我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:虹彩異色の転生者


009

少女。

 

そう聞いて、大多数の人間が一体どんな人物を想像するだろうか。

 

一般的に少女といえば7歳から18歳前後の「女の子」を想像するだろう。ちなみに「幼女」は満1歳から小学校3年生(満8歳~9歳くらい)までだ。

 

そのくらいの歳の子といえば愛らしかったり憎らしかったりはするものの、普遍的に可愛らしいものであり、親からすれば愛情を注いで育てる存在である。他人からすればその憎らしさが、苛立ちの原因となったりするのかもしれない。

 

しかし、小学生くらいの少女は総じて、周囲の大人──教師や近所の大人を含む、から可愛がられて成長するものである。

 

かといって、一般論だからお前にとってもそうなのだろう。とそう思われても、こちらからしてみればいい迷惑である。

 

今現在相対している少女は、そういうものではなかった。

 

可憐ではあるものの、将来的に極太の破壊光線と放ち、ラスボスとまで称される少女なのである。未だ小学一年生である彼女をそこまで恐れるのもどうかと思うかもしれないが、ラスボスの片鱗を見せるのが小学三年生の時なので対応を間違えてはいない。

 

と思う。

 

 

そもそも、何故こんな事──日曜日の午前中からラスボスとエンカウントする事になっているのかといえば、藤見町商店街にあるとある喫茶店でバイトを始めたので向かう途中、彼女の視界に映ってしまったのだ。

 

視界に映っただけでこのような状態になるのであれば、今後こういった事が無いように気を付けて町を移動しなければならない。

 

ああ、そうだ。

 

各々予想はしていたかもしれないけれど、彼女の名前を伝えていなかった。

 

君達の予想通りだと言えよう。なのはちゃんである。

 

その彼女は、街中で突然。

 

 

「あ! お兄さんだ!」

 

 

と声を上げて、駆け寄ってきた。

 

それだけならばまだ良かったのだ。近所に住む、血の繋がりはないにしろ、仲の良い兄妹のように過ごしている二人。というエロ漫画にありがちな設定ではあるものの、実在してもおかしくないように周りからは見えただろうから。

 

その後は、少しばかりの世間話をした。

 

なのはちゃんが卒園して、入学してからは、めっきり会うことがなかったので、話したいことがいっぱいあったのだろう、身振り手振りまで使って沢山の事を伝えようとしてくれた。

 

しかし、個人的におかしいなと思い出したのは、なのはちゃんの話題が尽きず、こちらの時間がなくなってバイトに遅れそうだと話を切り上げようとしたときだった。

 

 

「あ、お兄さん。お時間があればこの辺でお茶でもどうですか?」

 

「・・・・・・いや、俺このあと用事があるから。話が出来ないんだけど」

 

 

ナンパかと思うほど自然な流れで、お茶に誘われたのである。二年ほどの家庭教師で身に付けた語彙が変な場所で活用されていて、若干の草を禁じえない。

 

 

「えー。どんな用事ですか?」

 

「バイトだよ。休むわけにはいかないんだ」

 

「・・・ついていってもいいですか?」

 

「・・・面白みはないと思うけど」

 

 

実際、働く人間を見て愉悦するのは過酷な肉体労働の場合のみであろう。そうやって必死に頑張っている人間を見て、人類は笑うことを昔の王族がよく示してくれている。

 

 

「まあ、行こうか」

 

「はい!」

 

 

なのはちゃんと連れ立って、藤見町商店街を歩く。

 

少しすれば、目的地である喫茶店が見えてきた。

 

 

「いらっしゃい。・・・ああ」

 

「その客じゃないのかみたいな顔やめてください」

 

「着替えておいで」

 

「ウイッス」

 

 

なのはちゃんを店内に残して、バックヤードで制服に着替えて店内に戻れば、喫茶店を訪れている客は居ないわけではないのだが、一見すればいないように見えるほどまばらに居て、時間が有り余っている店員と一対一で世間話に興じていた。

 

そうすると、連れてきたお客様──なのはちゃんと向かい合うことになるのは必然でもあったわけだ。

 

