はい、明日に迫ったRoseliaのストーリー二章に鳥肌が立っている作者です。
まず友希那が泣いていたことに衝撃受けました。相変わらずバンドの二章って重いんだなぁ…って思いました。
そして一言、更新遅れてすいませんでしたぁ!? いろいろ忙しくて中々執筆が出来なかったんですが、それももう片付いたんで今後はそこまで間隔開けずに更新できるかなー、と思います。
あ、あと今回の話は一応修哉と友希那が付き合う前の話になってます。
長々と話してしまいましたが本編どうぞ。
放課後。
チャイムが鳴り響いた校内には授業の終わりが訪れ、部活、若しくは帰宅モードに入った生徒達の喧騒で溢れる。とは言っても何事にも例外はいるわけで、今回の場合は俺がその内の1人だった。
「…さて、行くか」
周囲に聞こえない程度、俺だけが聞き取れる声量で小さく呟くと、窓の外を彷徨っていた視線を教室内へと戻す。
振り返ると湊さんはもう席にいなかった。大方、授業が終わると同時に出て言ったんだろう。他人以上に自分に厳しい彼女のことだ。時間厳守や5分前行動などは当たり前にこなす筈だ。
同じく俺も教室を出て昇降口へと足を進める。
今日は一週間の中でも授業が1時間短い日だ。だから必然的にRoseliaの練習も早く始まる。という事はいつもより長く湊さんと居ることができる。つまりは天国、Q.E.D。
「ん?」
ちょうど階段を下っている最中、ポケットに入っている携帯が震えた。マナーモードにしているそれが連続的に振動を繰り返すため、電話が掛かってきていると容易に想像することが出来る。
俺は歩みを止めずに画面をタップし、本体を耳に近づけた。
「もしもし」
『もしもし本街君、お疲れ様』
「店長? お疲れ様です。どうしたんですか?」
『ごめんね、これからシフト入れないかな?』
「えぇ…? これからですか? なんでまた急に」
『露骨に嫌そうだね…。本当はモカちゃんが来る予定だったんだけど、風邪で休んじゃってるんだよ』
「まじかよ」
青葉でも風邪引くのか。馬鹿は風邪を引かないとはよく聞くが、どうやら青葉はそれに当てはまらないらしい。いや、相当失礼な考えではあるが。あの勤務態度ではそう思われても仕方がないだろう。
「それで、時間はどのくらいですか?」
『できれば3時間くらい入って欲しいかな。あ、無理にとは言わないよ。用事があるなら別にいいんだ』
…上手い。ここで一歩引かれればこちら側に申し訳無いという気持ちが湧き起こってしまう。事実、俺は放課後を投げ打って行くか否かで揺らいでいた。
だが断るッ!!
当たり前だ、やってられるか馬鹿野郎。貴重な放課後を奪おうったってそうはいかないのだ。
『今日は厳しそうかな? ならこの後今井さんに電話してみるよ』
俺の沈黙を察してか、店長が完全に引く態勢を取る。だがラッキーと思ったのも一瞬で、続いた言葉にさらに沈黙が訪れた。
そして、結局俺は────
「あ、俺今日行きますよ。特に用事も無いんで」
180度、意思をひっくり返したのだった。
『本当かい? いやー、助かるよ。今日はお客さん多くてね〜…って、電話か。そういう事でごめん本街君、今日はよろしく頼むよ』
「分かりました。失礼します」
電話を切って軽く深呼吸をする。どうやら今日は珍しく店が混んでいるらしい。店長の言葉もあるし、通話中に鳴っていた店の子機の音もそうだ。…あの店が忙しいとか想像できないんだけど。明日は槍でも降るんだろうか。
「あぁ〜…めんどくさい」
つい愚痴が溢れるも、足取りは素直に前へ進んで行く。靴を履き替え終えた俺は、そのまま校門を出ようとした。
その時だった。
「あ、修哉」
「…え、なんでみんなまだここにいんの? 見た感じ全員揃ってるけど」
「アハハ〜…実はアタシもこれからバイト入っちゃってさ〜。いまその話してたところなんだよね」
「…………は?」
…は? いやいや、は? 意味分かんないんだけど。店長お前どうした。いや本当にどうしたお前。
