今回のイベントを走っていたら投稿が遅れました、作者です。
前話を投稿してから起きたことをまとめると
・1話分があと少しで書き終わるところまで進む
・対バンイベが来る
・寝る間も惜しんでA to Z
・課金するも友希那引けず絶望
・投稿
という感じです。因みにイベント順位は300位台です。どうでもいいね。
本文どうぞ;;
「いってきます」
誰も居なくなった我が家に低めのテンションで声を投げる。ポケットから取り出した鍵でドアに施錠すると、身震いをしながら歩き出した。
時刻は朝8時。徒歩20分程という割と近い距離にある学校へ向かうべく、未だ眠気を訴える体に鞭を打ち通学路を進んでいた。
この季節のこの時間は早朝よりはマシだが空気が冷えていて、時折吹き付ける風が顔の温度を奪っていく。それでもちらりと視線をずらせば綺麗な紅葉やカサカサと音を立てて地を滑る枯葉なんかが目に映り、この寒さの中に秋らしさを感じたりもするのだ。ただし銀杏、テメェは駄目だ。確かに食べればおいしいけどそれ以前に臭すぎ。しかも地面に大量に転がりやがって。踏まれてたらもう最悪レベル。トラップか。
他にも肌の乾燥とか嫌なことは色々あるが、それを上書きするように朝の澄んだ朝の空気を胸に吸い込む。肺がひんやり冷える感覚に、この寒さも案外悪いもんじゃないな、と思い直して制服のポケットに手を突っ込んだ。
「あー、今日の練習どうなるんだろ」
あの後、帰路につく友希那をある程度見送ってから俺はスタジオの中へと戻った。扉を開いた途端俺に「どうだった?」という意を込めた視線が注がれたが、特に何もなかったことを説明すると再び沈黙が訪れた。
抱く感情はそれぞれだったように思う。宇田川さんや白金さん、氷川さんは主に驚きや疑問を感じていた。それは俺も同様で、突然発せられた「お前の席ねーから」、もとい「お前のクッキーいらねーから」宣言には少なからず驚愕と疑問、そして不安を感じた。
リサに関してはすぐに笑顔を作って誤魔化してしまったためよく窺えなかったが、少なからず傷ついたのは見て取れた。幼馴染からああ言われれば無理もないだろう。
別に幼馴染じゃない俺も友希那からああいう風に何かを否定されたら傷つくと思う。というか確実に傷つく。むしろ傷つき過ぎて全身打撲とか切り傷だらけになって泣きながら病院に駆け込むまである。精神科に。先生心が痛いです。
「脱線したな」
話を戻そう。
昨日のあれは確実に後味は良いものではなかった。少なからず今日の練習は昨日の空気を引き継ぎ、重いものになるということは想像に難くないだろう。
ふざけている場合ではない。かと言って固くなるのも俺らしくないからどうしようもない。
そうこう考えている内に我が羽丘高校が目前に迫っていた。
結局何が思い浮かぶ訳でもなく、俺は「どうしたもんか……」と頭を悩ませながら静かに校門をくぐるのだった。
● ○ ● ○
そして訪れた放課後練習。普段の数倍はピリついた空気に居心地の悪さを感じながらも、俺は演奏に耳を傾けていた。
「……ストップ! 今、テンポが崩れたわ。……あこ、前回の練習で今日までに苦手な箇所を潰しておくようにと言ったはずよ」
「……すみません」
目の前で強く言い放たれた声に反射的に肩が跳ねる。鳴り響いていた楽器の音が止むと同時に、みんなの視線が一点に集まった。
やばいな……。今朝予想した通り空気が重い。
いつもなら「どうしてこうなった……」などと考えるが、今はそんなことすら思わない。未だ友希那にキツイ言葉を投げられながら俯く宇田川さんを、此処にいる誰もがただ見ている事しかできなかった。
「このまま上達しなければ、抜けてもらう事もある。その覚悟を常にもって演奏して」
「はい……」
「なっ……!?」
聞こえてきた言葉に耳を疑った。……は? 抜ける……? なんで? 何から? Roseliaから……?
