完結へは近づいているんだ。近づいてる筈なんだけど……話が進まねぇ(自己解決不可能案件)
とにかく自分に鞭打って更新頑張ります…!(薔薇鞭)
クーラーが効き適度な室温になったリビングで、パソコンに向かいキーボードを叩く。ヘッドフォンをつけながら作曲作業をしていると、視界の端を何かが高速で過ぎったのが分かった。その場では気にしなかったが、時間が経過するにつれ集中が途切れてしまいそのままヘッドフォンを外す。
「……修哉は?」
「あ、友希那おつかれ〜。修哉ならちょうど夕飯の買い出しに行ったよ」
「そう。早いわね」
「居ても立っても居られなくなったんだってさ〜。夕飯楽しみにしててくれー、って言ってたよ」
「ふふ、それは楽しみね」
この前も思ったが、修哉の料理はおいしい。そして何より楽しそうに作っているのが印象的だ。泊まった時は私に付きっきりで教えてくれていたが、そんな時でも彼は常に笑顔だった。
「修哉さん何作るのかな? ハンバーグだったらいいなぁ!」
「あははっ、そうだといいね♪ 」
「紗夜さんは……何だったらいいですか……?」
「私は何でも構いません。ですが、そうですね……にんじんを使った料理でなければ尚良いですね」
「うそ意外ー! 紗夜ってにんじん苦手だったんだー」
「私にも苦手なものくらいあります」
修哉が居ないRoseliaでも、こうして修哉の話題が上がる。本人は自覚が無いのか心配していたが、既に彼はRoseliaに欠かせない存在になっていた。
「友希那は苦いものは駄目だもんね〜?」
「……ええ、考えるだけで苦くなってくるわ」
「そ、そんなに……」
過剰に聞こえるかもしれないが、それくらい私は苦いものが苦手だ。特にゴーヤ。駄目よあれは。
前にファミレスで流れで飲んだブラックコーヒーの味だって今でも鮮明に覚えている。あの時も修哉が───。
(……あの時、修哉も私のコーヒーを飲んでいなかった……?)
ふとそんな事を思い出す。記憶違いでなければ、確かに私のカップに入っているものを飲んでいた。それだけじゃない。その後に口直しで飲んだジュースだって修哉のコップに入っていたものだ。
(かっ、間接キ…………っ)
かぁぁっと顔が熱くなる。堪えるように力を入れた指が、虚しくソファーを掴んだ。
「ん、友希那大丈夫? ちょっと顔赤いよ?」
「だっ、大丈夫よ」
「疲れてるなら……休憩してください……。手伝えることがあれば手伝います……!」
「あこもです!」
「白金さんの言う通りです。今のところずっと作業をしていたようですし、一度休憩を挟んだらどうでしょう」
「え、ええ。ありがとう」
よりによって何故今思い出してしまったんだろう。当時はこうも意識していなかったのに、今の私ではどうしようもなく表情に表れてしまう。
(…………恥ずかしい)
自爆、とはこういう事を言うんだろう。勝手に思い出して勝手に頬を染めている。
『あの時、変な顔をしていなかっただろうか』なんて事を心配し同時に嬉しいような酸っぱいような気持ちが浮かんでいく。
疲れと勘違いしているみんなに気付かれないように再びディスプレイへ向き直ると、その脇に置いてある携帯を手に取る。
ほんのり熱を持った連絡先に並ぶ文字の羅列を選択し、恥ずかしさを誤魔化すように一通のメールを送ったのだった。
○ ● ○ ●
「……で、ここを右、っと」
ハイテンションでコテージを飛び出したは良いものの始めて場所に土地勘なんてあるはずもなく、俺はマップを見ながら地味に歩を進めていた。
道を行きながらここが改めて地元と違うということを実感する。ビルや車通りもなく、見渡しても畑や田んぼ。都会の形骸化した風景とは打って変わった新鮮さがここには広がっていた。
「お、ここだな」
目的地へ辿り着くと、世間話をしている老人たちの脇を通って店内へ入る。ちょうど携帯をしまったそのタイミングで、通知を告げるバイブ音が伝わって来た。
「ん、ん? 湊さん……?」
俺の携帯に連絡を入れるのは基本的にリサか父さんだけのため、画面に表示された文字をつい二度見してしまう。
うぉぉ……なんかめっちゃ嬉しい……! 内容知らないけど。
好きな人から連絡が来る。そんなささやかな幸せが胸の内にじわじわと広がっていく。俺は高揚感と緊張のせいでゆっくりになった指を動かし、本文を開いた。
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買い出しお疲れ様。晩御飯、楽しみにしているわ。
それと、いくら楽しみでもあまり遅くならないで。本当にカブトムシを捕まえるなんてことは無いように。
あと、苦いものはやめて。
────────────
「お、おう」
滲み出る圧倒的保護者感。かと見せかけて最後に夕飯の好みを伝えて来る素直さと子供っぽさ。控えめに言って超可愛い。
初メールにしては可笑しいような文面だが、そこがまた俺たちらしくて微笑ましかった。
すかさず画面から返信をタップし、文面を打ち込んでいく。
────────────
湊さんこそ作曲お疲れ様。
……俺のこと何だと思ってんの? 流石に練習抜け出してカブトムシコースにGO! とかはないからね?