待て、落ち着こう。さすがに今のは失礼だ。
まず、俺がさっきのバイトを断ればリサに電話が行く。性格的に断れないリサは何だかんだで店長の頼みを受け入れてしまうだろう。それが青葉の代わりなんだからなおさらだ。今日の練習からメンバーのリサが抜けるのは致命的。そう思って俺が名乗り出たのに何この状況。店長お前ふざけんなよ(2回目)
「いやー、モカの代わりに修哉が出るってなったんだけど、なんか島田さんも休みらしいんだよね〜…」
「おぉう…そっちかよ」
島田さんとはたまにシフトが被るパートのおばさんの事だ。基本的に温厚で親切な性格のため、従業員だけじゃなく客にも結構評判がいい。
(なるほど、さっき後ろで鳴ってた電話はそれか)
「…じゃあ俺とリサがバイトで練習行けないってことか」
「うん、そうなるね」
「店長2人分働かねーかな」
「あはは、いくらなんでもそれは無理でしょ…」
なんてこった。俺の献身的な行動など関係なく運命が決まっていたなんて。
まあ、決まってしまった物は仕方がない。潔く諦めて、俺は湊さんの方を向いた。
「えーっと、そういう事なんだけど…ごめん! 俺の場合勝手にバイト引き受けちゃったし」
「アタシもゴメン! 終わったら出来るだけ急いで行くから!」
「決まってしまった事は仕方がないわ。ただし、遅れた分は取り戻して貰うからそのつもりでいて」
「うん!」
「了解」
それだけ言って踵を返す。2人も休みが出たんだ。今頃店長が目を回しながら店を回すという器用なことをしているだろう。
その姿が簡単に想像できてしまったから、俺とリサはアイコンタクトだけ交わすと駆け足でコンビニへ向かったのだった。
○ ● ○ ●
いつもとは違う楽器の音がスタジオに響く。
張り詰めた声が、マイクを通して空気を震わせる。
演奏の為じゃない、惰性で続けられているだけのその音からは、疲労の色が感じられた。
練習を始めてからどのくらい時間が経っただろうか。もう随分長い時間続けている気がする。修哉とリサと別れた時から、私達の間には特に会話が生まれなかった。元々話が好きという性格ではないが、こうもあからさまに減ってしまうと違和感が残る。
今も、明らかに音の質が下がっている現状に、ただ喉を震わせる事しか出来ないでいた。
いつも笑顔のリサがいる右隣も、修哉が見ている正面も。広がる空間がひどく寂しく感じられて、それがなんだか落ち着かなくて。内心を誤魔化す為に、私は再び歌い始めた。
「あの! 友希那さん!」
「何?」
「そろそろ休憩にしませんかっ!? 時計、見てください!」
そう言われて時計を確認する。短針が6と7の間を指しており、かなり続けて練習していたことがわかった。
「結構時間経ってたわね。じゃあ、休憩にしましょうか」
「そうですね」
「はい……」
「「「「…………」」」」
途端に静かになったスタジオを、スタンドマイクから離れて定位置へ移動する。紗夜や燐子も続いてステージから降り、タオルで汗を拭っていた。
「修哉、水を───」
そこまで言って、呼びかけた先に誰もいない事に気づく。あるのはただ虚しく広がる防音壁のみで、私の声は意味を成さずに静かに溶けた。
(…ダメね)
自分の中に染み付いた当たり前の光景に首を振る。今は修哉もリサもいないのだ。頼ってばかりではいけない。
そもそも、いつから私はこうなったのだろうか。修哉と会うまでは、リサがRoseliaに加入するまでは、バンドを組んで活動する前までは、全て一人でやっていた筈だ。
スタジオの予約を入れ、音を流して歌い、休憩を入れ、時間が来れば片付けをする。最低限やらなければいけない事はなんだってやってきたつもりだし、出来るつもりでいた。
それが今はどうだろうか。少し環境が変わっただけで、どうしようもなく動けなくなっている。
「…はぁ」
つい、小さいため息が口から漏れる。すると、伏せ目がちな私の視界の端に一人の足が映り込んだ。
「あの、良かったら…みんなで外のカフェにいきませんか…? 甘い物でも…」
