我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:魔法少女との二日間


005

日曜日。

 

イリヤと約束したお出かけの待ち合わせで、喫茶店翠屋に来ていた。

 

軽食を頼む気にもなれないので、飲み物として珈琲を注文し、飲みながら時間を潰していた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

見られている。

 

来た当初、なのはの母親である桃子さんは、とても好意的に──保育園でバイトしていたときに何度も顔を合わせていたため、迎え入れてくれた。のだが、その息子であるという恭也氏は、何故か親の敵でも目撃したかのように、ちょくちょく睨んでくるのだ。

 

 

「奏くん。今日は誰かと待ち合わせ?」

 

「ああ、はい。今日はちょっと妹分と二人で映画でもと」

 

 

正直、わざわざ外で待ち合わせする意味が分からなかったのだが、「いいからさっさと行く」と、半ば無理矢理追い出されてしまった。

 

更に言えば、昼食も済ませられる喫茶店で待ち合わせをしろ、と場所の指定もされていたのだが、いつも利用しているアーネンエルベは特別感がないとのことで。同じような喫茶店、翠屋を待ち合わせ場所にしたのだ。

 

桃子さんが奏くんと呼ぶ理由は、どうみても年下にしか思えなから、だそうで。肉体の成長と共に社会に出ることで精神も鍛えられることを考慮すれば、確かに社会人とは言えないので、年下でも間違いではないかと訂正はせずにいる。

 

 

「もしかして、なのはと?」

 

「ああ、いや。なのはとでは──」

 

「なのはだと!?」

 

「え」

 

 

何が琴線に触れたのか、全く分からないが、本当に唐突に高町恭也は憤慨した。

 

 

「・・・え?」

 

「家族でもないのになのはを呼び捨てにするなど、何様のつもりだ!」

 

「・・・あー。お兄さんはシスコンでいらっしゃる?」

 

「お義兄さんだと!?」

 

「ちゃいますって」

 

 

下手くそな大阪弁がでるくらいには混乱していた。妹さんが大好きなお兄さんって本当に面倒臭い生き物なのだ。憎らしかろうと可愛がるその姿は献身的で。少しでも傷つこうものならその怒りは天をつきそうだ。

 

 

「あー、えっと。懇意にさせてもろうとります」

 

「・・・・・・なのはに手は出していないだろうな?」

 

「ええ、そりゃあもちろん! 私、その辺りとてもしっかりしとるもんですから!」

 

「・・・奏くん。関西の人だったの?」

 

「いや、ちゃいますって」

 

 

戻らない。口調が関西から関東に戻ってこない。関西にいたことあったっけ。ああ、そう言えば。前世は兵庫出身だったっけ。

 

そんな事に気づいて、「ああ、そう言えば自分関西人だったけ・・・」なんて考えていたら、店の扉の上部に着いている鐘が鳴って入店を知らせた。

 

 

「お待たせ! お兄ちゃん!」

 

「よ、イリヤ」

 

「待ったよね・・・?」

 

「全然」

 

「良かった・・・(遅刻したから、絶対待ってるはずなのに・・・。優しいなぁ、お兄ちゃんは)」

 

 

何故か慈愛の目で見られている気がするが、おそらく気のせいだろう。そんなことより、イリヤが今日着ている服は、大人っぽいオシャレな洋服(ドレス)であり、それに加えて何故か大人の女が出してそうな色気を振りまいている。

 

いや、だからどうしたって話なんだけれど。

 

 

「今日は随分オシャレしたんだな、イリヤ。似合ってるよ」

 

「ありがとう!」

 

 

さて、イリヤが来たことだし、軽食でも注文して昼ご飯にしますか。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・お兄ちゃん」

 

「ん? どうした?」

 

 

ただのサンドイッチだと思うのだが。もしかして食べたいんだろうか。

 

 

「食べるか?」

 

「えっ」

 

「え?」

 

 

少し狼狽えだしたイリヤを訝しめば、慌てて差し出されたサンドイッチを受け取って食べ始めた。

 

 

「・・・食べたかったのか?」

 

「・・・・・・違うけど、いい」

 

 

恥ずかしそうに、頬を赤く染めてそう言うイリヤ。何が言いたかったのかは分からないが、今した対応に少しばかりの文句はありそうだった。

 

