我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:理不尽な契約は突然に


002

「「この手に魔法を!!」」

 

「レイジングハート! セットアップ!」

 

 

今宵は急に、契約の在り方について、考えてみたくなった。ありていに言って、するしかない状況に追い込んだ上での契約という状況が、好きではない。これまで好きだったことは一度もない。これからさき、好きになるはずもない。

 

契約をする際には、その契約によって起こる事柄を、記入漏らしなくA4用紙一枚以上に纏め、それを相手に理解させたのを確認した上で、相手が頷いてサインするのが一番正しいやり方である。威圧的な脅しや、お前に選択権はないと言わんばかりの圧力は、契約として相応しくない。

 

故に、一時の感情でよく読まずに契約書にサインすることは、ないと断言しても良いだろう。しかし、魔法少女としての覚醒シーンや初めての変身シーンでは、必ずといって良い程強制的に、少女の意向をほとんど無視した契約が実行されることがほとんどである。

 

現状、目の前で起こっている魔法少女誕生の場面が、少女の意思を無視したものであるかは、少女自身が魔法を使うことに前向きだったため、はなはだ疑問ではある。が、それでも敵に襲われているという緊迫した状況下で、それを逃れるための魔法覚醒は、嫌いな契約方法である。

 

全ての始まりも、YESを選択しなければ前に進めないという、ある意味では理不尽な契約から始まった。それ加えて、持ちかけてきた側からお前が契約内容を決めろと言われたのだから。

 

私立聖祥大附属小学校の制服を改造したような、バトルドレスに着替えた少女が後日、今日のこの日のことを後悔しなければ良いと、しなくてもいい余計な心配をしてしまっていた。

 

それよりも心配するべきであろう動物病院などの破壊は、結界らしきものが発動しているから、後に修復されると思っているのだが、それをなしたあの化け物は恐らく先日の結晶体の仕業だろう。

 

 

「・・・レイジングハート?」

 

 

懐かしい名前だった。それは、どこかで聞いたことのある。とかそういったレベルの話ではなく、貯金して買った故郷の道具につけた名前だったはずだ。本に集めているはずだから、こんな所にあるはずも無いけれど。

 

さて、そろそろ何故この場に結晶体があって、それを回収しようとするフェレットがいるのか。事情を聞かせてもらわなくちゃあならないな。

 

とても重宝できる対神兵装を用いて、結晶体が形作ったであろう化け物を拘束する。

 

 

「なっ!」

 

「これは・・・天の鎖!?」

 

「──まずは一から十まで事情を説明してもらおうか。お前だろう? フェレット」

 

「あ。お兄さん・・・」

 

 

流石に姿を隠したままで、正確な話が出来るわけがないと思い、隠れるのではなく堂々と姿を見せた状態で、彼等の前に歩み出た。

 

 

「え!?」

 

「この前のモブじゃねぇか! 何しに来やがった」

 

「フェレット。お前だろう? 説明してくれるか? こいつが何なのか」

 

 

噛み付いてくる少年を完全に無視して、なのはちゃんの側にいるフェレットに話しかける。彼等転生者に、転生特典を与えた存在がどういうものなのか、正確に理解はしていないが今はどうでもいいだろう。

 

噛み付かれてもいたくないから、その程度なんだろうし。

 

 

「え!? え。えっと・・・それはジュエルシードっていうロストロギア・・・ロストロギアっていうのは危険な遺産のことで、そのジュルシードが持つ力が暴走して生まれたのがその暴走体で」

 

「なるほど」

 

 

それでこいつは、純正な魔力で構築されている訳か。何者かの願いを実現したわけではなく、ただ魔力が暴走して形を作っただけ。まあ、いいか。

 

 

「つまりこいつは、殺しても良いと言うことだな?」

 

「え。あ、はい。それは・・・生き物ではないので」

 

「よし」

 

 

声には出さないが指示を出せば、友人が自ら動いてその力で暴走体と呼ばれた化け物を絞め殺した。しかもただ絞めて殺すのではなく、肉体があれば千切れそうな勢いで、血があれば四方八方に飛び散っていそうな力で握り潰すように消滅させた。

 

まあ、予想はしていたから声は出なかったし、想像通りでもあったから感心はしたけれど呆れはしなかった。手元に核となっていた結晶体、ジュエルシードを吹き飛ばしてくれる余裕すらも、友人にはあったようだ。

