我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:降注ぐ宝石の種


なのはジュエル
001


桜が散り始めた四月の頭に、新学期が始まり裏口入学を疑われるほどの難関試験──といってもカルデアに所属しているまたは、いたことがある人にとってはとても簡単だったものを乗り越えて、始まった大学生活一年目。

 

本来は高校に通う予定だったのだが、弟妹との年齢差を考えて大学に行けと言われたので、特に文句を言う必要もなかったので、二つ返事で頷いて管理下の大学に籍だけ置くことになったのだ。

 

たまに顔を出して授業を受けることもあるが、そもそも学歴関係なく既に職に就いているのだから、形だけで周りも文句を言うはずがない。

 

ただ、受けてみたい授業もあるので、時々顔を出すことはあると思う。

 

 

さて、大学に入学すれば、当然周りもそれに会わせて進学する。

 

この間小学校に入学したと思っていたイリヤ達も、すでに小学五年生になり、時が経つのは早いと、改めて感じて年寄りのような思考回路に自分がなってしまっていることに驚き、思わず黄昏れそうになった。

 

夜中、中庭に面した縁側で、何も考えずにただ空を眺めていたときだった。

 

 

「ん」

 

 

ふと気付けば、どこからともなく流れ星のような何かが空から降注いでいた。といっても、摩擦で炎上する物体が放つ光を肉眼で視認したわけではなく、空を流れるように魔力を持った物体が、飛来しているのを感知しただけだった。

 

体内に打ちこまれたナノマシンを使って、中央管制室に通信を繋ぐ。この通信方法の場合、声に出さなくても思ったことを相手に伝える念話方式も使えるが、聞かれて困る会話でもないし、なおかつ自分の家の中なので、声を出して会話をする。

 

 

「・・・管制室。あの魔力反応は何だ?」

 

『既に観測は開始してるよ』

 

『大まかな数で二十程。形状は菱形、植物の種子のような形をしてる』

 

「二十・・・落下地点は?」

 

 

縁側から立ち上がり、中央管制室に向かうために邸宅内を歩く。

 

 

『そっちは現在捜索中。随時、情報を送ろうか?』

 

「送るのは俺じゃない。百貌と忍に声をかけて捜索・回収隊を作れ。情報はそっちに回せ」

 

『了解!』

 

 

襖を開けて、中に設置された和室にはあまり合っていないようにも見えるエレベーターを使って、地下に降りていく。

 

 

「研究室。回収したものの解析は任せるぞ」

 

『アハァ。りょーかいです』

 

「それと、一部はこっちにも回してくれよ?」

 

『え!?』

 

「なにが、え!? なんだ?」

 

 

意味不明なものを渡したくない、というか預けたくないと思われる程、突拍子もないことをしてきた記憶も記録も、周りの認識にも気付いてはいるけれど、一応確認は必要だろうとそう思っての質問だったのだが。

 

 

『何がじゃないよ! 君に正体不明の何かしらなんて渡してたまるものか! 後から正体が分かって、わぁ大変なんてこれ以上あってたまるか!』

 

 

ああ、そんなこともあったなぁ。

 

少し前のとある事件の折を思い出して、仲間達が混乱というか混沌として、暫くの間活動不能になったことがあった。

 

ただ、しっかりと「責はお前にある」と言ってくれたあいつには、具体的には言いはしないが、少しばかりの何かしらが必要だろう。

 

 

「わかった。欲しけりゃ自分で手に入れるよ。それが俺の流儀だからな」

 

『うーん。それもそれで・・・』

 

「──とにかく、あの莫大な魔力反応を何とかするのが、今の俺達の役割だ」

 

 

管制室について、周りの人にも指示を出す。

 

 

「さて、回収隊は既に派遣してあるか?」

 

「もちろんです」

 

「捜索状況は?」

 

「対象の魔力反応が極めて微弱になりました。どうやら地上に着いた瞬間霧散したようです」

 

 

空気抵抗による摩擦の軽減から、自らを保護するために展開していた障壁だとでもいうのだろうか。となると、単体である程度思考し、活動することが出来る物質だと考えていい。

 

 

「つまり、捜索は難航していると?」

 

「はい」

 

