4月1日ということで。初、番外編になりますが楽しんでいただけたら嬉しいです。
尚、本編とは時系列が違います。そういうものだと思って読んでください。
ではどうぞ。
たまにはこんな日常も
「そういえば今日ってエイプリルフールですね!」
「宇田川さん、無駄口を叩く暇があったら集中してください」
「エイプリルフール…?」
聞きなれない単語につい疑問の声が漏れる。瞬間、あこや燐子が驚きの視線を向けてきた。
「一年に一度だけ嘘が許される日だよ〜。ほら、覚えてない? 中学の時、アタシが友希那に嘘ついてた日あったじゃん?」
「…あぁ、それが今日なのね」
そう言えばリサがやたら話しかけてくる日があった気がする。嘘、とは言っても大抵は『寝癖ついてるよ?』とか『じゃーん! 今回はゴーヤクッキー作って見たよ!』なんて内容だったけれど。
「それで、それがどうしたのかしら」
「ふっふっふ、わらわは思いついてしまった…ズバリ、全員で修哉さんに嘘をつきましょう!」
「全員って、全員?」
「全員です! Roseliaのみんなで! ちょうど今日も遅れて来るそうですし!」
「お、いいね〜♪ 面白そうかも!」
「面白そう、じゃありません。そんな事をしている時間があるなら練習を…」
「まあまあ、そんな固いこと言わずにさ〜。一年に一度なんだよ? 楽しまなきゃ損だって〜。ね、友希那?」
あこに続きリサも便乗し始める。既にどんな嘘をつくか話し合っていて、とてもじゃないが練習を続けられる雰囲気ではなかった。
「はぁ…分かったわ」
「湊さん!? いいんですか…?」
「こういう時は付き合ってあげるのが一番なのよ。このままの状態で集中して練習ができる思えないでしょう? それに、バンド内の結束を強めるという意味でも、ね」
「湊さんがそう言うなら…。宇田川さん、やるなら徹底的にやりますよ」
「やったー!」
紗夜も乗り気になったところで、いよいよ本格的に話し合いが始まる。練習中の空気はどこへやら、楽器音とは別の煩さがスタジオを満たす。
「大丈夫…かな…」
そんな中呟かれた燐子の冷静な声は誰にも届くことはなく、喧騒に溶けていった。
○ ● ○ ●
「毎度ながら本当にごめんなさい、困ってたお婆さんをざっと10人ほど助けてたら遅れてしまいまして……」
スタジオの扉を静かに開きながら、明らかに言い訳じみた文句を垂れ流す。ちなみにもちろん嘘。この街にそんなに大量の困ったお婆さんなどいない。
「そう、なら仕方ないわね。練習を続けるわよ。早く位置について」
「え、はい」
何というか…意外だ。絶対に最初に宇田川さんが『あー、やっと来たー!』的な事を叫び、続けて氷川さんに叱られるのが何時もの流れなのに。なぜか今日は湊さん以外誰も何も発さない。練習に集中していたんだろうか。やっべぇ、なんか申し訳なくなってきた。
「BLACK SHOUTのイントロから合わせるわよ。あこ、カウントお願い」
「分かりました!」
シンバルの音を数回鳴らし、楽器隊が同時に演奏を始める。重い音が反響して俺の耳を内側から震わせる。でも……なんというかこれ……。
「Re:birthdayじゃね……? あれ…?」
曲が違うんですけど? あっれ、確かに湊さんBLACK SHOUTって言ったよな? 聞き間違い? Re:birth SHOUTとか聞こえちゃったパティーン?
全く意味がわからずメンバーを見てみるも、ふざけている様子はなく真剣そのものだ。どうやらふざけているのは俺の耳らしい。
「やばいなこれ。難聴とかそういうレベルじゃない気がして来た」
パンッと頰を両手で叩くと意識を集中させる。みんなを見習って真剣に取り組め、俺!
やがてRe:birthdayが演奏し終わると、途端に静寂が訪れる。
「どうだったかしら」
「えぇと…ごめん。ちょっと意識弛んでて前半のパート聴けてなかった。でも全体的に良かったと思う。あとリサ、ピック変えたんだな」
「聴けていなかった? そんな態度では──」
「そう、分かったわ。続けるわよ。紗夜、集中して」
「すいません、分かりました」
「……えぇ?」
マジでどうなってんの? なんか今日の湊さん妙に俺に優しくない? 気のせい? 気のせいか。それに宇田川さんもリサも珍しく何も言わないし。
未だに困惑する俺を置き去りに、そのまま練習は続いていった。
● ○ ● ○
「ふぅ…。15分休憩にするわ」
「分かりました」
「はーい!」
「はい…」
「はいよ〜♪ 」
「休憩…休める…休みたい…」
しばらく時間が経ち、俺の疲労が限界に達したタイミングで湊さんが休憩を宣言した。あれからもあべこべな演奏は続き、着いていけない俺の耳と脳は限界を訴えていた。
湊さんが『納得ができないパートがあるの』なんて言ってもう一回やったBLACK SHOUTがアカペラだった時の俺の心境よ。めっちゃ本気で歌ってるのに他のみんな棒立ちだからね。驚くとか通り越して普通に笑ったわ。お前ら演奏しろよ。
「本街さん、疲れている様子ですが…何かあったんですか?」
「え、マジで? 何かあったよね、今確実にあったよね何か」
「そんな事より修哉さん、あこのドラムどうでしたか!? いつもより控えめにやってみたんですけど」
「いや、叩いてなかったじゃん。突っ立ってただけじゃん。控えめすぎでしょ」
「あの…私のキーボードは…」
