我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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プロローグ
転生


俺は死んだ。

 

 

 

多分、きっと、Maybe。

 

 

原因は何かと振りかえれば、過剰な自己嫌悪というやつだろう。

 

ことの始まりは、推薦入試が終わり合格発表もされる十一月下旬、そろそろクリスマスなどの年末がやってくるという時期、俺が通う学校では季節外れの大掃除があったのだ。教室の床磨きをしながら、俺がポツリと漏らした一言

 

【「これどうやってとるんだ?」】

 

別に誰かに言ったわけじゃない。ただ、頭で考えていた事が口からこぼれただけに過ぎなかったんだ。愚痴を言う人間だってそうだろ? 頭で考えていた事がこぼれる事は無いか? だが、この言葉のせいで俺は最悪の結末を迎える事になった。

 

【「独り言言わないでくれる? 気持ち悪い」】

 

知ってるよ。そう思っただけだった。

 

小学校の頃から異性に『気持ち悪い』と言われ続けてきた俺は、それなりに悪口に耐性があると思っていた。現に今までは平気だったのだ。

 

言われ慣れているから言われたその瞬間は「勝手に言っておけ」と思うのだが、その後自己嫌悪で自らを過剰に傷付けてしまう事が多々あった。今回も、似たような結果になると踏んでいたのだ。

 

だから、家に帰るまでに自己嫌悪だなぁ・・・なんて軽く考えていた俺を殺したい。そんな事言っても無理だけど。

 

そして、その女子が発した言葉が原因で、誰から広まったか、誰がそんな事をしたのかなんて知らないが、次の時程に移る頃には『俺=気持ち悪い』という式が学年中に伝わっていた。

 

人というのはわざわざ言わなくても良いことを大っぴらに話したがる良く分からない生き物だ。結局、陰口にもなっていない悪口で、俺は貶された。

 

俺が自己嫌悪する理由は、自分に矛先を向けるしかたまったストレスの発散方法が無いから。俺は臆病者だし、勇気を持って踏み出そうとか本気でわけ分からんと思っている人間だし、集団心理で弾き者にされる存在だ。

 

そして、自転車に乗って帰宅するいつもの帰り道。自己嫌悪と同時に社会に対する不平不満を表に出しながら帰っていたんだ。そんな、最期に見た光景は突然視界が横にずれ、そのまま倒れるようにぶれた景色で途絶えている。

 

多分、轢かれたんだ。乗用車か転生トラックか。詳しい事なんて分からないけれど、よく見る突然やってきた車に轢かれて、地面に叩き付けられてしまったのだろう。

 

ま、とどのつまり俺は死んだんだと思う。

 

俺が今いるここは、小説なんかでよく見るテンプレ的な真っ白空間では無く、五メートルほどの高い天井にピッタリとはまった本棚にビッシリと本が詰められたそれが、三階積み上がったその空間の二階のテラス部分である。天窓からは青い空が見え、草の匂いも漂ってくる。死んだとか言ってみているが、もしかしたら外国にいるのかもしれない。もしその場合どうやって来たのかとんと見当がつかないが

 

そして先程から、俺の話というか長い長い脳内描写をいやな顔一つせずに聞いてくれているのが、現在そのテラスにある司書席に腰かけ、本を開いて申し訳なさそうな顔をした同じ年齢ほどの見た目の少女だった。

 

 

「・・・・・・えっと」

 

「そう。君は死んだんだ。全く予定外の時期にね」

 

 

やはりか、やはり俺は死んだのか。

 

 

「・・・それって」

 

「ああ。君達の創作話でよく見るこちら側のミスではないよ。そもそも神は人間には最低限の関与しかしない。というか、神様の仕事というのはとても多くてとても少ないんだ。───ただ話を聞くだけなんて学生である君は死ぬほどやってきただろう。退屈しないように質問などを混ぜながら説明していこう。まず君は、神様を信じるかい?」

 

「いたら良いな。位です」

 

「それでも結構。神って言うのは存在しているようでしていない。そこにいるかどうかすら分からないから神なんだ。だから、人は目に見えるように想像で神の姿を形作った。神頼みも必ず効くわけが無い。効くのは小さな願い。それも、自分が一歩踏み出せば叶う願いぐらいなものだ。───君はその勇気がないと言った。なら何故神頼みしなかった?」

 

「分かりません。強いて言うのであれば、“神”なんてものに頼るより自分で何とかしたかった。ってところでしょう」

 

「その心持ちは結構。そして君が気になっているであろう“私”は君達の言葉で言うなら“魂の管理者”“生の読者”だ」

 

「?」

 

 

管理者? 読者? 神じゃ無いのに? え? どういう事だ?

