我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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契約

「・・・・・・暇だ」

 

 

俺は漠然とそんな事を呟いた。今この場でやるべき事と言えば、やってしまう事と言えば、居もしない誰かに向かって、もしくは自分に言い聞かせるかのように、呟くしか無いのである。

 

如月。その名前を聞いて、人が思い浮かべるのは暦であったり、凡百の姓だったり、またごく少数に駆逐艦だったりするのかもしれない。

 

だが、ここで話すのは、何万とありふれた転生者達の中で、中身の無い宝物庫をもらったナルシストでも、人一倍正義感が強いわけでもない僕の、ただの人の物語である。

 

 

無限の欲望の蒐集家、コレクター。

 

魂の管理者がよく見る展開をやってみたかった。そんな理由で生まれた転生者。それが如月奏音である。

 

死んでしまって、さあ転生です。と、扉を開けたら再度意識を失い、薄れ行く意識のなか、起きたら新生児かな。と、よく見る展開を意識していた。が、覚醒した意識は、未だ生前のままで、何もない空間に存在していた。

 

何もない。辺り一面が白銀に染まるその空間で漂うこと一時間。やることもしたいことも見つからないまま、ただ浮いているというのも詰まらないものだった。つめるものもつまるものもないのだから当然だった。

 

というわけで、先の発言に繋がるのである。

 

 

「・・・・・・暇だ」

 

 

結局、一時間の間にやったことと言えば、素数を数えてみようと言うことで、素数を499まで数えて──やる意義を失った。もうすることも思い付かない。一時間以上漂いながら素数を数えるというのも初めての体験で面白かったのだが、飽きてしまった。

 

ならば仕方ない。今までなるべく視界に入れないように心がけていた、見ないように目を背けていた、周りを飛び回る光球について言及しておくべきだろう。

 

 

「・・・誰だ?」

 

「【回答】当機にはその問いに対する最適の解を持ち合わせていません」

 

 

問いかけに対し、光球はチカチカと光りながら人の声を録音してつなぎ合わせたような合成音声を話す。現実味のない光景だったが、転生という最大の奇蹟を体験した俺は、まあこんなものかと他人事のように考えていた。

 

 

「は・・・。・・・名無しってことか?」

 

「【回答】当機、また当書に個別名称は存在しません」

 

 

困った。じゃあ彼、または彼女が何者なのか、分からないじゃあないか。味方かどうかも分からない人物(?)にここがどこなのかを聞くわけにもいかない。あれ、じゃあさっき死んだ時に居た場所であんなにあっさり信じた俺は何だったのだろう。

 

とにかく、今は情報が欲しいのだ。一時間、何度も言っているわりには体感時間なので正確ではないのだが一時間程度、ゆらゆらと何をするでもなく漂っていたのだ。そう考えると、唯一の希望であるこの光球に縋ってみるのも良いかもしれない。

 

 

「ぁ、あのさ。ここ、どこだ?」

 

「【回答】当書内部に存在する空間です」

 

、当書って?」

 

「【回答】当書は(マスター)である貴方が持つべきものであると断定」

 

 

持つべきもの。つまり俺はこれを所有していることが順当であり、所有の自覚がないこの状況は非常にまずいことである。だが、正解ではないにしろかなり的確な、それも答えに近い単語が出てきた。俺が中にいるこれは、生前俺が所有していたもの、もしくは()()()()()()()()()()──俺はこれに該当するものをひとつ知っている。知っている、というより解っている、理解していると言った方が正しいのかもしれない。

 

際限無しの収集箱(コレクションホルダー)

 

仮称、強欲の魔道書。

 

恐らくそれが、今俺がいる空間だろう。つまり俺は、入れるべき箱の中に、入れられている状態だという。何と情けないことなのだろうか、もらったばかりの箱の中に自ら飛び込んだとでも言うのだろうか、そうでなければ引きずり込まれたと考えた方が良いのだろうか。飼い犬に手を噛まれるとは、この事なのかもしれない。

 

 

「【提案】当書と当機に固有名詞を付けてみてはどうか」

 

「ぁ、名前ね。名前・・・・・・」

 

 

固有名称。要するにそれがそれであることを認識するための名前のことである。飼い犬にポチ。飼い猫にタマと付けるように、携帯電話にiPhoneやXperiaと名前があるように、彼/彼女にも名前が必要なのだろう。彼/彼女を彼/彼女たらしめるための名称がいるのだ。

