我、無限の欲望の蒐集家也   作:軍曹(K-6)
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後日カルデア仮想空間戦闘訓練場にて。


「これからお前達に叩き込むのは戦略や戦術を立てる上で一番重要となる思考加速訓練だ。またの名を分割思考」

「マルチタスク?」

「一度にたくさんの事を考えることが出来るようになるって事よね?」

「そうだ」


貴族服のようなゼロ衣装を着用したルルーシュが並んだなのは達に向かってそう説明する。仮想空間であるため、ディスプレイを空間に表示することも現実世界よりは容易く、説明のためにわざわざ板を用意する必要はない。


「一度により多くの事を処理することが出来るようになれば、それだけ戦略の幅は広がる上に戦術を組み立てる上でも役に立つ。勝負事だけでなく日常生活でも役に立つ場面はあるだろうな。何かをしながら何かをする。一度に手足が足りる限りの事ができるようになれば、それだけで戦局は大きく変わる。ちなみにイリヤは以前確認した時点で2400の分割思考を生み出せていたはずだ」

「にせっ!?」

「今現在もあのペースで増えている、もしくはマスターとの特訓で急激に増えると仮定すれば余裕で3000程まで分割可能になるかもしれない」

「それだけ分割して制御できるんですか・・・?」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという少女はその存在自体が特別だ。魔術を行使するためだけに生まれた肉体、魔術回路を持っている。少々荒っぽいことをしても平気。それが家族(サーヴァント)内における暗黙の了解だ」

「そんな・・・・・・」

「まぁ、まともな生まれじゃないことは確かだが、だからこそマスターの元で幸せに笑っていられるんだ。悪いことばかりじゃない。さて、本題に入ろう。これからお前達にはこのスフィア・・・まあようするに魔力弾だな。それを一つ一つを別々に操作してもらう。最低で10コ。今日中に10コは操作してもらう」

「「「はい」」」


プリズマデート

主人公side

 

精一杯のオシャレ、と言うか自らを良く魅せるコーディネートをすませて海鳴駅前にて俺はイリヤを待っている。の、だが・・・・・・。

 

 

「あのっ、もしかしてお一人ですか?」

 

「人を待っているので」

 

「もしよければ私達とお茶でも」

 

「している間に待ち人が来たらマズいので」

 

 

かれこれ十数回は若作りしてそうな女性とか、高校生とかに声をかけられまくっている。もちろん全て断ってはいるが、少々ウザったくて仕方が無い。

 

この辺り一帯を吹き飛ばそうかと思考が危ない方へ飛びかけた時、丁度イリヤが到着したのが見えた。

 

 

「よっ、イリヤ」

 

「ごめん。お兄ちゃん! 待った?」

 

「いや、今来たところだ」

 

「そ、そう? 良かった」(クロ達のせいで遅刻したから、お兄ちゃんは絶対待ってるはずなのに・・・。優しいなぁ、お兄ちゃんは)

 

 

イリヤのおかげでこの辺を一掃するまえに正気に戻れた。大人っぽいオシャレな洋服(ドレス)を着てきたイリヤは小学生とは思えない大人の色気を何故か醸し出しており、予想と違うお出かけの始まりに少しばかり緊張が走る。

 

 

「さて、と」

 

「な、何? お兄ちゃん」

 

「イリヤと俺とでこうして出かけるのは初めてなわけだけれども」

 

「そ、そうだね!」(邪魔ばっかりしてくる人達も今日はいない! 勝った!)

 

「どこへいく? 最近女子の行き場は俺には分からん」

 

「えっと、それじゃあ!」

 

 

イリヤに連れられ、まずは腹ごしらえとのこと。お昼前に集合の醍醐味らしい。良く分からないが、イリヤが楽しそうならそれでいいだろう。そもこれはそういう目的だからだ。ご褒美というかお礼の気持ちというか。

 

 

「お兄ちゃん?」

 

「ん。ああ悪い。どうだ? 美味しいか?」

 

「んー」

 

「士郎の方が美味いか」

 

「ん」

 

 

世界中の料理人から知識をトレースしたシロウの腕前と、そんじょそこらのファミレスの味を比べちゃあいけない。というか、せっかくのお出かけなのにファミレスで良いのだろうかと思ったのだが、イリヤ曰く。

 

 

「学生という身分の懐事情から考えて、デ・・・お出かけ先でのご飯はファミレスが一番なの」

 

 

らしい。俺はよく知らない。高校生や大学生などはそうらしい。小、中学生にいたっては、食事は各々の家で取り、遊ぶ時は互いの家などに集まってお菓子などを食べながら好きなことをしたり、それこそ大きな施設に遊びに行って軽食をそこでとるのが理想らしい。

まあ、普通だよな。

とりあえず、何したら良いか分からん。『男女 お出かけ』でググろうかな。

 

 

「えーっと。お兄ちゃん」

 

「んー?」

 

「何かネットで検索してるよね?」

 

 

良く分かったな。スマホなんて弄ってないし、脳から出る信号をそのまま回線に繋いで検索していたというのに。

 

 

「分かるよ。・・・だって、お兄ちゃんのことだもん」

 

「・・・・・・」

 

 

頬を赤く染めてそう言うイリヤが、俺に向けてくれている好意。正直に言おう気付いているよ。イリヤだけじゃない。俺に好意を寄せてくれている全員の気持ちは分かっている。

 

好意に気付かないほど鈍感じゃないし、蒐集のためとはいえ一度は恋心を抱いてもらい、好意を持ってもらうためにヒロインのように攻略もしたことある相手だ。と言うかそもそも俺はヒロインの好意に気付かない主人公は大嫌いだ。ライトノベルなんかを読んでいてそう考える。

 

だが、だからといって、俺が彼女達の気持ちを受け止めて何か良いことがあるかと言えばない。どちらかと言えば彼女達も現状で満足はしているようだし、何かが進んだその瞬間。また全てを失う可能性があるとしたら。俺はもう戻れなくなるかもしれない。

 

・・・・・・戻れなく、戻れば良い? 死んでしまう人間を死なせないように過去に戻れば良い? 簡単に言ってくれる。もし家族が死ぬようなことになっても俺は戻らない。より正確に言うと戻れない。一度あのスキルを手に入れた当初。もしかしたら戻れるんじゃないかと何度も何度も繰り返して戻った最初のセーブポイント。

 

俺の手の中に収まる彼女達との思い出を眺めていたあの場所。俺は身内が死んだ後、その死を回避しようとするとあの場所に戻る気がしてならないのだ。戻りたくても戻れない人もいる。この世で失われていった数多の命のことは無視してるくせに、自分の家族が失われた場合のみ過去に戻って工作するなんて、そんな都合の良いこと。

 

俺には出来ない。まだ答えが見つかっていないんだから。

 

 

(きゃーっ。言っちゃった言っちゃった! キャッハー!)

 

 

まるでふ○っしーのようだ。元気でよろしい。こっちの苦悩も知らないで。・・・・・・おっと。

 

 

(でも邪魔だなあ。まるでストーカーみたい)

 

 

どうやらイリヤも気付いているようだ。彼女と同じように、俺が一度落とした攻略相手達が現在俺達を尾行していると言うことに。というか、イリヤはヤンデレの素質があるのか? 頼むからその無用な才能は開花させるなよ? 俺はバッグの中に詰められたくないんだ。中に誰もいないけど! 誰かだったものはあるんだよ!

 

 

(そうだ! 見せつけてやれば良いのよ! 私とお兄ちゃんがラブラブだって事を・・・・・・。待て待て。これはお兄ちゃんから私へのご褒美、変なことをしたらお兄ちゃんに嫌われる・・・もしくは変な子だと思われる可能性が!?)

 

 

十分にあるな。

 

 

(マズい。でも、着いてきてるクロ達がちょっと邪魔だし・・・)

 

 

確かにな。いつまでも追跡されるのも面倒だ。仕方が無い。

 

 

「・・・イリヤ。ルビーはいるか?」

 

「え?」

 

『はいはい呼ばれて飛び出てルビーちゃん参上です! 何かご用ですか?』

 

「俺達の後を付けてるあいつ等を、今日一日行動不能にしておいてくれ」

 

『報酬は?』

 

「コスプレイリヤ撮影会」

 

『おっしゃ任せておきなさーいっ!!』

 

 

よし。行ったか。

 

 

「・・・・・・お、お兄ちゃん・・・!?」

 

「ん?」

 

(こっ、コスプレイリヤ撮影会って何!? お兄ちゃん私にどんな衣装を着せる気!? 待って着せるのはルビー!? 私どんな衣装をお兄ちゃんに見られるの!? うあぁあぁあぁあ・・・・・・・・・)

 

 

崩れ落ちかけてるイリヤを連れて次の目的地に向かう。ご褒美なのだからもっと楽しんで欲しい。

 

 

(お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん)

 

 

・・・・・・ふもっふ。ちょっと待て。変な声出たぞ? 一体どれだけ妄想が進んだらそうなるんだ? 過程を見ていないからなんとも言えない。そこまで美化しなくて良い。オイ、それ誰だ。止めろ。それ以上進むな。戻ってこい。俺はそんな奴じゃないぞ。いや、必要に迫られればどのようなキャラクターで演じてみせるが。

 

 

(はっ! お兄ちゃんとのお出かけ(デート)を楽しまなきゃ!)

 

 

ああ。楽しんでくれ。そのためのご褒美だ。そうじゃなかったら何のためにご褒美をイリヤ自身に決めさせたか分からなくなる。イリヤに楽しんでもらわないと、ご褒美の意味なんか全くなくなってしまうからな。

 

 

「おっ、お兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

「次アレ行こっ!」

 

「映画か」

 

 

そう言えば今なにやってるんだ? なになに・・・?