結果として、喫茶店に客が来ないことが、原因の一端を担っていると言っても過言ではない。むしろまだ足りないのかもしれない。

 

 

「お兄さん。どうかしました?」

 

「いや、どうもしないよ」

 

 

喫茶店だというのに、こんな調子で良いのかとも思うが、店主が常連を大事にするタイプなので文句の良いようもない。

 

 

午前中いっぱい喫茶店でバイトという名の、なのはちゃんとのおしゃべりを終えて、帰路につこうと思った矢先、そういえばと、なのはちゃんを家まで送っていくことにした。

 

小学生女子の一年ほど溜まったお話しを聞きながら、いつもより長く感じる商店街を抜ける。学校で授業を受けて居るときはこんな感じだっただろうか。もう良く覚えていない。でも、なんとなくこんな感じで時間の流れが遅く感じてしまった気がする。

 

商店街を抜けて少しした辺りで、唐突に、そのイベントは発生した。

 

 

「おい、雑種。俺の嫁に手を出す事の意味、分かっているんだろうな?」

 

「・・・?」

 

「ゲッ」

 

 

なのはちゃんが女の子が人前で出してはいけない、潰れたカエルのような呻き声を出して顔を歪めたのは、銀髪に小学生にしては異常に整った顔立ちに、赤と青のオッドアイの少年が現れたからだった。

 

っていうか、正直気持ち悪いとしか思えないんだけど。

 

 

「中田君。わたしはあなたのお嫁さんじゃないって、何度も言ってるの! ・・・君は一体、何度言ったら分かってくれるの?」

 

「ふっ。なのは、人前だから恥ずかしがるのも分かるが、そんな事をする必要はない。もっと堂々としても良いんだ」

 

「そんな事をしたくもないし、そもそも君と二人っきりになんてなりたくないんだけど・・・」

 

「相変らず素直じゃないなぁ。なのはは」

 

 

中田君という見た目に似合わず、意外と普通に日本人の苗字をしている少年は、言語前向き変換機能でも持っているのか、なのはちゃんの科白を悉くポジティブ変換している。

 

あれ結構ウザいヤツだ。

 

ああいう手合いの生き物は、最初に解析をかけておく方が良い。と言うわけで根源という名の金色のレコード──形だけアカシックレコードによせたもの、から情報を抜き出すことにする。

 

 

ふみだいてんせいしゃ【踏(み)台転生者】㈴アンチをネタにした作品に登場することが多いオリジナルキャラクターのこと。オリ主が原作ヒロインから好意を得ていると敵に回り攻撃してくる場合が多い。

原作キャラクターのアンチをせずに、オリ主万歳をするための舞台装置。

その演出のため下記の要素を持つことが多い。

 

・銀髪・オッドアイ

・型月系列の能力

・ニコポ・ナデポ

・面識のない原作ヒロインに対する「○○は俺の嫁」などの痛い発言

・ハーレム願望

・原作男性キャラクターへの過度なアンチ

 

 

情報を抜いてきたら、一番正しい情報でこんなものが出てきて吃驚している。容姿と発言は一致しているけれど、誰かの踏み台っていうことか。

 

少なくとも、如月奏音という存在の踏み台ではないだろう。彼のような小学生を今更踏み台にして目立つ必要性は全く感じない。というか、舞台装置という言い方が、少し鼻につく。

 

いつだったか舞台装置という意味では、似ているようで全く違う、悪夢のような絶望と戦ったことがあるから、踏み台とは思えないのだろうか。結局言ってしまえば今更こんな雑魚に構っていられるか、みたいな三下ムーヴになってしまう。

 

となると、彼が踏み台として活躍するためのオリシュなのかオリヌシなのかその辺はどっちでも良いとして、そういう存在がいるということなのだろう。

 

そんな事より、原作キャラクターということは、この世界の主要キャラクターもしくはモブでも可愛い子ならばとにかく口説くという最悪の人種と言うことだろう。

 

人の気持ちには機敏になっておいた方が良い。せめてサーモセンサーくらいは積んでおかないと、人の気持ちに気付かないと、ただの最低野郎になってしまう。

 

