ただいま(1ヶ月ぶりの更新)(お兄さん許して)
「る、る、る……留守!」
「スイカ」
「か、か……カモメ……!」
「めかー。じゃあメガネで!」
「ね、ねこ」
「ほいコンドル。宇田川さん『る』ね」
「また『る』ぅぅぅぅぅぅう!!!! 」
適温に調整された車内。ガタンゴトンと一定間隔で音を鳴らす電車の中では賑やかな声が聞こえている。
今日は待ちに待ったイベント当日。俺たちは僅かな手荷物を抱え、SMSの会場へと向かう電車に揺られていた。移動中の暇つぶしとして始まったしりとりは意外と長く続き、確かな盛り上がりを見せている。
それにしても、こうしてると何しに行くのか分かんねーなこれ。あまりに緊張感というか不安というか、そういったものが感じられない。自然すぎる自然体。常に全力で妥協を許さず、絶対的な集中、努力の積み重ねを続けた練習故の自信がそこからは滲み出ているような気がした。
話は戻るがちなみに宇田川さんは今ので通算18回目の『る』である。
「しーっ、あこ落ち着いて! 他の人の迷惑になっちゃうから、ね?」
「でも〜〜!」
「そうだぞ宇田川さん。電車内では静かに、これ常識」
真面目な顔でそう言うと、宇田川さんは両手を上げて「うがぁー!」と声をあげた。しかし、すぐリサに口を塞がれてしまい恨めしそうな目を俺に向ける。大袈裟に膨らんだ頬がその感情を顕著に表していた。あらやだ怖い、しりとりで『る攻め』は基本じゃないですかー。
「修哉さん……容赦ない……」
「まあね。伊達にしりとり鍛えてないから」
「今までしりとりを鍛えられるような友人がいたんですか?」
「え? 一人だけど」
「えっ」
「えっ?」
途端、悲しい生き物を見るような目が俺に集まる。質問を投げた氷川さんは意味がわからなそうに呆け、リサは優しい笑みを浮かべていた。友希那に関しては明後日の方向に視線を泳がせている。
えっ? しない? 一人しりとりしないの? 嘘でしょ? 何回続けられるかとかやらなかった? こう言われたらこう返そうとか考えたことあるでしょ絶対。俺の場合それが実際に使われる事は無かったけど。
「ま、まあ修哉のしりとり事情はいいわ。それよりもうすぐ駅に着くわよ。みんな降りる準備をしておいて」
「はーい」
「いよいよですね」
「とは言ってもRoseliaのステージは午後だけどね」
どうやらこの時間も終わりが近いらしい。俺はペットボトルのお茶を一口煽ると、外の景色へ目を移した。
流れる空、走る風景。泰然と佇むビルやそれに並ぶ建築物に俺はそっと視線を沿わせる。
そのまましばらくぼーっと景色を眺めていると、不意に目の前から呟くような声が届いた。
「ううう〜、緊張してきた〜……」
「早くない?」
さっきの雰囲気どこいったの。あんなに笑ってたじゃん。お菓子食べてる友希那見て「そんなに食べると太るぞ〜?」とか言いながらその倍くらいお菓子食べてたじゃん。
「だってさ〜……こう、ね?」
「うんうん、わかるよリサ姉!」
「わたしも少し……緊張します……」
「そういうもんなの……?」
やはりステージに立つ当事者にしか分からない感情なのだろうか。いや、俺だって緊張はする。というかしてないと言えば嘘になるだろう。今日のライブは普段のものとは規模が違う。ライブハウスをはるかに上回る客数、ステージ、熱気。まだ実感が湧いていない部分もあるが、それでも流石にレベルの違いは理解していた。
だが、それに対する不安や懸念はカケラもない。それはきっとRoseliaへの信頼故。彼女たちがそうであるように、俺も今日の成功を信じているのだ。
だから、胸に抱くこれはきっと高揚感や期待に当たるものなんだろう。それは先程の俺が感じたみんなの雰囲気に似通っていた。
「練習は本番のように。本番は練習のようにといつも言っているでしょう? その通りにやれば問題ないわ」
「紗夜の言う通りよ。私たちは十分やってきたわ。今日はそれを出し切るだけよ」
二人の言葉にみんなが頷く。
気がつけば電車は速度を落とし始めていて、ブレーキ音と共に景色の流れが固定された。どうやら駅に着いたらしい。
「お、着いたね」
アナウンスと共にドアが開き、荷物を持ってホームへ降りる。
リサがその場で伸びをすると、弾んだ声で呼びかけた。
「よしっ! じゃあ行こっか!」
というのが今から約6時間前の出来事である。
あれから会場に着いた俺たちは、楽器や曲の準備をした後、他のバンドの演奏を聴いて過ごした。
そして問題はここからである。そろそろ昼時だからご飯を食べようという話になり、一旦客席から出た俺たちは外に向かう通路を歩いていた。そこに現れたのがSMS会場スタッフA。その人曰くRoseliaには昼食に弁当が準備してあるらしく、控え室に人数分置いてあるとのことだった。そう、つまり俺の分はない。余分に買ってあるとのことで一度は俺も貰える流れになったのだが、相変わらずの変な遠慮が働いてしまい一人会場を出たのだ。