 

『それいけ!アンポンタン』・・・世界線を越えるにしてももう少しマシな越え方があっただろ。何故こうなった。

『そちの名は』・・・これもまた、世界線の越え方を間違った作品だ。古風だぞ。

『野原のしんちゃん』・・・誰が見るんだ。普通で当たり前の自己紹介に近いタイトルじゃないか。

『野良えもん』・・・猫か。これではあの猫型ロボットがただの野良猫のようにだぞ。

『真夏の戦争』・・・・・・サ○ーウォーズか。一瞬どんな映画か気になったぞ。良い世界線越えをしたじゃないか。

『輪』・・・WHAT()? リングか。これもまた、ホラーだが意外と人気のあるタイトルだな。

 

内容はほとんど一緒なんだろうが、世界線の越え方を間違ったせいで見る気も起きないな。オリジナルの映画はないのか? それか制作会社が一緒でそこまで世界線を乗り越える必要が無い映画・・・・・・。

 

 

「お兄ちゃんは何が見たい?」

 

「・・・・・・あー」

 

 

俺に選べと? このパチモンだらけの映画達の中から。ほら、これなんか見てみろ『名探偵コ○ン 水平線上の陰謀(ストラレジー)』だと・・・よ・・・・・・? あれ? パクりじゃない? 何で? あのアンパン○ンでドラ○もんですらパロディ作品だったのに、なぜ。まあ当たりだ当たりだろう。これにしようぜ。

 

 

「○ナン?」

 

「おう」

 

 

 

・・・・・・映画視聴中・・・・・・

 

 

 

「面白かったね!」

 

「ああ」

 

 

予想外におっちゃんがかっこよかったな。いつもはおちゃらけた迷探偵なのに。こういう時にしか活躍できないのか、こういう時でも活躍できるのかは疑問だが、とにかく印象に残っているのがおっちゃんのシーンなので語彙力も消えるってもんで。

 

 

「お兄ちゃん。次どこ行こうか」

 

「どこでも。まだ二時過ぎぐらいだから、意外とどこにでもいけるぞ」

 

「うーん。じゃあ・・・」

 

 

その後、イリヤと一緒に東都スカイタワーや電門(いなずまもん)何かを観光して帰ってきた。途中蒐集物をふんだんに使った行動方法もとったため、普通の人間では不可能なスケジュールでのお出かけとなった。

 

 

 

これはその後、兄妹仲の良いお出かけの次の日の話だ。カルデアの訓練施設、内装は市営の体育館とあまり大差ないその空間で、俺はイリヤと向かい合って座っていた。ペタリとお尻をつけて座るイリヤの前に胡座をかいて俺は座っている。

 

 

『お兄さんお兄さん。本日これから何をなさるんですか?』

 

「互いに互いの訓練内容は基本開示しないように暗黙の了解にはなっているが、おそらくなのは達はマルチタスクの訓練に入っていると思う」

 

「初歩の初歩だね」

 

「ああ。魔術を使う者はまず覚えなくてはならない最初の課題だからな。もちろんイリヤはそんな訓練はしなくて良い。だが、なのははそんな訓練をしていない状態で、イリヤにアルトリアのカードを切らせた」

 

「あ、あれは早く終わらせようと思っただけで!」

 

「別にイリヤが弱いなんて言ってない。なのははあの戦闘中に成長してたんだ。それを基礎を固めた上でさらに伸びる可能性があるとしたら、イリヤも本気を出さざるおえないだろ?」

 

「まあ・・・。あの子魔力弾の誘導が正確だったもん。マルチタスクを習得していないのならなおさら驚きだよ」

 

「確かに。そこで、だ。イリヤには俺のカードを使うにあたっての注意をもう一度しっかりやっておこうと思ってな」

 

「えっと・・・選別と精密だっけ」

 

「そう。相手にあった。もしくは過剰とも言える武器を持ち出し、精密な照準によって圧倒的な蹂躙を生む。英雄王とはこれまた違った圧倒の仕方が俺の戦い方の基本だ。そして近くに潜り込まれた場合は?」

 

「絶対的防御と圧倒的火力で持って距離を離す」

 

「せいかーい。相手の攻撃を一切通さない。聖なるご加護でも人類の叡智でもなんでも使って己が身を守り、爆発なんかでもって相手を突き飛ばし懐に飛び込ませない。俺の場合はエネの補助もあるから近接も割といけるんだけどイリヤの場合はルビーだからな・・・・・・」

 

「ルビーだからね・・・・・・」

 

『しっつれいな! 私の何が不満なんですか! イリヤさんの肢体には傷一つつけさせない援護をするに決まっているでしょう!!』

 

『日頃の行いのせいだと思いますけどねぇ』

 

『ムッキー!! そこに直りなさい青髮ツインテールゥ!!』

 

『何ですと?! この不気味ファンシーグッズが!』

 

『不気味とは何ですか不気味とは!?』

 

『硬そうな外見をした柄が柔軟に稼働する時点で不気味なのは確定でしょう!』

 

「・・・・・・あいつ等のことは放っておいて、実戦と行きますか」

 

「うん」

 

「近距離と遠距離。一応どちらも強化1の俺ぐらいは出来ないとな」

 

「はいっ」

 

 

二人同時に素早く距離をとり、双方の武器を構える。俺は本。イリヤは杖だ。

 

 

『では行きますよ! イリヤさん!』

 

『生きましょうご主人!』

 

「うんっ」

 

「いくの字が違わねぇか?」

 

『コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!』

 

「【世界を内に秘めし書よ。我が呼び声に答えよ。契約の元、奏音が命じる】」

 

「転身!」

 

「【封印解除(レリーズ)】」

 

 

カレイドステッキも無制限の蒐集書もどちらも莫大な魔力供給源であることは変わりない。俺はその魔力供給を複製品の維持ぐらいにしか使用しないのだが。

 

 

「クラスカード“コレクター”夢幻召喚(インストール)!」

 

 

イリヤの姿が変身バンクを経て変化する。俺の戦闘服・・・と言って良いのか、彼女にとっての一番動きやすい私服に替わる。

 

 

「あれ? まえと違う!?」

 

「そりゃ違うだろ。俺は動きやすい服で戦ってる。イリヤがその時一番動きやすいと思う服に替わるに決まってるだろ」

 

『魔法少女の変身の夢を消しますねぇ』

 

「んな、つまらねぇ夢なら捨てっちまえ」

 

 

さて、はじめるぞ。と、そう声をかけて戦闘態勢に移る。イリヤも白銀の波紋を展開し、数多ある宝具の射出体制に入った。

 

 

「エネ。瞬発力上昇(eins)攻撃力上昇(zwei)防御力上昇(drei)・・・・・」

 

 

こっちは近接主体の二刀流スタイルで攻めさせてもらおう。

 

 

演算力上昇(vier)思考力上昇(fünf)身体力上昇(sechs)想像力上昇(sieben)・・・」

 

「え? 待って待って。七つもあったの!?」

 

戦闘力上昇(acht)・・・付与」

 

「八コも!?」

 

『甘く見てましたね。基本の三つだけではなく、他の力も上がっているとみて間違いないと思いますよ』

 

「・・・絶対勝つ!」

 

「行くぞ」

 

 

白銀の波紋を多重展開し、俺に照準を合わせるイリヤ。だが―――

 

 

「射出までが遅いっ!」

 

 

射出召喚された宝具を難なくかわし、後方から射出召喚した黒い聖剣をひっつかむ。素早く避ければ余裕でかわすことも出来るが、それではイリヤの成長に繋がらない。少しずつ回避速度を上げることを目標に、今は聖剣を湯水のように使い捨て、射出される宝具をはたき落としていく。

 

 

「一点集中で撃つのもいいが、それだと全部捌ききれるぞ?」

 

「だったら!」

 

 

半球状に展開される白銀の波紋。UBWで英雄王が士郎相手に取った手だ。この間の士郎白野立香の三兄妹の時に俺が士郎相手にとった行動でもある。全方位を囲まれたこの状況では士郎がとったように、着弾点から跳躍して爆発の勢いを盾で受け止め利用し、空中に躍り出るのも一つの手だ。重力加速で一撃に重みが出る。

 

だが。対英雄王と、前回の俺がやった戦い方の場合はそれでも良かったが、今回はAUORPをしていないイリヤ。下手に空中に躍り出ると空中に拘束されることになる。実際前回自分がAUORPをしていることに気付いた俺が土壇場でエルキドゥを使ったのが良い例だ。

 

なのでこの場は。

 

全てをかわした上で、爆破まえに破壊する(この手に限る)

 

 

「・・・・・・え。今の何?」

 

『力技のごり押しですねぇ。お兄さんこんな戦法もとるんですか、私初めて知りました』

 

「私も初めて知ったよ・・・」

 

『いつもいつも「俺は普通の高校生だから奇襲しか出来ないんだ」なんて言っていましたが、やはり正面からの正攻法もできるんじゃあないですか』

 

「お喋りはそこまでだっ」

 

 

何を話していたか。なんて細かい部分は聞いてすらもいなかったが、恐らく先の俺の行動についてだろう。確かに俺は相手に隙を作りその隙をついたりするような奇襲策を基本的にとってきた。先ほどのような正面突破の正攻策はとってこなかったからだろう。奇襲策の例で言えば、士郎のように空中に飛んだと見せかけるためにデコイを飛ばして、自分は地を駆ける。とかだろう。

 

だが今の俺は士郎に対するアルトリアのように、ギルガメッシュに対するヘラクレスのように。無限の財を持つイリヤに立ち向かう究極の一を持った一人の戦士だ。正攻法と奇襲を織り交ぜて使うに決まっているじゃないか。

 

そんな事を考えながら、飛び上がるようにして切り上げた聖剣に手応えはなく、バク宙と側転の組み合わせで距離を取るイリヤを視界の端に見つけ、地面スレスレを飛ぶようにして追撃を仕掛ける。

 

 

「ルビーっ!」

 

『照準よーし! 射出!』

 

 

ルビーもイリヤを勝たせるためには努力を惜しまないのか、いつものおちゃらけた部分はどこへ行ったのか全力で俺に宝具を射出してきた。いつか教えた通りに圧倒的物量で俺を仕留めようとしてくる。確かに俺はその蒐集書の中に入っている宝具が何か正確に理解している(何しろ適当に放り込んだのではなく欲しいものを放り込んだ)ため、俺に有効な宝具は一つもない。だったら圧倒的物量で押しつぶすしかないのだ。

 

しかしこちらは聖剣一本。破損した場合は取り出すため問題はないのだが、なんとなく一度縛ったためもう一本とは簡単にいかないのが俺の性分だ。だが、まあやりようはあるよな。

 

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。今、常勝の王は高らかに手に執る奇跡の真名を謳う。其は―――」

 

「ルビー防御!」

 

『はいなっ!』

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)

 

 

魔力を放出し、維持するだけの魔力がなくなった聖剣を破棄し、新たな聖剣を取り出して地を駆ける。宙を駆ける必要はない。跳べばそこまでたどり着く。

 

 

「速っ!?」

 

『状況判断が早すぎます! 思考力も増してますね!?』

 

「良く分かったな」

 

『お兄さんはゲームのようにステータスを上昇させるのが得意ですからね。そこから考えれば他にも色々と・・・』

 

「まさかオールステータスアップとか!?」

 

『いえ、それなら八つも上昇させる必要はないかと』

 

「あながち間違いじゃあねーぞ。何故なら、八番目は戦闘能力の上昇魔法だからな」

 

「『な、なんですとーっ!?』」

 

 

この驚き具合。知らなかったとはいえ戦闘中に余裕そうなこって。んじゃあ遠慮なく、その隙をぶった切らせてもらいましょうかね。固有時制御(Time alter)()四倍速(square accel)

 

 

「・・・・・・ガッ・・・・・・!?」

 

 

瞬足で距離を縮めた俺は容赦無くイリヤの腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

 

「どうした? 俺の全てをコピーしておいて、その程度か?」

 

「ゲホッ! ゲホゲホッ。・・・ハッ!」

 

『イリヤさん!? おのれっ、魔法少女に蹴り攻撃とは!! お兄さんあなた、初代プリキュア世代ですね!?』

 

「良く分かったな! あの容赦のなさよ帰ってこいっ!」

 