「大まかにどの辺りに落ちたかの予想は出来るか?」

 

「お任せください」

 

「よし、その予想地点を中心に探すように部隊に連絡。今夜中に、被害を最小限に抑えられるだけ抑えるためにより多くのブツを回収しろ」

 

「了解!」

 

 

管理を任されるものとして、この土地に何かしらの被害を出させるわけにはいかないのだ。

 

 

「そういえば、明日は授業参観日だろう。準備は良いのかい?」

 

「あっ・・・」

 

 

いや、別に用意をしていなかった。とかではなく、ただ面倒なことを思い出した、という溜め息を含んだ諦めの一言である。

 

小学生組の授業参観が明日ある。授業参観、つまりは子ども達の成長を見守る彼等の保護者に任せておけばいいと思うのだが、今までの五年間任せていたら、子ども達は学校で保護者の行動に顔を赤くしているらしい。

 

具体的な内容はあまり聞いていないのだが、子どもが周りに「あれが自分の親」として知られたくない行動なのか、彼等なりの周囲とは違う感性で見て恥ずかしいと思う行動なのか、その辺りは全く分からないのだが、とにかく来ないで欲しいらしい。

 

周りの人は気にしていないらしいので、気にしなくても良いと思うのだが、年に数回あるその日が来る度に、絶対に来ないでと保護者に言う子ども達を見ていれば、何とかしてやりたいと思うのは当然のことだと思う。

 

というわけで、比較的まともな大人達を、今回は親が来られないのでというような理由で送り出すことにしたのだが、イリヤとクロエの授業に出ると言って聞かないいーちゃんを、参観に出るシロウと一緒に止めていたのだが、何故か一緒に参観することになってしまった。

 

髪色を兄弟に見えるように同じ色に染めて。染めると言っても魔術的に幻覚を見せるだけなので、髪質的には問題なのだが、気分的に数百年連れ添った髪を染めるのはなぁ・・・。顔立ち全部変えるのとはまた違うんだ。

 

 

「えっと、じゃあ任せても良いか?」

 

「ああ。こっちは任せてくれ!」

 

 

管制室を後にして、自室に帰って現実逃避気味に就寝した。

 

あー、嫌だな。

 

 

「──お兄ちゃん! さぁ、起きなさい!」

 

 

いつの間にか朝が来ていたようだ。

 

何故、朝というものはこうも突然に訪れるのだろうか。さっき眠りについたと思ったのだが、気付けばというか一瞬にして朝が来ていた。

 

 

「・・・おはよう。いーちゃん、今何時?」

 

「六時半よ!」

 

「そっか」

 

 

愚痴っていても事実は変わらないので、朝が来たというのであれば、しっかりと起きてやれることをやろうと思う。

 

顔を洗って、口をゆすいで。朝食を食べてから歯を磨いて。時間が来るまで家の用事や、大学の気になる講義などに顔を出してから、家に帰る。そして、服を私服から軽いドレスコードならクリアできる格好に着替えて、頭髪を魔術を使って銀色に染め上げた。

 

 

「お兄ちゃんできた~? おぉ・・・」

 

「ん?」

 

「すき・・・すき・・・すきぃ」

 

「限界オタクみたいになってるぞ」

 

 

具体的な限界オタクを知っているわけではないが、語彙がなくなって同じ事しか言えなくなっているという点で、限界オタクのようだと思った。

 

 

「さて、そろそろいくかね?」

 

「ああ。他のメンバーはもう向かってるのか?」

 

「ええ。それぞれ別々ではあるけどすでに向かってるわ」

 

 

家族ではなく、兄弟のように三人で小学校に向かう道すがら、昨日のことを思い出した。

 

そういえば、あれはどうなっただろうか。後で通信を繋いでみよう。

 

 

「私が授業を受けてるのを見るのは久しぶりね」

 

「前に見たことが?」

 

「ええ。あの子がまだ魔法少女になる前にね」

 

 

そう言えば、そんな事もあったな。イリヤとクロエの精神に莫大な影響を与えた上で、自らの肉体を用意して彼女達のいざこざから逃げ出したんだったか。傍迷惑にもほどがあっただろうな。

 

 

「ほう。文字通り普通の小学生だったときか」

 