 

 

「えぇ・・・・・・」

 

「な、なな・・・」

 

「・・・ふむ。これが、ね」

 

 

そういえば、回収率はどうなったのだろう。体内通信を使って研究室に通信をつなぐ。

 

 

『研究室。そちらにあるジュエルシードの数を教えてもらえるか?』

 

『はぁい』

 

『・・・合計十九個です。部隊によって回収されたもの、全てがこちらに送られています』

 

『そうか、ありがとう』

 

 

ということは、これが最後になるのだろうか。

 

 

「フェレット、これあといくつある」

 

「え・・・?」

 

「それを聞いてどうするつもりだ! テメェが独り占めする気か!」

 

「答えろ」

 

「僕が一個回収してまして、あなたが持っているのを含めて二十個です!」

 

「つまり合計で二十一個あると?」

 

「はい!」

 

 

そうか。なら研究室にある十九個と、この場にあるであろうもう一つと、手の中にある一個で合計二十一個。何の問題もない。海鳴の平和は保たれる。

 

一応蒐集書の解析にかけて、蒐集はしないために劣化の具合は大きくなるが、複製品が生み出せるようにしようと思った、のだが。

 

 

『ご主人。既に蒐集済みですよ?』

 

『ハァ?』

 

『というか、それは──』

 

 

いつの間にかジュエルシードを蒐集していたようだ。しかしそんな名前のアイティムを蒐集した覚えは無いのだが。

 

 

「そのジュエルシードを返しやがれ!」

 

「誰に?」

 

「ハァ!? 俺達にだ!」

 

「お前達に返して、それでどうなる。より危険なんじゃないのか?」

 

 

転生者ならば、これが願いを叶える宝石であることも知っていそうだから、その危険性も理解した上で使用しないとも限らない。

 

 

「あ、あの。それはロストロギアっていう危険なものなので、時空管理局に渡すために運んでいたんです。だからその・・・」

 

「返して欲しいと」

 

「はい・・・」

 

「で? この一個を回収した後はどうする気だ? この町を駆け回って残りのジュエルシードを見つける気か? その間にどんな被害が出るかも分からないのに」

 

「それでもっ。僕のせいで・・・」

 

 

自分に責任があると思うのは悪いことではないかもしれないが、余計な罪まで背負いかねないからやめた方が良いと思う。まあ、恵まれた人物にいたっては、そういった勘違いは周りが勝手に解いてくれるから、何の心配も要らないけれど。

 

 

「安心しろ、フェレット。残りの十九個は全てこちらで回収済みだ。安全を考慮するならお前が持つ一つも俺に渡せ。安全に十分配慮した上で管理してやろう」

 

「え!?」

 

「馬鹿なこと言うんじゃねーよ。モブ風情が! んなこと出来るわけがねえだろ!」

 

「俺一人の力じゃもちろん無理だぜ」

 

「──童の姿を騙る珍妙な雑種よ。貴様、口を開けば他に対する否定ばかり。それ以外に言う事はないのか? 知識の少ないヤツよ」

 

 

その声が聞こえた途端。思わず身構えてしまったが、敵ではなかった。ある意味では敵なのかもしれないが、所属はどうしようもなく味方だった。声のする方を振り向けば、何故気付かなかったのか思う程、金色に輝く鎧を纏った王様がいた。

 

 

「なっ!? 英雄王・・・!?」

 

「ほう、我を知っていたか。どうやら知識はあると見て良さそうだな。知能は低そうだが」

 

 

余計な一言である。もしかしたら今までただ見るだけだったアニメの世界に転生できて、今までの人生以上に興奮しているのかもしれないが、今君達の前には最大の理不尽が立ち塞がっている。

 

だから、そろそろ現実を見ようか。

 

 

「何をしに来た。英雄王」

 

「貴様在るところに愉悦あり。何があるかと思ってきてみれば、黙って侮辱されているとは、一体どういう了見だ? 雑種」

 

「ああいう手合いは相手をすると余計に面倒なんだよ」

 

「・・・であろうな。ゲームで見た」

 

 

順調に、というのは以前の話で、今ではどっぷりと俗世に染まってしまっている。肩まで浸かっているタイプなのか、沈んでしまっているタイプなのか。っていうかお前、ゲームで人との関わり方を覚えるな。