察しが悪いとはよく言われるが、諦めて欲しい。

 

向けられる好意に気付かない程、鈍感ではないのだ。言っただろう。サーモグラフィー並だって。それに、一度は好意を持って貰おうと思って接した相手だ。いくら醜い本性を見せようが、彼女達は案外強かなので更に好意が強くなるか、呆れながらも現状維持かのどちらかだろう。

 

しかし、それを受け入れることが出来ない理由もまた存在するのだ。彼女達の気持ちを受け止めて状況が好転するわけではないし、もしかすれば悪い方へ転がる可能性だってある。これは自分自身の問題で、彼女達はなにも悪くない。進めば、戻れなくなるだけだ。

 

 

 

──もう一度、懐に入れてしまえば。

 

そこでもう、前に進むしかできなくなりそうで、戻れなくなりそうで。

 

 

怖くて関係を進める事ができないのだ。

 

 

彼女達は現状のままでいいと思ってくれている。だから、その好意に甘えておく。今はまだ。

 

答えすら、見つかっていないんだから。

 

 

桃子さんにお礼を言って、店を出る。

 

 

「次はどうするんだ?」

 

「映画館に行くんだけど・・・」

 

「じゃあウィンドウショッピングでもしながら行くか」

 

「うんっ!」

 

 

そうすることで、何か形に残るものを要求されるかとも思ったが、予想は外れ映画館までの道のりで何か欲しいと言われるものはなかった。遠回しに欲しいを表現する、あれ可愛いとかあれいいねとかそういうのもなかった。

 

無欲な少女である。

 

 

映画館について、することといえば何を見るか、である。このお出かけ自体つい昨日決まったもののため、相対して下調べをしているわけではない。今日公開している映画の中から、見たいものを決めるのが一番良さそうだ。

 

 

「何が見たい?」

 

「うーん。何がいいだろ」

 

 

イリヤはそう言って現在公開中の映画一覧をじっくりと見始めた。

 

隣に立って一緒に眺めては見るものの、これが見たいというものは見つからない。この場はイリヤの見たい映画に合わせた方がいいだろう。特別みたいものがあるわけでもないし、ならばご褒美で見たいものを選ぶイリヤを優先させるのは当然のことだろう。

 

 

「・・・決めた?」

 

「・・・待って!」

 

「おk」

 

 

暫くして、原作が存在しない。恋愛映画を見ることになった。

 

それは現代が舞台ではあるものの、フィクション要素もあって、なかなかに面白い映画だった。

 

 

「面白かったね、お兄ちゃん。次、どこ行こうか」

 

「どこでも。まだ二時過ぎぐらいだから、意外とどこにでもいけるぞ」

 

「うーん。じゃあ・・・」

 

 

その後、イリヤと一緒に東京スカイタワーや電門(いなずまもん)などを観光して帰ってきた。

 

その途中、蒐集物をふんだんに使った移動方法をとったため、結果的に普通の人間はまず不可能なスケジュールでのお出かけとなった。

 

 

「楽しかったー」

 

「それならよかった。ああ、そうだイリヤ」

 

「え? なに?」

 

「明日から特訓するからな?」

 

「・・・は、はーい」

 

 

やはり訓練系は苦手なようだ。コツコツする努力が苦手なのかもしれない。その辺りは現代小学生らしいと言わざるを得ない。

 

 

 

と言うわけで、次の日である。

 

イリヤと仲良くお出かけした次の日であるから、月曜日である。小学校から帰ってきたイリヤを、逃がさないと掴み、体育館を模した訓練場に連行して訓練を開始しようとした。

 

 

「・・・・・・」

 

「逃げようとしたな?」

 

「・・・すっかり忘れてました」

 

「言い訳しなかったことは褒めてやろう。よし、それじゃあ始めようか」

 

 

ホワイトボードを取り出して、ペンで板書のように書き込んでいく。

 

 

『ハイハイお兄さん。これから何をなさるんですか?』

 

「そ、そうそう。何をするの?」

 

「・・・ああ。言ってなかったか。高町なのはの対策だ」

 

「え」

 

 

イリヤの動きが急停止する。

 

 

「ええと、わたしにはそんな物、必要ないと言いますか、要らないんじゃないかと・・・」

 

