彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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ギリギリ連日投稿!
頑張って書いた。まる。




崩壊

 

「ふぁぁ〜あ」

 

 昇降口で靴を履き替え教室に向かう途中の階段。一段一段をちんたら登りながら、俺は大きく欠伸をした。

 

 朝という時間は嫌いじゃない。

 基本的に人が少ないこの時間の学校は、俺のように大した会話相手も友達もいないぼっちにとっては至高なのである。早起き自体は好きじゃないけど。

 

 しかも最近は寒いせいか、教室や廊下でウェイウェイ騒ぎまくるリア充軍団の登校時間が遅い。それによって俺の精神環境はオールクリーン、コンデションは最高になっていた。ふっ雑魚め。所詮は寒さに勝てないということか。因みに俺は心も体も常に寒い。悲しすぎる。

 

「まぁ俺も側から見れば十分リア充なんだけど」

 

 いざ自分に彼女が出来てみて改めて実感したことがある。それは『リア充にも種類がある』という事だ。

 

 まず代表的なのが彼氏、彼女持ちの人種を称するリア充。次に上がってくるのが『俺らいかにも青春してます☆』系リア充だ。こいつらはもはや害悪。ただ騒音発生器でしかない。しかもこの手のタチの悪さは数が多い事にあって、文化祭や体育祭などの期間限定系行事ではしゃぐ所謂『便乗系リア充』とは違い、年中無休時間を問わず騒ぎまくるという習性にある。

 別に彼氏、彼女がいなくてもそう呼ばれているから、彼らに対するリア充とは最早蔑称であるとも言えた。

 

「あったけぇ……」

 

 内心で文字通り寒い思考を繰り広げながら我らが2-Cの教室のドアを開く。するとちょうど廊下へ出ようとしていたのか、目の前に銀の髪が揺れた。

 

「あ、おはよう友希那」

「……」

 

 無言。ピクリと肩を揺らす彼女は俺に目を合わせる事もなく、ただ俯きがちに俺の横を通り抜けた。

 

「……え?」

 

 瞬間、目の前で起きた出来事が飲み込めずに思考が固まる。同時に息も浅くなり、疑問符だけが頭の中を支配した。

 

(む、無視? なんで? 俺何かしたっけ……? 確かに最近様子は変だったけど挨拶を返してくれないなんて事は今まで一度も──)

 

 考えろ、必ずどこかに理由がある筈だ。遡れ、思い出せ。昨日の練習か……? 違う、別に昨日は無視されるような事はしていない筈だし、帰り際の俺の言葉だってただ聞こえていなかった可能性がある。

 なら何だ? もっと日常的なこと? というかそもそも──

 

 

 ──俺、最近ほとんど友希那と喋ってなくね?

 

 

 心に鈍い痛みが走る。悲しいような寂しいような、それでいて何処か自分が虚しくて。小さく挙げた手も行き場をなくしてぶらりと下がり、俺はその場に立ち尽くす。

 

 暖房が効いて暖まった教室とは対照的に凍えていく心。うまく纏まらない思考の海に、すれ違いざまに漂うシャンプーの香りだけが虚しく甘く届いていた。

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 眠っていた意識が浮上する。

 いつの間にか寝ていたらしく、耳に残響しながら本日最後の授業の終わりを告げるチャイムで目を覚ますと荷物を纏めて席を立った。

 

 そのまま喧騒の波を縫うように潜り抜け、昇降口を出て学校を後にする。寝起きだと言うのに頭がやけに冴えていることから、睡眠が浅かったことが分かった。

 

 結局、朝の答えは出ていない。

 

 考えても考えても心当たりがない現象。だというのに確実に心を蝕んでいくその事実が、どうにも心地悪かった。昨日氷川さんと話して少し気分的に楽になっていた分、それが逆に俺へと重くのしかかっている。

 

 しばらく足を進めてスタジオに到着する。そこらのショッピングモールのよりもよっぽど反応が良い自動ドアを潜ると、俺に声がかけられた。

 

「こんにちはー。今日は早いね」

「こんにちは、まりなさん。他はまだ来てないんですか?」

「うん、君が一番乗りだよ。毎日Roseliaのサポートお疲れ様」

「いや、好きでやってる事なんで。ありがとうございます」

 

 最近になって一言二言言葉を交わすようになってきた店員──まりなさんに軽く頭を下げて、重いドアを開く。途端に鼻孔をくすぐる防音壁の木の匂いで肺を満たし、いつもの位置に荷物を置いた。

 

「なんか久し振りな気がするな」

 

 こうして一人で立ってみるとスタジオがやけに広く感じる。一番最後に来ることがほとんどだからな。それかほぼ同タイミングくらい。

 

「まだ来る気配ないしセッティングしとくか」

 

 独り小さく呟くと、慣れた手つきでコードを刺し機械の電源を入れる。マイクスタンドやケーブル類の準備も粗方済ませ、後は各自が持ってきたギターやベースなどの楽器を接続するだけでいい状態になった。