という事で現在一人悲しく会場周辺のコンビニで昼食を購入しているのでした。めでたしめでたし。
「……にしても売り切れ多いな、ここ」
やはりイベントが関係しているのだろうか。思えば朝の電車内もかなりの人が居たように思う。まあそれを言ったら会場なんて比べ物にならないんだけど。あの熱気はやばかった。どこを見ても人、人、人。白金さんが目を回すのも無理はない。
と、そうのんびりしてもいられない。買い終えたおにぎりとお茶を持ち、やや駆け足で会場へ戻る。
幸いそこまで距離はないため、移動に要する時間は短くて済んだ。
入り口から入り人にぶつからない程度の速度で足を進めていると、自販機が並んでいるコーナーに見慣れた影を見つけた。
「おーい、氷川さーん」
「あら、本街さん。早かったですね」
「思ったよりコンビニが近かったんだよ。で、なにしてんの?」
「見れば分かるとおりです」
「……なるほど、飲み物を買いに来たけど全部売り切れてるってことですか」
「これだけ人がいれば仕方ないですね。大人しく諦めます」
数台ある自販機は、どこを見ても赤字で売り切れと表示されている。氷川さんは手にある開きかけの財布を閉じて踵を返す。心なしかがっかりしたように見える背中を見て、気がつけば俺は反射的に声をかけていた。
「あー、その、お茶いる? 二本あるから一本あげるよ」
「いえ、ですが……」
「いいっていいって。じゃあ今度何か飲み物奢ってよ。それでいいでしょ」
ほれ、とぶっきらぼうにペットボトルを差し出す。渋っていた氷川さんも俺の態度に諦めたのか、おずおずとお茶を受け取った。うんうん、それでいい。
「女子相手に奢れなんて……変わってるわね、あなた」
「うるせい。悪かったな、無償で提供できるほどイケメンじゃなくて」
「いえ、その方が楽でいいです」
「そういうもんか」
まあ、確かにそうかもしれない。
純粋な献身。愚直なまでの厚意。いつだってなんだって、見返りのない行為はどこまでも嘘くさいものだ。無償で済むのはせいぜい親からの愛情くらいで、その他のものには当てはまりずらい。そういった意味では、どうやら俺の返答は正しかったらしい。
「みんな控え室にいるんでしょ? 俺ってそこ行っていいのかな」
「恐らく大丈夫だと思います。恐らく」
「大事なことだから二回言ったね今。じゃあ俺も行こうかな。一人で他のバンドの演奏見てるのもなんだし」
「そうですね。では行きましょうか」
片手にお茶を持った氷川さんに続くように俺は足を進めていく。おにぎりだけが残ったコンビニ袋が、背後で小さく音を立てた。
● ○ ● ○
そして現在は控え室。時刻は午後2時を回っており、いよいよ次がRoseliaのステージだった。
「つ、次がアタシたちの出番……!う〜、やっぱり流石に緊張してきた……」
「お客さんすっごいたくさんいたし……ドキドキするよ〜!」
「燐子、大丈夫?」
「大丈夫……大丈夫……」
「全然大丈夫に見えない……」
本当に大丈夫だろうか。小さく震える白金さんを見ていると俺まで緊張してきてしまう。口の中が渇き、ありもしない唾液を飲み込もうとして喉が鳴った。ステージ出る訳じゃないのにこれとかやばいな。
「Roseliaさーん、そろそろスタンバイお願いしまーす!」
あわあわとした控え室に、張り詰めた空気を打ち破るかのようなスタッフさんの声が響いた。
「あわわわわ……! いよいよだよ!」
「大丈夫よ。普段通りの私達を見せましょう」
「……うんっ、そうだね! よーし、終わったらファミレスで反省会しよう!」
「! はいっ……」
「うんっ!」
リサの言葉に空気が解れる。流石はリサだ。たった一言で緊張を和らげ指揮をあげる。単純に見えてなかなか出来ないその行動が、どこまでも凄く感じた。
「っと、じゃあ俺はそろそろ席の方行くね。……みんな、頑張って!」
「「「「「はい(ええ)!!」」」」」
その返答になぜか無性に頬が緩んで、気分が高揚して、体が震えた。みんなは大丈夫だ。きっと最高の演奏をする。そんな確信が頭に浮かんだ。
なら、俺がするのはただ一つ。客席で見守る事だ。一瞬たりとも離すものか。彼女たちの演奏を、奏でる音の一つ一つを心の底に刻みつけよう。
早まる鼓動はうるさく鳴り、胸を震わせてはまた繰り返す。
「あなたたち、頂点を目指すわよ!」
控え室から出て扉を閉めるその瞬間、俺の耳には確かな決意の声が届いた。
ということで本当に更新遅れてすいませんでした。しかも文字数が少ない! 許して! 次から増やすから!
次回こそは、次回こそはそこまで間隔開けずに投稿したいと思ってます(震え)
ではまた次回!