「相手のことを理解しているにこしたことはない。なのは達が今、英雄達によって鍛えられているのは知っているだろ?」

 

「う、うん」

 

「奴らによって育て上げられたなのはは、奴らの作品だ。だったら対戦相手であるイリヤは、誰の作品になると思う?」

 

「お兄ちゃん・・・?」

 

「ああ。品評会のような催しとして、間接的に勝利を狙ってくる。そんなところで負けて貰ってはこっちも困る。と言うわけで、イリヤの特訓が決まった」

 

 

うええ。と、心底嫌そうな声を出すイリヤ。

 

 

「というわけで、だ。イリヤがすることは高町なのはの対策。コレクターのサーヴァントカードを使った練習が主な訓練内容になる。何か質問は?」

 

「あります!」

 

「なんだ?」

 

「どうやってあの子の対策をとるんですか?」

 

 

高町なのははこの場にいないのに、どうやって対策をするというのか。その辺りのことがイリヤは気になっているようだ。

 

 

「すぐに分かる。その前に、コレクターのサーヴァントカード。これの特徴を振り返っておこう」

 

 

ホワイトボードに使用に関する注意と称して書いていく。

 

コレクター。つまり「如月奏音を夢幻召喚する礼装」であるそれは、少しでも使い方を誤れば自己を侵食しかねない。それだけ我が強いのか、と言えばノーと答えるのだが、ある意味では間違っていない。原本が持っている無限に湧き出る欲望を八割方収集欲で塗り潰すという機能が、

 

無限の欲望を持っていない人類からしてみれば、ただの自己の侵食だった。というだけである。

 

 

そして、それは時間の経過と共に侵食は進むので、長時間の使用は厳禁である。

 

使用の際、最も注意すべき事と言えばこの事を指すのだが、他にも使用中に考える事は多くある。

 

 

例えば集めた物の中には無駄なものもあるけれど、武器はどうかと聞かれれば全て超一級品のものが取りそろえてある。だから、「何を使うか」「どこを狙うか」これが重要となってくる。

 

本人は無限の欲望も、それを吸い取る本もあるために、何の心配もなく英雄王の如く馬鹿みたいに撃っているだけで勝てたりもするが、それを借りるとなれば話は変わる。

 

一番有効な、また過剰戦力ともいえる武器を選別し、狙った場所を寸分違わず撃ち抜く照準が戦いの肝となってくる。

 

 

ただそれが、ギルガメッシュがアーチャーのクラスを与えられた所以であるからには、接近戦には最も注意しなければならないと言っても過言ではない。もしも、万が一、懐に潜り込まれるようなことがあった場合、自らに絶対的な防御を施した上で、周囲五メートルを吹き飛ばすといい。

 

そういったものを展開する場合の瞬発力はとても大切なのだが、何がどこにあるか知っている管理妖精や、その言うことを聞いて覚えそうなサファイアはまだしも、イリヤについているのはルビーなのだ。そのあたりが心配なのだ。

 

 

『しっつれいな! 私の何が不満なんですか! イリヤさんの肢体には傷一つつけさせない援護をするに決まっているでしょう!!』

 

『・・・その辺りは、日頃の行いのせいだと思いますけどねぇ』

 

『私のどこが悪行だと言いたいんですか! そこに直りなさい青髮ツインテールゥ!!』

 

『はぁい? 青髪ツインテールですよぉ?』

 

『ムッキィー!! 煽りが聞かねぇですよこいつぅ!』

 

 

楽しそうで何よりである。

 

 

「さて、大体の事情を把握して貰ったところで。イリヤ、実践と行こう」

 

「はーい!」

 

 

イリヤは浮いていたルビーを掴むと変身を開始する。

 

 

『では行きますよ! イリヤさん!』

 

「うんっ」

 

『コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!』

 

「転身!」

 

 

イリヤの姿が変身バンクを経て、聖祥大附属小学校の制服から、いつもの格好へ変化した。

 

 

「カード"コレクター"夢幻召喚(インストール)!」

 

『さぁ、可愛い衣装で爆誕ですよぉ!』

 

 

その期待を裏切って悪いが、コレクターの服装は活動しやすい私服なんだ。故に、場所も相まっておそらく体操服とかに変わるんじゃないだろうか。

 