 

 

「な、なんで英雄王が・・・、そんなモブに・・・!?」

 

「はっ、信じられぬというのであれば、それは貴様の審美眼が腐っておるのだろう。我が雑種は周囲に溶け込める程、普遍ではない。例え影ながらであろうとも、人の中心に立つ人物よ」

 

 

つまりどういう事なんだ。褒められていると捉えて良いのか、遠回しに貶されていると思った方が良いのか。どっちなんだろうか。しかし、どうしてもギルガメッシュがこういう場面で何の理由もなく人を貶すとは思えない。

 

 

「分かるか? 貴様が知らぬだけで、我が雑種には多くの配下がいる。雑種の指示で国すら傾ける金が動くこともある。そこの異邦人以外、如月の名を知らぬとは言わぬだろう?」

 

「き・・・さらぎ?!」

 

「如月って何ですか!?」

 

 

フェレットが周囲の人──この場合は神名と鏡橋の二人、に如月の名が持つ意味を質問し、説明を聞いていた。正しい判断だと思う。なのはちゃんには教えていないから、人に説明できる程詳しくないだろうし、もう一人の転生者に至っては。

 

 

「如月だったら何なんだよ!」

 

 

そもそも自分の住む町のことにすら興味がないようだ。

 

 

「この世に居を構え生きる栄に浴してなお、この名に聞き覚えないと申すなら、そのような蒙昧は生かしておく価値すら無い」

 

 

王の財宝が開き、幾百もの宝具が射出待機の状態で停止する。

 

 

「げ、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)・・・!」

 

「死を持ってその身に刻むが良い。如月という、勝者の名前を」

 

 

一撃必殺の宝具その全てが、発射される前に同じ砲門から出てきた黄金の鎖によって固定される。

 

 

「なにっ。何故止める我が友よ!」

 

「俺が頼んだ。流石にこの町で殺人は許容できないからな」

 

「あの、お兄さん・・・」

 

「なのはちゃん。そしてフェレット。色々聞きたいこと、知りたいことはあるだろうけど、こちらにも話せることと話せないことはある。それに、今日はもう遅い。また明日」

 

 

王の財宝を閉じたギルガメッシュと共に帰宅しようとしたのだが、どこでその話し合いをするかの場所を言っていなかったことを思い出した。

 

 

「なのはちゃん。以前俺がバイトしていた喫茶店を覚えているかな?」

 

「・・・うん」

 

「あそこ、アーネンエルベって言うんだけど。明日、あそこで待っているよ」

 

 

中田少年が静かなのが不気味だが、とりあえず明日というかもうすぐ今日になってしまうが、明日に備えなければならないだろう。

 

 

『ところでジュエルシードに関してなにか言いかけてなかったか?』

 

『いえ。大した事ではありません』

 

『ふててる?』

 

『全然です。もしそうだとしてもご主人にではありません』

 

 

そんな感じで、この日は幕を閉じた。

 

 

アーネンエルベとは、簡単に言えば数多の平行世界と繋がり、その世界の人と会うことが出来る、夢のような喫茶店である。

 

そんな喫茶店を、平行世界の移動に使用している常識破りの客が一人だけいるが、店員も気にしていない半公認の非常識人である。

 

 

「って、思われてることについてどう思います?」

 

「半分以上事実だからなんとも言えないねぇ」

 

「今日は打ち合わせなの?」

 

「そ。ちょっとしたお話し。だから何か聞こえても無視しておいてね」

 

 

喫茶店のアルバイトの日比乃ひびきちゃんと、桂木千鍵ちゃん。二人としていた時間潰しの会話が丁度終わった辺りで、待ち人が来店してきた。

 

 

「やあ、なのはちゃん。遅かったね、待ちわびたよ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

あの胡散臭い、何もかも見透かしたようなあの男の真似をしてみたのだが、真正面から受け止められて、なのはちゃんに頭を下げられた。

 

 

「あの、えっと・・・」

 

「そうだな。自己紹介から始めようか。それとフェレット。お前、喋って良いぞ」

 

「え、大丈夫・・・なんですか?」

 

「ああ」

 

 

この店に至ってはもうほとんど何をしても問題ない。荒事にも慣れっこだからな。

 

