はい、前話投稿後に感想欄がマサラ送りのことで賑わって普通に笑った作者です。
いよいよ合宿編! 物語の大詰めと言うことでじっくり書いていこうと思います。
チラッと見たら久し振りに日刊ランキングに載っていました! ウレシイ...ウレシイ...
「あぢぃ〜……」
照りつける太陽。揺らめく陽炎。街を行くスーツ姿の人の群れを横目にただ日陰に立ち尽くす。
まだ朝だというのに仄かに聞こえる蝉の声がこの暑さを助長しているようにも感じられ、ついそんな言葉が口から漏れた。
夏休みに入り今は八月。暑さも本格的になってきた季節の中、俺は駅前で一人待ちぼうけていた。
そう、何を隠そう今日がRoselia・夏の合宿当日なのである。いやー、序盤からテンション上がるわ〜。合宿だぞ合宿! 泊まりだぞ!? 普段家以外の場所に泊まらない俺からしたらもう神イベントなんですよ! 楽しみ過ぎて超早く家出てきたわ。修学旅行とかの比じゃない。
「おはようございます」
「ん、あぁおはよう……ございます?」
「……なぜ疑問形なんですか」
「いや、思えばこういう挨拶ってしたことなかったなぁ……って思って」
「確かにそうですね」
声に振り向くと日差しの中を氷川さんが進んで来ていた。ぎこちなく言葉を返し、俺はさりげなく時間を確認する。
現在時刻は朝の7時30分。集合時間は8時だからまだ時間的にも早すぎる。にも関わらず、当然のように彼女はそこに立っていた。
「それより来るの早くない? まだ30分くらいあるけど」
「それを言ったらあなただってそうでしょう。それに、私はこうして待つ時間も好きなんです」
「ふーん」
正直意外だ。氷川さんは無駄な時間を許さないタイプだから、こういう時も時間直前まで家でギターの練習とかしてると思ったのに。まさに鋭く固い性格。それでいてどこか磨きがかかっているんだから、例えるならフォークやナイフ、最近某動画投稿サイトで流行ったアルミホイルボールなんかがピッタリだろう。……これバレたら殺されるな。
ちら、と視線を移してみると、時計を見ながら少しそわそわしているのが目に映った。
あっ……はい、ちゃっかり楽しみなのね。失礼なこと考えてごめん。たまにこういうギャップがあるから氷川さんは氷川さんなんだよなぁ。
「おはようございまーす! 我が深淵なる闇の力を……えーと、闇の……」
「おはよう……ございます……」
「おはようございます。宇田川さん、白金さん」
「おはよー」
しばらく他愛もない会話をしていると、宇田川さんと白金さんが到着した。とは言っても時刻はまだ10分前。湊さん達の方が早く来ると予想していたがどうやら外れたらしい。
「友希那さんとリサ姉はまだ来てないんですか?」
「ええ。でもまだ時間にはなっていませんし、そのうち来るでしょう」
「それもそうですね!」
宇田川さんが来たことで一気に騒がしくなり、活発的な会話が広がっていく。やっぱ中学生って元気だなー。高校2年のおっさんにはもう暑さを嘆くことしか出来ねーよ。
「それにしても来る気配ないな」
「……なにかあったんでしょうか……?」
「ちょっと電話してみるわ」
気がつけばもう集合時刻の1分前。辺りを見渡しても二人の姿は見当たらないため、とりあえず俺は携帯を取り出した。連絡先から見慣れた名前をタップすると、電子音と共に呼び出しがかかる。
「あ、もしもしリサ? お前今どこにいんの?」
『ごめん! ちょっと準備に時間かかっちゃって! もう少しで着くから!』
軽く走っているのか、荒い息が聞こえて来る。健全な男子高校生にとって、それは毒にしかならなかった。
「……了解。湊さんは?」
『友希那も一緒にいるよ』
「おっけー。じゃ、また後で」
『うん!』
なるほど、リサが準備に手間取りそれを待っていた湊さんも同時に遅れてる訳か。
「今井さん、なんて言っていましたか?」
「なんか信号に引っかかりまくって遅れてるらしい。今ちょうど6つ目を無視したって言ってた」
「えぇ!? 修哉さんそれホントですか!? 」
「んなわけあるか。リサが準備に手間取って遅れたんだってさ。湊さんも一緒らしい」
「そうですか。電車の時間までに来ればいいんですが」
「もう少しって言ってたから多分大丈夫だろ」
宇田川さんちょっと純粋すぎない? 将来信号どころか詐欺とかに引っかかりそうで若干不安だ。それこそ魔法陣とか売りつけられそう(偏見)
そんなことを考えていると、ふと隣で顔面蒼白になりながら震えている人が目に入った。言うまでもなく白金さんである。
「……えーっと、顔色悪くね?」
「り、りんりん! 大丈夫?」
「ひ、ひと……っ、増えてきて……」