「りんりん、ナイスアイディア〜! 友希那さん、紗夜さん、みんなでいきましょうよ! ねっねっ!」
控えめに提案する燐子に乗るような形であこが声を上げる。
私は滴る汗を優しく拭い、先程取りに行った水を口に含んだ。感じたのは静寂と居心地の悪さ。普段はもっと賑やかなはずの休憩時間は、文字通りただ休むだけの時間と化していた。
だからだろうか。
「どうしてもっていうなら…」
普段なら反対するはずの提案に、自然と乗ってしまっていた。
そんなこんなでカフェテリア。
私達は適当な席に腰を下ろし、メニューを眺めながら何を注文するか相談していた。
「ん〜、何頼もうかな〜♪ あっ、今日のおすすめ、パイナップルジュースだって! おいしそう〜」
「何にしようかな……」
「湊さんは何にします?」
「そうね…ここのソフトクリームはコクがあっておいしいとリサが言っていたわ」
ふと、そんな事を思い出す。一緒に来たことはなかったが、それでもリサは楽しそうに私に話してくれていた。今度一緒に行こうと誘われたが、それもリサがいない今では意味を成さない。
「そうですか。では私は…このいちごのソフトクリームをいただきましょうか」
「あっ、それもおいしそう〜! う〜ん…悩むけど…あこはこっちのマンゴーソフトにしよ〜っと!」
自分の注文を決め、メニューから顔を上げたあこが「友希那さんとりんりんは?」と声をかけてくる。どうやら纏めて注文してくれるらしい。私には、いつもファミレスでリサがやっている役を代わっているように見えた。
内心で小さく微笑むと、私はホットコーヒーと抹茶ソフト、燐子はホットミルク頼む。私達の希望を聞き終えると、あこは元気よく席を立っていった。
すると、思い出したように追いついてきた沈黙が円形のテーブルに波紋を広げる。あまり自分から話すタイプではない3人が残った事が、この状況を助長していた。
どことなく視線を漂わせていると、隣の紗夜が口を開いた。
「みなさん、よくこのカフェに来るんですか?」
「私はたまに、くらいね。ここのカフェはスナック系も充実しているからいいわ。ドーナツとか、カリカリポテトがおいしいの」
「カリカリポテト…」
「わたしは…あこちゃんとよく来ます…。一息つくのに…ぴったりだから…」
「そうなのね」
「お待たせ〜っ!」
ちょうど話に区切りが付いたタイミングであこが戻ってくる。手に持ったお盆の上には、全員の注文したものが見えた。
「じゃあ…いっただっきまーす!」
「いただきます」
「いただきます…」
「いただきます」
声を上げてそれぞれが食べ始める。まず最初にコーヒーを飲もうとした私は、不意にカップに伸ばしていた手を止めた。
「…あら、砂糖がないわ」
「あれ、友希那さんコーヒーにお砂糖いりますか?」
「ええ、いつも入れているわ」
「分かりましたっ! すぐもらって来ますね!」
「いえ、自分で行くわ。どのくらいの量かまで分からないでしょう?」
「それもそうですね…。分かりました!」
残念そうな顔で座り直すあこを横目に、私は席を立ってカウンターまで歩いていく。頭に浮かぶのは何かが欠損した感覚。またもや当たり前になっていた事が綻んだ瞬間だった。
──修哉とリサ、早く来ないかしら。
瓶に入った角砂糖の山を眺めながら、そんな事を考えた。
● ○ ● ○
「あなたたち、リフレッシュできた?」
カフェテリアでの休憩を終え、再びスタジオに戻ってきた私たちは練習を再開しようとしていた。
「ええ、気分転換になりました。疲れているときに甘いものはいいですね」
「すっごくソフトクリーム美味しかったです〜!」
「みんなでカフェにいけて…良かったです…」
「それは良かったわ」
あくまで自分は違う、というニュアンスでそう返す。確かに燐子の言う通り、みんなでカフェに行けたのは良かった。こういう機会じゃないと、まず私たちは休憩時間にあそこには行かないだろう。