 

「確か前にこのままBLACK SHOUT歌った事あったっけ」

 

 確かあの時は友希那と氷川さんに思いっきり聞かれてて恥ずかしい思いをしたんだ。2人からの評価は悪いものではなかったが、普段からあれだけ高レベルな音楽を生で聞いている俺からすればお世辞もいいところだった。

 

「……来ないな」

 

 俺がスタジオに入ってからしばらく経つが、それでも未だにみんなが来る気配はない。

 どんだけ早く来たんだ俺。考え事をしていたせいで足早になっていたのかも知れない。

 

 まだ思考は重い。気を紛らわせるために吐いた独り言も見事に逆の効果を発揮して、ただ無機質な壁に吸われていく。

 

「あれ、修哉さんもう来てる!」

「早い……ですね……」

「修哉が早いなんて珍しいね〜。いつもは後に来るのに」

「やる気があるのはいい事です」

 

 扉が開き一気にスタジオが賑やかさを増す。みんなが来たことに僅かな安心を覚え、俺はステージ側から離れた。

 

「……さあ、各自準備をして。出来次第すぐに練習を始めるわよ」

「準備はもうやっといたよ。楽器の準備さえすればすぐにでも始められる。だから────」

 

 ──だから、何なのだろうか。

 

 何でもいいから言葉が欲しいのか、朝の不安を取り除きたいのか。一連の理由が聞きたかったのかもしれない。

 

 続く言葉は喉で搔き消え、代わりに掠れた息が漏れた。

 

「ありがとう……ございます……」

「あー、もしかして結構待たせちゃった? 全員分準備するのって結構手間だったでしょ」

「いや、そうでもないよ。いつも手伝ってるから慣れてるし、早く来すぎたせいで特にすることもなかったし。なんなら一曲歌おうかと思ってたところだ」

「あはは♪ なら、いいんだけど」

 

 各自が手早く楽器の準備に移っていく。時間の経過と共に緊張感が膨れ上がり張り詰めていくスタジオの空気を肌で感じながら、俺は無理矢理気持ちを切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あこ! またテンポが乱れているわよ。前回もそれぞれつまずいた箇所を克服しておくようにと言ったはずなのに、何度も同じことを言わせないで」

「……ごめんなさい……」

 

 今日も始まった宇田川さんへの指摘。全体の雰囲気にも影響するためなんとかフォローしてあげたいが、聞いていた俺からしても今は確かにズレていたためどうもうまい言葉が見つからない。

 当の宇田川さんも鋭い声音と口調に完全に萎縮してしまい、普段なら叩ける箇所も叩けなくなるという悪循環に陥っていた。

 

「まあまあ、流石に昨日の今日でミスを完全に無くすのって無理あるじゃん? 宇田川さんも頑張ってるんだし、また練習して出来るようにしていけばいいと思う」

「修哉さん……」

「そ、そうそう! あんまり焦ってもいいことないし、友希那もそんなに言わなくても……」

「……では、もう一度同じところから」

 

 それとなくカバーし、なんとかその場を凌ぐ事に成功する。リサと軽くアイコンタクトを交わすと、少し心強さが増した気がした。

 

 だが、その途端に絞り出すような声が零れた。

 

「……何度やったって、出来ないと思います」

「宇田川さん……?」

「何度やったって、どうせあこ、失敗します! だって、どうやったら上手になるのか、もうわかんないし!」

「甘えたことを言わないで! ダメなら出来るようになるまで繰り返すしかないでしょう」

「何のために上手になればいいんですか!?」

「っ! それは……!」

 

 お互い舌が熱を帯びていく。俺は視界の奥であわあわする白金さんと同様に、初めて見た2人の姿に困惑することしか出来ないでいた。

 それはリサや氷川さんもなのか、誰もその口論を止めようとしていない。

 

 これはまずい。

 

「SMSで失敗したのに反省会もやらないで! みんなわけがわからないままずっと練習ばっかりしてて……FUTURE WORLD FES.に近づいているのか、遠くなっているのかもわからないし……っ!」

「遠のいているわよ。今のあなたは」

「ちょっ、それは流石に」

「……っ! なんでですか!? あこが上手じゃないからですか!」

 

 宇田川さんの声は張り裂けそうな程に大きく響く。ダメだ、これ以上言わせちゃいけない。この場を納めないと取り返しがつかない事になる。早く止めないと────

 

 

 ────誰が?