 

 

「分かってないって顔だね。ここにある本はぜーんぶ、君に関する事ばかりだ」

 

「・・・・・・は?」

 

「君という命が生まれてから今まで、何をし何を考えそれが周りにどんな影響を及ぼしたか。全てがここにつまっている。ちなみに君が中学校の頃書いたお話も載ってるけど読む?」

 

「それは所謂黒歴史ですのでやめてもらいたい・・・です」

 

 

なんであるんだよ! 全部消したはずだろ!

 

 

「そして私は君の担当だ。君が君の母親の胎内で細胞分裂を始めた瞬間から、本は綴られ始めた。私はそれに連れて増えていく、大きくなっていく図書館にそれを片付けるのがお仕事だ。ああ、そうだ。気分が悪くなった時は外に出ると言い。一番君が安心出来る景色・・・というか、君の心象風景がそこにはある」

 

「自然豊かな・・・草原・・・?」

 

 

窓から見えた景色はそんなものだった。

 

 

「ちょっと遠くに行けば湖もあるよ。川もある。君の根底にあるのは誰かに対する優しさだ。それが表に出せない分、ここは動物すら住んでいる場所になっている。こんな心象風景を持つ人間はそういないんじゃないかな。私は他の人の事は知らないけど。何て言ったって君の事ばかり見てきたからね」

 

「・・・そう言われると、ちょっと照れますね。そういえば、予定外の時期に死んだって言ってましたけど、それは一体どういう事で?」

 

「大まかに、だけどね。君の人生は確定しているんだ。魂の管理者って言っただろ? 君の精神にはある程度この人間はこんな人生を送るよーって言うのが書かれている。私達はそれを読んで、前に進めるように後押しするんだ」

 

「?」

 

「嫌な記憶のページを破ってみたり、インクで塗り潰してみたりね」

 

「そんな事して大丈夫なのかよ・・・」

 

「大丈夫。人間の記憶ってのは案外時間が経ってもぼんやりと出てくるだろ? 破れないし塗り潰せない。数年経ったら元に戻っちゃう。それでも、その時だけ前を向いて進む事は出来るだろ? 私は何度かそうやってきた。だけど、君は何故か死んでしまった。誰の人生が君の死に大きく関係してきたのかは私にも知らない。分からないんだ。でも、歩んでいた未来は大まかに話す事は出来るけど、聞きたい?」

 

「あ、はい。まぁ・・・」

 

「じゃあ、君は大学生活で運命の女性に出会う」

 

「・・・行けてねーよ!」

 

 

んだよそれ! 後数ヶ月じゃん! 後数ヶ月でリア充化していたんじゃねーかッ! 何故死んだし俺っ!

 

 

「そ。だから・・・その女性は結婚出来ない」

 

「え、何それ」

 

「冗談。向こうの女性の方の管理者が上手い事軌道修正してくれるって」

 

「は、はは」

 

「孫に囲まれて幸せな死を。人並みに君が願った願いだ。今なら何を望む?」

 

「強さと・・・勇気と・・・新しい生を」

 

「・・・へぇ、良いね! 神様転生って奴だ! 二次創作で有名なヤツだね! 私もそれはしてみたかった! 魂の管理者舐めるなよ!」

 

 

陽気なヤツ。ま、表面上楽観的に取り繕うのは俺も得意だけどね。

 

 

「で。転生とかする場合俺はどうしたら良いわけ? なんか特典とかもらえるの?」

 

「・・・さっきも言ったと思うけど、私はキミと共に生き、キミを見守るだけの存在だ。過干渉はできない」

 

「つまり?」

 

「私からキミに転生特典を付与するなんて事はできないって事さ」

 

「なんでさ!」

 

 

なんでさ。なんでさ。な・な・な なんでさ。

 

 

「まぁまぁ。士郎ラップは置いておいて、特殊なものを上げることはできるよ」

 