そんな服の方が動きやすいだろうし。

 

 

『魔法少女の変身の夢を消しますねぇ』

 

「んな、つまらねぇ夢は捨ててくれ」

 

「・・・で、お兄ちゃん。どうやって、あの子の対策をすればいいの?」

 

「あの子の対策自体は、いたって簡単にできるさ」

 

 

簡単だ。手伝ってくれる人がいるからな。

 

 

 

 

──レイハさん。

 

奏音はそう、虚空に呼び掛けた。それをイリヤが疑問に思うより早く、無制限の蒐集書から占い師が使う水晶玉のような大きさの、赤い宝石が出現した。

 

 

Of course(もちろんです).』

 

「えっ。ええ!?」

 

 

その声色、形色。全てがなのはが使っていたレイジングハートと同じで、イリヤは目を丸くする。

 

 

「どういうこと!?」

 

「なのはが持っているレイジングハートは複製品だよ」

 

 

複製品。つまりは奏音が以前、集めた物が蒐集書によって複製され取り出されたもの。それが一体いつからなのか、イリヤには分からないが、レイジングハートが元々奏音のものだというのなら、確かになのはの扱うデバイスのことを知るのにうってつけだと言える。

 

 

「そ、そっか・・・。じゃあお兄ちゃんがなのはちゃんの真似をするの?」

 

「一応、そのつもりだよ。レイハさん、なのはが持ってたレイジングハートの真似、出来るか?」

 

『So easy.』

 

「よし、じゃあやろうか。レイジングハート、セットアップ」

 

『Standby,ready.』

 

 

そのかけ声と共にレイジングハートが奏音のバリアジャケットを構築し始めた。しかし、途中から変身の雲行きは怪しくなり、光の中で大学生らしき人影が崩れ、どんどん小さくなっていった。

 

全ての工程が完了したとき、その場に居たのは、奏音ではなかった。

 

 

茶色のツインテールに、

 

白色のバリアジャケット。

 

魔法の杖というよりは、それを行うための機械。という方が正しいといえるデザインで作られた、魔法少女の杖。レイジングハート。

 

 

その顔立ちは、紛れもない高町なのはだった

 

 

「え・・・お兄ちゃんついに女装・・・!? いや、女装って言うレベルじゃねえな!?」

 

『何という羨ましい能力!』

 

「さぁ、やろうよ!」

 

「声まで?!」

 

 

声色までなのはに変えてしまった奏音。何が彼をそうさせるのか、彼以外誰にも把握することなどできやしない。

 

 

「・・・・・・あー、もうっ! いくよ!」

 

「やろう!」

 

 

互いの武器を構え向かい合う少女達(?)──片方は奏音なので、この表記が正しいものなのか甚だ疑問ではあるのだけれど、これ以上の表し方もないのでこう表わすことにする。

 

 

「開けっ!!」

 

 

イリヤは高速で、いつも奏音が使っている白銀の波紋。つまりは砲門を多重展開し、なのはの姿をした奏音──呼びづらいので菜乃葉と漢字表記する──に標準を合わせる。

 

しかし──

 

 

「射出するまでが、遅いよ!」

 

 

なのは以上の高速移動で、射出された宝具を難なく躱した菜乃葉。ただ彼女は躱すだけではなく、シールドを使って防いだり受け流したりと、様々な方法を使って無効化していく。

 

躱すだけの方が体力の消耗も抑えられるため、この行動は無駄が多いようにも見える。だがこれは訓練である。イリヤのために、なのはがとるかもしれない行動を、覚えさせ予測しやすくするためだろう。

 

 

「あはっ! あたらないよぉ?」

 

「だったらっ!!」

 

 

イリヤの攻撃を、あらゆる方法で防ぎ続けている菜乃葉は、唐突にイリヤを煽った。その煽りに対してイリヤがとった行動は、菜乃葉を囲うように砲門を全方位に展開することだった。

 

360度。球状に展開された白銀の砲門は、その場に相手を拘束する檻の役割も持っている。

 

 

「うん。最適解だと思う。でもね」

 

 

──レイジングハート。

 

菜乃葉がそう呼び掛ければ、桜色の魔力で作られた鎖が全ての砲門の中に入り込み、射出前の宝具を絡め取る。

 

