夕方の公園のベンチに女子と二人きり。元々人通りも多くない道の途中にあるため、この空間は完璧な静寂に包まれていた。
反面。
(は? えっ? 何故? Why? つーかそもそもリサ今なんて言った?)
俺の内心はとんでもなく荒れ狂っていた。
「ちょ、ちょっとストップ。落ち着け、まずは落ち着けよ。な?」
「修哉が落ち着いてよ……」
「……おっけー落ち着いた。で、今なんて言った? 聞き間違えたかもしれない」
そうは言ったが聞き間違えたなんて事はまずありえないだろう。俺の課題はこの間にできるだけ、全身全霊全力で意識を落ち着かせ平静を装うことの一点だ。シラを切り通せば誤魔化せるかもしれない。
いや、でも待て。こいつは確信してるかの様な質問をしていた。もしかしたら既にバレてる? もう詰んでるの俺?
いや、もう一回待て。カマをかけている可能性もゼロじゃない。そもそもこの質問をするきっかけに心当たりが……あった。ありましたわ。バイトの時に思いっきりやらかしてました。
俺の心中などいざ知らず、リサはさっきと同じ事を言う。
「だから、修哉はいつから友希那の事が好きなの? って聞いたの」
デスヨネー。
「待て、なんで俺が湊さんのことがその……好きって前提なの? その質問」
「え? 違うの?」
違うの? と聞かれれば好きですと答える他ないが、それを素直に口にできるかといえばまた話は別なわけで。
俺がどう返答したもんかと悩んでいると、間延びした声が沈黙を破った。
「おー? リサさーん」
声が聞こえた方に視線を移すと、公園の入り口から一人の女子がこちらにてとてと走ってきた。外には他に4人の女子が立っている。
「モカ! どうしたの? こんなところで」
「ちょうどバンドの練習帰りですよ〜。蘭達は外で待ってます〜」
「そうなんだー。お疲れ様」
「リサさんも今日のバイトお疲れ様でーす」
「あはは、ありがとー♪」
どうやらリサの知り合いのようで、完全に俺は蚊帳の外になった。バンドと言っていたがあれだろうか、この町ではガールズバンドが流行っているのだろうか。
喋ることがなくなったので、何となく遊具を見回す。隣からは今日の練習が〜だのバイトはね〜だの、近況報告のような会話が聞こえてくる。というか公園の外で待ってる人たちはいいのか、そのままで。
さっきから注がれている「まだか……」的な視線などなんのその、モカと呼ばれていた女子はリサとの会話を続けている。
待たせてるけどいいのか? と声を掛けようとした所で、隣から「それで〜……」とまたもや爆弾が落とされた。
「そっちの人はリサさんの彼氏ですか〜?」
「え?」
「はっ?」
にや〜と口元を緩めながら聞いてくるモカ(呼び捨て)。
おいそこの、変な勘違いやめろ。
「「違う(!)」」
「おぉ〜、息もぴったり」
否定するタイミングまで同じだったのが面白いのか、さらに笑みを深くする。
「それに〜、こんな時間に公園で二人っきりってシチュエーションも怪しい〜」
「ちょっと待て、本当に違うぞ!? そもそも俺は……!」
オーマイダーティーなんて醜態! つい流れで「俺は湊さんの事が〜」と繋げてしまうところだった。これは誤魔化せない。
はっとして二人を見ると……まぁそうですよね。予想通りニヤニヤしてました。
「「俺は〜?」」
「やめろ! てか忘れろ!」
さすがに女子高生とこの手の話題で対抗するのは無理がある。俺の『これ以上は何も言わないぞオーラ』を感じ取ったのか、おもむろにリサが俺の紹介をし始めた。
「ほら、前に一回言ったでしょ? 今日から新しくバイト始めた本街修哉。さっき偶然近くであったから話してただけなの」
「ほーほー。なんだ〜、リサさんの彼氏じゃないのか〜」
「違う違う」
一応分かってくれた様で安心する。だが、分からなくて良い事まで分かってしまったのは感心しない。
……勘のいいガキは嫌いだよ。
「改めて本街修哉です。よろしく」
「青葉モカでーす。よろしく〜」
一通り挨拶を交わすと「それじゃーもう行くね〜」と言って公園の外へ走って言った。
「あははー、なんかごめんねー? モカも同じコンビニでバイトしてるんだよ。1年生だから修哉からしたら後輩になるのかな」
「後輩だったのか……」
知らなかったとは言え後輩に弄られる俺って……。
モカの乱入のせいでさっきまでの空気が乱れてしまい、再び沈黙が訪れる。
携帯を取り出して時間を確認すると、かなり時間が経っていたことに気付く。
