モ チ べ が あ が っ て き た
「今日の練習はここまでにしましょう」
「お疲れ〜」
「お疲れ様でした」
「……お疲れ様でした……」
「お疲れ様でしたー!」
練習中の集中して研ぎ澄まされた空気はどこへやら、今は緩んだ空気が流れ始めている。
Roseliaの練習に参加し始めてから暫く経つ。だいぶ緊張も解け、放課後のこの時間が俺の日課になりつつあった。
「修哉もお疲れ様。今日も助かったわ」
「いいっていいって。俺は思った事を言ってるだけなんだし。むしろそれで湊さんの役に立ててるなら本望だよ」
そう言って俺も楽器の片付けを手伝う。だが、個人の楽器は俺が不用意に触れて壊してしまう危険があるため、主にコードを巻いたりマイクスタンドを端に寄せたりする程度だった。
「ねーねー友希那さん! この後またファミレス行きませんか? りんりんもいいよね?」
「私は構わないわ」
「……いいね、あこちゃん……」
「あこいいね〜! もちろん紗夜も行くよね?」
「ポテト大盛り半額だそうですよ?」
「ジャ、ジャンクフードなどに興味はありませんが、湊さんが行くなら……」
「あははー、紗夜ってば素直じゃないな〜」
「今井さん!」
後ろではそんな会話が繰り広げられている。
よくファミレスに行くのだろうか。宇田川さんの「また」というフレーズから今回が初めてじゃないということは推測できる。なんの推測だこれは。
しかし、こうして見るとやっぱり仲が良いなぁと思う。俺にはこんな感じで盛り上がれる友人が居なかったから余計だ。
大まかに片付けが終わり帰ろうとすると、視界の端でリサがこちらを見ている事に気が付いた。
「修哉はどうする? 一緒に行かない?」
「いや、俺はやめとく。5人で楽しんでよ」
「そっかー、残念」
「そうね……。私としては来て欲しかったのだけど」
「行きます」
「……え?」
「是非行かせてください」
「意見変わるのはやっ!?」
これは行くしかないだろ。湊さんが来て欲しいと言ってるんだぞ? 行かない理由がどこにある。湊さんのお願いなら例え川に溺れる事になっても石を取りに行くまである。この川ッ、深い……ッ!
とは言いつつも、若干湊さんが引いている。その隣にいる氷川さんは呆れた視線を、またまたその隣にいる宇田川さんと白金さんは「察した」と言わんばかりの表情を俺に向けていた。やめろ、察するな。
「あははー……。それじゃあ行こっか!」
「はーい!」
宇田川さんが元気よく返事をすると、一番先頭を歩き出した。みんなそれに追従するようについて行く。元気だなぁ、と思いながら俺はその最後尾の3歩後ろを歩き、ファミレスを目指した。
● ○ ● ○
現在、俺たちはテーブルの中央にドンと置かれているポテトの山をつまんでいた。
みんな気づいているのかいないのか、氷川さんが食べているポテトの割合が多い気がする。
ジャンクフード、好きなんだろうか。
「みんな他に何か頼む?」
「私はドリンクバーだけでいいわ」
「わ、私もドリンクバーで結構です」
「私も……ドリンクバーだけでいいです……」
「じゃああこはポテトもう一皿頼んじゃおーっ!」
「俺もドリンクバーでいいや」
「オッケー!」
慣れているのか、リサが手際よくみんなの注文を取り店員を呼ぶ。注文を終えると、各自席を立って飲み物を取りに行った。将来飲み会とかで幹事とか勤めてそうだな。
ジュースの入ったコップをテーブルに置き、再び座り直す。喉を潤すと、湊さんが口を開いた。
「次の新曲の事なんだけど、こんな感じの曲がいい、みたいな案はあるかしら」
「あこは、バーン! ドーン! ズバーン! って感じのカッコイイ曲がいいと思います!」
「宇田川さん、毎回それしか言ってないじゃない」
「えー、だってー! りんりーん!」
「……あこちゃん、頑張って……」
なるほど、普段ファミレスではこう言う話をしているのか。宇田川さんが擬音で伝えようとする中、氷川さんとリサは具体的な案を出している。
俺はただその話を聞いていた。あくまで俺の役割は練習中の指摘係だ。作曲にまで関わるのは踏み込み過ぎだろう。
コップに入っているジュースを飲み干すと、空になった容器を持って席を立った。
ドリンクバーの機械の前に来ると、何を飲もうかと悩み始めた。
