彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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Roselia二章、Neo-Aspectのイベスト最高でしたね。もうなんて表現したらいいか分からないレベルで感動しましたし、例の友希那が泣くシーンは画面の前で10分近く固まってました(実話)

って事で今回からは『Neo-Aspect編』を書いていこうと思います。
楽しんで(?)読んでいただけたら幸いです。

ではどうぞ。



Neo-Aspect編
予兆、或いは徴証


 

 

「さてと……どうしたもんか」

 

 窓から流れ込む風が頬を撫でる午前中。

 あいも変わらず教師の話を聞き流しながら、俺は使い込まれた一冊のノートとにらめっこを繰り広げていた。

 ちなみに結果は100戦100敗。こいつ表情ないからどうやっても勝てない。

 

 先端から顔をのぞかせた炭素の細棒をトントンと紙にぶつけながら、何も書くわけでもなくノートの枠線に視線を滑らせる。

 既に小さな見出しと共に書かれている文字を、何度目か分からないまま心の中で読み上げた。

 

 

 

 ──今回の改善点と前日比、ライブに向けたセットリストとそれに向けた個人の課題について。

 

 

 

 うん、我ながら大層な事をやっていると思う。最近では雑用のような仕事ではなく、こういった演奏の根本についても考えを巡らせるようになっていた。まぁ雑用って言ってもアドバイスと指摘は標準装備なんだけど。つまり、内容が具体性を増し広範囲になったのだ。

 

「まずは一つづつ考えてくか……」

 

 全く……前から思ってはいたがRoseliaのみんなは俺の事を買い被りすぎじゃないだろうか。

 正直何も分からんぞ。なんでこう思ったんですか? と聞かれたなら『直感です』と答えるしかない。直感だぞ直感。みんなだから許されているが、側から見ればふざけてると思われても仕方がない。

 

 でも、それでもみんなは俺を頼ってくれる。俺に意見を求め、その言葉を聞いてくれる。

 相手はあのRoseliaだ。クール、最強、実力派。蓋を開ければポンコツ、仲良し、やっぱり最強。確かに意見には不安を感じる時もあるが、現状なんとかなっている。そこから外されないために、少しでも役に立つために、一緒にいるために俺も努力はしているのだ。

 

「まずは今回の改善点だな──」

 

 小さくポツリと、声にすらなっていない程の声量で呟くと記憶を遡らせていく。ノートの前のページに記したその日の課題を追憶し、音として思い出す。

 

 そうして意識を沈ませて、いつものように振り返るのだ。

 瞼に焼きつく演奏を巻き戻すように、俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

「──って感じなんだけどさ、今の聞いてどう思った?」

『そうですね、いいんじゃないでしょうか。今日の練習のときに湊さんにも聞いてみましょう』

 

 時刻は移り昼休み。俺は弁当片手に屋上へ登り、落下防止柵の向こうに広がる街を眺めていた。

 今日はリサと食べる約束はしていない。つまり、なぜか人気ない屋上には俺1人しか存在していなかった。

 手に握る携帯電話の繋がる先の彼女は、柔らかい口調で声を返す。

 

「良かったぁ……さすがは風紀委員会」

『風紀委員は関係ないでしょう? ……それにしても本街さん、変わりましたね』

「変わった…? 何を今更。俺は元から変わり者だぞ」

『確かにそうですが、そういう意味じゃありません。最初はこんな感じの指摘ではなかったでしょう? 考え方も、見方も変わっています。第一、私にこうして電話を掛けてくる時点で否定はできないでしょう』

「確かに……。ってちょっと? 最初のそれ認めちゃうのかよ」

 

 スピーカーの向こうからは小さな笑い声が漏れてくる。

 

 俺は変わったのだろうか。自身の思考は前と大した変化はない。今だって俺は昔と同じだと思っているし、その考えに揺るぎはない。環境が、周囲が、誰かが変わっているだけなのだと一途に思っている。今だってやる事が変わっただけの話で、その根本となる『本街修哉』の人格そのものに変わりはない。

 

 だが、氷川さんがそう言うならそうなのかもしれないと思い直す。

 誰よりも客観的な彼女のことだ。俺が気づいていないだけで、もしかしたら……なんて事はあり得ないとは言い切れない。

『自分のことは自分が一番分かってる』とはよく聞くが、一概にそうとは言えない事を俺は知っていた。

 

「そういう氷川さんも変わったよ」

『そうでしょうか? あまり自覚はありませんが」

「変わったもんは変わったの。……ってかごめん、普通に電話掛けてるけど時間大丈夫だった?」

『今更ですね。ええ、大丈夫です。こちらもちょうど昼休みでしたので』

 

 その答えを聞いてやや安心する。というか、昼休みなら余計に俺と話していていいのだろうか。友達と昼食を食べたりとかは……氷川さんだと考えづらいな。あれ、ってことは……。

 

「もしかして……実は氷川さんもぼっち?」

『なぁっ!? 違います!」

「でも友達とかあんまり作らなそうだよね」

『それは……ですが、私は別にぼっちなどではありません。断じて違いますからね。あなたと同じにしないでください」

「そこで俺を引き合いに出さないでくれません!? 今はRoseliaのみんながいるからいいんだよ! 俺はぼっちじゃねぇ」

『ほら、そういうところですよ」

「…………なるほど」

『ふふ、自覚なかったんですか』

 

 ……確かに今のは否定できない。前までの俺ならこんな事を氷川さんに言わなかったはずだ。多分、変わったのは彼女との関係性。やや友達未満的なポジションにいたお互いが、どこかフラットになったのだろう。