「どーやって」

 

「疑り深い目をしてるなー。安心しなって。さっき言っただろー? ここにはキミの事を記した書物がいっぱいある。だったらそれを書き替えてやれば良い」

 

「初期設定から弄って自分の良いように変えるって事か?」

 

「身も蓋もない言い方をすればね」

 

「それじゃあアレか? 設定さえ弄れば誰でも『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』とか『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』とかを身に付けて、所謂チート! とかが出来るって言うのか?」

 

「あー。それは難しいと思うよ。『王の財宝』は知っての通り、英雄王ギルガメッシュが集めた財だし、『無限の剣製』は衛宮士郎の心象風景。例えばキミが固有結界を発動させたところで、この自然が広がるだけさ」

 

 

納得。他人の者を自分のものにはできないって事だな。じゃあどうすればいいか。

 

 

「そう。キミのお得意の分野だ。想像力を働かせて、キミの来世を決めると良い。誰も持ったことのない、前例のない。アッと驚くようなキミだけの能力をさ」

 

 

それなら、一つだけある。あるんだよ。俺が昔からずっとほしかったものが。

「決まったら書いてね」と、渡された俺のキャラクター設定の紙に干渉し、書き替えた。

 

 

名前:□□ □□ 如月 奏音

 

性格:『無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)

 

特典:『強欲の魔道書』(仮称)

 

 

「・・・どうよ」

 

「アイディアは上々。流石だね。想像力だけは豊かだ」

 

「そこはかとなくっつーか、普通に馬鹿にしてるな?」

 

「無限の欲望って、ジェイル・スカリエッティのことかい?」

 

「残念ながら違うさ。集めたいものを集めるためには手段を選ばない。集めるためには無茶な近道でもありえない遠回りでもする。そういう欲深さを表す単語がそれしかなかっただけだよ」

 

「この強欲の魔道書ってのは? 大罪のこと?」

 

「そっちじゃないよ。天上天下森羅万象。人間の叡智から自然の万物にいたるまで、際限なく文字通り蒐集してしまえる魔道書さ。蒐集したものは限りなく本物に近い複製品として取り出せて、生命があるものは複製はできないが蒐集はできるほうがいいな」

 

「キミの中で強欲の魔道書がそういう設定なら、ついてくるよ」

 

「どこの世界に、とかあるのか?」

 

「ないね。運任せ。それこそ全く知らない土地に生み出されて名前も周りの環境も違うのにキャラクターと同じ人生を歩まされるかもしれない」

 

「・・・・・・。狙った世界に、とかじゃあねえのか」

 

「どうしたんだい? 行きたい世界でもあった?」

 

「あぁ・・・。まあな」

 

「どこだい? どこだい?」

 

 

ウザっ。ま、こういう関係は好きだけどな。

 

 

「リリカルなのはだよ」

 

「転生の大道じゃん!」

 

「ロストロギアを全部蒐集したい」

 

「そしてヒロインとは全く関わりのない宣言!?」

 

「当たり前だろ? 俺はもし転生する場所を俺以外の誰かが決めて、生まれ変わらせてくれる場合だったなら『原作がある世界ならば、始まる数千年前に誕生させてもらえると嬉しいです』とか言ってたぜ」

 

「原作主人公達に関わる気ゼロだねぇ」

 

「・・・いやいや。流石に関わるよ。原作の登場人物からも集めたいじゃねぇか」

 

「最小限に留めるだろう?」

 

「必要以上には関わらないさ。物語はそこでできてる。いくら平行世界だとしても崩したくはないからな」

 

「そろそろ時間だ。この建物から出ればキミが転生できるようにした。私はここで綴られていく新たな物語を眺めておくよ。良い人生を」

 

「あいよ」

 

「もうここに来ないようにね」

 

「そんな遠回しに死ぬなって言われたのは初めてだ」

 

 

そんな事を言いながら俺はドアを開け放ったのだった。




強欲の魔道書(仮)

対象がなんであろうと本の中にある異空間に蒐集してしまう魔道書。生命体以外のものは本物と見分けがつかないほどの複製品を無限に作成可能。魔力などは消費しない。
性能的には王の財宝+無限の剣製。
ただし使用者にはなんの反映も与えられない。

要するに超高性能な外付けHDDである。

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