彼女に出会った高校生活   作:ビタミンB

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確かな進歩

 

 

 

 

「……」

「………………」

 

 静寂。あるいは沈黙。それだけが我がクラスを満たしていた。

 いたたまれなくなった俺は、即座に椅子に座りなおす。

 

「本街。授業に集中しろ」

「……はい」

 

 教師からも釘をさされ、俺は教科書に視線を落とした。

 

 

 

 授業が終わり、この前公園で持ち越した話の続きをするべくリサを探す。が、俺はリサのクラスが分からない。候補は我が2-C以外、つまりA、B、Dの3つになるが、正直3分の1でも当てるのはキツイ。

 すると、ちょうど湊さんが視界に入る。彼女ならリサのクラスを知って居るはずだ。

 

「あの、湊さん」

「? 何かしら。あなた確か……」

「コンビニバイトの本街です。実は同じクラスです」

「そうだったの……。あっ、この前はごめんなさい」

「いやいや! 気にしてないから別にいいよ。自分でも影薄いって分かってるから!」

 

 湊さんはあの時「初めまして」と言ったことを気にしているのか謝罪をする。だがそんな些細な事を気にする俺ではない。言うなれば今の俺の精神は鋼だ。進むと決めたら進む。行動あるのみ! 

 

「それで、何の用かしら?」

「そうだった。リサって何組か分かる? ちょっと話があって」

「リサならAクラスにいるはずよ」

「Aクラスか! 分かった、ありがと」

 

 一言お礼を言って会話を切り上げる。

 早速教室を出ると、一直線にAクラスに向かった。

 

(うわぁ人多いなぁ)

 

 到着して、教室のドアからクラス内を覗くも、人の多さに尻込みしてしまう。ほとんど他人だから多く感じるってのもあるんだろうな。それ言ったら自分のクラスメイトもほぼ他人だけど。

 

 暫く見回していると、前方の席にリサを見つけた。人のいない場所で話がしたいため、呼び出すことにする。

 

「おーい、リサー。ちょっと」

「修哉? どうしたの?」

「ちょっと話したい事あるんだけど時間いい?」

「んー、大丈夫だよ」

「良かった、じゃあ付いて来てくれ」

 

 クラスからの「誰だこいつ」的な視線から逃れるためにひとまず教室から離れる。若干急ぎ足になる俺の後ろを、リサは2、3歩離れて付いて来た。

 

「修哉が学校で話しかけてくるなんて珍しいねー」

「初めてだけどな」

「まあね〜。それで、話しって何? わざわざ呼ぶくらいだから重要な事なんだろうけど……」

「まぁ、重要なのかな? とりあえず着いたら話すよ」

 

 人がいない所、と言う事で屋上へ向かう。

 階段を登り、ドアノブを回して扉を開ける。優しい風が頬を撫でる中、俺はリサに話を切り出した。

 

「で、話しって言うのはこの前公園で中断したアレの事なんだけど……」

「あー、そのことね」

 

 なんとなく予想が付いていたのか、「やっぱり」といった表情をする。俺は大きく息を吸って、口を開いた。

 

「それでだな、これももう分かってるとは思うけど。俺は湊さんの事が好きだ」

 

 言った。言ったぞ俺は。なんだ、簡単な事じゃないか。一体今朝の俺は何に対して迷っていたんだ。

 

「そっかそっか〜、修哉はやっぱり友希那が好きだったか〜。乙女の勘は当たるもんだねぇ」

「勘だったのかよ……」

「あはは……。バイトの時の態度でそうかな〜って思ったんだよ。あの日あったばっかりのアタシに気づかれるなんて修哉は分かりやすいなー」

 

 やっぱあの時だったか。いやまぁ、気づかれたなーとは思ってたんですよ? やっぱ俺ってちょろいわ。チョロQかよ。一旦下がってから前進するらへんマジチョロQ。

 

「それでさ、これからどうすればいいと思う? っていう相談をしたいんだけど」

 

 そう言って俺は本題に入る。聞きたいことはまさにこれだ。取り敢えず諦めると言う選択肢は消え去ったが、猛アタックして行くのかと言われればそれは違う気もする。

 つまるところ、進むにしてもどうすればいいか全くわからないのだ。

 

「ほら、リサって超女子高生じゃん。恋愛経験とか豊富そうだなーって思って」

「いや〜……。実はアタシもそういう経験ないんだよね〜……」

「マジで?」

「まじまじ」

 

 おいおい嘘だろマジかよ。こんな事ってある? リサだぞ、リサ。コミュ力高くて見た目も良くて性格も良いリサだぞ? もう七不思議レベルで謎。

 

「なんか、すげー意外。リサ可愛いから絶対彼氏とかいると思ってた。あ、勘違いしないでね? 俺の中の可愛い頂点は湊さんだから。口説いてるとかじゃないから」

 

 か、勘違いしないでよねっ! とかツンデレをかます気は無い。

 目の前ではリサが若干顔を赤らめている。俺は知っている。これは俺に気がある訳ではない。大方、男子にそんな事を面と向かって言われた事がなくて照れてるとかだろう。勘違いするな。お花畑思考は捨ててしまえ。

 