 

 

「【意見】家庭動物に付けるような名称は付けないように」

 

「ぉ、おう」

 

 

付けるつもりなど毛頭ないのだが、どうやら心の声でももれていたのだろうか、彼/彼女にはポチだのタマだのと考えていたのが伝わっていたらしい。

 

そこでふと、周りを見渡して考える。どこまでも続く空間。吸い込まれそうなほど遠く、触れられそうなほど近い。気が狂いそうになるようなそんな幻想的かつ狂気的なその場所で、一つたったひとつだけ、名前のようなものを思いついた。

 

 

「制限のない蒐集書・・・」

 

「【質問】何と言いましたか」

 

「インフィニティ・・・違うな。アン・・・『無制限の蒐集書(アンリミテッド・コレクション)』」

 

 

無制限の蒐集書。これほどまでにない良い名前を付けることができたと思う。制限無しに広がるこの空間を見て、思いついた。無制限に物を蒐集できる書物。unlimited-Correction。直訳で無限の収集品。いつかこの何もない空間が原型(オリジナル)で埋め尽くされるように頑張ろう。

 

 

「【了承】当書の固有名称を『無制限の蒐集書(アンリミテッド・コレクション)』で登録します」

 

「よし」

 

「【訂正】当機の固有名称が決定されていません」

 

 

当機。つまり今現在俺の前でふよふよと漂っている光球、彼/彼女にも名称が必要なのか。いや、そもそもその事も含めて考えていたはずだった。何故忘れていたのだろう。

 

 

「ぁ、お前の役割は?」

 

「【回答】無制限の蒐集書、その管理を任されています」

 

 

文字通り無制限の財物をこの空間に収めるのだから、整理したりする物が必要だ。俺一人ではこの書を受け取っても十全に使いこなすことはできなかっただろう。つまり彼/彼女の役割は電子の妖精というのが正しい認識だろう。

 

ならば名前もそれでいいのでは無いだろうかホシノ・ルリ、または同じ電子の申し子エネ等が該当するだろう。そんな安易な付け方で彼/彼女が納得してくれるだろうか。まぁ、この名前がついた暁には彼/彼女ではなく彼女に変更されることだろう。

 

 

「ぁ、エネ、で良いか?」

 

「【質問】何故、その少女の名前を持ってきた?」

 

「ぅ、性癖だよ悪いか」

 

「【納得】少女の姿に劣情を催すならば理解は及ぶ」

 

「納得するのかよ・・・」

 

 

やはり彼女は人とは存在定義的に別物なのだと実感させられた。元より人のカタチを成していない等は口が裂けてもいわないつもりだったが、それを抜きにしても人間味がない──もとい、色々と悟っているような反応である。

 

 

「ぁ、えっと、じゃあ力を貸してくれるのか?」

 

「【否定】力を貸すことなどできない」

 

 

何? 何何? 

 

 

「【実行】これよりマスター登録を行う。マスター名、戦闘法、当書名、当機名と契約の言葉を」

 

「ぁ、え?」

 

「【待機】お願いします」

 

「ぉ、あ。・・・マスター登録、如月奏音。使用武術は合気道主体のごった煮武道。機名はエネ。書名は『無制限の蒐集書(アンリミテッド・コレクション)』・・・俺に従い、その力を寄越せ」

 

 

力は貸さない。名前を決めろだの、持つべきものだと言っておきながら、そんな事を言うならこちらにも考えがある──というわけで俺に従え。力を寄越せと上から目線で命令してみた。俺に付与された無限の欲望が、これを満たす蒐集書を逃すまいと言の葉を発した。

 

肝の据わっていない、小心者には正直言って全く要らないスキルだが、それでも彼女にとっては正しい契約の言葉だったらしく、否定の言葉は飛んでこなかった。

 

 

「【確認】マスター名、如月奏音。戦闘法は合気道主体のごった煮武道。当機名はエネ。当書名は『無制限の蒐集書(アンリミテッド・コレクション)』」

 

 

彼女、エネがそう言うと同時。光球から人体模型の血管だけに注目したかのように──人形(ひとがた)に赤と青の線が構築された。

 

更に光球が頭部に移動し、骨と筋肉と皮膚を同時形成していく。大多数の人が見ればグロテスクな光景だが、不思議と俺はそれを綺麗だと思ったのだ。

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