信じられない。いや、信じたくない。ひたすら「何故」という言葉だけが頭の中をループする。
なんで友希那はそんな事を言ったんだろう。今まで仲良くやってきていた筈なのに。そしてなんで宇田川さんも返事をしているんだ。
「ちょっと友希那……急にどうしちゃったの? そんなこと言って……」
静かさが煩いスタジオに控えめな声が零れた。
「いいえ。基準に満たなければ抜けてもらう。これは前から言っていることでしょ」
そこで一度言葉を区切る。宇田川さん、白金さん、氷川さん、リサ、そして俺。それぞれに一度視線を振ると、再び友希那は言葉を続けた。
「そのくらいの危機感をもって練習に取り組まなければ、FUTURE WORLD FES. にはいつまで経っても出られないわ」
FUTURE WORLD FES.。聞き覚えのある単語にふと記憶を遡った。確かSMSに向けて練習していた日の帰り道でリサ達が話していたっけ。
俺がRoseliaの練習に参加する前。友希那と出会う以前にみんなが挑戦した音楽イベント。結果は落選だったらしいが、それでも悪いものでは無かったとリサは言っていた。
思い出してしまったことで今まで記憶の片隅にあったワードがその存在を主張する。同時に俺が知らない『昔のRoselia』が、頭の中をぐるぐる回った。
「確かに今の演奏は、少し緩んでいたかもしれません。緊張感をもって演奏しなければ。宇田川さん、もう一度やりましょう」
「うぅ……」
氷川さんの声に思考を切り替え、再びスタジオ内に意識を向ける。いつもより3割……いや4割くらいだな。4割増しで柔らかい声音で喋る氷川さんに、固まっていた宇田川さんの表情が僅かに崩れた気がした。
(やっぱ変わったよ、氷川さん)
勝手な印象ではあるが、前の氷川さんならこの状況で何も喋らず、しばらくしてから硬い声で「……そろそろ練習を再開しましょう」なんて言ったのだろう。ふっ、ぶっきらぼうにも程がある。自分で想像しておきながらやけにリアルなイメージに、つい口元が緩んだ。
その瞬間、ふと氷川さんと目が合う。怖っ! 怖い怖いよ。あと怖い。なんでいつもこういう時だけこっち見んの? マジで人の脳内読み取るセンサーでも付いてるんじゃないの。今なら『真のギタリストは目で殺す』説を推せるまである。
「んんっ……あー、ここらで一回休憩にしない? 空気を入れ替える的な意味でもそろそろ休んだ方が良いと思うんだけど」
「……そうね。じゃあ、休憩にしましょう」
割って入る様に提案すると休憩時間が始まった。
俺はその場に腰を下ろすと同時に、今日の良かった点、問題点、改善点のスペースに何も書かれていないノートに視線を滑らせる。いつもなら雑談が始まるスタジオも静まり返り、会話が生まれる様子もない。
気まずい空気から目をそらすと、俺は静かにノートを閉じた。
「……そろそろ時間ね。今日はここまでにするわ。前回同様、今日できなかった箇所は次回までに潰しておいて。特にあこ、あなたはまだ未熟な点が目立つわ」
「っ……はい、すいません」
「謝るくらいなら次回はもっと緊張感をもって取り組んで」
結局最後までこの重さと気まずさに慣れることはなく、練習時間が終わりを告げた。控えめに「お疲れ様ー」と言うと共に、それぞれが黙々と片付け作業に入って行く。
(友希那、本当にどうしたんだろ)
心なしか普段より乱雑に床を這うケーブル類を片付けながら考える。こういう場合、本人に直接聞ければ一番いいんだろう。でも怖い。もしそれで答えてくれなかったら。嫌な思いをさせたら。そんな思考ばかりが浮かんで俺は中々声を掛けられずにいた。つまるところただのヘタレである。
「じゃあ、私はこれで」