……もう大丈夫なのかこのバンド。
周りや何の関わりもなかった時の俺ならRoseliaと聞けば『クール』『プロ並み』なんて印象が浮かんだんだろうが、いざ知ってしまえば割とみんなポンコツで、なんというか同じ人間なんだなってのが改めて感じられる。
再び実感した日常に笑みを浮かべていると、人の群れを掻き分けながら見慣れた影が近づいて来ていた。
「ごめーん!! 遅れちゃった!」
「はぁ……っ、ごめんなさ……い……はぁ」
「湊さん!? 深呼吸して深呼吸!」
ちょっと待てよ集合段階で死にかけじゃねーか。……まぁ無理もないか。朝とはいえこの暑さの中荷物持って走れば俺でもこうなる。むしろ俺の方が酷いかもしれない。つまりこれも全てリサが悪い。
つーかリサ疲れてなくね……? お前の方がマサラ人だろ絶対。
「と、とりあえず切符を買いに行きましょう。ほら、白金さんも行きますよ」
「は……はい……」
リサが謝罪と共に湊さんの背中をさする中、券売機を目指して歩き出す。
それより湊さんの私服についてだ。これで何度目か分からないけど相変わらず可愛い……! 実は他のメンバーの私服も今日始めて見たけど、湊さんだけ群を抜いていた。まぁ、好きだからって理由もあると思うんだけど。
呼吸が整ったのか、湊さんが並ぶように俺の横を歩き出す。
「言いそびれたけどおはよう。……体調とか大丈夫?」
「……おはよう。ええ、もう大丈夫よ」
「ならよかった」
とりあえず大丈夫なようで安心する。ほっと胸をなでおろしていると、視界に携帯の画面が入り込んで来た。
「ん?」
「連絡先……交換しない?」
「しますッ!」
即答である。思えばなんで今まで交換してなかったのかが不思議なレベル。電話番号とメールアドレスを交換し終えると、妙に胸がほっこりとした。リサと違ってL◯NEじゃないところがまたポイント高い。
「いや〜、修哉から電話きた後、友希那不機嫌になっちゃってさ〜♪ 」
「リサ!」
「え、なにそれkwsk」
「後でじっくり教えてあげるよ♪ 」
「感謝」
リサの言葉に湊さんは顔を赤らめながら早足で進んで行った。そんな姿を見るだけで、どうしようもなく心臓が締め付けられるような、嬉しいような感覚に襲われる。この前の一件があってから、俺は今まで以上に湊さんのことを意識してしまっていた。極力表情には出さないようにしているが、その実かなり頻繁に内心は荒れ狂っている。
この前の一件と言えば体の痣はほとんど治り、再び元の健康体が帰ってきていた。あれから呼び出さた事はまだない。
……え? 解決しなかったのかって? おいおい現実舐めんなよ。いじめ、今回の場合は暴力だが、基本的に受け身側の行動なんて限られてくるものだ。少ない選択肢の中で穏便に済ます方法、それは即ち『待つ』ことだ。息を殺し、身を潜め、耐久しながら長期戦に持ち込むことで相手の興味の損失を誘う。今はまさにこれを実行している途中だった。
あの夜、リサと湊さんにこの案を話した結果いろいろ言われたがなんとか納得してくれた。この場合俺がただ大人しくしていればいいだけの話なんだが、2人には出来るだけ相談したり頼ったりしようとは思っている。一人で抱え込んで潰れていくなんてのは自己犠牲野郎のする愚行に他ならないからな。今回で俺はそれを学ぶことができた。
「……っと、ここか」
順番に切符を買うと、改札を通りそれぞれがホームへ向かって行く。 海水浴目当ての人が殆どなのか、すれ違う人の多くは夏服に身を包み男女の集団で歩いている。サングラスまでかけているせいでガチ勢感が漂っていた。
「良かった〜、普通に間に合ったねー」
「とりあえず乗りましょうか」
「そうね」
既にホームに到着している電車に乗り込む。合宿場の詳しい位置は分からないが、話を聞くと約1時間半程で着くらしい。
「涼しい〜! ね、りんりん隣座ろ!」
「いいよ、あこちゃん……」
「アタシ達も行こっか」
中身が2人席タイプの車両らしく、真っ先に宇田川さんが白金さんの手を引いて席に着く。リサの声で俺たちも歩き出し宇田川さん達の方へ移動する。
……あれ、これ2人1組ってことは俺隣どうすんの? しかもこの座席180度回転できるタイプのアレじゃん。確実に残りの2人が輪から外れちゃうんですけど。
「あ、アタシここ座ろーっと♪ 紗夜も隣座らない?」
「? ええ、別に構いませんが」
氷川さんの手を引き席に座る中、一瞬リサが俺にアイコンタクトを送ってくる。その視線に『上手くやれよ?』的な意図が込められてることは容易に想像ができた。
くっそお前、俺の内心も知らないで……! 感謝したらいいのか恨んだらいいのか分からん……!