『今の幼女が泣きますよっ!』

 

 

魔法は強化のみに使う。これ常識。魔法系など花拳繍腿!!(華やかだけど見かけだけの技の事)

 

 

肉弾戦(マーシャルアーツ)こそ王者の技よ! (個人の見解です)

 

 

『イリヤさん! 大丈夫ですか!?』

 

「・・・大丈夫」

 

『まさか物理保護を突き破るような蹴りだとは・・・』

 

「お兄ちゃんは、ね。色んな意味で規格外なんだよ」

 

『いえ。まぁ、それはそうですが・・・』

 

「無制限の蒐集書よ! 今は私に力を貸しなさい! eins,zwei,drei,vier,fünf,sechs,sieben,achtを付与!」

 

『イリヤさん!?』

 

 

へぇ・・・。蒐集書を味方に付けるか。まぁルビーじゃ正確に取り出すのに時間がかかるだろうしな。正しい判断だ。

 

 

「・・・とぉぉりゃぁぁぁ!!」

 

「来い」

 

「はぁっ!」

 

「・・・」

 

「せりゃぁっ!!」

 

「・・・フ」

 

「おんどりゃぁぁっ!!」

 

「甘い。ヌルい。・・・そして、軽い」

 

 

その瞬間勝負はついた。

 

 

 

 

 

イリヤside

 

お兄ちゃんとのデートの次の日。カルデア体育館で、私とお兄ちゃんは向き合って座っていた。

 

 

『お兄さんお兄さん』

 

 

ルビーが今日お兄ちゃんが私に何をさせるのかを聞いている。

 

 

「互いに互いの訓練内容は基本開示しないように暗黙の了解にはなっているが、おそらくなのは達はマルチタスクの訓練に入っていると思う」

 

「初歩の初歩だね」

 

「ああ。魔術を使う者はまず覚えなくてはならない最初の課題だからな。もちろんイリヤはそんな訓練はしなくて良い。だが、なのははそんな訓練をしていない状態で、イリヤにアルトリアのカードを切らせた」

 

「あ、あれは早く終わらせようと思っただけで!」

 

 

別にアルトリアのカードを使わなくても勝てたんだよ!?

 

 

「別にイリヤが弱いなんて言ってない。なのははあの戦闘中に成長してたんだ。それを基礎を固めた上でさらに伸びる可能性があるとしたら、イリヤも本気を出さざるおえないだろ?」

 

「まあ・・・。あの子魔力弾の誘導が正確だったもん。マルチタスクを習得していないのならなおさら驚きだよ」

 

 

私でもマルチタスクがないとあんな動かし方は出来なかったし・・・・・・。

 

 

「確かに。そこで、だ。イリヤには俺のカードを使うにあたっての注意をもう一度しっかりやっておこうと思ってな」

 

「えっと・・・選別と精密だっけ」

 

「そう。相手にあった。もしくは過剰とも言える武器を持ち出し、精密な照準によって圧倒的な蹂躙を生む。英雄王とはこれまた違った圧倒の仕方が俺の戦い方の基本だ。そして近くに潜り込まれた場合は?」

 

「絶対的防御と圧倒的火力で持って距離を離す」

 

「せいかーい。相手の攻撃を一切通さない。聖なるご加護でも人類の叡智でもなんでも使って己が身を守り、爆発なんかでもって相手を突き飛ばし懐に飛び込ませない。俺の場合はエネの補助もあるから近接も割といけるんだけどイリヤの場合はルビーだからな・・・・・・」

 

「ルビーだからね・・・・・・」

 

『しっつれいな! 私の何が不満なんですか! イリヤさんの肢体には傷一つつけさせない援護をするに決まっているでしょう!!』

 

 

それが嬉しいような嫌なような・・・良く分からない状態なんだけどなぁ・・・。

 

 

『日頃の行いのせいだと思いますけどねぇ』

 

『ムッキー!! そこに直りなさい青髮ツインテールゥ!!』

 

『何ですと?! この不気味ファンシーグッズが!』

 

『不気味とは何ですか不気味とは!?』

 

『硬そうな外見をした柄が柔軟に稼働する時点で不気味なのは確定でしょう!』

 

「・・・・・・あいつ等のことは放っておいて、実戦と行きますか」

 

「うん」

 

「近距離と遠距離。一応どちらも強化1の俺ぐらいは出来ないとな」

 

「はいっ」

 

 

強化1って何だっけ。化け物って意味だっけ? お兄ちゃん、それぐらい強いし。

 

 

『では行きますよ! イリヤさん!』

 

『生きましょうご主人!』

 

「うんっ」

 

「いくの字が違わねぇか?」

 

『コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!』

 

「【世界を内に秘めし書よ。我が呼び声に答えよ。契約の元、奏音が命じる】」

 

「転身!」

 

「【封印解除(レリーズ)】」

 

 

あれ? お兄ちゃんの詠唱ちょっと違う? ・・・気分で変えてるって言ってたし、あんまり気にしない方が良いのかも。っと、カードカード。

 

 

「クラスカード“コレクター”夢幻召喚(インストール)!」

 

 

よし。インストールも成功! さぁ、戦闘準備・・・って、

 

 

「あれ? まえと違う!?」

 

「そりゃ違うだろ。俺は動きやすい服で戦ってる。イリヤがその時一番動きやすいと思う服に替わるに決まってるだろ」

 

『魔法少女の変身の夢を消しますねぇ』

 

「んな、つまらねぇ夢なら捨てっちまえ」

 

 

お兄ちゃんは始めるぞ、とだけ言い戦闘態勢に移った。私も慌てて波紋を展開し、照準をお兄ちゃんに向ける。と、お兄ちゃんはそこでポツリと

 

 

「エネ。瞬発力上昇(eins)攻撃力上昇(zwei)防御力上昇(drei)・・・演算力上昇(vier)思考力上昇(fünf)身体力上昇(sechs)想像力上昇(sieben)・・・」

 

「え? 待って待って。七つもあったの!?」

 

戦闘力上昇(acht)・・・付与」

 

「八コも!?」

 

『甘く見てましたね。基本の三つだけではなく、他の力も上がっているとみて間違いないと思いますよ』

 

「・・・絶対勝つ!」

 

「行くぞ」

 

 

いっぱい強化してるんだったら増やさないと! 全問斉射! フォイアー!

 

 

「射出までが遅いっ!」

 

 

ふぇ!? だ、だったらもっと速くもっと鋭く・・・お兄ちゃんを狙って・・・!

 

 

「一点集中で撃つのもいいが、それだと全部捌ききれるぞ?」

 

 

えぇえ!? だ・・・

 

 

「だったら!」

 

 

この間お兄ちゃんが士郎さん相手に使ってた全方位一斉射撃!

 

でもお兄ちゃんは撃ち出されたその全てを切り払い、無力化していった。鋭く、乱暴で、暴力的なその剣技はお兄ちゃんがとるとは思えないような行動だった。

 

 

「・・・・・・え。今の何?」

 

『力技のごり押しですねぇ。お兄さんこんな戦法もとるんですか、私初めて知りました』

 

「私も初めて知ったよ・・・」

 

『いつもいつも「俺は普通の高校生だから奇襲しか出来ないんだ」なんて言っていましたが、やはり正面からの正攻法もできるんじゃあないですか』

 

「お喋りはそこまでだっ」

 

 

ッ! やっぱり速いっ!

 

 

「ルビーっ!」

 

『照準よーし! 射出!』

 

 

ルビーが圧倒的な量で撃ち出す宝具の数々は、ギルさんや士郎お兄ちゃんでは絶対的に持ちうることの不可能な、異世界の異次元の精霊や科学者が作り上げ、英雄や戦士が振るった武器の数々。

でも、元々それを集めて使うお兄ちゃんは的確にかわし、破壊する。

そして、お兄ちゃんの持つ聖剣が輝きを放った。

 

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。今、常勝の王は高らかに手に執る奇跡の真名を謳う。其は―――」

 

「ルビー防御!」

 

『はいなっ!』

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)

 

 

よしっ。防いだ!

と思った後の一呼吸でお兄ちゃんは私達の方へ向かって飛び出していた。多分宝具を放ったあの聖剣は破棄したんだと思う。

頭の回転速くない?

 

 

「速っ!?」

 

『状況判断が早すぎます! 思考力も増してますね!?』

 

「良く分かったな」

 

『お兄さんはゲームのようにステータスを上昇させるのが得意ですからね。そこから考えれば他にも色々と・・・』

 

「まさかオールステータスアップとか!?」

 

『いえ、それなら八つも上昇させる必要はないかと』

 

「あながち間違いじゃあねーぞ。何故なら、八番目は戦闘能力の上昇魔法だからな」

 

「『な、なんですとーっ!?』」

 

 

お兄ちゃんってばチート!? チートだチーターだ!!

と、思ったその一瞬。お兄ちゃんは超加速で私のお腹に蹴りを叩き込んできた。

 

 

「・・・・・・ガッ・・・・・・!?」

 

 

意識が飛びそうになり、頭が真っ白になる。

 

 

「ゲホッ! ゲホゲホッ。ガハッ!」

 

 

お兄ちゃんのルビーが何か言っているけど、聞いている余裕がない。

 

 

『イリヤさん! 大丈夫ですか!?』

 

「・・・大丈夫」

 

『まさか物理保護を突き破るような蹴りだとは・・・』

 

「お兄ちゃんは、ね。色んな意味で規格外なんだよ」

 

『いえ。まぁ、それはそうですが・・・』

 

 

もう、なりふり構ってられない。お兄ちゃんと同じ武器を使って同じ戦法をとるしかない! 力を貸して!

 

 

「無制限の蒐集書よ! 今は私に力を貸しなさい! eins,zwei,drei,vier,fünf,sechs,sieben,achtを付与!」

 

『イリヤさん!?』

 

 

すごい・・・! 力がわき上がってくる! これが強化・・・! いけるかも!

 

 

「・・・とぉぉりゃぁぁぁ!!」

 

「来い」

 

「はぁっ!」

 

「・・・」

 

「せりゃぁっ!!」

 

「・・・フ」

 

「おんどりゃぁぁっ!!」

 

「甘い。ヌルい。・・・そして、軽い」

 

 

今・・・。何が起こったの・・・?

 

 

 

 

―――暫くして、体育館の中心付近で転がっていたイリヤは目を覚ました。

 

 

「・・・・・・体育館だ」

 

「眼、覚めたか」

 

「・・・うん。

 

(・・・頭の下硬くない。お兄ちゃんが枕置いてくれたのかな?)」

 

 

そう思ったイリヤは奏音にお礼を言おうとして、体ごと動かして・・・・・・自分の頭の下にあるのが奏音の腕だと気付いた。

 

 

(うっ!? 腕枕ァァァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァア!?)