「相変らず家族が好きなのねシロウ。ロリコンに見えるからその言い方はやめなさい」

 

「し、承知した」

 

 

小学校について、授業参観が始まる前、周りの保護者の方達にいつものは事情があって来られないという旨を伝えて、子ども達を見守る。数秒で暇になったので、ナノマシンを使って完全体内通信、通称で念話を使い会話を開始する。

 

 

『研究室。聞こえるか? 昨夜のアレの解析結果を聞きたい』

 

『いやぁ~。いつ聞いてくるか楽しみで、今か今かと待ちわびてましたよぉ!』

 

『そういうのは今はいい。で? 結果はどうなんだ?』

 

『集められた個数は必要かい?』

 

 

回収結果ってことか。火急的に聞いておかなければならないことでもないが、聞くかどうかの質問をされたのならば聞いておこう。

 

 

『うん、まあ。一応聞いておこうか?』

 

『十三。それだけは集めることができたよ』

 

『十三・・・十三か。で? 解析結果は?』

 

 

何か事情があったのだろうか、十三個しか回収できなかったということは、恐らく海か川、山の中に落ちた可能性が高い。

 

 

『解析の結果はねぇ。面白いことが分かったんだ!』

 

『面白いこと?』

 

『吃驚する程膨大な魔力を溜め込んでる結晶体で、なぁんと驚き。人の意思をくみ取ってテキトーな解釈で実現してしまうんです!』

 

『つまり・・・単体でやべー聖杯って事か?』

 

『おぉめでとぉ~! だぁいせいかいです!』

 

 

そんなものが二十一個も海鳴近辺に落ちたのか。

 

大変じゃあないか。誰も知らないうちに、気付かないうちに海鳴市崩壊の危機じゃないか。

 

なんてこった。

 

 

『ちなみにぃ。元々はそんな機能は無かったみたいなんだけどねぇ』

 

『後付けで聖杯のような機能をつけたと?』

 

『恐らくですが。まだ確証は得られていませんが、元々はエネルギーを溜め込んでいる性質を利用して、どこかに供給するために作られたものだと推測します』

 

『カレイドステッキみたいなものか』

 

 

あれは所有者に無限の魔力を供給するという設定だったはずだから、間違ってはいないだろう。

 

 

『起爆スイッチの分からない爆弾みたいなものだけどねぇ』

 

『何とか出来るのか?』

 

『しろって事でしょぉ? やれと言われたことはやりますよぉ、もちろん』

 

『流石だ。頼んだぞ』

 

 

普段はマッドサイエンティストだが、それ故にあらゆる場面で役に立つ技術力を持っている。頼りになる研究室の室長だ。副室長が運営の大部分を握っている気もするが、あの二人は常にあのノリで生きているから問題は無いだろう。

 

 

授業参観が終わり、周りの大人達に挨拶をして、学校を出れば丁度授業が終わったイリヤとクロエを合流した。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「イリヤ」

 

「好き!!」

 

 

大胆な告白は女の子の特権。ではないが、挨拶代わりとも言える程勢い良く、好意を示された。

 

 

「知ってるよ」

 

「来てくれたんだ!」

 

「まあな。相変らず、どうして切嗣がダメなのか分からないんだけど」

 

 

本当に、これだけは謎である。アイリスフィールと一緒に参観にきてはいるものの、クロエとクラスが違うこともあっただろうから、そこまで忌避する必要が分からない。

 

 

「パパはね・・・うん」

 

「シロウは・・・どしたの」

 

「奥様方に絡まれてね。どうやら今までクロエの方にはアイリスフィールが来ていたようで、本当は私がアイリスフィールとの間にもうけたのではないかと、そんな聞く価値もないような疑問を投げられたよ」

 

「あーね」

 

 

少しでも兄妹間、血の繋がりを感じるメンバーを向かわせたつもりが、逆に仇となったか。切嗣が老け顔で、アイリスフィールが若々しいのも一つの問題か。

 

 

「あ! お兄さん!」

 

 

小学校の敷地内を出て、ほどなくしたところでそんな声をかけられた。

 

かけられた、という表現は間違っているかもしれない。名指しではないし、周りにも人はいる。なおかつ髪色だって変えているのだから、初見で分かる人がいるはずがない。

 