 

「うぇ!?」

 

「その砲門の性質を知っていれば、こういう対策も取れるんだよ。あいつが教えるかは別だけど、向こうには金ぴかもいるし、こう言ったことも予測していこうね」

 

「真面目な指導してきた?! その姿でっ!?」

 

「レイハさん」

 

『Buster』

 

 

ノータイムで放たれるディバインバスターを難なく躱すイリヤ。あまり長引かせると、人格を蒐集書に飲まれてしまうため、短期決戦をしなければならない。

 

 

「ルビーッ!」

 

『いい加減。真面目にやりますよぉー!』

 

「・・・・・・!」

 

 

ルビーはイリヤを勝たせるために、いつもの調子を封印したのだろうか、全速力で菜乃葉に照準を合わせ、攻撃を開始する。

 

その量は、豪雨や台風の日のバケツをひっくり返したような雨、という表現がピッタリ合うような抜け道のない、どうやっても濡れる他ないようなそんな質量で、菜乃葉を押し潰そうとしていた。

 

 

「うん。それが一番派手で、一番簡単に相手を倒せる方法だね」

 

 

ただし、菜乃葉は全く慌てることなく、こどもの成長を見守る親のように、幼稚園・小学校の先生のように、イリヤの攻撃をやんわりと評価する。

 

 

「──でも」

 

 

──ダメだよ。

 

菜乃葉は全方位から攻めてくる、宝具の雨の八割を無視してイリヤに真っ直ぐ向かう。その途中で向かってくる宝具を錐状の防御魔法で防いで、更に接近する。

 

 

「うそ!?」

 

「全方位の爆撃をする場合。目くらましと、自機の移動が必須。じゃないとこうして──」

 

 

対応をとろうと、イリヤが動きを見せた途端。

 

菜乃葉が、イリヤの腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。状況判断を間違えなければ、イリヤも防ぐ事が出来た攻撃ではあったが、まかり間違っても少女が少女に対してする攻撃では決してない。

 

 

「ぐっ・・・・・・!? かハッ!!」

 

『魔法少女同士の戦闘で、腹部に蹴りですと?! まさか、菜乃葉さん。あなた、初代プリキュア世代ですね!?』

 

「今、丁度放映してるよ。"ふたりは"」

 

『映画館で幼女が泣く事態が!? なんという・・・!?』

 

「ケホッ。ケホッ・・・それ、する必要あるの・・・!」

 

「『ないです』」

 

 

イリヤの疑問に対して、ハッキリと言葉にする二人。

 

どうやら茶番だったようだ。

 

 

「ど、どうして・・・!」

 

「コレクターの夢幻召喚中は特に、ルビーはその制御に追われて保護がおろそかになるの。

 

「だからこそ、コレクターになっている間は、イリヤ本人の状況判断が最も重要になるの。

 

「状況判断だけじゃない。周囲の把握や、行動予測。その全てが戦局を変える事になるの。

 

「今はそれがどこまで出来るかテストしたってところなんだけど、結果はご覧の通りなの。

 

「イリヤちゃん。このままじゃ、ちょっと訓練したなのはにも負けちゃうよ? 頑張るの。

 

「まだ、間に合う。負けないように、これからみっちりと訓練するから覚悟するといいの。

 

「ね。イリヤちゃん。何か言いたい事ある?」

 

「えっと・・・なのなのうるさいです・・・」

 

『イリヤさんぶっ込みましたね!? 恐怖で言えないと思っていたのに!』

 

 

イリヤのまさかの発言にルビーが驚愕するが、菜乃葉は冷静にイリヤの頬を挟み、唇を尖らせる。

 

 

「イリヤちゃん。少し・・・頭冷やそうか」

 

「え、あ。待って!? ピンッ!?」

 

 

その瞬間。

 

イリヤの意識は、世界がぶれたところで途絶えた。

 

 

 

暫くして、目が覚めたイリヤは、訓練場の壁を見つめていた。

 

 

「・・・あ、知ってる天井だ」

 

「シンジ君? 目を覚ましたの?」

 

「って、誰がシンジ君やねん!」

 

 

勢い良く身体を起こそうとして、イリヤは気付く。どこから声が聞こえてきたのか。

 

身体を起こそうと、床に背中を着けようと身体を動かしたときに、視界に奏音の顔が映ったのだ。

 

 

「あ、あれ・・・? これってー・・・もしかしてー・・・」

 

「・・・ん?」

 

(ひっ、膝まくらぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!)