 

「大丈夫か?」

 

「ご馳走様ですっ!」

 

「んん? 大丈夫かって聞いてんだけど」

 

「ご褒美以外の何でもないよ!」

 

「何の話してんだ?」

 

 

内心が狂喜乱舞で暴走し始めたイリヤは、冷静な判断が出来ないまま奏音の問いに直感のまま、思いついたままで答えていた。

 

 

少しして。

落ち着いたイリヤと、状況は何となく理解した奏音は体育館の床の上に座布団を敷き、その上に座っていた。

 

 

「・・・体は大丈夫か?」

 

「え、多分・・・」

 

『治癒魔法はかけてますけど、何をされたかを分かりやすくするために会えて痕は残してますので!』

 

「あと?」

 

 

それを聞いたイリヤは、服を脱ぎ上下肌着になって自らの体を見る。一応男子である奏音の前なのだが、イリヤも奏音も今更肌着でどうこう言うわけがない。

 

 

「何これっ!?」

 

 

イリヤの体にはあちこちに青痣が出来ていた。両肩、両肘、両手首、両膝、両脛、両足首。脇腹や背中の方にまで痣はある。

 

 

『いやー。この私でも何が起きたかは分かりませんでした。一体何をしたんで?』

 

「見せるのは初めてだっけか?」

 

『ええ。恐らく。体術の類いですから、お兄さんの使う“愛気”に関連する技だとは思うんですが』

 

「・・・一度だけ見たことがあるかも。確か・・・居合い払い」

 

「そ。居合い払い・・・・・・奈惰嶺だ」

 

 

一発の払いからドミノ倒しのように各部を崩し、一瞬にして相手を倒す。とある武道家の決め技。奏音も愛用する合気道を主流としたごった煮武道の一つだ。

 

 

「奈惰嶺・・・」

 

『一応イリヤさんがやられた時の衝撃を現実に存在するものに換算して考えると・・・。車にはねられたのと同じくらいですね』

 

「はねられたことないから分かんないよ!?」

 

 

イリヤは思わずといった調子でルビーに詰め寄る。ルビーは表情こそ変わらないがヘラヘラと笑っているようだ。

 

 

『お兄さんって生まれる時代が違っていれば正しい形で英霊に昇華されていたかもしれませんね』

 

「・・・・・・強さだけが英雄の証じゃないだろう? それに、俺は戦略も戦術も武器も武術も全部が他人の物だ。何一つ自分の力で手に入れた物じゃ「そんな事無い!!」・・・イリヤ?」

 

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんはお兄ちゃんの力で宝具を手に入れたんだよ!? 英雄の持ってる武器を集めたんだよ!? どうして自分の力で手に入れた物じゃないなんて言うの!?」

 

「・・・・・・イリヤ。俺は確かに、あいつ等の持ってる宝具を集めたよ」

 

「・・・! だったら・・・!」

 

「でも、アレはあいつ等の武器だ。彼等が使ったから強く美しく戦場を駆け抜け、伝説に残ってるんだ。俺はそれを自分の力で手に入れたとは言いたくない」

 

「・・・ッ! お兄ちゃんの・・・おおばかものぉぉぉおおお!

 

「・・・い・・・?」

 

「バカ! お兄ちゃんのバカ! ばかばかばかばか!! 誇れ! 誇りなさいよっ! 俺はすごい。って! 英雄達の武器を手に入れたのに! 誰にも出来ないことを成し遂げたのに! 誰も真似できないことをやってのけたのに! どうして誇らないのよ!! どうして認めないの!! どうして! どうして・・・!どうして・・・!

 

 

イリヤは今まで溜め込んでいた物がここに来て爆発したように、決壊したように涙を流して奏音を怒鳴り、睨みつける。そんなイリヤに優しく、いつもの自信満々の笑みはどこに行ったのかまるで少女のように儚げに。

 

 

「僕は弱いから」

 

「え・・・?」

 

「弱いから、今も逃げてる。向き合いたくない現実から、これはゲームのような物だって割り切って」

 

「・・・」

 

「ただただ己を満たす何かを探しているだけなんだ。だから、僕に誇れる物なんて無い。空っぽ(ゼロ)の僕には道理も誇りも、信念も願いもない。ただ、渇く喉を。■■()を欲しがる無限の欲望(渇いた喉)満たそう(潤そう)と必死になっているだけなんだよ」

 

「お兄ちゃんは、空っぽなんかじゃ・・・!」

 

(それ)の境界は一体どこにあるんだろうな。他人から見た自分なのか、自分がみている自分なのか」

 

「分かんない・・・分かんないよ・・・! お兄ちゃん幸せそうに笑ってるじゃん! それじゃあ満足できないって言うの? 私達と一緒じゃ・・・ダメなの?」

 

「だから何度も逃げてる。幸せなはずなのに、満たされない欲が腹立たしくて。諦めきれない何かを掴むことも出来なくて。けど安心してくれ。今回のなのは達の件で、何かが掴めそうなんだ」

 

「・・・・・・。・・・じゃあ、待つ」

 

「ああ。頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

さあ、皆さんお待ちかね!(待ってない)

ここから先は後書きという名のおまけだ!

内容は前々回同様オルレアン編を限界まで書いたためクソ長い。本文より長い。と言うか本文も長い。

何にせよ、「またなげーのかよ。んな話読みたくねーよ」という人は下のリンクから一番下へ飛んでくれ!

ここをクリックだ!









如月兄妹の人理修復。第一特異点編 前





とある日の夜。
管制室にてマスターである藤丸立香や、サーヴァント達、カルデア職員の体温、脈拍、呼吸、意識、血圧等を計測、異常が無いかを確認していた時の事だった。


「なぁ、ロマニ。彼は不思議だね」

「彼? ・・・あぁ、奏音君か。彼がどうかしたのかい?」


ロマニがのぞき込んだモニターには、自室のベッドの上で眠る如月奏音とそのバイタルが表示されていた。


「まことに勝手だとは思うんだけど、彼の意識が何を考えているのかを見てた所なんだよ」

「・・・勝手な事してるなぁ」

「見て。未知への探究心。収集欲。その他にもたくさん。流石、無限の欲望と呼ばれるスキルを持つだけはあるとは思わないか?」

「彼はクラス:コレクターなんだろ? だったら何もおかしな事は無いじゃないか。そういったものは持ってておかしくない」

「だが、彼の深層意識は何もなかった。空間、虚無さ」

「それはおかしいね。まるで―――」

「まるで深層意識()()どこかに()()()()()()()()だろう?」

「そんなの白痴のそれか、もしくは・・・」

「あるいは、神様の意識に近いものだろうね。だから彼は夢も見ない」

「“夢”?」

「そう、“夢”だ。人は皆夢を見るだろ? ああ、寝てるときに見る夢じゃないよ。いや、ある意味そっちでも正解だけどね。子供の頃は消防士になりたいとか、パイロットになりたいとか、大人になったらより具体性を増して、あの会社に勤めたい。とかさ」

「それ、僕達じゃ絶対に分からない事なんだけど・・・」

「ん? ああ。それもそうか。とにかくそういった“夢”をコレクター君は持っていない」

「うーん。つまりどういう事だい?」

「彼は“自分が如月奏音である”それだけで、充実した人生を送っているのさ。彼自身の存在が、コレクター君の“夢”を実現したものだったのだ」

「流石だ。やろうと思った事は出来た。なんて言うだけはあるね・・・。結局、レオナルドは何が不思議なんだい?」

「彼の深層意識はどこにあるのか。だよ」



主人公side

・・・・・・ここは。

―――ヤッホー。久しぶりだね、()()()のなりたい()()()

・・・・・・またお前か。何の用だ?

―――いやあ、また別世界に飛び込んで楽しくやっているみたいだからさ。ちょっと感想というかお言葉を頂きたいというか!

・・・・・・お前はゴシップ記者かよ。ハァ、ったく。何が聞きたいんだ?

―――さっすが()()()! 心の中は大草原なだけはある!

・・・・・・それはWが並んでそうだな。

―――うんうん。あ、そうそう。聞きたいコトって言うのはね。

・・・・・・おう。何でも聞けや。答えられる事なら答えてや

―――辛くないの?

・・・・・・

―――ほしいからって、人を傷付けて悲しくないの?

・・・・・・ッ

―――()()()は、そんな事したくない。()()()は、皆が幸せになれるように・・・!

・・・・・・一を救うために十を切り捨てる。それが()()の選んだ戦い方だ。

―――知ってるよ。だから()()()はここにいる。()()()が傷ついているのをただ見ている事しかできない。

・・・・・・なら、黙ってろよ。

―――ねぇ、()()()。もう止めよう? 本当は分かっているんでしょ? あの子ともたくさん問答したじゃない。あの子は()()()を批判した。()()()が責め立てられたのは覚えているでしょ? 

・・・・・・黙れよ。

―――()()()がいたから。()()()はあの時、()()()のために戦えたんじゃない。ねぇ()()()()()()は邪魔?

・・・・・・うるせぇ! 黙れよ、()()! ()()がいたら、()()は何も救えないんだ。

―――うん。

・・・・・・()()()()の中にある、それだけで理想を追っちまうんだよ! あの頃を取り戻したくなっちまう!

―――そっか。

・・・・・・過去を変える。それができる力が()()にはある。だからこそ、()()は使いたくない。使わせないでくれ。()()に、楽しかった思い出を思い出させないでくれ!

―――分かった。

・・・・・・頼む、()()()()には誰かを救う力があるって思わせてくれ!

―――ゴメンね。()()()()()()()()()がそこまで思い詰めてるなんて思いもしなかった。()()()が願っちゃってるからだよね。()()()()()()でいるようにって。だから()()()は、そんなになってまで()()()のために。

・・・・・・当たり前だ。()()のために頑張らない奴がどこにいる。()()はその為だけに―――




「起きて奏兄」

「・・・・・・()()に何の用だ。白野」

「起床時間だよ。珍しいね奏兄が早起きしないなんて」

「あー・・・。()()が・・・いや。悪い、起きる」

「俺が・・・?」

「何でも無い。今日は何の日だっけ?」

「ブリーフィングだよ。管制室に集合」

「ああ・・・。そうだったな」


・・・久しぶりにアイツと会ったな。ここ数百年ほど会ってなかったが、どうしてまた急に・・・? この間全力で蒐集書を活用したからかもしれない。これからはあんな無茶はしないでおこう。またアイツに会ったら、今朝みたいに目覚めは悪いわ、精神的に弱くなるわで大変だからな。


