我、無限の欲望の蒐集家也 作:121.622km/h
「おそらくだけど──これはジュエルシードが起こす現象を模しているんだと思う」
ユーノ君は、巨大化した猫を見てそう言った。
ジュエルシードというのは確か、ユーノ君が落としたロストロギアで、お兄さん達が全て回収したアレだったか。
「ジュエルシードって・・・願いを叶える宝石・・・だっけ」
「それ、そのものに危険はもうないけどね。・・・あの子猫の、大きくなりたいっていう願いを──ジュエルシードが汲み上げていたら、こうなっていたと思う」
「例えそうだったとして、限度があるだろ・・・」
ジュエルシードの効果を再現したことについては──もう誰も深く話そうとしないんだね。
わたし達の常識は、とっくにお兄さん達によって塗り替えられていたようだ。
「うーん・・・これは──」
「子猫に傷が付かないように、バインドで拘束してからの方が良いかな?」
「あ、うん、それがいいね」
「それじゃあ、やるよー」
修行の一環だと思っていたから、相当難しい──それこそ難題難問が襲いかかってくる。と思っていたから、少し拍子抜けだった。
暴れもせず、大人しい子猫に、バインドをかけようと思ったその時。
黄色に光る、攻撃魔法が子猫を襲った。
「これは、魔法の光!」
その攻撃魔法──光の槍を子猫に放ったのは、わたしと同じくらいの歳の、黒衣の魔導師だった。
彼女はわたし達なんか目に入っていないようで、子猫に攻撃を続ける。
わたしは、子猫が苦しそうな悲鳴を上げたのを見て──飛び出した。
「レイジングハートッ!」
『Protection.』
「・・・・・・同系の魔導師──ロストロギアの探索者か。それに、インテリジェントデバイス持ち」
一目で看破された!?
隠していたつもりはないが、まさかわたしの事を見ただけで、レイジングハートがどんなデバイスか見破るなんて。
「──ロストロギアは頂いていきます」
「・・・・・・っ!」
魔法で作られた刃──彼女の持つデバイスが、鎌のような形状に変化して、わたしに斬りかかる。
「っ!」
初撃は躱した──が、息つく暇もない連撃を、ただ防ぐ事に専念する。
ここで下手に反撃をするのは、判断を間違えているとしか言えない。
今はとにかく──情報を整理しよう。
「どうして、突然襲ってくるの!?」
「答えても、多分意味がない」
「それを決めるのは──こっち!」
零距離で砲撃を放った──しかし、当然のように躱されてしまった。
互いに距離を取り、いつでも魔法が放てる状態のまま膠着する。
金糸のような髪に、ルベライトのような瞳。
何か、特殊な事情がありそうな──そんな少女だった。
「あなたが欲しいのは何? ジュエルシード?」
「答える必要はない」
「ここに来てる時点で、ジュエルシード目的なのは丸わかりだよ」
そこで言葉に詰まった時点で、疑問は確信へと変わった。
彼女の目的は、ユーノ君が落としたジュエルシードだ。
「だけど残念。ジュエルシードは渡せない!」
「・・・力尽くでも」
ジュエルシードではないにしろ、出された課題ではある──そのために陸君達は、この魔導師の相手をわたし一人に任せて、子猫に向き直った。
「絶対に──」
「──勝つ」
近接攻撃を主にする彼女は、砲撃などの遠距離攻撃を主体とするわたしとは、立ち回り次第で優劣が簡単に入れ替わってしまう──例えば、近接戦に持ち込まれれば先程のようにわたしは防戦一方だろうし、距離を離す事ができれば、一定の距離を保って攻撃を加える事ができる。
近接系の攻撃は、いつか手に入れなければ──克服しなければいけない課題ではあるのだが、今は目の前の敵をどう対処するかが問題である。
「いけるね。レイジングハート」
『
レイジングハートからの頼もしい返事も返ってきたことだし、まずは習ったことを試すように──
「シュート!」
『Divine』
形成した九つのスフィアからシューターを放つ。
フィクションの世界にしか存在しないような存在──魔法少女になったからには、常識に囚われていてはいけない。
というのを理由に貸し出されたシューティングゲームを参考にして、桜色の弾幕を構成する。
近づかせないようにしている間に──最高の一撃を叩き込む。