どうやら田中少年は不参加らしい。まあ、彼は話の腰を折るタイプだし、話し合いの場には向いていないという判断は間違っていない。

 

 

「まずは俺からかな。一応この場にいる人は全員知っていると思うが如月だ」

 

「高町です」

 

「神名です」

 

「鏡橋です」

 

「ユーノです」

 

「・・・フェレット、そこは家名を答えるべきだろ・・・」

 

「えっ。えぇ!?」

 

 

ふざけてみたが案外効いたようだ。見立て通り真面目くんだったらしい。

 

その後普通に自己紹介をして、本題に入る。

 

 

「えっと、リク達からアナタのことを聞いて、何となく分かったんですが、貴方は如月は、この町を守るために、ジュエルシードを回収しているんですよね」

 

「ああ。それ以外に理由が必要なら用意するぞ」

 

「いえ、結構です」

 

 

冷たいなあ。もうちょっと乗ってくれても良いんじゃないだろうか。真面目にするべき話し合いの場でふざけている方がおかしいのか。

 

 

「で、何が聞きたい?」

 

「貴方達のジュエルシードの取り扱い方について」

 

「ああ、それは気になるか。うん、まあいいか。説明しよう」

 

 

「まず、その結晶体が単体でも危険なモノだと言うことは君達でも重々承知しているだろう?

 

「そういえば、最初の一つと出会ったばかりであるはずの神名・鏡橋ペアが何故知っているのか。

 

「そんな疑問は尽きないけど、今は置いておこう。あまり関係ないしね。

 

「最も重要なことは、それが如月が管理する惑星。地球のそれも膝元である海鳴に落ちたことだ。

 

「この時点で如月は結晶体の危険性に気付き、回収を開始していた。

 

「初動の時点で君とは大分違うのは理解してくれ。

 

「その上で、回収した結晶体を解析にかけて、危険性をより深く理解して、更に回収を急いだ。

 

「ただし、いつまでもいつまでも手元に置いておく気も、如月にはない。

 

「とはいっても、信頼できる預け先でないと引き渡しは出来ない。

 

「ユーノ君。君が信頼する機関がどのようなものか、俺達には理解できない。

 

「だからこそ、君に渡しても安心することが出来ないんだ。

 

「だから現状。如月は結晶体に関しては厳重注意の状態で保管が基本だ。

 

「分かってくれたかな?」

 

 

本当は研究室の狂人達が手を加えていたりするのかもしれないが、それは認知外である。その辺のことは聞かれていないし、一応方針として間違ったことは言っていない。

 

 

「はい。僕に渡して、その先の危険を、貴方達は危惧している。信用してもらえる実績も何も、僕にはないし、管理局にもないから」

 

「そうだな。俺達はその管理局とやらも初めて聞いたから、その通りだ」

 

「・・・・・・お兄さん」

 

「ん? なのはちゃん、どうかした?」

 

「ユーノ君に、渡してあげられないんですか?」

 

「何かアイディアがあるのかな?」

 

「・・・少し」

 

 

流石光源氏計画を乗り越えてきたなのはちゃん。この状況で人を納得させられる条件を思いついたようだ。それが本当に通用するかどうかはまだ分からないけれど。

 

 

「対決するのはどう・・・ですか?」

 

「対決?」

 

「はい。ジュエルシードの全てをかけた戦いです。これを断ったら、こっちが持ってる最後の一個も渡しません!」

 

「・・・・・・ふふふ。あっはっはっはっはっ! そう来たか!」

 

 

予想外でいて、こちらのツボをしっかり押さえている。確かに、力の誇示は昔から使われている、とても分かりやすい実績の作り方だ。

 

 

「良いぜ? ルールはどうする? 決めるのが面倒だって言うんだったら、単純な模擬戦ルールでも構わないが」

 

「どうする。ユーノくん」

 

「待って待って! 勝てるの!?」

 

「出来る出来ないの話じゃないんだよ、ユーノくん。やるしかないんだ」

 

 

なのはちゃんってば、好みの女の子に育ってくれちゃってからに。心底勿体ねえなあ。タイトルロールでなけりゃ口説いてたよ。

 

 

「っく。その通りだユーノ。責任者のお前が決めろ。ここでやらなきゃ男が廃る」

 