「いよいよグランドオーダーが始まるみたい」

「そうだな。人理修復への大きな一歩って奴だ」


白野とそんな事を話しながら管制室へ移動する。


「ご主人しっかりな。必要があればアタシを呼べ」

「拠点を見つけたらすぐに連絡したまえ。弁当を用意して待っていよう」

「何かあれば呼んでください。貴女の障害をこの件で叩き切りましょう」

「沖田さんもこの刀を貴女の役に立てられる時を待っています!」

「ありがとね、みんな」

「■■■■」

「物資はこちらへお願いします」

「フハハ。我の財も物資として使うが良い!」

「それはまたの機会に」


管制室では、沸騰した水のように慌ただしく人が蠢いていた。というか、皆平和だなぁ。


「おーい。私達も来たよ」

「よっす」

「おっ、寝ぼすけも起きてきたか」


まだ少しシパシパする目をなるべく開いた状態に保っていると、ザッと音を立ててカルデア職員が整列し、敬礼をし始めた。


「「「「おはようございます! 如月様(マイロード)!」」」」

「おう、おはよう。今日も頑張ってんな」


どっかの会社の社長っぽくそう言ってみたものの、未だ慣れないこの空気。どうやら俺はかなり慕われているようだ。原因は恐らくこの間の大改装。


「おはようございます、如月君。レイシフトの準備は終わっています。後は、出発の号令を」

「え? 俺?」

「管制は任せてくれよ? 君のおかげで甘味と睡眠はバッチリ、最高の状態(ベストコンディション)さ!」

「ナビはロマン、サーヴァントの真名は私が看破。あなたたちは、聖杯の確保、異変の調査を」

「はい、ミッション、必ず遂行します!」

「いよいよグランドオーダー、その初めの一歩だ! いいかい皆! 僕達はやれる。必ずミッションを遂行する! その為の僕達だ!」

「「「「イエッサー!!」」」」

「藤丸、しっかり!」

「信じてっからな!」

「大丈夫。君は一人じゃない!」

「はい!」

「総員配置について! さ、如月君。号令を」


なんでさ。ああ、もう。それっぽいこと言っておこう。


「諸君。諸君等がこれより挑むは果ての無き旅。諸君等の未来(あした)を取り戻す、我らが歩む足跡だ。諸君達に退路など存在しない。もちろん逃げる場所もない。安寧等あるはずもない。だがそこには確かに、諸君等の力で勝ち取るべき『未来(あす)』がある。終わりがないわけじゃあない。いつまでも続くわけじゃない。明確な悪が存在するであろうこの旅路は、諸君等の努力と勝利によって終わりを告げる。それまで諸君等には一面絶望の旅路を歩いてもらわねばならん」


そうだ。これから先何が起こるか、俺はそれを知らない。これから何度もやり直す事にはなるだろうが、それでも。彼等には多大な負担を掛けてしまう。


「だが、絶望に打ち拉がれた時はカルデアの施設を使い、自らを癒やせ。諸君等には一人でも欠けてもらっては困るからだ。さぁ、諸君。長い長いプロローグは終わりにしよう。誰もが聞いた事はあっても見た事はない。伝説のようで史実であり、神話のようであり実話である。そんな我々人類が歩み作り上げて来た歴史を取り戻す旅を―――今ここに開始する!」

「「「「了解!!」」」」


よしっ。ノリと勢いで押し切った。何言ったか覚えてねーけどいいや。


「コフィン起動、観測開始!」

「アンサモンプログラム! スタート!」

「藤丸立香、行きます!」

「マシュ・キリエライト。マスターのサーヴァントとして務めを果たします!」

「衛宮士郎、出る!」

「岸浪白野、いっきまーすっ!」

「全員無事で戻ってくる」

「―――レイシフト、スタート!!」

「目標は、西暦1431年・・・・・・フランス!」


カルデア独特の時空移動を味わって感覚的には数秒後、目を開けるとそこはカルデアの景色でも、いつかの赤く染まった冬木の地でもなく、広大な。今となっては見る事のできないであろう広い広い世界が広がっていた。


「はーい。皆いるか点呼しまーす! マシュ!」

「はい!」

「シロウ!」

「いるぞ」

「ハクノ!」

「いるよ」

「カナタ!」

「いるさ」

「全員確認! ・・・すごい、これがレイシフト。よーし! 私たちの戦いはこれからだ!!」

「頑張りましょう、先輩!」

「フォウ!(それは打ち切りフラグだよ!)」

「フォウさん!?」


カルデアのマスコットじゃねぇか。どうやってここに来たんだ? あれ? っつかお前今喋らなかったか? おい、“フォウ”とやら。


「フォウ、フォウ(やぁ、初めましてだね)」


お前、やっぱり人語を理解しているのか?


「フォウ(まあね。僕が君に話しかけたのは興味からだ。初めは全く声なんてかける気なかったし。でも、君と君には興味がある)」


・・・・・・後者の君。ってのは、()()()のことか。


「(そうさ。君の持つもう一つの側面。夢を持った純粋無垢な魂。僕はその輝きに惹かれたのさ)」


・・・・・・お前が今朝、話しかけて来たせいだな。

―――()()()のせいか。ごめんね()()()

・・・・・・コイツに目をつけられたぐらいは何ともないさ。


「・・・フォウ(ツンデレかい?)」


何で自分自身にツンデレしなくちゃならんのだ?


「・・・ね、ねぇ。皆・・・? あれ、何だと思う・・・?」


フォウと良く分からない話で盛り上がっていたところ、立香の震えた声に振り向き彼女が指差す先に目をやって、固まった。

空には莫大な光量を持つ帯が広がっていたのだ。凄まじいエネルギー・・・いや、魔力量なのか?


『光帯・・・。ロマニ、1431年にそんなものがあった記録は?』

『勿論、ありません。あれは衛星軌道上に設置された何かの魔術行使だと予測されます』

『―――目算で北米大陸とちょっと、か。調査班に資料を渡して、解読を進めて』

「奏音はアレが何か分かる?」

「謎解きも人生の楽しみだ。だがノーヒントというのも面白くない。だから一つだけ、アレを上回る熱量は今の地上にはないよ」

「まさか・・・・・・」

「・・・ああ、そうだ。先に言っておこう。特別大切って訳でもないが、まあ聞いてくれ。俺は千里眼を持っているわけじゃない、確かに過去に戻る力を持っていて未来を見て帰ってくる事も可能だが」

「うん」

「マスター達の道のりをこれ以上整地するつもりはないから覚えておけ。答えを見つけるのも正解かどうか確かめるのも、全て自分でやれ。俺が手を出し口を出すのは、『俺の欲を駆り立てる何かがあった時』と『それを回避しないと良い結末が訪れない時』のみだ。後はお前達が頑張ってくれ」

「奏音・・・?」

『大丈夫。安心しなさい立香、マシュ。貴方達ならやれるわ。元々コレクターなんて異常な適正持ち(イレギュラークラス)使い魔(サーヴァント)、いないのが当たり前なの。幸運とはいえ、必ず必要な物でも無いわ』

「・・・・・・ようするに、自分で考えて行動しろって事だよね。なーんだ。いつもの事じゃん」


そう、立香はもちろん士郎や白野にとっても、それは当たり前いつもやっている事だ。しかしだからといっていつもの空気とは違う場所でいつもとは違うメンバーで戦闘に挑む時、少しばかりのミスをしないように、ここで釘を刺しておく必要があるのだ。


「フォウ(あんな機械みたいな奴の夢を持つ心が君だなんて信じられないよ)」

―――()()()を切り離したから、()()()はあんな風になっちゃってるだけだから。

「(にしては人間性を全てそぎ落とした機械みたいだけどね)」

―――フォウも分かってるんでしょ? 人間にとって一番大事なものは希望や夢を持つ心だって事。()()()ワタシ(それ)を切り離しちゃったから。

「(また、一つに戻れるのかい?)」

―――どうだろう。()()()がまた、夢を持っても大丈夫だと。誰かを守りたいという根底の願いを受け入れても良いんだって。そう感じてくれるようになれば、()()()も、()()()と一緒になれるのかな。

「(なれるさ! 人間人生長いからね! 彼もいずれ気付くはずさ・・・。っていうかちょっと待って? 彼が人間になったら一体どうなるんだ・・・?)」

―――それは()()()が一緒になるんだから。

・・・・・・無限の欲望(スキル)に縛られない。あの頃のような我欲まみれの蒐集家になるだろうな。

―――それは、サイキョーだね。

・・・・・・確かにな。

「(そんなに強かったの?)」

―――宝具とかがある分、攻撃力とか防御力は今の方が高いけど。

・・・・・・無限の欲望に人間の我欲が合わさると、まさに不屈の(ココロ)を持つ事になる。

―――その身が滅ぼうと、

・・・・・・朽ち果てる結果になろうとも。

―――己が欲を満たすために全身全霊を持って、

・・・・・・真っ向から向かっていく。そのせいで何度体が四散したことか。

―――忍さんと出会ってて良かったよね。

「フォウ・・・(大変だったんだね・・・)」


あれ? っていうかちょっと待て。まさか歩いていく気か? この広大な世界を? 徒歩で制覇する気か馬鹿者共め!!


「え? だってそれ以外に移動方法が・・・」

「ヴァカめ! この広大な土地でやるべき事といったら、競争に決まっているだろう!」

―――テッテレー!

反重力エンジン付レース用ゴーカート(マ○オカートのアレ)!」


おいおい。お前、フォウにバレたからって少しは自重しろ。天の鎖(エルキドゥ)


―――はーぃ。ってちょっと待って! これはいやだ! 蒐集書の奥底につなぎ止めるつもりでしょ!? 何年かかって抜け出したと思ってるの!?


今回はエネを話し相手として送るから、まあ仲良くやっててくれ。


『はいな!』

「・・・ん? 誰かなんか言った?」

「っていうか・・・何でこれあるの?」

「俺が生まれる数十年前に俺の星で流行ったからだよ。反重力で浮いた機体でラリーレースみたいに荒野なんかを走り回るんだ」

「へぇ・・・」

「ほんじゃまあ、乗り込め~」

「わーいっ!」

『早速甘やかしてどうする!? さっきの口舌はどこへ行ったんだ蒐集家!』

「甘やかしてない。こんな広野、俺が歩きたくないから乗るんだ。さあ乗れ! レースの始まりと行こうじゃないか!」


俺の号令に合わせて、立香達も怖ず怖ずとだがマシンに乗り込んだ。


「運転はその辺のゴーカートと代わらん。右がアクセル左がブレーキ。座席の左に埋もれるように着いているのがドリフト用サイドレバーだ。引いてハンドルを切ると車体が滑る。それじゃあいくぞ」


白銀の波紋から信号が現れ、カウントを始める。GOと同時、スピーカーも出現し、ユーロビートを流しはじめる。


「最下位は罰ゲームな!」

「「「それは早く言って!?」」」

「フォウッ!」

「我も参加するぞ!」

「「「?!」」」

「このライダーにクラスチェンジした我と、ギルギルマシンがな! フハハハ!!」

「カルデアから勝手に出てきたのか!? 何でもありだな御機嫌王!」

「ンフハ! 先頭はもらっていくぞ!!」


そう言って金ぴかのバイクは俺達を抜かして一位で爆走しはじめた。・・・・・・仕方ない本当に仕方ない。アイツに一位をとられたくないしな。別に、今までの自由な王様に腹が立っているとかでは決して無い。さて、では波紋から青い甲羅にトゲと羽が生えたものを取り出して・・・。


「あ、それ、トゲゾーこうら・・・」

「よし、爆撃(いけ)