「……じゃ、とりあえず俺らも座るか」
「ええ、そうね」
なんとなく気恥ずかしさに襲われながらも湊さんを窓側にして座ることに成功する。レディーファースト、大事。
しばらくすると次第に車両が揺れ始め、映る景色も流れるように変化を繰り返していった。
宇田川さん達の会話を背に受けながら、湊さんは窓の外を眺めている。
どうしよう……! こういう時って服装褒めた方がいいのか!? でもなぁ……なんか今更? って感じあるし、可愛いのは事実だけどなにより俺が恥ずかしい。……そうか、ここは『月がキレイですね』よろしく何か別の言葉に例えて見ればワンチャン……!
『パンダ』とか? 駄目だ、例えが例えになっていない。パンダがまんま過ぎて伝わらない可能性が大きい。
ならば『空が高いですね』とか……? 駄目だもう唐突すぎて意味がわかんねぇ。
「……な、何かしら?」
「えっ、いや……ふ、服が似合ってるなと……思いまして……」
「……っ、そ、そう。ありがとう」
訪れるのは沈黙。気がつけば後ろからの会話も聞こえなくなっていた。意味が分からないくらいに暴れる心音を押さえつけながら、なんとも言えない恥ずかしさに満ちた空気を肌で感じる。
……もうその内俺死ぬんじゃないかな。萌え死ぬぞ。
「そ、そうだ。着いてからの練習メニューってどうなってるの? 俺何も把握してないんだけど」
まぁ、俺が把握してもあんまり意味ないんだけどな。基本的にサポートが多いし、その場に応じて臨機応変な行動を求められる事がほとんどだから。
「まず到着したら歩いてコテージまで移動。それから休憩を挟みながらずっと練習、かしら」
「ご飯とかどうすんの?」
「少し離れた所に小さなスーパーがあった筈だから、そこで調達するわ」
「おお……なんかいいね」
そうだ、料理は俺が作ろう。せっかく腕を振るう機会があるんだ。日頃の感謝を伝える意味でもこれは丁度いいチャンス。今からメニュー考えとこう。
「……楽しそうね」
「もちろん」
それに、この合宿は楽しむ為だけのものじゃない。俺にとっての今後を左右しかねない大事なイベントだ。想像するだけで緊張するが、それすらも心地よく感じていた。
「あれ、湊さん寝不足?」
「……少しね。昨日、遅くまで作曲をしていたから」
「お〜、順調?」
「順調、とは言い難いわね。もっと最高の曲にできるはずなの」
よく見ると目の下に薄っすらクマが出来ている。ただ、作曲の方は少し詰まっているのかその表情はやや曇り気味だ。本当凄いよなぁ、同学年なのにやってる事のレベルが違う。
「そっか。手伝えることがあったら何でも言ってよ。作曲とかに関しては全然力になれないけど、それ以外なら頑張るからさ」
「っ……ええ、ありがとう」
素直な言葉を口から零すと、湊さんは再び窓の外に視線を移した。あ、あれ。ちょっと今のセリフ臭かったかな……?
「そういうあなたこそ、目の下にクマができてるわよ」
「あー、俺は今日が楽しみすぎて寝付けなかっただけ」
全く間抜けな話である。ネトゲなんてせずに無理にでも寝ていれば良かった。小さく欠伸をすると、今になって急に眠気が襲ってきた。
「寝たら? 眠気で練習に集中できない、なんてことがあったら困るわ」
「ん、じゃあごめん、ちょっと寝るわ……」
「おやすみなさい」
睡魔の囁きに湊さんの声が拍車をかけ、いよいよ意識が沈んできた。電車の揺れと走行音に包まれながら次第に力が抜けていく。最後に小さく聞こえた「私も少し……」なんて声を耳に、俺は完全に眠りに落ちた。
○ ● ○ ●
「お〜、だんだん景色が変わってきたねぇ♪」
「本当だ〜! 木ばっかりですね」
「人……いない……木……」
「あと5分ほどで着くようですし、降りる準備をしておきましょうか」
トランプや雑談をしていたら時間が経ち、いよいよ目的地最寄りの駅に到着しようとしていた。
(修哉達は今頃どうしてるかな〜?)
アタシの作戦は見事に成功し、2人の席を隣同士にすることができた。いやー、あれは自分でもナイスだと思うな〜。
「2人ともー、もうすぐ着くから降りる準備しようってさ〜」
「……返事……ありませんね……」
「アタシちょっと見てくるね」
そう言って席を立ち、友希那と修哉が座った席へと移動する。
「おーい、2人とも〜? 聞こえてる〜? ……って」
正面から見ると、そこには肩を寄せ合いながら眠る修哉と友希那がいた。
互いに気付いていないのか、初々しい雰囲気はなく気持ち良さそうに寝息を立てている。
(ホント、2人とも幸せそうだな〜♪ )
ふふっ、と小さく笑みを零すと、すかさず写真を撮る。
「リサ姉〜! 友希那さん達は〜? 」
「ううん、大丈夫ー!」
あと少し、着くまでは眠らせてあげよう。そう思ってアタシは再び3人の元に戻っていった。
あぁー友希那可愛い(真理)
合宿編は合計4話程で書いていこうと思ってます。お楽しみに。
新たに評価をしてくださったNasu@さん、ありがとうございます! お気に入りも500人を突破しました! 今後も楽しんで読んでいただけると嬉しいです!
ではまた次回!