 

《ここまで見事なブーメランは久しぶりに見たのう》

 

《どの辺りがブーメラン?》

 

《自分で考えよ》

 

 

分からないから聞いているのに、放任主義とは。忍も新しいことをしてくるものだ。

 

そんな事をやっていたら、中田君に絡まれてしまった。

 

 

「おい、雑種。貴様、我のなのはに何をしていた」

 

「何も。ただ家に送ってあげようと思ってね」

 

「ストーカーか!」

 

 

海鳴のマップは全て把握しているというのに、この子の家を知るために今更付きまとう意味が分からない。

 

 

「流石になのはちゃんが迷惑するようなことはしないよ」

 

 

君と違って。という嫌味は呑み込んでおく。煽ってしまえば一気に爆発しかねない、下手な爆弾よりも恐ろしい起爆剤がそこにはあった。

 

 

「中田君。わたしはお兄さんと帰るから中田君も早く帰るといいの」

 

「なのはが俺にそんな事を言うはずがない。貴様が脅しているのか!」

 

「え? 全然」

 

 

全と然の間に小さなつが入るくらい、全然を強調してみたのだが、この厄介な相手にはその手は効かないらしい。

 

 

「おのれ! なのはを返してもらう! 俺と勝負しろ!」

 

「勝負?」

 

「お兄さんが負けるはずがないの!」

 

「自分に都合の良い解釈まで・・・! 許さん!」

 

 

何か勝手に盛り上がっているが、脅しどころかそういう約束すらもしていない現状で、ようやく気付いたのは、彼は前向き変換機能がついているのではなく、自己都合解釈機能がついているようだ。

 

そうやってメンタルを保っているのだろうか。なんか、悲しい転生者である。

 

 

戦うのであればということで、簡易的な結界作成用の礼装を取り出した。

 

 

「・・・なのはちゃんもいるの?」

 

「うん」

 

「俺の勇姿を見届けてくれ」

 

「やだ」

 

 

流石に街中ではどうかと思ったので、近くの公園に移動して、英霊達が暴れても問題ない性能の結界を構築した。

 

 

「一応、これで周りの被害はないとは思うけど」

 

「死ねっ」

 

「は?」

 

 

突然、生命活動を停止するよう命令されて、呆けながらも顔を上げれば、そこには見たことのある黄金の波紋が、中田少年の命令で開いていた。

 

型月系列の能力に関しても合格である。

 

彼はとことん踏み台転生者らしい。

 

 

「消えろっ雑種ぅぅぅ!!」

 

 

王の財宝から放たれる、英雄王より狙いがつけられていない、ただ撃っただけの宝具の雨が降り注いでくる。そんな様子だから、当然見切る見切れないの話ではなく、穴だらけの宝具の雨、その穴に身体を持っていけば自然と躱すことが出来た。

 

そもそも雨にもなっていなかったのだけれど。表現として、雨が一番適切だった。何故か自分の語彙力の無さをこんな時に痛感することになるとは思わなかった。

 

傘を差さなくても、全く濡れることがない雨って何なんだろうと、ふと考えてみる。やはり今の攻撃は雨ではなかったのでは無いだろうか。

 

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)・・・ギルガメッシュの宝具を何でお前がもってる?」

 

「! 知っているって事は・・・テメェも転生者か!」

 

「・・・・・・いや」

 

 

その通りではあるけれど、本人が存在する可能性を微塵も考えていないのは、視野が狭いのか、思い込みが激しいのか。恐らく後者だろう。

 

 

「チッ。って事はやっぱりなのは狙いか! 死ね!」

 

「・・・・・・」

 

 

際限なく放たれる宝具だが、その着弾地点がゲームのように表示されているとしたら、穴だらけでこの武器ゴミだなと、言われること請け合いだ。

 

躱すことは至って簡単で、もはや単純作業と言っても過言ではないので、欠伸をかみ殺しながら宝具を避け続ける。

 

 

「チッ! 避けてんじゃねぇ! いい加減当たれ!」

 

「いや、当たったら死ぬだろ・・・?」

 