「すまんリサ、話の続き今度でもいいか? さすがにそろそろ帰らないとまずい」
「そっかー。いいよ、忙しいのに引き止めちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だ。つまらなくは無かったし」
「なにその言い方。でもそう言って貰えると嬉しいかな」
じゃ、またと言って俺はベンチを立つ。その際ずっと空気だった野菜入りのレジ袋を忘れない。家の方向に歩き出そうとした所で、後ろから声がかかった。
「ちょっと待って! 連絡先だけ交換しない? ほら、あった方が色々便利だと思うし」
「あー、分かった」
ポケットからスマホを取り出すと、リサと連絡先を交換する。ほとんど人がいない連絡先の欄に人が増え、頬が緩んだ。
「ありがと。じゃあまたね〜」
そう言うと、リサは出口から出て行った。それを静かに見送ると、俺一人になった公園に背を向ける。今度はイヤホンを耳に突っ込まずに家を目指した。
● ○ ● ○
休日が明けて月曜日。まだ眠気を訴える体に鞭を打ち、俺は通学路を歩いていた。
現在、俺の頭の中を占めているのは、先日なんだかんだ有耶無耶になってしまっていたリサの問い。
『修哉っていつから友希那のこと好きなの?』
いつからか、と聞かれればそれはクラス替えの当日だろう。けど、それを答えてしまっていいのか。俺が湊さんを好きでいることをリサに言ってしまっていいのか躊躇ってしまう。
好きなんだろ? と言わんばかりのリサの声色を思い出してまた考え込む。
俺が仮に湊さんへの想いを告白したとして、多分リサは笑わずに聞いてくれるだろう。もしかしたら応援するよ! なんて言い出すのかもしれない。まだ関わりは浅いが、リサがそういう性格だと言うことは何となく分かっていた。
それでもまだ迷っている。ただ単に俺が怖がってるだけなんだろうけど。
歩いていると学校につき、ホームルームを終え、気付けば午前最後の授業中だった。
結局どっちつかずのまま結論を持ち越したままだ。
言うか言わないかという些細な問題で葛藤を起こす俺の内心とは裏腹に、窓からは相も変わらず暖かい陽気が差し込んでいる。
急に眠くなった俺は沈み込む意識に身を任せ、机に突っ伏し眠りに落ちた。
● ○ ● ○
「……哉……。修哉……。修哉?」
「おぉう!?」
「大丈夫かしら?」
「??」
目の前の状況に頭が追いつかない。今俺は白い空間に座っていて、隣には湊さんがいる。どういうシチュエーション? これ。
瞬間的にこれが夢だという事がわかった。明晰夢というやつだろう。
「ごめんごめん、大丈夫」
「そう……ならよかった」
何が大丈夫なのかは分からないが、夢で湊さんに会えるとはなんていい夢なんだ。朝からその事ばかり考えていたからだろうか。
「それよりさっきの質問に答えて欲しいのだけど」
「……質問?」
「そうよ。修哉はリサのことが好きなの?」
「はい?」
これまた突然のことに頭が追いつかない。どういうことだ!? なぜ湊さんが俺にそんな質問を?
「いやいや、それはない」
「違うの?」
「違う違う」
「なら他に好きな人はいるの?」
反射的に『いない』と言いかけて口をつぐむ。そして、ここが夢の中だと思い出した。この際、素直になってもいいんじゃないか? 言葉にしてもいいんじゃないか。
この気持ちを誇れ、本街修哉。堂々と宣言してやろうじゃないか。
「……どうなの?」
湊さんは問いを繰り返す。俺はその目をじっと見つめるて口を開いた。
「俺は───」
しかし次の言葉は口から出ることはなく、急に意識が浮上する感覚に襲われた。今いた空間が遠ざかっていく。
もう問いは聞こえない。つまり、俺は答えを出した。これはきっとその為の夢だったんだろう。言ってしまえばそれほど大袈裟じゃない、高校男子の恋愛の分岐点が決まった瞬間だった。
引っ張られる感覚に拳で抵抗しようとして、俺は『やらかした……』と直感する。
眠りから覚醒した俺を待ってたのは確かな揺れと、クラスからの視線の棘だった。
もはやリサ姉がヒロイン…←
書いてると自然にシリアス展開になってしまうのをどうにか頑張って修正しながら書いてました、作者です。
ちょっと急展開かな?とは思うんですけどその点含めて感想とか貰えると嬉しいです。
てらけん_Roselia さん、評価してくださりありがとうごさいます!
その他にもお気に入りして頂いた方々、ありがとうごさいます!