現に、活発的な修哉やリサがいる時でさえ行ったことがなかった。
だが、リフレッシュ出来たかと聞かれれば首を縦には振らないだろう。それどころかうちに募る想いは膨れていた。
「さぁ、練習に戻るわよ。残り時間も少ないから、あと2〜3曲で終わりだと思って。最後まで気を抜かないでいくわよ」
「「「はい!」」」
そしてドラムでリズムをとり演奏を開始する。響く音は確かに力を取り戻していて、休憩前とはまるで別物のように聴こえた。
「…じゃあ、今日の練習はここまでにするわ」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でした…」
その言葉と共にスタジオ内の空気が緩むのを感じる。ふぅ、と息を吐いてその場に黙る。同じようにみんなが黙ったのを感じたあとに、私ははっとして顔をあげた。
──まただ。
いつもはこの息抜きのタイミング。空気と共に気を緩めるタイミングで、修哉が指摘やアドバイスをしていた。先程あれだけ修哉はいないと実感したはずなのに、またもや私は気にしてしまっていた。
それはどうやらみんなも同じらしく、ステージ前方へ視線を漂わせた後、私の方へ向き直った。
「今日はそれぞれの音自体は良かったわ。でも、集中が切れて全体の調和が取れていなかった」
「私もそう思いました。集中力が切れたことについては…すいませんでした」
「いえ、気にしないで。私も少し、そうだったかもしれないから。あとは……」
久し振りに自分から意見を言ったせいか、うまく言葉が繋がらない。
いつもは修哉がいたから。修哉が私の歌を、私たちの音を真剣に聴いてくれていたから、歌うことに集中が出来ていた。
ついさっきまで修哉がいると思い込んでいた私は、無意識のうちに自分たちの音を聴くことを疎かにしていた。
──本当にダメね、私。頼りっぱなしだわ。ねぇ、修哉。
そっと心の中で名前を呼ぶも、当然声は返ってこない。変に感傷的になってしまっているせいで、僅かに悲しさが込み上げてきた。
「そろそろ終わりの時間ですが…片付けますか?」
「ほんとだー! もうこんな時間かぁ…。リサ姉と修哉さん、まだ来ないのかなぁ」
「まだ…来てない…みたい…」
燐子がスタジオの扉を眺めながら言葉を零す。結局、練習中に2人が来ることは無かった。だかそれはもう割り切り、せめて行動に移す。
「…仕方ないわ、片付けましょうか」
「そうですね。レンタルした機材の片付けは宇田川さんと白金さんにお願いしていかしら。マイクケーブルは私と湊さんで…」
「分かったわ」
指示を出す紗夜に従い、ケーブルを片付けるために移動する。だが足を前に出した瞬間何かが足に絡まり、私はそのまま倒れ込んだ。
「きゃあっ!」
「友希那さん!? 大丈夫ですか?」
「いたた……ごめんなさい、ギターのシールドが足に絡まって」
「湊さん、気をつけてください。って、床に何かこぼれてますよ!」
「あぁっ…すいません…! 休憩の時のホットミルク…持って来てたんです…」
倒れたミルクが床に広がっていく。それは次第に範囲を増していき、ついに機材やケーブルまで到達してしまった。
「機材にも飛び散っていますね。早く拭かないと壊れてしまいます!」
紗夜が声を上げる。それに加えあこもミルクの上で転んでしまい、状況はさらに悪化していく。
「っ、あなたたち、急いで片付けるわよ!」
「わたし…ハンカチとティッシュ持ってるから…使ってください…! ってあれ…ない…。ティッシュきれちゃってる…」
一度綻ぶと、どうも連鎖的に綻んでしまうらしい。拭くものもない、やる事が多くてなにから片付ければいいかも分からない。まさに手詰まりな状況に、僅かに諦観が滲み始める。
──その瞬間、背後の扉が音を立てて開け放たれた。
ということで今回はリサイベに修哉をぶち込んだ形になります。長くなりすぎたんで2話に分けました、許してください。
一応、この話の時系列は公園での一件から合宿までの間になってます。
ではまた次回!