「死ね!」

 

 

どうやら敵が言い返してくるのも腹立たしいらしく、声を荒げて砲門の数を増やし始めた。どうやら、自分の周り全てが思い通りにならなければ、腹が立つらしい。そんなこと、あるはずもないのに。

 

似ているとは言いたくはないけれど、傲慢であることは否定できない身分として、先人らしく知恵を授けるとすれば、

 

たった一度の人生の、全てが上手く行くはずがない。

 

人生にセーブ機能なんてあるはずがない。もしそんなものがこの世に存在する生命体にあるとすれば、それはどんな世界の認知をも超えた存在か、そんな訳の分からない存在から恩恵を受けている存在だけである。

 

 

「雑魚は消えろ! 俺以外の、他の転生者なんてっ! いらねぇんだよッ!! 踏み台になって消えろ!!」

 

「・・・残念。君のようなガキンチョに、この俺以上の地位は与えられない」

 

 

気に入らないことがあればすぐに癇癪を起こす子どもに、世界の管理を任せるわけにはいかない。これでも一応惑星の管理人になのだから。

 

 

「大人しく死ねよ!!!」

 

 

そんな事を言われて素直に頷く奴がいると思っているのだろうか。転生時に常識と倫理観をなくしてしまったのか。

 

 

「【───世界を内に秘めし書よ。あるべき姿を我の前に示せ。契約のもと、奏音が命じる。封印解除(レリーズ)──!】」

 

 

蒐集書を十全に使うことが出来ないように、意図的に仕掛けておいた拘束術式の解除をして、蒐集物の高速召喚、射出召喚等といった蒐集書の力、その七割を解放する。

 

 

「いい加減にしろよ、小童。貴様のような若造よりこっちは何年も長く生きてるんだ。今その体に、年期の違いってのを叩き込んでやる」

 

「うるさい死ね!」

 

 

最終的に小学生の喧嘩のような、幼稚な悪口が飛び出してきたが、全て無視して手元に一本の刀を召喚する。

 

血の奥底で燃えさかる焔を映す白銀の刀身。とある事件における、起承転結で言えば転の部分で阿鼻地獄に落ちたときに、興味があったので拾ってきたその銘も【獄炎武雷】。地獄の焔によって鍛え上げられた刀である。

 

であるが、今回召喚したそれは、刃を潰した刃引きであり、切ることは決して出来ないが、刀という形状の以上片手での取り回しは利きやすい上に、人を脅すときにも使いやすい。

 

 

「フハハハハ! 何だそれ! この俺に、そんなナマクラ刀一本で挑むなんて、馬鹿の極みだな! 開け! 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)よ!」

 

「・・・残念だけど、その中身。全部知ってるんだ」

 

「死ね! 消えろ!」

 

 

地面を蹴って距離を詰める。元々そんなに開いては居なかったため、それ自体は難しいものではなかった。大人の歩幅とこどもの歩幅の違いの時点で、普通の鬼ごっこだって気を遣うというのに。

 

そんな気遣いなど一切なく。大人の全力で距離を詰め、刀の力を見せるために、彼が全ての信頼を寄せる、王の財宝を、当たるはずのないものまで切り落とす。

 

 

「なっ!? あ、有り得ない! な、何なんだよ! お前はっ!」

 

「知る必要はないぞ、小童。どうせお前は全て忘れる」

 

「はぁ?!」

 

 

刀を突きつけ、行動を制限した状態で、更に多数の武器を射出召喚。中田少年を地面に縫い付けて完全に余計な行動を取れないようにする。

 

 

「なっ、何すんだよ! 離せ! 殺すぞ!」

 

「やれるなら、やってみろ。その状態で凄んでも何も怖くない」

 

 

苦し紛れ、ではないとは思うが開いた黄金の波紋の中へ、白銀に色を変えた対神兵装が入り込み、中の宝具を絡め取り、射出不能にしておいた。

 

 

「安心しろ、何も問題はない。()()()

 

 

完全に行動を封じた上で、中田少年の目を覗き込んでそう言った。

 

それが、この勝負の決着だった。

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