「それくらい──簡単に避けられる」
「にゃ!?」
付け焼き刃に近い──要するに下手な弾幕は張るだけ無駄なのかもしれない。
しかし、練習をしておかなければ、わたしの向き不向きがわからない。
もう少しだけ密度を濃くしても、良かったかもしれない。
今回の弾幕は見栄え重視──美しい弾幕を意識したから間が広がりすぎたのだろう。
距離を詰められたが、何の心配も要らない。
砲撃魔導師だからといって、近接を何も鍛えていないと思ったら大間違いなのだ。
「レイジングハート」
『Closerange,mode.』
レイジングハートの形態を変化させる──機械的な杖の見た目から、機械的な槍に見えるフォルムへと、その形状が変化した。
その瞬間、クロスレンジに飛び込んできた少女のデバイス──金色の魔力刃をレイジングハートの柄で受け止める。
こういう状況の場合、金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く、とよく表現される──しかしわたし達の場合、そんな甲高い音ではなく、石と石をぶつけたような、鈍い音が鳴った。
「ハァッ!」
「──ッ」
腕に無理矢理展開した推進魔法で、少女のデバイスを弾く。
一瞬。
目を丸くした少女だったが、すぐさま切り替えてデバイスで連撃を叩き込んできた。
それに対処できるようにモードチェンジしたレイジングハートを振り回し、対応していく。
目が英雄達の動きに慣れてきた頃なので、少女の動きくらいなら簡単に目で追える。
「なのはつえー・・・」
「陸も知ってるでしょ、英雄達の速度。連日アレ見てたらそりゃ目も慣れるわよ」
「なのははキャスターかな?」
「アレ見てるとランサーもいけそう」
そんな会話が強化された聴覚が捉えた。
彼等はわたしを何だと思っているのか──しかし、封印処理は既に終了していたようで、巨大な猫の姿はどこにもなかった。
一方で陸君達の手の中にジュエルシードらしき結晶体は見受けられなかった。
「どうだった!?」
互いに大きく距離を取ったところで、陸君達にそう呼び掛ける。
すると、妙に落ち着いた声が返ってきた。
「予想通り、何らかの方法でジュエルシードを"再現"していたっぽい」
「理屈はわからないけど、結晶体はなかったわ」
「・・・・・・え」
「そっか」
今のを聞いて、戦う理由はなくなったと気付いてくれるだろうか。
それとも、諦める気はないのだろうか。
「・・・・・・君は、ジュエルシードの場所を知っているの」
「知ってるよ。誰が持っているのか、どんな人なのか。全部知ってる」
聞きたい?
そう挑発するようにいえば、返事の代わりに魔法が飛んできた。
身を翻して躱し、会話を続ける。
「──でも、教えないよ。教えても、意味がないから」
「・・・・・・っ」
意趣返しというものだったか。
ハンムラビ法典と似たような意味だったはずだから、今の台詞と合致している。
と、思う。
「力尽くでも」
「まだやる? いいよぉ」
丁度いい。
ほどよい練習台──くらいにはなってくれると嬉しいんだけど。
英雄達と戦い、修練していくことを見越せば、こんなところで少女相手に手間取っていては、あの──高みにはたどり着けない。
『Longrange,mode.』
「・・・・・・まずは」
大きく後ろに後退するために、無理矢理起動させたブースターで、予測不能な動きをしながらも、無事に後退することができた。
「ひとまず挨拶!」
『Buster.』
一番得意と言っても過言ではない。
わたしがロングレンジを得意とする所以。
砲撃魔法をノータイムで連射する。
「くっ・・・っ!」
これも全て、お兄さんの家で行ってきた修練の成果である。
ロングレンジで圧倒した──ならば次にすべきは、相手の領分での対等以上の渡り合いだ。
『Closerange,mode.』
「受けてみて!」
足に展開した特殊型の飛行魔法、フライヤーステップと身体の各部位につけた高機動型の飛行魔法──クルビットフィンが近距離戦でのわたしのサポートをしてくれている。
再度、槍のような形に変形したレイジングハートを操って、攻撃を仕掛けていく。