献立に関しては……まあおいしいの作るから楽しみにしてて。苦いものについては善処する形で前向きに検討しておく。
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(あぁ、なんかいいなぁこういうの)
ふっと小さく微笑むと、携帯をしまいカゴを取る。
さて、遅くなるなって忠告も受けたことだしパパッと買いますか。なにより楽しみにして貰えるんだ、腕を振るわない理由はないだろう。
普段行っている所と比べると遥かに小さい店内。人もまばらなその空間を進みながら、悪い笑顔で鮮やかな緑を手に取った。
● ○ ● ○
と言うわけで帰ってきました我がコテージ! 早速靴を脱いで中に入ると、真っ先に冷蔵庫へ食材をしまう。野菜は鮮度が命なのだ。
「おかえりー。早かったね」
「まぁな」
ちらっとその場で湊さんへ視線を移すと、ぷいっと顔だけ逸らされた。リサ達に背を向けるような姿勢でソファーに座っているため、俺以外それに気づく人はいない。演奏を中断しているみんなはそんな俺を見て不思議そうな顔をしている。
「じゃあ再開しよっか♪ 」
「オッケー。何時までやる予定?」
「満足がいく演奏が出来るまでです」
「ええーっ! 日が暮れちゃいますよ!!」
「しっかり演奏すればいい話でしょう。それとも宇田川さん、1人だけ辞めますか?」
「いっ、いやです! あこもやります! やるから辞めさせないで!」
「あこちゃん……頑張ろ……!」
「こんな感じのやり取り何回目だろ」
既に宇田川さんと氷川さんの会話パターンを把握してきたまである。一見スパルタに見えて結果を出せば文句は言わないスタイルだからこそ、宇田川さんもこうしてやる気が出ているんだろう。こらそこ、ほぼ強制だろとか言うな。
時は流れ夕飯時。
季節的に外は全然明るいが、日は傾き僅かに暑さも和らいできている。カラスが鳴く時間もとうに過ぎ、点々と空に浮かぶ黒の群れを小さな窓から眺めていた。
「よしっ! と言うわけで調理開始!」
取り敢えず日中の練習は終了し、現在みんなはソファーでくつろいでいる。放課後の3時間とかとは訳が違うからな。今日ここに到着してから既に5、6時間近く楽器に触れていたんだ。疲れるのも無理はない。
宇田川さんなんてあれから120パーセントの力を出し続けたせいで色が抜けたジョーのようになっている。まぁ、そのお陰もあってか氷川さんは褒めていたが。
「しばらく休んでてくれ。みんな疲れてるだろうしさ」
「すいませんがそうさせてもらいます」
「ありがとうございます……」
返事を確認すると、冷蔵庫から野菜を取り出し軽く水で流す。さっき気づいたが包丁も割といいものが収納されており、なんとも腕がなる環境だった。
「アタシも手伝うよ♪ 」
そんな声が聞こえて横を向くと、手を洗い既に戦闘態勢に入っているリサがいた。
「お、助かるよ。……でもお前休まないでいいの? かなり疲れてると思うんだけど」
「なに〜? 心配してくれてるの? 大丈夫だよ、まだまだ余裕!」
「そうか」
アタシは何をすればいい? なんて言いながら笑顔でエプロンを着る。そんな姿にただ俺は一種の尊敬すら覚えた。
(こいつマジで強いな)
本人そのものの性格もそうだが、きっと今まで色んな経験をしてきたんだろう。部活などの体力的な努力に加え友人付き合いやアルバイト、さらにはいつか言っていた『湊さんが笑わなかった』事も。
その全てを経験して今のリサがいるんだろう。あの話を俺にした時、僅かに苦しそうな表情が浮かんだのを俺は記憶に覚えていた。
そして、リサがいたから俺は今ここにいる事が出来ている。なんとなくそんなことを思ってしまった。
「……じゃ、野菜のカットお願い」
「オッケー。って、そもそも何作るの?」
「今は夏。夏といえばカレーが定番だろ? ってことでカレー作りまーす」
他にも素麺とか色々あるんだけどな。昼飯ならまだしも夕飯に素麺では少し軽すぎるだろう。いくら俺以外が女子だとしても物足りなさはきっと残る。
「みんな何か苦手な食材とかある? 一応聞きたいんだけど」
「あー、それならアタシ分かるかな。まずあこがなまことピーマン、燐子がセロリ。紗夜がにんじんで、友希那が」
「──苦いもの、だろ?」
「知ってたんだね」
「知ってたんですよ」
元から風を装っているが『知った』が正しい。
「でもどうするの? アタシ的ににんじんはカレーに必須だと思うんだけど」
「俺も同意見だ。なら氷川さんの分だけにんじんを取り除けば良いと考えたけど、それも違う」
「……どういうこと?」
「つまり、『るんっ♪ 嫌いなものでも美味しく食べようカレー』を作ればいいと、俺はそう思った訳だ」