「フハハハ・・・・・・なにっ!? 奏音、貴様ッ!! おのれおのれおのれおのれおのれおのれ――――――!!」


爆発と共に遥か後方へ消えていった。これで良し。


「兄さんだけアイテムとかズリーだろっ!!」

「アイツに対してのみ使う。いや、これは私怨とかじゃねーから。あいつウゼェとか思ってねーから」

「思ってたんだ・・・」


その後も追い着いてきたアイツの目の前にバナナを設置したり、抜かした矢先に赤甲羅を投げたり、ボム兵を直撃させたりしていたら、いつの間にか町が近くなっていた。


「おー。あれか」

『そうだね。あの先に現地の兵と見受けられる反応がある。接触してみるかい?』

「情報源は多い方が良い。とは思うが・・・、どうするマスター?」

「うーん。大丈夫かな?」

『何の心配だい? ・・・あー、言語文化の違いかな?』

『帰ったら勉強よ』

「うぇ-!?」


町も近くなってきたので各々マシンを止めて地に足を付ける。


「あー、くっそ楽しかった」

「はいっ。風を切って走るのがこれほどまでに楽しいとは思いませんでした!」

「ギルのバイクの方が速いとは思うけどね。実際何度も抜かされてたし」

「フハハ。我のバイクは最速だ。しかし奏音の奴、やたらと我だけ妨害してきたな・・・。さては奴め照れ隠し的なアレだな?」

「んな訳あるか」

「ど、どうやって話しかけよう・・・!」

『まあまあ、言語の壁に阻まれるのもまた旅の醍醐味だよ。心配はいらない。異星人とかじゃあないんだ、意思疎通ぐらいは出来るよ。表情で、身振りで、魂で物事を伝えるんだ!』

「万能の天才から魂という言葉が聞けるなんてな」

「勉強はいやだ! 助けてカナえもん!!」

「しょうがないなぁ立香くんは、『翻訳こんにゃく』!」

「「「『持ってんのかよ!!』」」」

「まあ、ただのこんにゃくなんだけどな。カルデアの調理場から持ってきた。そも過去の別世界に行くんだからコフィンそのものに翻訳機能がついているとみてまず間違いないと俺は思うが、その辺どうだと思う?」

「・・・確かに。日本人だけじゃなく世界各国のマスターが集められたと考えても、過去の世界に行ったら現代の言語は通じない。だったら通じるようにされている。そう考えた方が良さそうだな」

「じ、じゃあ。このまま行ってオーケー?」

「喧嘩だけは売るなよ」

「もち!」


自信満々の表情で立香はマシュを連れ立って、フランスの兵士であろう彼等に話しかけに行った。


「ヘイヘイ。私は藤丸立香! 怪しい物じゃありまs」

「変な奴がいるぞ!」


結論から言おう。あっさりと周りを囲まれてしまった。ちなみに立香はその場にしゃがみ込むようにして「私変なヤツ?」を繰り返している。変なヤツと呼ばれたのが大分ショックだったようだ。
まあ実際、初対面であんなフレンドリーに話しかけられたら、現代人でも多少は怪しむだろう。


「Dr.ロマニ! 何かこの場を収められるような策をください!」

『あったらとっくに提案してるよ!』

「まさかこの我に刃を向けるとはな」

「全員消せば目撃者はゼロ」

『特異点は切り離された世界、殺めてもパラドックスはおきないだろうけど・・・』


んな訳あるかい。ここは一つの歴史の流れ。この場で殺された命は生き返るわけがないだろ。死んだ命が、生き返るわけがない。それこそ・・・・・・過去を変えない限りはな。


『マシュ、立香。無力化を最優先に。貴女達が背負うのは人理の行方だけでいい、無用な重荷はいらないわ』

「所長・・・」

『どうしても戦闘が避けられない場合は峰打ちで。無茶な注文だけど、少なくとも手が血で染まることはないわ』

『聞いたかい英雄王、白野君! 殺しちゃダメだからね!』

「うむ」

「はーい」

「・・・じゃあこの場は俺が何とかしてやろう」


とりあえず思いついた言葉を言うだけだから結果は分からない。だが、少なくとも悪い方向には行かないことは俺の意識が未来から戻ってきていない事で分かる。
さて、どうするか。


「さて、無抵抗の相手しかも武具も構えていない我々に刃を向ける。・・・その気骨に免じてお咎めなしとしよう。まずは貴様らからしておかしな行動をとった事を代表で謝罪しよう。そのせいで無駄な緊張と焦りを生じさせてしまったからな。そして我々は貴様らの敵ではない」

「味方・・・なのか?」

「味方でもない。敵ではないだけだ。貴様らと敵対する意味がない。恐らくだが、我々の目的は貴様らを害した主犯・・・つまり貴様らの敵が我々の敵という事になる。貴様らと争う理由はない」


必殺。敵の敵は味方理論だ。通じるかどうかは分からないが、クモの糸にもすがりたそうな彼等には、敵対しない敵ではない。この言葉は甘味のように素晴らしい物だろう。


「・・・わかった。とりあえずここは武器を収めよう」


無力化成功。さて、あとは彼等の案内で現状を把握するだけだ。


兵士の後に続いて向かった先で辿り着いた、攻められほぼ廃墟にされた砦だったものを見て、一同が息を呑む。爪で抉られたような、炎で焼かれたような、牙で囓られたような凄惨極まる有り様に、俺は今後の展開に期待が高まっていた。


「何これヒドゥイ」

「ゴルゴムの仕業か!」

「この私がゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

「変ッ・・・身ッ・・・!!」

『砦、じゃないかな? 最もまともなのは外壁くらいで、その中身は酷い有り様だけど・・・』

「俺は太陽の子!」

『負傷兵ばかりじゃない』

「仮面ライダー! ブラァッ! アーッ!? イッターイッ!」


巫山戯倒す立香と白野を黙らせ、兵士達から現状を聞く事にする。とりあえず敵対していない事は伝わっていると思うので、何かしら怪しげな行動をとらない限り向こうが敵対してくる事もないように思う。


「何が・・・あったんですか?」

「・・・甦ったんだ」

「甦った?」

「クライシスッイッターッイ!」

「あぁ、聖女、ジャンヌ・ダルクが甦ったんだよ」

「竜の魔女として―――悪魔と契約して!」

「「な、なんだってー!?」」


くそ、こいつ等全然黙ってくれない。今まで抑圧してきた弊害がここに来て顕著に表れているのか!?


・・・・・・言う事を聞かない立香達のストレス発散に、襲撃してきたガイコツ達の相手を任せ、俺達はカルデア待機組とジャンヌ・ダルクの情報を照らし合わせる。

ジャンヌ・ダルク―――フランス東部に、農夫の娘として生まれた。神の啓示を受けたとしてフランス軍に従軍し、イングランドとの百年戦争で重要な戦いに参戦して勝利を収め、後のフランス王シャルル七世の戴冠に貢献した。
その後ジャンヌはブルゴーニュ公国軍の捕虜となり、身代金と引き換えにイングランドへ引き渡された。イングランドと通じていたボーヴェ司教ピエール・コーションによって『不服従と異端』の疑いで異端審問にかけられ、最終的に異端の判決を受けたジャンヌは、19歳で火刑に処せられてその生涯を閉じた・・・・・・。