その槍捌き──それはとある英雄の真似でしかない。
最初の頃は人の真似なんかしていては、ずっと上手くなることはないんじゃないか──そんなことを考えていたが、ある時。
思い切って相談してみたのだ。
「──なに? 真似をしていて強くなれるのか、だと?」
「・・・はい」
「なれるわけがないだろう。真似はあくまで見様見真似の──猿真似でしかない。自分自身に最も適した戦い方は存在するし、いつまでもそんな事をしていたら、強くなれるはずもない」
「・・・・・・はい」
やっぱりそうか。
真似じゃあ駄目だってことは、わかっていたんだから。
これから改めて──
「だが」
「え?」
「良く考えてみろ、高町なのは。お前がここに通い出して、数日だという事実を。俺達はその間、お前に基礎体力をつけること、知識面でも基本的なことしか課していない」
「・・・・・・」
そういえば──専門的な訓練は当分先だといっていたような。
それも、わたしの成長具合を鑑みて、変更されることもあるんだろうけれど。
「ならば、どこでその真似を始めたのかといえば、奴らの戦いを観ていたのだろう? 一度や二度ではないにしろ、その早さであの体力馬鹿共の動きを目で追い、それを模倣するのは大きな才能の一つだ。誇れ、そして──大切にしろ」
「・・・・・・え、いいの?」
「少なくとも、今の内はだ。技量が上がるにつれて自分ができる事も、できないこともわかってくるだろうからな。それまでは、色々なことに手を出してみろ。それがあの──」
──"
少女を純粋な速さではなく、フェイントも織り交ぜた動きで翻弄し、腰の入った一撃を叩き込む。
止まっていたら、槍兵の名が泣くらしい。
相手の少女は焦っているのか、息も荒く──少しだけ、疲れているようにも見えた。
「わたし相手に手こずるようじゃ、ジュエルシードは手に入らないよ」
「・・・・・・どういう」
「そのまま。わたしなんかより──とっても強い人達が、ジュエルシードを持ってるの。その人達から信頼を得るために、わたしもみんなに鍛えて貰ってる。わたし、まだまだひよっこなんだ」
「・・・・・・・・・」
理解は、できただろうか。
どこの誰とは教えないし、誰が持っているのかなんて、教える気にもならないけど。
その行いが──無駄になっていることは教えてあげなければならない。
決して親切心ではなく。
どちらかといえば小馬鹿にしたような、そんな感情の方が近い。
でも。
もし、困っているんだとしたら──相談に乗るくらいはしてあげてもいいのかもしれない。
「ジュエルシードは・・・どうすれば手に入るのっ」
「世界を壊しかねない危険物を、厳重保管している人物から譲り受ける方法が聞きたいの?」
「え・・・・・・。えーっと」
「わたしも詳しいことはわからないんだ。・・・・・・でも、一つだけ。多分、そんな事は──不可能だと思うよ」
「たとえ・・・そうだとしても。──わたしはやらなくちゃあいけないんだ!」
何のために。
世界が危険だから、ユーノ君やお兄さんが動いた理由とはまた別の理由が、この少女にはある。
それが、どんなものかはわたしにはわからないけれど。
「そっか──でも、わたしも譲れないんだ」
槍だからといって、遠距離ができない。
なんてことがあるはずがない。
「わたしが──」
「わたしが──」
「「──勝つ!!」」
「サンダー・・・」
「ディバイン・・・」
レイジングハートが槍の形状の時、わたしの砲撃は少し変わる。
フライヤーステップに足をつけて、しっかりと踏ん張る──そして背中に付いた八つのスラスタービットで反動を抑える準備に入った。
「スマッシャー!!」
「バスター!」
矛先を突き出すようにして放った砲撃魔法──名前が決まっていないので仮称としてディバインバスターと呼んでいるのだが、それはもう砲撃魔法というよりは、伸びた矛先だった。
その威力はディバインバスターを大きく上回る──しかし、それ故に反動も大きく、背中につけた八つのスラスタービットが支えてくれていなかったら、反動で後方に吹き飛んでいたことだろう。
それほどの威力を持っている。
だけに──
「・・・・・・ハァ・・・ハァ」
体力も普段の倍以上消費する。