こういう時ってやりたくなるよね、とりあえず全部のジュース混ぜるやつ。そして大体不味くて残す。でも残すって分かってるのにやっちゃうんだよなぁ。たまに美味いのできたりするし。俺の中では自販機の当たりと同レベルの現象になっていた。
結局2〜3分悩んだ挙句、コーラを入れる。美味いよね、コーラ。
席に戻ると、山になっていた一皿目のポテトがなくなっていた。その隣にはさっき注文していた二皿目がある。そして、それを恍惚の表情で眺める氷川さん。どれだけジャンクフード好きなんだろうこの人。
「遅かったわね」
「いやぁ、あの機械を目の前にすると何飲もうか悩むよね」
「分かる! 分かるよ修哉さん!」
立ち上がって同意する宇田川さん。リサも「うんうん」と軽く頷いている。湊さんと白金さんは「分からない……」と言った感じで首を傾げている。氷川さんは……うん。言わないでも伝わるだろう。
「改めてありがとう、修哉。あなたが来てから確実に練習の質が上がった気がするわ」
「そっか。でもまぁ、俺がしてることって言っちゃえばただの粗探しなんだけどね」
「それがありがたいんですよ。私達も演奏をしながらでは細かいところの修正が曖昧になってしまう時もあります。だから、聴きに徹してくれてる本街さんの存在はとても助かっているんです」
「紗夜の言う通りよ。だから、その……これからもよろしくお願いするわ」
そう言って湊さんは少し照れくさそうに微笑む。それを見ただけで、どうしようもなく心が温まる。
「こっ、こちらこそよろしく」
嬉しさのあまり若干声が裏返る。
気付けば、周りはニヤニヤしながら俺たちを見ていた。湊さんはそれに気づいていないらしく、飲み物を飲み始める。
くっそこいつら……。いつか絶対やり返してやる……! 精神的に!
嬉しさと同時に腹立たしくなってきて、周りに鋭い視線を向ける。だがそれすら面白がっているのか、表情を変えることがない。
結局、店を出るまでそれは密かに続いた。
● ○ ● ○
「いやー、今日も楽しかったね〜」
「そうね」
「楽しそうだったな。特にお前は」
「何のことかな〜?」
「覚えてろよマジで……」
「?」
ファミレスから出てみんなが解散する中、帰る方向が一緒のリサと湊さんと俺の3人で歩いていた。なんて偶然だ。
「この前まで冬だったのにもうすっかり春だねー」
「そうね。もう五月だもの」
「確かに。最近晴れすぎな気もするけどな。主にあのカーテン貫通してくる日差し。あったかいとか通り越して暑いからね」
他愛のない話をして並列で歩く。その際、ちゃんと車道側を歩くことを忘れない。さりげない行動が紳士的だと思うんです。
「そう言えばこの時期って遠足なかったっけ?」
「あー、あったあった。去年って確かどこかの川に行ったよね」
「かなり歩いたのを覚えているわ」
「今年は山らしいよ。確か担任がそんな事言ってた気がする」
「いやいや、プリント配られたでしょ」
「ここからかなり離れた場所に行くそうよ。麓までバスで移動するって書いてあったわ」
「何だそれ……。遠足っていうか山登りじゃん。まぁ楽そうだから良いけど」
さて、どうせ今年も単独行動になるんだろうな。俺の遠足。
楽しいから良いんだけど。むしろこういう機会じゃないと一人の楽しさを体験できないんじゃないだろうか。
てくてくと歩いていると、隣にいる湊さんが俺を見てきた。身長差があるため、自然と俺を見上げるような視線になる。な、何?
「分かってると思うけど、明日よ。遠足」
「……まじか」
知らなかったわー。もし今言ってくれて無かったら普通に登校して俺だけ置き去りだった。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。
湊さんが呆れた目で俺を見る。誤魔化しついでに無駄に上手い自信がある口笛を披露しながらそっぽを向いた。
「あ、俺家こっちだから。じゃ」
「じゃーねー! また明日〜」
「さようなら」
2人に背を向けて歩き出す。
平静を保っているように見えて実は速まっている鼓動に比例するように、俺は足早に家を目指した。
評価をあげてくださったてらけんさん、新たに評価してくださったハムスターさん、ありがとうございます!
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