その尊厳が取り戻されるのは、それから400年後だった。


『これは・・・』

『ジャンヌ・ダルク・・・彼女、よく英霊になれたね。この仕打ちを鑑みれば、怨霊か・・・よくて復讐者が妥当じゃないか』

「・・・だから、魔女として召喚されたって事か・・・?」

『聖杯によって、と言う事ならありえない話ではないわ』

「言い換えるならばジャンヌ・ダルク・オルタナティブって所か」

「アルトリア・ペンドラゴン・オルタナティブもいるからあながち間違いでも無いか」

『英霊が反転した別の側面持ちって事ね?』

『そんなことが・・・英霊の座ってのは複雑なんだなぁ・・・・・・』

「そもそもこの場に召喚された竜の魔女がオルタなのか普段通りの姿なのか、それすらも判明してないけどな」

「確かに」


どちらにしろ反転していようがしていなかろうが、厄介な敵である事は確かである。しかし、竜の魔女・・・か。


「ただいま」

「おかえり。どうだ? 戦えそうか?」

「はい、盾、峰打ちの極意・・・見えた気がします」

「ガイコツに峰打ちも変な感じだったけどね!」


とりあえず立香達には抑えてもらわないと。今日のテンションだと突発的に仮面ライダーに変身しそうだ。


「アンタ達、よくやるなぁ・・・」

「敵には容赦しない質なんで。この程度の敵なら楽勝っすよ」

「いや、アレくらいなら俺達でも相手できる。・・・もっとヤバいヤツは別にいるんだ」

「ヤバいヤツ、とは・・・?」


と、そんな時、耳をつんざくような咆哮が大気を振るわせ殺気と共に降り注ぐ。


「ッ!!」

「き、来たぞ!」

「あ・・・ア、アレだ! アレがフランスを滅茶苦茶にしたドラゴンだ!」

『ドラゴンだって!?』

『ロマニ、映像を回して! ・・・これは、ワイバーン!?』

「ワイバーン・・・竜の幼体か。偵察機としては申し分ない戦力だな」

「マシュ! ハクノ、シロウ! 戦闘準備!!」

『えぇ、それでいい! 紛れもなく敵性エネミー!』

『1431年のフランスにドラゴンがいてたまるか!』

「了解しました。マスター! シロウさん達もよろしいですか?」

「戦闘になるわけがなかろう」


ギルガメッシュがそう呟く。マシュと立香がその意味を問おうとワイバーンから視線をそらしたその瞬間。
数匹のワイバーンの頭蓋が粉々に砕け散った。

そしてワイバーンから立香達を守るように原初の火(アエストゥス・エストゥス)を持った白野と、干将・莫耶を握る士郎が立つ。


「訓練で疲労しているマシュとマスターにこれ以上の戦闘は無用だ。そうだな、雑種」

「ああ」

「・・・カナタ」

「お前達は休め。掃除くらい、俺達で出来る」

『ワイバーン! 来るぞ! 数は25!』


二十五か・・・。十秒だな。

九・・・士郎の干将莫耶が一匹落とし、

八・・・白野の偽・螺旋剣が二匹落とす。

七・・・ギルガメッシュが五匹落とし、

六・・・俺の宝具で八匹落とす。

五・・・士郎の赤原猟犬が二匹落とし、

四・・・白野の軍神の剣が一匹落とす。

三・・・ギルガメッシュが三匹落とし、

二・・・俺の宝具で二匹落とす。

一・・・そしてトドメの一匹を、

零・・・士郎の螺旋剣・改が貫いた。


全員頭部を辛いたり潰したりする事を主とし、他の部位は損傷しないように気を付けさせた。
まぁ、詰まるところ・・・。竜の肉はそれなりに美味いと言う事だ。


「さて、貴様らの砦に野戦の備えはあるか?」

「え? ・・・火って事か?」

「焼いて食え。何もかもが欠乏している貴様らに、必要な物だろ?」

「い、いいのか?」

「構わん。食え」





「気を付けていけよー! 旅の方ー!」


兵士達に見送られ、砦を後にする。


「いっぱいお礼言われたね。マシュ」

『まさか薬まで渡すなんて・・・貴方の財は本当に際限なしなのね』

『エリクサーだろう? かなり高価だが良いのかい?』

「良いんだよ。基本使わずにエンディングを迎えるものさ。それに、あの程度の物。草とキノコの調合品と蜂蜜を調合すれば簡単にできる」

「フォウ、フォウ(ラストエリクサーに、回復薬Gかぁ・・・)」

「さて、休息はこれで終わりにしよう。んじゃ、マ○オカートだすぞー」

「わーいっ! レースの時間だ!」

『もう少しで霊脈がつかめるわ。それまで周辺の警戒を・・・』

「さあ、飛ばしていこうじゃないか」


出立の準備を進める一行の前に、


「お待ちください!」


飛び出し、立ち塞がる者がいた。


「へ?」

「誰?」

「・・・聖女」


鍛え上げられた観察眼・鑑定眼がその人物の真名を速攻で見抜く。そう、そこにいたのは旗の聖女、ジャンヌ・ダルクその人だった。



******



「わ。わ、わわわぁ―――!!」


時速300キロ超えの速度で、先ほど霊脈を感知した地点までイエローカラーのベンツSSKが爆走する。
隣にジャンヌ・ダルクを乗せてギルギルマシンと並走するようにただ走る。その少し後ろから士郎の運転するハーレムカー(白野命名)が追従する。
そして、「わわ」とかマヌケな声を上げるジャンヌに並走するギルガメッシュから嘲笑が飛ぶ。


「なんだ貴様のその情けない声は! 召喚の折に知識はあらかた受け取っていよう! 車やバイクごときに何を驚く!」

「わ、私は諸事情でサーヴァントとしての自覚があまり―――!」

「あまり喋るな。揺れで舌を噛むぞ」

「話しかけてきたのはあの方で―――! というか、早馬でもこんな速度では―――!?」


当たり前だろう。その馬が500頭いる計算だぞ?


『ジャンヌさん、お気を確かに!』

『慣れだよ慣れ!慣れればなんとかなる!』


同じ300キロでも鉄の箱に囲まれたあんた等にも言われてもねぇ・・・。


「貴女方は強い方達なのですね――!! 私は、意識が、飛び――!」


比べるな比べるな。あいつ等は大分丈夫なバリアに守られてるようなものだから。


「まぁ、寝とけ。着いたら起こしてやるからよ」

「は、はひっ―――カクッ」

「・・・・・・ああ、そうだロマニ」

『なんだい!? ・・・というか、観測が物凄く大変なんだけど! 加減してくれないかな!?』

「霊脈に着き次第、何故ここが特異点なのか、立香達にきっちりと教えておいてくれ。それと、補給物資の準備も頼む」

『その言い方だと、何かやる事があるみたいだけど・・・』

「後始末さ。大切な大切な後始末。潜入任務は痕跡を残す事を許されねーからな」


世界の意思によって、未来である現在に続くように辻褄合わせが行われる事になるこの過去の世界を、フォン=ライノ歴史からズレないように修正しよう。


『・・・その速度だと三分もしないうちに目的地よ! 気を付けなさい!』

「任せろ。車の免許ぐらい誰でも持ってる!」

『その心配はしてないなー』


そうか。なら何の心配をしていたんだろうか。良く分からん。その後、霊脈に群がるエネミーをひき殺し、無事にレイラインを確保した。



新幹線並の速度を叩き出したオープンカーで風を浴び、意識混濁していたジャンヌの頬を軽く叩いて起こし、マシュとマスターにこれからどうするかを話し合わせるよう提案し、召喚サークルを確立させた。
これでカルデアの補給物資が届くようになり、カルデアのサーヴァントも派遣できるようになって、少しは安心できる環境である拠点が出来上がった。
ちなみに支給された物資は最高級のもの。ポップアップマイルーム、食事に関してはエミヤが出向き手料理を振る舞うなどの待遇だ。

異世界の異次元技術に目を白黒させるジャンヌが、どことなく可愛らしかったのをここに明記しておく。


さて、皆が休息に入っている間に、やるべき事をやっておこう。


「ん? 何をする気だ? ん? 我に教えてみよ。おい雑種。雑種~」


ウゼェ。所用で外すといってあの場から離れたら、ギルガメッシュが着いてきてこの調子でずっと話しかけてくる。正直ウザい。まだ、まだこれよりウザいヤツを知っているから我慢できるが、流石にこれは酷い。

まぁ、何をする気かと問われれば、この特異点全てに繋がる竜脈・・・地脈とも言えるが、を探しているのだ。


「ふむ。・・・ならばこの辺りが適当だ」

「その観察眼は流石だな。失せ物探しなんかに役立ちそうだ」

『二人とも、何をしているんだい? エミヤ君の作った料理はいらないのかな?』

「要らないな」

「我らの分はマスターとマシュに回せ。少しでも身を休ませよ。先は長い」


ギルガメッシュが何か言っているが、恐らく俺には全く関係の無いことであることは分かっているので、自分の用事を済ませようと思う。


「む。それは魔道書か?」

『君の宝具の魔道書じゃないか! 一体何を!?』

「うるさい。通信は耳元でなるんだから、叫ばなくても聞こえてる」


それにこれは俺の持ってる蒐集書そのものじゃない。一部機能だけを抜き出した所謂写本だ。本物じゃない。


「それで何をするのだ? ん?」

「お前なら分かっているんだろ?」

「残念だったな! 貴様と行動するに辺り、我はある程度の権能を封じておる」

「あー、はいはい。聞いた聞いた。先が読めたらつまらないんだろ」

「良く覚えておるではないか! で? 何をするのだ?」


・・・・・・プレゼントを楽しみにする子どもかよ・・・。


「コイツは蒐集書だっていっただろ? 集めるんだよ。聖杯が作り出した特異点をな」

『集めるため・・・?』

「集めてどうする。そんな物、己の目で見て回れば良かろう」

「ギルガメッシュは察してるだろうけど、特異点での異常によって死んでしまったり後遺症が残った人間はあるべき歴史には戻らないだろ?」

「・・・そうさな。例え特異点を修復したとしても、死別してしまった人間は生き返ることはなく、ただ辻褄が合うだけで終わるだろう」


特異点は消えない。そこで起こった変化は、あるべき未来に向けて微妙な些細な変化を残しながら、修正を繰り返して未来に、現在に続いていく。

もし、立香達が人の死を目の当たりにし、特異点だから大丈夫と高をくくり、誰かに事実を突きつけられたとき、絶望しないように対策をとらなくてはいけない。そう、俺は考えた。


「だから俺はこうやって、特異点を別の歴史として記録しフォン=ライノ歴史から切り離すつもりさ」

『え・・・。待って待って! 特異点の在り方にも驚いてるけど、君のやってることは無茶苦茶だって事分かってる!?』

「今更じゃね? それに俺はあいつ等のやってることが無駄だって笑ってやるつもりなのさ。異なる歴史として書き記すことで、ヤツらは夢物語を綴っているだけの愚か者だってな」

「ふむ。ならばこの特異点の歴史以外の全ては我が請け負おうではないか」

「は?」

『え? ・・・って、聖杯じゃないか!』

「狼狽えるでない。これはまだ起動せぬ。特異点崩壊の後、その全てを吸い上げるのみよ」

「特異点の歴史は記録され、なおかつそれを構築する全てはエネルギーに変換される・・・?」


何それ。チート?


「フハハ。成功の後には超巨大な魔力炉心が完成するであろう! 増やせるか? なあ雑種。貴様の書物は増やせるか? 増やせたあかつきにはカルデアのリソースも潤うであろう!」


高らかに笑うギルガメッシュ。確かに・・・可能ではある。生命は複製できないが、概念は複製できる。生命以外なら何でも複製できる蒐集書は、やっぱりギルガメッシュ以上のチートだな。俺は弱いが。使い手とのバランスどうなってんだ。


『君、貯蓄とかできたんだ!?』

「無論。元より使う財のほとんどは溜め込んだもの。貯蓄は大事である」

「一時期蔵の中身が空っぽになっていた王様が言うと説得力が違うな」

「その原因は貴様自身であるぞ。顧みよ雑種。まあ、座に一度帰れば問題は無くなったがな」


終わりに向けた準備は整った。後は軽い会話を続けながら、夜が更けていくのを眺めていた。




翌日の朝。


「フォウフォウ!(起きろ! 起きろよコレクター!)」

「・・・・・・うるさい。起きてるよ。何用だ」

「フォウ(もう朝だ。早く来な。朝食が待ってる)」

「朝食は待たねーだろ・・・」


朝の用意が面倒なので、体内温度を上げて口内や、腸内などの殺菌をすませる。これぐらいをする耐久力はある。・・・・・・あれ? 俺もしかして人間じゃない・・・? ・・・吸血鬼もどきだったわ。


「お! カナタ! おはよう!」

「おう、よく眠れたか? 疲れを持ち越してはいないな?」

「うん! 使い慣れたマイルームのベッドでぐっすり!」

「なんだか変な感じです。地面の上で寝るものと思っていたのですが」

「地べたに臥伏など大した休息にはならぬ」


その通り。だから俺が用意したのだ。カルデアにあるマイルームと遜色ない部屋を出現させる高性能な機械を。


「ホレ、フレンチなトーストだ」


キャットが焼きたてのフレンチを出してくる。卵の焼けた香ばしいいい匂いが鼻腔をくすぐる。


「おぉ、美味そう。お前が作ったのか?」

「然り、夜のドンファン、朝のキャット。おはようからお休みまであなたの胃袋をがっしり仕留めるがモットーなのだな」

「朝は“洋”夜は“和”だよな~」

「本当に美味しいよ!」

「はい、キャットさんの意外な一面です!」

「キャットさん、すみませんがおかわりを・・・」


立香達が口々に褒める。白野にいたっては無言で次々口に詰め込んでいく。リスか。


「フレンチトーストは俺の好物の一つだぜ」

「ふむ。珍獣の作った料理にしては、見た目も味も良いではないか」

「であろうであろう! 昨日料理を拒否されたと赤マントが凹んでいたからな。ゴールド達の料理は合作である」

「贋作者にしては上出来だ。・・・どうせなら世話を任せられるような英霊どもを呼び寄せよ。とは思ったが・・・見た目では測れぬものよ」


士郎には劣るがな。とか思ってそう。

食事を終え、昨日の話し合いの結果を聞くと、情報収集に徹することにしたらしい。


『あちらの戦力が把握出来ておらず、聖杯を誰が所持しているかも解らない今、オルレアンに突撃するのはダメよ。それに、ルーラーの真名看破(クラス特性)も機能していないみたいだし』