だが、それを撃っただけの成果はあったようだ。
「わたしの勝ち」
それだけ言って、わたしは意識を失った。
どうやら引き分け──だったのかもしれない。
彼女とわたしの間に、圧倒的な力量の差は確かにあったけれど、まだ試運転な部分も多く──最大出力で放てば魔力はあっという間にすっからかんになってしまった。
らしい。
というのも、わたしはその辺正確に理解していないからこその失態だったわけだし──反省して、自分のことは正確に把握しなくちゃあならない。
ユーノ君から聞いただけではあるけれど、このあと、あの子の使い魔がやってきて、ユーノ君達はこれ以上の危害を加える気はないと伝えて、踵を返して帰っていくのを見守ったらしい。
今度会ったら、友達になろう。
可愛い子とは友達になっておいた方が良い。
そうお兄さんも言っていた。
──遠見市内某所。
とあるマンションに、その陰はあった。
「・・・・・・あ」
「フェイト! 気がついたかい?」
「アルフ・・・わたし・・・・・・」
どうなったの。
結果を聞こうとしたのか、フェイトと呼ばれた少女はベッドから身を起こす。
「あたしからはなんとも言えないんだけど。情報は得られたよ」
「本当?」
「ああ。・・・・・・どうやらアイツ等も、ジュエルシードを手に入れてはないみたいだ。その代わり」
「・・・・・・・・・」
フェイトは無言で続きを促す。
「ジュエルシードを手に入れる手段はあるみたいだ」
「どんな!?」
「この星の管理人──そいつが全てのジュエルシードを持ってるらしくて、アイツ等はそいつから信用を得ようとしてる、って言ってた。詳しいことはわからないし、どうすれば良いのかもわからないけど、取り入ることができれば、全部手に入る」
「・・・・・・母さんには、黙っておいた方が良いかな」
「ああ。手に入るまでは報告もしないでいいだろ」
目の前に立ち塞がる大きな壁が、少女達の目的を阻まんとする。
「・・・・・・なんで、あの子は強くなろうとしてるんだろう」
「勝ちたい奴がいるんだと」
「・・・勝ちたい?」
「ああ。聞いた話だけど、どうしてもやりたいことがあるから、強くなるんだって」
「・・・・・・そっか」
フェイトは、その言葉を聞いて。
何かを思案するように俯いた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・フェイト。大丈夫だって。きっと──っ。誰だ!」
アルフが何かに気付き、ベランダに向かって吠える。
それに驚いたのか、気付かれたことでベランダで影が動いた。その影は、そのままベランダの塀を跳び越え、宙に躍り出た。
「くっ。魔導師か!」
「管理局?」
「わからない」
逃がさない──と、ベランダに飛び出した二人だったが、魔力反応はなく。
敵の魔導師ではなさそうだと、警戒しながら周囲を見回す。
ふと、フェイトが先程の影の行動を思い返し、手すりから身を乗り出すようにして、地上を見下ろせば、たった今走り出したとばかりに、マンションの下を走る道路を車──ミニクーパー1275Sが走り抜けていった。
「あれは・・・車?」
「まさか魔法も使えない現地民──だとか言うんじゃないだろうね?」
「この高さじゃあ・・・それはもっとありえないと思う」
「それはあたしも思ったけどさ」
鳥の可能性もある。と、フェイトが返せば、
「あれは人影だった」
と、アルフが否定する。
そんな彼女達も過ごす海鳴の夜は更けていく。
その頃──
遠見市、フェイト達のマンション近くの大通り。
走る車の中で青年が一人、誰かに話すように語っていた。
「タイトルロールと目的を同じとする魔法少女。王道の展開だな」
『・・・・・・ええ』
「しかし、世界中に危険物がばらまかれるわ、それを狙う魔法少女が現れるわ。やっぱり──」
青年はそう言うと、車のギアを一つあげて。
「この星には、俺のような男が必要なのさ」
と言った。
『格好付けても、似合ってなければ全く意味がありません』
「・・・どういう意味だ? それは」
『冴羽獠は、貴方とは真逆だと言いたいんです』
「知ってるよ。でも、憧れるだろう? ●●ィ●ン●ー」
そんな会話が、夜の闇に溶けていった。