「あっ、友希那……」
一緒に帰ろうと俺も立ち上がるが、友希那はそのままスタジオから出て行ってしまった。声が聞こえていなかった筈はないと思うから1人にしてほしいという事なんだろう。
「あー、アタシも帰ろっかな」
「わ……私も……」
「じゃあ今日は解散にしましょう。この状況で自主練をしてもあまり良いものにはならないと思うので」
「賛成。じゃあ帰るか」
荷物をまとめてスタジオを出る。白金さんとリサはすっかり沈んでしまった宇田川さんに明るい声をかけていた。
外に出ると空はすっかり闇に包まれており、吐く息は宙を白く染めては消えて行く。
「私はスタジオの予約状況を確認してきます。先ほどの湊さんの様子から少し気になったので。宇田川さんたちは先に帰っていて頂戴」
「はい……分かりました」
再び自動ドアの向こうへ進んで行く氷川さんを見届けると、宇田川さんと白金さんがが俺たちへと向き直った。
「バイバイ、リサ姉。……あと修哉さんも」
「さようなら……」
「うん! あこも燐子もまた明日ね!」
「ちょっとそれわざとやってるよね? あえてついでっぽく言ってるよね?」
「そ、そんなこと……ないですけど」
「おい今なんで目を逸らした」
前もこんなことあったな。何となく思ってたけど宇田川さんからネタとして扱われてる気がする。俺一応先輩なんだけどなぁ (困惑)。
「まぁいいや。また明日」
ぶっきらぼうながら挨拶を返すと、宇田川さんはほっと息を吐いた。な、何?
「あこ、なんだか安心してきちゃいました。修哉さんはいつもと変わらないなーって思って」
「あ、私もそう思いました……。修哉さん、いつも楽しそうですよね……」
「うんうん、良くも悪くも修哉は修哉だよねー♪」
「……褒められてるのか遠回しに能天気って言われてるのか判断に困るんだけど。後者だったら俺泣いていいよね」
あはは、とその場に笑いが起こる。気が付けば沈んでいた宇田川さんの表情は晴れ、同時に白金さんも優しく微笑んでいた。
この2人仲良いもんな。どこかお互い通じてる部分があるのかもしれない。片方の幸せはもう片方の幸せ〜とか多分そんな感じで。
やがて笑いが収まると、2人は踵を返し帰路に着いた。今この場所にいるのは俺とリサだけ。
「さてと、アタシ達も帰ろっか」
「それなんだけどさ……ごめん、俺ちょっとこの後用事あるんだよね。悪いけど一人で帰れる?」
申し訳なさそうな表情で両手を合わせる。リサは一瞬考えるような動作を取ると、表情を変えて頷いた。
「用事ねぇ……なら仕方ないか。オッケー、ならアタシは帰るね」
「おう、また明日」
「うん、また明日〜」
なんかやけに素直に納得したな。いつもならもうちょい追求して「何かあるの? 」とか聞いて来そうな所なのに。
まぁいいか、と思考を切り捨てると、1人歩いて行くリサの背中から視線を逸らした。
さて、考えたことがある。今朝は何も浮かばなかったが、何もしないより遥かにマシな行動。殺伐としたこの状況を、僅かに打開出来るかもしれない手。
俺以外に誰もいなくなったカフェテリアで小さく、確かに拳を握る。
しばらくすると、自動ドアが静かに開いた。
「あら? 本街さん、まだ残っていたんですか?」
「やっと来たか」
「? 何かあったんですか? 予約のことならしっかり入っていましたが」
そう説明する氷川さんの声には、何故俺が一人で此処にいるのかが分からない、という考えが滲んでいる。
それに答えるように、俺はいつもの口調、いつもの表情、いつもの声音で切り出した。
「氷川さん、ちょっとファミレス行かない?」
ということでここから少しオリジナルになっていきます。
次回もお楽しみに。