」
「……忘れて頂戴」
「それは無理だろ……」
しっかりと記憶に焼き付けました! 男として、好きな女子に胸を貸せるなんて名誉だろう。もう嬉しさで爆散するレベル。
体が自然に動いて抱きしめてしまったが、今になればとてつもなく恥ずかしい。言ってしまえば弱みに付け込んだに等しい行動だったからな。だ、大丈夫だよね? 問題なかったよね……?
相変わらずヘタレな意見ばかりが脳内に浮かぶ中、少し離れた所に座る湊さんが近づいて来たのが分かった。かっ、可愛い……! 今の擬音にしたら絶対『ちょこん』だろ! やばい超悶えそう。
「さっき『嫌われてても』って言っていたけど、あれはどういう意味?」
「えっとですね……その、俺って実は湊さんに嫌われてるんじゃないかなー……なんて思ってしまった訳で……。ほら、あの朝の時とかパンの時とか」
「あれは……」
「あ、別に気にしてるとかじゃなくて! ただたまたま様子がおかしかったからネガティブな妄想が飛躍したってだけで」
「…………ばか」
「えぇ……?」
俯いているせいで表情を窺うことは出来ないが、怒ってはいないことは分かった。それに、俺ももう気にしてはいない。こうして二人で話せているだけでそんな考えはどこかに消えてしまった。全く、単純な男だ。
「おーい、2人とも〜」
「リサ……」
「あ、戻るの忘れてた」
「あー、それは大丈夫」
駆け足で近づいてくるリサを見て、内心焦る。だが本人は気にしていないのか、俺たちの前に立つと優しい微笑みを浮かべた。
「もう大丈夫そう?」
「ああ、バッチリだ」
「……心配させたわね」
「ううん、友希那が無事ならそれでいいの」
リサに返すように微笑む湊さんの横顔を見て、俺は改めて決意する。
──絶対に告白しよう。
一度は揺るぎかけたこの決意。一時の感情で逃げかけたこの想いを、再び俺は胸に刻む。涙に震える小さな肩を抱擁しながら感じた気持ち。さっきの俺が、思い出せば恥ずかしいような言葉を素直に伝えたように。言わなければ伝わらない事は多いから、俺はしっかりこれを言葉にして伝えようと、そう思った。
その第一歩として俺はリサに向き直る。
「リサ。今更かも知れないけどさ、その……俺の友達になってくれないか……?」
まず目に飛び込むのは驚いたような表情。目を見開き、一瞬顔を歪めた後にリサは大きな笑顔を見せる。
「──うんっ!」
返って来たのはその一言。それだけで、何か成長したような気になってくる。人生で初めて『友達になろう』なんて言葉を口にしたかも知れない。多少の気恥ずかしさを感じる中、リサも何か憑き物が落ちたような顔をしていた。
続けて俺は体ごと横に向ける。湊さんに向き合うような姿勢になり、その目でしっかり赤みが引いた目を見つめる。湊さんもそんな俺と目を合わせ、続くであろう言葉を待っていた。
──落ち着け、落ち着け。
うるさく鳴り続ける心臓の音を受け止めて、俺は小さく息を吸い込む。
「──湊さん。合宿の時に、大事な話があるから」
緊張に歯を震わせながら、そう宣言したのだった。
という事で、これでようやくシリアス先輩がマサラタウンにさよならバイバイしました。次からはやっと合宿編に入れるのかな?
「おい、ちょっと待てよ」と思ったそこの君、大丈夫だ。ちゃんと次回で分かるから。
感想をくれた方、本当にありがとうございます! 執筆意欲の源になっているので、ありがたく読ませて貰っています。
今後も評価・感想等お待ちしています!
ではまた次回。