あれ。そう言えば学校を出た辺りで気持ち悪くなって元の色に戻したっけ。

 

ああ、じゃあなのはちゃんだ。

 

諦めたともいえるほど高い遭遇率を持つなのはちゃんからは逃げられない。これはいつだったか、詳しいことは覚えていないが、何かがあったときに学んだ教訓である。

 

 

「キサマッ! なのはの何だ!!」

 

「・・・何だろうねぇ」

 

 

遠い目をしてしまったが、悪いとは思っていない。思いがけずしてしまった行動に過失を求めないで欲しい。

 

というよりそれもそうだ。いるに決まっていた。あの時もまるでストーカーの如くなのはちゃんを探して付きまとおうとしていたのだから。というか、同じ学校なのか。うわあ。

 

それよりなにより、いつかの月村・バニングスの誘拐コンビがいらっしゃいますね。気付かれないとは思うけど、言動には気を付けよう。

 

 

「モブのくせに何様だ!」

 

「は? ちょっと、何なのアナタ。突然現れて、お兄ちゃんを"モブ"ですって?」

 

「ん? おぉ、イリヤじゃないか。元気か?」

 

「・・・キモっ」

 

 

いーちゃんの姿を視界に捕らえた途端。それ以外目に入っていないかのように、無駄に整った顔で、笑顔を見せた。

 

これが所謂ニコポだろうか。感想はいーちゃんと同じである。

 

 

「おい、こら。中田。知らない人に迷惑かけてんじゃねえよ」

 

「ふん。知らない人? イリヤ達も俺の嫁に決まっているだろう」

 

「──ハァ?!」

 

「いーちゃんどうどう。気にすんな。ああいう手合いは絡めば絡む程ウザい」

 

 

実体験であり、後悔している事柄でもある。

 

暴れ出しそうないーちゃんを、高い高いでもするかのように、脇の下に手を入れて持ち上げる。

 

 

「・・・わたし、良くあんなのと遭遇せずにこの町で過ごせたなぁ」

 

「遠い目をしないでちょうだいイリヤ。もう巻き込まれるのは決定したんだし。あの様子だと可愛い子なら誰でも自分の嫁とか言い出しそうよ」

 

「サイテー」

 

 

カオスな現場になってきたが、とりあえずキレたいーちゃんが凶器を取り出す前に、この場を離脱しなければならない。

 

 

「ごめん。なのはちゃん。せっかく声かけてくれたけど、中田少年が怪我する前に俺達は帰ることにするよ。じゃあね」

 

「・・・はい。また」

 

「いくぞー」

 

「ああ」

 

 

イリヤとクロエをシロウに任せて、いーちゃんを抱え上げたままその場を去るため踵を返す。

 

 

「待ちやがれ! 逃げるのかモブの分際で!」

 

「お兄ちゃん離して。殺すわあいつ」

 

「落ち着けいーちゃん。俺は大丈夫だって」

 

「私が大丈夫じゃないの!」

 

 

知ってる。

 

でも、だからこそ止めているんだ。いーちゃんが、例え転生者だとしても、子どもに対して酷いことをしないように、そんな事をして欲しくないから。

 

 

「逃げるのか!」

 

「逃げることの何が悪い。俺の人生、勝ちなし負け無し逃げ続けだぜ?」

 

「雑魚が! 死ね!」

 

 

中田少年がそう言った瞬間。いーちゃん達だけはなく、シロウさえも戦闘モードに切り替わってしまった。慌てて結界を展開する。何かあってからでは遅いから。

 

 

「もう怒った! 殺しなさい! バーサーカー!!」

 

「■■■■■■■──!!」

 

「は? ば、バーサーカー!? なんで!」

 

「肉達磨!」

 

 

思わず溜め息が零れそうになるが、現実を受け止めるしかない。

 

とりあえず、前向きに情報を収集することにしよう。

 

事情を知っている人間として、少女達を安全な所に避難させ、彼女等の情報を収集して整理する。

 

高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングス。

 

この三人の情報は何故か多くの人が周知できるようになっているから、今は置いておこう。

 

 