「あの『猫踏んじゃった』の事? 上手かったよ。上手かったけどおかしくね? 『火をつーけーたーあーなたの言葉! 猫踏んじゃったー』って」
「ふっ」
「おいリサ、お前なんで今笑った」
こんなの俺が知ってるLOUDERじゃない。もう脳が現実から目を逸らし始めて、夢なんじゃないかとすら思って来ている。それくらいに意味がわからない。
いつものように全員に水を配り終えると、魂ごと抜けてくんじゃないかと思える程のため息を吐いた。
「ため息吐くと幸せが逃げるぞ〜?」
「ため息如きで逃げるような安い幸せなんぞいらん…。ねぇ、どうしたの? なんでそんな平然としてられんの?」
「え〜、何のこと? あ、それよりよくピック変えたの気づいたね〜。お姉さん嬉しいぞ♪ 」
「明らかにいつものと違かったからな。毎日見てれば流石に気づく」
そこで、ふと俺とリサ以外の会話がない事に気づく。視線を滑らせて横を見ると、何やら4人が円になって話し込んでいた。
「…ねぇ、なにしてんの?」
「何でもないわ」
「でも」
「なんでもないですよ!」
「んなわけあるかぁッ!」
そうツッコミを入れて見るも、ひそひそ話が終わる様子はない。仕方なくリサの方を向き直すと、俯きながら肩を震わせていた。
「おい、なんか仕組んでるだろ」
「そ、そんな事ないって〜! もう、疑い深いな〜修哉は」
「確信だよ確信」
これは疑うとかいうレベルじゃない。確実になにか裏で組んでるのは流石に分かった。
「そ、そんな事をやるのかしら?」
「友希那さんなら行けますよ! 」
「そうですね。そろそろ湊さんの番でしょう」
「紗夜さん…意外とノリノリ……」
「……分かったわ」
「ご武運を」
断片的だがそんな会話が耳に届く。全部が聞こえた訳ではないが、まだ何かが続くだろうということは容易に予想できた。
「修哉」
「…今度はなに? お前が歌えとか言わないよね…?」
「これ…」
そう言って差し出されたのは3分の1ほど中身が減ったペットボトル。先程俺が配った物だった。
「……こっ…交換しない?」
「……はっ?」
心臓がドクンと跳ねる。ちょ、ちょっと? これはどういう旨のイベントなんだ? 別に準備してあったものに塩を混ぜたとか?だとしてもそんなものは見当たらないし、何より本数が合わない。…と言うことは、これは正真正銘湊さんの飲みかけと言う事になる。
「じょ、冗談じゃ…」
「…嘘じゃないわ」
嘘じゃない、と聞いて何かピースがはまった気がした。嘘といえば今日って確か4月1日…エイプリルフールじゃん! なるほど、みんなそれで意味わかんない行動してたのか。
……いや待て、本当にそれが原因か? エイプリルフールを隠れ蓑にした何かあるんじゃないか?
ここまできたら完全に疑心暗鬼である。ただ、それが俺に仕掛けられた罠だと言うことは理解した。ここは逆に利用してやろうじゃないか。
「…分かった、交換しよう。はい、これ俺のやつ」
「え、ええ……。本当にいいのかしら…? 別に無理にとは…」
「いや、大丈夫」
そういって湊さんからペットボトルを受け取ると、おもむろにキャップを開けて中身を飲もうとする。だが、本当に飲むような事はしない。それは流石にいけない事だとは理解している。だから、仕返しのつもりで俺はゆっくり、焦らすように近づけていく。
「 あっ…… 」
「ちょ、ちょっとストップ! 修哉もそこまで!」
「うおっ」
半ば無理矢理ペットボトルを奪われると、行き場を失った手がだらりと落とされる。
「みんなもそろそろストップ。ネタばらししてもいいんじゃない?」
「それもそうですね」
「あこも充分楽しめたから大丈夫!」
「私も…賛成です……」
「と、言うわけで〜、じゃーん! 今日はエイプリルフールでした〜! 」
「……やっぱそれだったか…」
やはり、というか予想通りの答えに納得する。みんなの様子を見るに、さらにその裏が…なんて事はもうないらしい。
「どうだった? アタシは、ふふっ、笑いを堪えるのが大変だったかな〜」
「あこも! 演奏中の修哉さん、ポカンとしてて凄かったです」
「確かに、見ていて面白くはありましたね」
「でしょー? やって良かったね♪ 」
「いや、良くないから…」
こちとら超疲れたわ。1週間練習参加するよりも今日1日の方が疲れたまである。
「ね、友希那はどう思った? …って、友希那?」
「なっ、なにかしら?」
「いや、友希那はドッキリやってみてどうだったかな〜って思ってさ」
「そ、そうね……。そんな事より休憩はもう終わり。再開するわよ」
「あっ、逃げた」
「ずるーい! 友希那さんも何か言ってくださいよ〜!」
「あこ、集中して頂戴。みんなも切り替えて」
1人だけコメントから逃れてスタンドマイクの元へ向かう湊さん。その顔は俺が見ても分かるくらい薄っすら朱に染まっていて、それに気づいたメンバーはニヤニヤしながらも配置につく。
騒がしくもあったし疲労も蓄積したが、たまにはこんな練習があってもいいのかな…なんて考える。柔らかく頬を緩めながら、これ以降あんな演奏が二度とないように静かに祈り、俺は聞こえてくる音に意識を研ぎ澄ませたのだった。
もし、あのまま口がついていたら……なんて考えて見ても面白いかも知れないですね。そもそも棒立ちとか嘘じゃ無い←
これからもちょくちょく番外編を投稿するかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。
では皆さん、よきエイプリルフールを。