『ジャンヌが処刑されて間もない時期だから、サーヴァントとしての自覚が薄いらしい。新人のような感覚なんだって』

「ほう。ようやく合点がいった。サーヴァントにあるまじき狼狽えようはそれか」


聞くところによると、聖杯戦争を経ずに誰かに聖杯が渡る。
『勝者を決していないのに聖杯が誰かの手にある』
というバグを修正するため、いくつかのサーヴァントがカウンターで召喚されているらしい。
最低七クラスはあるって事? うっわーめんどくせー。


「すみません、英雄王。貴方のお力がありながら遠回りな作戦を立てることをお許しください」

「よい。我は奏音(此奴)が起こす事象にのみ興味がある故な。そちらが何をしようと、あまり関心は持たぬ。まあ使うときは呼べ。圧倒的な物量を持って蹂躙してやろう」

「脱ぐなよ?」

「それは気分次第よ。分かっておろう? 白野(雑種)


と、言う事で。まずは情報収集に専念するらしい。近場の町、ラ・シャリテに向かう。


「幸い土地勘は失われていません。あの鉄馬車ならば、迅速な進軍が可能です」

「どうする。奏音」

「SSKちゃんか。よし、んじゃあいくか」

「マスターとマシュもこれで良いな?」

「うん!」

「もちろんです」

「っつか、また俺が運転すんの?」

「ハーレムカー、だよ」

「だから嫌なんだよ・・・」


・・・士郎が運転して・・・。助手席に白野、後部座席にマシュと立香・・・。あぁー確かにハーレムだ。


『こっちも異論は無いわ』

『さっきの車で移動すれば十五分もかからない距離だ。すぐ出発しよう!』

「誰がさっきと同じといった?」

「「「・・・へ?」」」












「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――」


時速600キロ。その速度に煽られたジャンヌ、士郎、白野、立香、マシュ、ギルガメッシュの悲鳴(?)である。
反重力ゴーカートを牽引したメルセデス・ベンツSSKちゃんの約6分間の走行を経て、ラ・シャリテにカルデア一行は辿り着いた。
最も、地球上に現存するエンジンでは時速600キロという暴力的な速度は絶対に出ない。それもこれもタキオン粒子によって生み出されるエネルギーを直接シャフトに伝え車輪を回すという暴挙にでた、頭がおかしい人間の発明品のおかげである。


「死ぬ・・・かと・・・思った・・・」

「回復役飲んだらスッキリしました・・・」

「モンスターマシン過ぎるだろ・・・」

「未来の世界とは・・・このような機械も生まれているのですね・・・」

「ハハハハ・・・。フゥ。もう二度と乗らんぞ」

「もっかい乗りたい」

「白野ォ!?」


さて、何故ここまで急いだのか。だが。俺はここへ来るのが二度目である。それだけで説明できるとおり、俺は一度この街のとある光景を目にし、崩れ落ちる立香を目にしているのだ。あの光景を見せないために。例え見せることが彼女にとって試練になるとしても。
何故なら、立香は十分に成長している。これ以上急いてもいいことはない。ゆっくり成長すれば良い。俺はそう思うからだ。

ラ・シャリテの町の入り口付近に車を止める。


「俺はゴーカートの片付けをしてから行く。先に行ってろ」

「ならば我はここで待とう。有益な情報を自らの足で集めてこい」

「「はい!」」

「私もここで待ちます。・・・その、今の私は、混乱を招きますから」 

「分かった! 待ってて!」

「いってきます」

「んじゃ、いくか」


マシュの手を引き、町へとかけていく立香。士郎と白野はそれぞれ別の方向へかけていった。


「フ。人類の存続を懸けた戦いと言えど、愉悦を忘れてはならぬからな。だからといって、その車は認めん」

「SSKちゃんMK-2の何がいけねーんだよ」

「その暴力的な速さに決まっておろう! 地を駆ける車両のなりで空を駆ける鉄の鳥のような速度を出しおって!」

「うん。まあ悪かった。ちょっと眠気覚ましにな」

「余計目が乾燥したわ! シパシパする」


英雄王の口から目がシパシパとか聞けるとは思わなかったわ。
そんな事は置いといて。乗り捨てられたゴーカートの片付けをしなくちゃな。俺の故郷の科学製品は、宝具と違い展開するだけで魔力が減ることもないが、魔力に還元して破棄することも出来ない。宝具並に強いくせに融通が利かないのが欠点かな。


「おい、雑種」

「・・・んだよ」

「時間つぶしはそこまでだ。招かれざる客が来たようだぞ?」

「んん?」


空を埋め尽くすワイバーン。その先頭を飛翔する五つの影。
その中心には、黒き聖女が佇んでいた。


それを見たジャンヌが駆け出し、ギルガメッシュもゆったりと歩いて後を追う。・・・これ俺も行かなきゃダメ?


「んん? んふふ。軍を率いてきてみれば、とっても面白いことになってるじゃない」


町の広場にサーヴァントらしき者達が降り立った。相も変わらず上空には無数のワイバーン。昨日の砦とは比べ物にならない数だ。


「何があった?」

『あぁよかった! 間に合ったんだね三人とも! サーヴァントだ! 五騎もいる! どうしよう!?』

『マシュ、立香を護って! 一瞬でも気を抜いてはダメよ!』

「はい・・・!」

「ロマニ、う・・・うろたえるんじゃないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ」

『ドイツ軍じゃないよ!?』


こんな状況だからこそボケられる立香のココロの強靱さは心底尊敬するしかない。

そして白き聖女、黒き聖女が相対する。表情は異なるがまるで鏡写し。

挫けぬ光を灯す白。消えぬ闇を灯す黒。

竜を描く旗。神を称える旗。

その総てが――コインの裏表のようだった。


「ッ――あはははははは! なんてこと! 誰か、誰か私に水をかけて! ヤバいの、死んでしまうわ! 私!」

「・・・」

「だって、だって滑稽なのだもの! 何、アレ? ネズミ? ミミズ? ムシケラ? あはははははは! あまりにもちっぽけで笑っちゃう!」


けらけらと笑い続ける黒き聖女。その声色は間違いなく、先程聞いていたジャンヌのものだ。
そう、だな。水をかけろというなら言われたとおりにしてやろう。放水門開放。富士の水装填。


「ハイドロポンプ」


お望み通り水をぶっかけてやったらスッゲェ形相で睨まれた。んだよ、水かけろっていっただろ?


「―――そこのサーヴァント。よくもこの私に水をかけましたね」

「お? お前がかけろって言ったんじゃねーか。279文字前を思い出してくれねーかな」

「ッッ・・・フハハハハハハハハハハ!!!」


高らかな笑いが町に響く。恐らくびしょ濡れになった黒き聖女を笑ったのではなく、その前のここに来た時点での黒き聖女を笑っているのだろう。


「――なんですか、そこのサーヴァント。黙りなさい。耳障りな笑いを止めなさい」

「これが笑わずにいられるか! 傑作だ! これが竜の魔女だと!? 童にしか見えぬ! 待って! 死ぬ! 笑い死ぬ! ハハハハハ! ハハハハハ!!」


また草生やしてるなぁ・・・。例えるなら「こwれwがw笑wわwずにwいwらwれwるwかwwwwww」である。


「ぎ、ギルストップ!」

「どうどうです!」

「落ち着けよギルガメッシュ」

「――そう。アンタ達だったのね。ジルが言ってた、鉄馬で走る目障りな金色って言うのは」


SSKは黄色なんですが。まあギルギルマシンは確かに金だけど。


「なんだ、貴様保護者もいるのか。そのジルとやらはどうした? 泣きつく胸板が見当たらぬが」

「クス・・・」

「フッ」 


鉄のドレスを纏うサーヴァントと、豪奢なサーヴァントが笑みを溢す。笑い袋に当てられたか?


「何が可笑しい――!!」

「ごめんなさい、あまりにもあちらが愉快そうだから」

「うむ。許せ」

「チッ。まぁいいです。もともと、貴方達をおびき寄せるつもりでしたから」

「私達を――?」

「――貴方は何者ですか。竜の魔女・・・」

「ハァ? ・・・この期に及んでまだそんな問いを投げるの? 私に? 私はジャンヌダルク。旗の聖女―――」

「貴方は聖女ではない! 私がそうではないように!」

「彼女は瑠璃ではない」

「当たり前だ。白野お前少し黙れ」

「ボケなきゃ私じゃない」

「そんなアイデンティティ捨てちまえ」

「えぇ――私は聖女ではない。ジャンヌダルクでありながら、奇跡を信じはしない」
 

黒き紋章が描かれた旗を高らかに掲げる、黒きジャンヌ。


「私は魔女・・・竜の魔女! ワイバーンを、ドラゴンを、サーヴァントを駆り、このフランスを焦土へと変える魔女―――!!」

「竜の、魔女・・・!」


竜の魔女より美魔女の方が怖いのだが・・・。相変わらず俺はどこかズレているのかな?


「あなたはジャンヌなの!? 違うの!? どっち!?」

「あら―――貴方がマスターね? この残りカスの聖女、そしてデミ・サーヴァント、目障りな金色―――そしてそこのイレギュラーズの」

「私達、少年探偵団だって」

「それは今の俺達には全く関係ないぞ」

「答えて!」

「吐き気がするほど愚かですね。手を上げて指されるのは学校だけですよ?」

「・・・お前学校になんか通ってねーだろ。それに、現代のフランスで手なんか上げたらナチス・ドイツに間違われるぞ」

「―――あぁ、目障り、耳障り。本当に胸糞の悪いサーヴァント! 何よ! SSKちゃんとか、巫山戯てるの!? ワイバーンを抜かす速さとか、なに!? どんなデタラメ!? バカじゃないの!?」

「喚くな、喚くな。喧しい。手を上げて指されるのは、学校だけなんだろう? それに時速600キロ程度でデタラメなどと呼ばれていたら、時速3392キロで空を飛ぶ鉄の鳥とか、時速10億7925万2848キロの惑星間航行船とかどうなっちまうんだよ」


ちなみにそんな速度の惑星間航行船は完成して数年後に新型エンジンを取り付ける過程で、人類が滅亡した。モノポールの制御は早かったんや・・・。何でや、何でや工藤。なんでモノポールに手を出したりしたんや。アニメのように上手く行くわけがなかったんや。
まあ、波動エンジンを取り付け直して蒐集書の中に入れてありますけどね! その辺俺はぬかりなし。


「あぁー。でもそうか。難しい話をして悪かったな、読み書きもできない無学の娘っ子。復讐の魔女ごっこを楽しんでいたっていうのに、俺は空気も読めていなかったな。悪かった」

「・・・・・・ッ!!」

「そうだ紋様は自分で書いたのか? よっぽど丁寧に教えられたんだな。机にかじりついて懸命にデザインしたのか? うん。出来は良いが見栄えが悪い。確かにそれが旗として一点物であれば、素晴らしいと称賛したんだが、救世の旗があるからな。比べるまでもないさ。ああ。難しいことを言っても分からないか? じゃあ簡潔に言おう。その旗は無い。ダサい。俺なら持たん」


続く















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