 

『さて、話はそれだけでしょうか? もう無いなら切りますが。これ以上話していると本街さんが湊さんに叱られそうなので』

「俺かよ。……俺か」

『冗談ですよ。では、また後で』

「了解。また後で」

 

 ツー、ツーという電子音を聞き届けると、携帯をポケットにしまう。所々錆びついている柵に寄りかかりながら、ただぼーっと風を感じて目を閉じた。

 

 よし、じゃあ今日の放課後に早速改善策を試してみよう。なにせ氷川さんの同意もあるんだ。やってみる価値はあるだろう。

 そのためにはまず────

 

「わっ!」

「っ!?」

 

 背後から突如聞こえてきた声に肩が跳ねる。咄嗟に身を反転させると、声の主へと睨みを向けた。

 

「危ねぇ……落ちて死んだらどうすんだ」

「ご、ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくて」

 

 チロっと舌を出しながら謝罪する少女、リサは軽く腰を曲げて苦笑いを浮かべる。

 

「……で、なんでいんの? 今日約束してなかったよね?」

「うん、でもなんか来たくなっちゃって。なんていうか癖? 習慣みたいな感じかな」

「あー、何となくわかるかも」

 

 俺がここに来た一因にもそれはある。

 その場にどっと腰を下ろすと、驚かされた拍子に落とした弁当箱の蓋を開いた。少し遅めの昼食である。

 

「ところでさー……さっきの通話、随分仲よさそうだったねー? いつの間に連絡先交換したの?」

「ついこの前。さっきのは今後練習の事でちょっとアドバイス貰ってたんだよ」

 

 この前、とは言っても数週間前の出来事だ。時々こうして案を浮かべては、最初に氷川さんへと話を通していた。

 この時点で友希那には話していない。

 ほら、やっぱかっこつけたいじゃん。スパッとビシッと決めて「さすが修哉ね」とか言われたいじゃん。そのために動機は伝えてないが氷川さんに協力してもらっていた。

 

 多分、氷川さんからしたら俺は『急に異常なやる気を出して私を頼り始めた本街さん』だろう。どちらにせよ好印象だ。やだ俺ってば打算的。

 

 ここまで言って、ふとある違和感に気づいた。

 

「お前、いつから聞いてた?」

「修哉が紗夜にぼっちって言ったらへんかな? いやー、笑い堪えるの大変だったよ♪ 」

「いやそこは笑えよ」

 

 笑っていれば俺はあんなに驚かずに済んだのに。肝心なときに堪えてしまうのが今井リサだった。

 

「友希那がいるのに浮気しちゃっていいのかー?」

「これは断じて浮気じゃない。むしろ逆だ逆。業務連絡だし、俺の中には友希那しかいないから」

 

 訪れた沈黙に、かぁぁっと顔が熱くなるのを感じる。馬鹿か俺! 自分で言って照れてんじゃねぇ! 耐性つけてから出直してこい! てかリサも急に黙るな顔を背けるな!

 

「んんっ……じゃ、俺そろそろ戻るよ。リサはどうする?」

 

 ちまちまと弁当をつまみ終え、空になった箱を片付けながら声をかける。俺が食べている間、リサは柔らかく柵の外を眺めていたが、声をかけると顔をこちらに向けて言葉を返した。

 

「じゃ、アタシも戻ろっかな。そろそろ昼休みも終わっちゃうし」

「ほんとだ。じゃあ行くか」

 

 時計を確認すると、確かに時間はもう近い。そろそろチャイムが鳴り、散らばっていた人の群れもそれぞれの教室に帰還するだろう。

 

 屋上を後にして教室へ向かう。風向きが悪いのか、開けられた廊下の窓からは風が入ることはない。そのせいで普段より落ち着いた雰囲気の教室前を2人で並んで進んでいた。

 

「じゃあね〜、また後で!」

「おう、また後で」

 

 別れてそのまま教室へ戻る。友希那は相変わらずイヤホンをつけ、席で携帯に文字を打ちこんでいた。多分作詞をしているんだろう。最近はこの姿を見ることが多い気がするなー、なんて思いながら、俺は席について頬杖をついた。

 

 間も無く鳴り響いたチャイムによりクラスメイトが自席へ戻る。

 ふと、何気なく黒板付近を漂っていた視線がわずかな変化を捉えた。

 

 ──あ、時計ズレてる。

 

 目に映るのは長針一目盛程度の僅かなズレ。

 まああの時計も歳だしな。随分埃を被っている癖に、無駄に高い位置にあるから誰も掃除をしようとしない。

 そんな風に思考を流すと、俺は再び視線を窓の外へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ、カチ、と音が鳴る。

 

 寸分違わず時を刻むその針が、リズムを奏でて同じ場所を廻り続ける。

 

 だが俺は気付かない。

 

 予想もしないような意識の外。

 

 着実に確実に、見えないところで狂いの影は伸びていた。

 

 

 

 





という事でこの話はプロローグに当たります。
いやぁ紗夜かわいい。書きながら「紗夜メインssだっけ?」と勘違いしそうになりました。友希那はこれからいっぱい出るから今回は出番なくても許してくださいお願いしますなんでもしますから(なんでもするとは言っていない)

スイッチが入るとつい6000字や7000字、下手すれば10000字を軽々超えるくらいの文章になってしまうんですが、出来るだけ4000字〜を目安に書き進めていこうと思います。

今後、修哉がいるからこそ起こる展開やキャラの行動の変化などにも注目してみてください。

ではまた次回!

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