「・・・・・・。分かりました。こちらが勝ったら、貴方達が回収したジュエルシード全てがもらえる。そう言うことで良いんですか?」

 

「ああ。報償が釣り合ってないんじゃないかとか、考える必要はないぜ。全ての所有権を巡る戦いになるんだからな」

 

 

その後、詳しいルールを決めてから解散することになった。

 

 

「勝てる自信がついたらいつでも来い。全てをかけて死合おうじゃあないか」

 

「あの、貴方に出てこられたら負ける気がするんですが」

 

「ああ。じゃあ俺は出ないよ。基本的に難易度チートの相手とは戦わせないことにするよ」

 

「そ、そうですか」

 

 

そうして、本当に解散しようとしたところで、神名陸に声をかけられた。

 

 

「如月さん。貴方に聞きたいことがある・・・んですが」

 

「敬語になれてないなら要らないよ。で? 何かな」

 

「貴方は、若菜やなのはを傷付けないって約束してくれる・・・くれますか?」

 

「ああ。その辺はしっかり配慮した戦いの場を設けるから安心してくれ」

 

 

鏡橋若菜の名前が初めに出たところを見ると、好きなのかもしれない。そんな野暮な質問を、直接することはしないけれど、想像してニヨニヨするくらいはさせて貰おう。

 

 

「そうか、ありがとう」

 

 

そう言って、彼こそが笑顔だけで少女を惚れさせる能力持ちではないかと疑う、イケメンスマイルを浮かべて神名陸は店を出て行った。

 

格好付けるためにずっと口に咥えていたのに、誰にも突っ込まれなかった電子タバコのスイッチを入れた。と言っても扱いとしてはチューインガムのようなもので、吸うことで風味を楽しむためのものである。今日のフレーバーは"イリヤフレーバー"らしい。初めて聞く名前だ。

 

 

「・・・・・・あー。何あのイケメン。アイツ、絶対女の子に囲まれる生活送るんだろうな。ハーレムの中心になるんだろうな。

 

クッッッッソ羨ましいんですけど!!?!?」

 

「・・・・・・ねぇ、アンタ。ブーメラン好きなの?」

 

「は?」

 

「いや、今ね。大きなブーメランが投げられて、アンタに刺さるのを見ちゃったから」

 

 

幻覚でも見たんだろうか。アーネンエルベはそんなところが不安定だっただろうか。不安定なのは客層だけにして欲しい。そこは本当に安定しなくていい。飽きてしまう。

 

ドアベルが鳴って、客が来たかと思えば何をしに来たのか、いーちゃんだった。

 

 

「どしたの、いーちゃん」

 

「どうなったのか気になっただけよ」

 

「決闘することになったよ。如月の誰かと、彼等の誰かが」

 

「へぇ・・・」

 

 

興味がなさそうに、それでも感心したように声を漏らすいーちゃん。

 

いーちゃんならば、これが何か知っているかもしれない。

 

 

「ねぇ、いーちゃん。"イリヤフレーバー"って何なの?」

 

「・・・・・・それをどこで知ったの?」

 

「今吸ってるんだけど」

 

「それを捨てなさい。今すぐよ!」

 

 

自主性に任せた言い方をするわりに、口元から電子タバコを奪われてしまった。

 

 

「おかしいわね・・・。あの計画は完璧に潰したはずなのに・・・」

 

「結局、それなんなの? 一度に沢山貰ったから、少しずつ吸おうと考えていたんだけど」

 

「聞いてどうするの? 吸うの?」

 

「もったいないから・・・」

 

 

どんなもので出来ているのか知らないが、よほどのものでない限りは普通に勿体ないから吸うことにしようと思うのだが。

 

 

「・・・危険なモノが使われている、とかではないわ」

 

「そっか」

 

「ただ、これだけは覚えておいて。お兄ちゃんは今まで、"わたし"の涙と汗、唾液とおしっこ・・・あとアレが混ざった液体が気化したものを吸っていたって事を」

 

「ッ!?」

 

 

何だって!?