 

 

心中穏やかではないイリヤだったが、表面上は大人しく膝の上に頭を据えて寝転がっていた。

 

 

「ん。大丈夫か?」

 

「ご馳走様です!」

 

「・・・。大丈夫そうだな」

 

「むしろご褒美だよ!」

 

「・・・ごめん。どうも話がずれているような気がするんだけど」

 

 

表面上は大人しかったはずだったが、一度口を開けば狂喜乱舞する内心が何の準備もされぬまま、吐露されていった。

 

そんなイリヤの様子に諦めた様子の奏音は、彼女が落ち着くまで先程までと同様に、本を読む作業に戻った。

 

そしてイリヤが落ち着いてきた頃。このままの姿勢では会話がし辛いという事で、床の上に座布団を敷いて二人は向かい合っていた。

 

 

「えっと・・・どうして膝枕?」

 

「そこ掘り下げるのか? カレイドステッキが、気絶した少女にはそれが一番良いと」

 

「ルビーッ!!」

 

『はいはい?』

 

「(・∀・)b」

 

 

自身の相棒であるステッキに対して、親指を立てるイリヤ。そんな彼女の奇行を、慣れ親しんだ物として、奏音は半分以上無視していた。

 

 

「さて、身体機能に異常など出ていないか?」

 

「え・・・?」

 

『お兄さんがそんな下手な"投げ"方するとは思えないんですけど」

 

「投げ・・・?」

 

『イリヤさんが確認できるように、痕は残してますので。気になるなら見てみてください』

 

「あと」

 

 

ルビーから告げられた情報が気になったのか、イリヤは着ていた服を脱いで肌着になり、自分の体に残った痕を見る。一応、男である奏音の前ではあるのだが、二人とも肌着で狼狽えるような初心な歳ではない。

 

 

「何これ・・・!」

 

 

自分の体のあちこちを見ながら、どんどん痣を見つけていくイリヤ。両肩、両肘、両手首、両膝、両脛、両足首。脇腹や背中の方にまで痣はあった。青くなっているため、軽い出血を起こしているようだったが、痛みは感じていなかった。

 

 

『イリヤさんの体がマジックみたいに空中浮遊してまして。一体何という技なんです?』

 

「見せた事、なかったっけ?」

 

「・・・一度だけ、見たことがあるかも。確か・・・居合い払い」

 

奈惰嶺(ナダレ)な」

 

 

最初の"払い"と呼ばれる一発の崩しから、ドミノ倒しのように各部を崩し、瞬時に相手を倒す。

 

とある武道家の決め技の一つであり、

 

奏音が参考にし、己が身一つで体現して見せた武道であった。

 

 

「ナダレ・・・」

 

『イリヤさんが気絶したあの衝撃を、現実に存在する物に換算して考えますと・・・・・・。なんと! 車に撥ねられたのと同じくらいなんです!』

 

「知りたくなかったよ、そんな衝撃・・・・・・」

 

 

項垂れるように、力を抜くイリヤ。平穏に生きていれば決して知る事のない例えだった。

 

 

『生まれる時代が、場所が違えば、正しい形で英霊に昇華されていたかもしれませんね』

 

「・・・・・・この身に誇れる逸話はないのにか? それでも英雄に至ろうとするならば、契約するしか手はないだろうな」

 

「そんな事、ないよ」

 

「そうか?」

 

「お兄ちゃんの凄さ、わたし知ってるもん。お兄ちゃんの優しさも、強さも、全部全部。

 

「知ってるもん!

 

「お兄ちゃんが英雄になれないわけがない!

 

「誰かのために戦えたお兄ちゃんが、英雄じゃないなんて、なれないなんて・・・。

 

「わたしは絶対認めない!」

 

 

熱く燃え上がるように、魔法少女らしく。全てを否定し、新しい理論を造り出すイリヤ。

 

そんな彼女に目を丸くした奏音は、少女のようにふわりと笑顔でこう言った。

 

 

「──そっか」

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