 

 

「そうよ。それにこの程度で音をあげているようじゃ先が知れてるわ」

 

 言葉を切って、言い放つ。

 

「そんな甘えた様子で、このバンドにいる資格はない!」

「……っ!!!」

 

 言わせて、しまった。取り返しがつかない一言を、今までの努力の全てを否定するような一撃を、宇田川さんに浴びせてしまった。

 

 大きく見開かれる瞳。次第に雫が溜まり始め、宇田川さんは涙声で絞り出す叫ぶように叫んだ。

 

「……こんなの……こんなの、Roseliaじゃない!!!」

「あっ、あこ!!!」

 

 涙を流しながらスタジオを飛び出していく。重いドアが自然に閉まった音が暗く悲痛に木霊した。

 

「友希那……友希那ってば……()()()っ!」

「ッッ……!」

 

 どうして……と続く言葉は声にならない。聴きたいのに聴けないもどかしさに腹が立って、拳を強く握りしめた。

 

「……続けるわよ。ここにいるメンバーだけでもやれることはあるわ」

「どうして……あこちゃんにそんなこと……いうんですか……?」

「燐子……?」

 

 怒りを孕んだ声。普段の静かさからは考えられないような声音に、びくっと小さく肩が跳ねた。

 

「きっと……わたしたち……どれだけ練習したって……音なんか……あいません……! こんな演奏……誰も……振り向いてくれません……! だって……誰も……みんなの音……聞いてないから……っ!」

「燐子!!!」

 

 宇田川さんの後を追うように白金さんもスタジオを飛び出していく。突然の展開に頭が付いていかない。ぐちゃぐちゃに搔き回されるような感覚の中。

 

 ──もう、取り返しがつかないかも知れない。

 

 そんな思考が脳を掠めた。

 

「友希那、どうしちゃったの? この間の練習の時から、なんかヘンだよ?」

 

 昨日のアレだって……そう言いながらリサは俺へちらりと視線を振った。昨日のアレ……? なんだ……? リサは何を言っている……?

 

「私は、Roseliaを取り戻したいだけよ。そのために私たちは昔に戻らないといけない……ただ、それだけ」

「昔のRoseliaに……戻る?」

 

 気付けば、声が震えていた。

 それはどういう事だろうか。考えたくても頭が回らない。ただ瞳に焼きつく()()()の苦しそうな顔だけが、俺の思考を縛り付ける。

 昔のRoselia。それは俺が知らないもの。俺が参加する前の、5人だけの居場所を指す。

 そこに戻るというならば、俺は────

 

「……っ」

 

 考えたくない。考えたくない。考えるな本街修哉。首を振って笑い飛ばせ。いつもみたいにふざけて誤魔化せ。馬鹿みたいにテンション上げてお調子者のフリをしろ。

 そうでもしないと、どんどん沈んでしまうから。

 

「湊さん、言っている事が不明瞭過ぎます」

「Roseliaに馴れ合いは必要ない。クッキーはもう、要らない」

 

 真意を確かめるような疑問に対する言葉はどれも抽象的で。対象に形を成した言葉のナイフが心の内を切り刻んで行く。

 

「私たち、仲良くなりすぎてしまったんじゃないかしら」

「────」

 

 ──止めだった。息が切れる。汗が流れる。ドッドッドッとタガが外れたように収縮を繰り返す心臓の音が、真っ黒な視界を彩った。酸素を取り込もうと躍起になる肺は痛いくらいで、ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃと頭を掻き混ぜドロドロになって溶けるような錯覚に襲われる。

 

 もう何も考えられない。自分が自分じゃなくなるような虚無感に呑まれる中、定まらない視点はどこか遠くを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ● ○ ●

 

 

 

 

 

 

 

 

「友希那っ!」

「湊さんっ……っ! ……行ってしまったわね」

 

 仲良くなりすぎた。ぴしゃりとそう言い放つと友希那はスタジオの外に出て行ってしまった。あこや燐子もいなくなってしまった今、どうしたらいいか分からずにアタシはただ立ち尽くす。

 

 もう、何がなんなのか分からない。浮かんできた率直な感想はそれだけだった。

 

「今井さん……大丈夫?」

「あ……ご、ごめん……なんか、驚いちゃって」

 

 大丈夫か、と聞かれれば決して大丈夫じゃないだろう。

 友希那、まるで本当に昔に戻っちゃったみたいだった。最近の友希那はずっとそれを望んでいたんだろうか。SMS以降急に厳しくなった練習や、鋭くなった指摘の言葉。それはいつも私たちに指摘をしていた修哉が何も言うことがなくなるほどに厳しく激しいものだった。

 

「そうだ修哉……!」

 

 昔に戻るという事に加え、友希那は仲良くなりすぎたとも言った。友希那と付き合っている修哉がその言葉に傷つかないはずがない。

 

「しゅう──っ」

 

 飛び込んで来た光景に息を飲んだ。ゾゾゾっと気持ち悪い悪寒が背中をなぞり、恐怖からか肌が粟立つ。

 出来ることなら、見たくなかった。

 

 その目は塗り潰したように生気を感じない黒色で、どこかを彷徨う視線は酷く歪んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口角を吊り上げながら、修哉は壊れそうに嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ストーリーの都合上、どうしても2章のセリフが多めですが許してヒヤシンス
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