まずは、銀髪に虹彩異色で型月系列の能力持など、所謂踏み台転生者と称される存在の、ほぼ全ての要素を持った少年。中田太一。

 

能力は「王の財宝」英雄王ギルガメッシュの宝物庫に繋がるチカラを持っている。

 

 

次に、青みがかった黒髪に、赤みがかった黒目のある意味で正当派主人公の少年。神名(カミナ)(リク)

 

兄がいるらしく、カミナという名前からとある人物を連想する。男の義務教育を自身の兄、もしくは父親から受けている最中なのだろうか。

 

能力は「天元突破(グレンラガン)」何が起こるのか予想はつかないが、右手にドリルでも着くのだろうか。

 

 

最後に、黒髪黒目で一見地味な外見をしているものの、顔立ちは可愛らしい少女。鏡橋(キョウバシ)若菜(ワカナ)

 

女の子同士ということを生かして、なのはちゃん達とは順調に仲良くなっている様子。それ自体が目的なのか、それ以上を求めるタイプの人なのかは分からないが、いたって普通そうだ。

 

能力は「銀河最強の娘(ララ・サタリン・デビルーク)」彼女の戦闘能力と頭脳を模倣し、習得しているらしい。やろうと思えば技術革命を起こせる、ある意味チート能力である。

 

 

情報は収集した上で、しっかりとまとめたので、とりあえず彼等には、今日の事を忘れてもらわなければならない。魔術は秘匿するもの、とまでは思わないが、流石にがっつりバレは避けたいものだ。

 

 

「さてと」

 

「?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「・・・うん。分かった」」」」

 

 

全員がそう頷いたのを確認して、シロウ達に声をかける。

 

 

「記憶処理はしてから帰ってこいよ?」

 

「もちろん。その辺はちゃんと心得てるわ。殺しはしないもの。魂にまで刻み込んであげる。私の顔を見たとたん恐怖で腰が抜けるようにね!」

 

「おう、頑張れ」

 

 

催眠にかかった子ども達を結界の外に出した後、後始末として彼女達の相手をすることに。

 

 

「あ、あれ?」

 

「中田は?」

 

「なんか、金髪の女の子を見かけて、走って行ったよ」

 

「あっ・・・」

 

 

かなり雑な言い訳だったのだが、神名少年には思い当たる節があったのか、納得したような顔で頷いていた。

 

 

「お、お兄さん! あの・・・」

 

「ごめん。お話しはまた今度な」

 

「あ・・・。はい」

 

「それじゃ、暗くなる前に帰るんだぞ」

 

「「「「はーい」」」」

 

 

軽く手を振って別れを告げ、家に帰ることにした。

 

その後に彼女達が話すであろう会話に、一切の興味を抱かずに。

 

 

 

 

リクside

 

中田が消えた。

 

よくよく考えればフェイトがこの時点で海鳴にいるのかわからないのに、妙に納得しかけたのが恐ろしい。

 

あの男は正体不明だ。

 

 

「お兄さん・・・」

 

「あの人が、なのはがよく話してるお兄さん?」

 

「うん」

 

 

・・・そうか。なのはの話によく出てくる、お兄さんは彼のことか。

 

名前も教えていない時点で、大分怪しい存在だが。

 

 

「ねぇ、陸。あの人」

 

「不気味な人だったな。魔力の反応なんて一切ないのに、警戒心を一切解かせてくれなかった。その上で、何かされてる」

 

「何か忘れさせられたのね」

 

「中田に関することなのは確かだ。あと、イリヤ達」

 

 

それだけのことを一瞬で忘れさせる力。そんな物か想像すら出来ない。心当たりはあるが、その力でどうやれば彼女達と友好関係を築けるのかが分からない。

 

例え、それが彼自身の力じゃなかったとしても、そんな力を自由に使うことが出来るっていうだけで、子どもの俺達に勝ち目なんてない。いや、大人でも勝てる人はいないと思う。そもそも勝つ気なんてないけれど、挑んだとしても最初から勝負になんてなりはしないと思う。

 

それでも戦ってみたいと思うのは、俺がこの世界で生きているという証なんだ。

 

 

「馬鹿な真似だけは絶対しないでよ?」

 

「ああ。もちろん」

 

sideout.


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