「どういう訳なのそれ」
しかもそれ日菜の……なんて聞こえるが気にしない。使い方的には合ってるはずだ。この言語日本語検定とかに含めていいと思うんだけど。
「でもさ、紗夜の嫌いな物だけ、ってのもなんかあれじゃない?」
「……ジャーン! 都合よくゴーヤ、準備してました……!」
「えぇ!? それじゃあピーマンは?」
「なんと……ピーマンも準備してあります!」
「!? もしかしてセロリも……?」
「こちらになります」
「うっわぁ……もうなんでもアリだね」
「というかこれ、普通に夏カレーに入る具材なんだよな」
何なの? 実はみんな夏嫌い? Roseliaがみんな野菜苦手って知ったらそっち方向のファンとか増えそうだな。
「ってことで今回はいかにバレずに、いかに美味しくこのカレーを完成させるかに全てが掛かっている。……協力してくれるか?」
「……アタシを誰だと思ってんの〜? やるからには全力でやるよ、修哉」
「もちろん」
その場で固く握手を交わすと、お互いに何の合図もなく同時に動き出す。目標、ゴールは決まった。ならばもう自然に体は動いてくれる。
こうして俺たちの夕飯作りは静かに幕を開けた。
● ○ ● ○
「リサ、こっちの野菜のカットもお願い。取り敢えず玉ねぎの方行くから」
「了解。ならまな板だけ洗ってくれない? 今肉切ったでしょ」
「サービスを要求する」
「そちらはサービス対象外です♪ あ、ピーさん取ってくれない?」
「はいよ、ほらピーさん。……これもうピーマンってバレてるんじゃね?」
「あはは、かもね〜」
野菜名をぼかすことで事前バレを防いではいるが、これ効果あるの? なんて思っている。ちなみにゴーヤは緑、人参はうさぎ、セロリはベクトルだ。
「なんか……あの2人夫婦みたいですね」
「すごい連携……」
「夫婦…………」
ソファーからそんな声が聞こえてくる。全く、これだから恋愛脳に満たされた中学生は……。せめて湊さんが隣にいる時にそういう事を言ってくれ(恋愛脳)
玉ねぎとししとう、肉を炒め終えると早速鍋にシュートする。夏野菜カレーとは言ったが茄子は使わない。定番食材なんだが、茄子だと水分を吸ってしまう。そしてなによりアクが出てしまうから、代わりにピーマンを使っていた。
「修哉、手伝えることはあるかしら?」
「ちょっ、湊さん!? えーと……そうだ、台拭きでテーブル拭いてからスプーンとかコップの準備して貰えない? 皿はカレー盛り付けてから配るから」
「分かったわ」
危ねぇ……! リサ思いっきりゴーヤ切ってるのにまさか湊さんが来るとは……! 気づかれてはいないようだが内心冷や汗をかいていた。やめて、と言われた食材を普通に使っているんだ。まだバレるわけにはいかない。
「野菜終わり! 今持ってくね」
「了解。 なら俺ルーの準備しとくわ」
しばらくしてルーを入れ終えると、ちょうどご飯が炊けた音がした。釜を開けて米を切ると、一人分づつ皿に盛り付けていく。
「そっちはどう?」
「うん、もう大丈夫かな」
「ガラムマサラは?」
「さっき入れたよ」
「完璧だな」
時計を確認すると、時刻は7時を過ぎていた。時間経つのはやっ。精神と時の部屋かよ。
リサが火を止めカレーを盛り付けていく。そこでまたもや湊さんが登場。俺が受け取る予定だった皿を高速で奪い取りテーブルへと運んでいく。えぇ……? 腹減ってるのか……?
「いい匂い!」
「おいしそうです……」
「にんじんにんじんにんじんにんじんにんじんにんじんにんじん……」
「ちょ、紗夜戻ってきて! 大丈夫だから、ね?」
「……とりあえず食べない?」
「ええ、そうね」
ファミレスとは違った空気、環境、雰囲気を感じる。
いただきます! という声がリビングに上がると、一斉にカレーに手を伸ばす。レタスを割いて作った軽いサラダも置いてはあるが、今は誰もそちらに目を向けていなかった。
「おいし〜〜!」
「野菜カレーなのね。おいしいわ」
「ピリッとした辛さがいいですね」
自分の苦手とする野菜が入っている事に気付いているのかいないのか、特に声を上げずに食べ進めていく。ふっ、目論見は成功と見た。やはり好き嫌いなど調理法によって幾らでも克服出来るのだ。
……アレルギーとかだったらどうしよう(手遅れ)
その後も笑顔で食事は進み、気が付けば全員の皿は空になっていた。氷川さんも例外ではない。
宇田川さん達が会話に花を咲かせる中、一瞬目があったリサがニッと笑うのを見て俺も小さく笑って見せたのだった。
セロリの言い換え、分かる人には分かると思うんだ。
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