 

もし何かを口に含んでいたら、吹き出した挙げ句に数分咳き込み、気持ちを落ち着けるのに倍以上の時間がかかっていたことだろう。そのくらい驚いた。驚きすぎて思考がエクスクラメーションマークとクエスチョンマークで埋め尽くされくらいには。

 

 

「どういう事だ!?」

 

「だから、止めたのよ! バレンタインのチョコに血を入れる感覚で、そんな液体をお兄ちゃんに吸わせるわけにいかないもの! そういうのはもっと・・・もっと・・・?」

 

「・・・?」

 

「何言わせる気!?」

 

「逆に何を言おうとしたんだ?」

 

 

まあ確かに器が大きすぎる人物か、よほどの変態でもない限り、血や髪の毛が入ったチョコレートなんて食べたくないだろうし、いーちゃんはその辺りのことを考慮してくれたようだ。

 

 

「タバコのカートリッジが、もったいないような気もするけどなあ」

 

「そ、その、お兄ちゃんは女の子のそういうのを吸いたい人なの・・・?」

 

「いや、流石に・・・」

 

 

言葉が詰まる。

 

否定したものの、汗を舐めたりしたこともあったから、完全に自分の性癖ではないと否定することは出来ないと気付いた。八九寺に対するスキンシップがここにきて大きな誤解を解くために邪魔になるとは思わなかった。

 

 

「吸いたいんだ・・・」

 

「いや、いやあの、えーっと。吸いたいことは否定しない・・・です」

 

「やっぱり・・・」

 

「でもあくまでそれは匂いとかの話であって、流石に唾液とかを飲みたいかと問われれば・・・」

 

「匂い・・・? かぎたいの?」

 

 

いーちゃんの、まるで「かいでも良いよ」と言わんばかりの、確認するようなその態度に、思わずいつも八九寺にやっているような過激なスキンシップをしそうになったが、理性を総動員して自らを律する。

 

 

「かぎたくない、とは言えないよ」

 

「・・・そっか。じゃあ、いいよ?」

 

「・・・・・・は?」

 

 

何を言っているんだろうか。この美少女は。

 

 

「止めろよ。そんな事言われたら、俺は本気にするぞ? いーちゃんになんか止められない勢いで、脇の下から脚の付け根まで余すところなくかぎ尽くすぜ? まあ、今は外だから頭をにおいをかぐくらいかもしれないけどな!」

 

「・・・うん。いいよ」

 

「・・・・・・じ、じゃあ、ちょっとだけ」

 

 

いーちゃんを膝にのせて、頭と髪のにおいをかいでみる。流石に口に含むことはしない。散髪後の髪を床に落ちる前に拾って口にしたことはあるけれど。生えているものを口にすることはない。

 

 

「・・・どう?」

 

「んー。いい匂い」

 

「そっか・・・」

 

「いーちゃん可愛いねぇ」

 

「ふぇっ!?」

 

 

これで十八歳だというのだから驚きである。設定的には今の自分より一つ下なのだ。

 

というか、久しぶりにこんな中身のない会話をしたような気がする。頭で考えるより先に声に出している感じというか、条件反射で言葉にするといったような。話の途中で茶化したり、突っ込みを入れたりするのを普通にしすぎて、こういう会話は前世以来かもしない。

 

 

「か、かわかわ、かわいいって!?」

 

「いーちゃんは元々可愛いだろ? 何言ってんだ」

 

「ふぉわぁぁああ」

 

 

奇声を上げ始めたいーちゃんを軽く抱きしめながら、今後について思いを馳せることにした。

 

いい匂いだなぁ。

 




リクside

「あの人に何を聞いたの?」


如月さんに質問をした後、先に店を出ていた若菜達に追い付くと、彼女からそう言われた。


「ああ。俺達を害する気はないかって聞いたんだ」

「そんな事を聞きに行ってたの? 過保護なのか、臆病なのか」

「女の子が怪我したらダメだろ?」

「はいはい。心配性ね」


呆れたようにそういう若菜だが、どことなく嬉しそうだったし、所謂ツンデレっぽいところもまた可愛いと思ってしまう。


「まーな。・・・お前が怪我したら嫌だし

「え? なに? 小さい声でボソボソ離さないでくれる? 聞こえないでしょ」

「・・・何でもない。独り言だから気にしないでくれ」

「そう? ならいいんだけど」


難聴系主人公とか、若菜はオリ主してるなぁ・・・。

その場合俺がヒロインなのか? ・・・・・・それも良いかもしれない。


「どうしたの陸。早く行くわよ?」

「ああ!」
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