 一通り照れ終わったのか、リサは軽く咳払いをすると話を戻した。

 

「うーん、教室で少しづつ話かけてみれば良いんじゃないかな?」

「やっぱそんな感じかー」

「あ、そうだ! 今日の放課後時間ある?」

「は? あるけど何かあるの?」

「Roseliaの練習に来てみない?」

 

 

「……はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやって来ましたよ放課後! いやー、どうしてこうなった。凄い帰りたい。

 

 俺は今、リサと一緒にRoseliaの練習スタジオの前にいる。

 あの後、俺は確実に練習の邪魔になるからと、全力で提案を拒否した。だが、リサが「演奏を聴く側の感想が聞きたい」などと言い出し、しかもそれで湊さんを納得させてしまったのだ。あの時の湊さんの表情と言ったらもう、俺にとって大ダメージだった。

 すげぇ渋々って感じだったからね。

 

「なぁ……これ本当にいいのか? すごい気まずいんだけど」

「あははー、大丈夫……だと思う」

「おい」

 

 提案した側がこれってどうなんだよ。不安しかない。

 リサは「よしっ」と小さく呟くと、スタジオのドアを開けた。

 

「やっほー、遅れてごめん!」

「来たわね。みんな、さっきも言った通り今日はそこにいる修哉も参加するわ。と言っても私達の演奏を聴いて感想を言うだけだけど」

 

 すでにメンバー全員に話が通っていたらしく、すんなり参加する流れになった。しかも湊さんからは名前呼び。それだけで無性にテンションが上がった。

 

 それとは別にやばい。目の前に本物のRoseliaがいる。ボーカルの湊さん、ギターの氷川さん、ベースのリサ、ドラムの宇田川さん、キーボードの白金さん。成り行きとはいえ生でRoseliaの演奏が聴けるのはすごくついてると思う。ありがとう、リサ。

 

「成り行きで練習に参加することになりました、本街修哉です。よろしく」

「よろしくお願いします、本街さん」

「……よろしく……お願いします……」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 ちゃんと返事が返って来たことに安心する。取り敢えず受け入れてもらえたらしい。

 

「それじゃあ、修哉は好きな場所で私達に感想や意見を言って貰えるかしら」

「あのー、俺音楽の知識とかないド素人なんだけど大丈夫?」

「リサがあれだけ必死に頼み込んで来たんだもの、心配しなくてもいいわ。ただ率直な感想を頂戴」

「分かった。じゃあ俺はあっちにいるから」

 

 そう言って俺は少し離れた場所に移動する。湊さん達は楽器の準備を整え、練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだったかしら?」

 

 少し音合わせをした後、湊さん達は一曲通してやった。実際にバンドの生音を聴いたのは始めてだったから興奮したが、ただ居るだけではいけないと思い、しっかり耳を集中させていた。

 湊さんだけじゃない、Roseliaメンバー全員が俺を見ている。俺がどんなことを言うのか気になっているんだろう。

 ここで俺に求められている意見は「すごかった」や「感動した」なんて誰にでも言えるものじゃない。

 だから、俺は実際に音を聞いて感じたこと、思ったことをそのまま話せばいい。素人なりに。

 

「えっと、最初のサビなんだけど、もうちょっとギターが力強いといいかなって思いました」

 

 相手は実力があるのに、そんな彼女らを指摘する事に抵抗感じて敬語になってしまう。

 一方、湊さん達は俺からまともな意見が出るとは思っていなかったのか、面食らったような表情をしていた。なにそれ悲しい。

 

「……他になにかあるかしら」

「あとは、二番のサビ前でちょっとベースがずれたかなって。あ、最後の方にドラムの音が少し弱くなったのもある。あとは……」

 

 そこまで言って、湊さん達が完全に黙り込んでいる事に気付く。……やっちまった。

 

「ご、ごめん! 素人が偉そうに言って。見当違いな事言ってたら謝るから」

「……修哉」

「は、はいっ」

「今後も時間が空いたらRoseliaの練習に来ない?」

 

 ……はい? どういうことだろうか。もしかして俺の指摘間違えてなかった? それを評価してくれた? 

 

「え、えっと、それはどういう?」

「私が気付かなかった箇所にも修哉は気付いていたわ。だから、あなたがいれば練習の効率が上がると思ったの。本当に音楽の経験はないの?」

「ないない。本当にただの素人で、今日も参加するのが申し訳なく思ってたんだけど……。そう言って貰えるなら時間がある日は来てもいい……かな?」

「ええ、もちろんよ」

 

 そう言って湊さんはメンバーを見渡す。それに応えるように、みんなは頷いていた。

 なんだろう、凄く嬉しいんだけどこんなにあっさり決まってしまっていいのだろうか。全然実感がわかない。

 

「それじゃあ続けるわよ。みんな、集中して。修哉はまた意見をお願い」

「「「「はい!」」」」

「了解!」

 

 そうしてまたみんなは定位置に戻っていく。

 取り敢えずはこの変化を受け入れよう。今の俺は確実に前進できている。なんたって放課後まで同じ時間を過ごしているんだから。

 その事を素直に喜ぼうと思い、俺はまた流れてくる音に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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