我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

24 / 43
副題:相反する二つの組織


002

時空管理局という組織を、俺は生まれてこの方見聞きしたことなどなく、その存在を、役割を、今現在にいたるまで全く知らなかった。話だけ聞けば、とてつもなく巨大な勢力を持つ、司法機関のようだったが、生憎「そんな物があったとは」という状況である。

 

司法機関が警察も兼ねているという、政治的に非情によろしくないというか、独裁が可能なのではないかと、余計な勘ぐりをしてしまうが、どうなのだろうか。護って貰っているのだから、下手な文句は言えない状態だとしたら、とてもとてもよろしくない。

 

そして今、そんな管理局の保有する【巡航L級八番艦】次元空間航行艦船──アースラと呼ばれる船に、俺達は搭乗していた。内装は余計な装飾を一切省いた、最小限の機能だけ果たせればそれでいい、とでも言うような見た目であり、改装前のカルデアを想起させる。

 

そんな、船とは思えないほど広い──実際に普通の艦船とは桁違いな大きさである、廊下を辺りを見回しながら歩いていると、唐突にクロノが口を開く。まさに今、思い出したかのように。

 

 

「いつまでもそのままでは窮屈で仕方ないだろう。バリアジャケットは解除して平気だ。デバイスは待機状態にしておいてくれ」

 

「あ、そっか。そうですね」

 

 

クロノにそう言われて、なのは達はバリアジャケットを解除して普段着に戻る。レイジングハートを含めたデバイス達も、待機状態と呼ばれる簡単に持ち運び可能な形状へと変化した。

 

 

「君もだ。元の姿に戻って良いんじゃないか?」

 

「・・・ああ。そういえば、そうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」

 

 

クロノの言葉にユーノは頷くと、恐らく何らかの魔法をかけたのか解いたのか、光に包まれた後、見慣れたフェレットの姿から、見慣れぬ少年の姿になった。

 

 

「え・・・えぇぇええええええ!!?」

 

「え? え!? 何? どうしたの、なのは!?」

 

「ユーノ君って人間だったの!?」

 

「え!? あれ!? なのはと最初にあった時ってこの姿じゃなかったっけ!?」

 

「違う違う! 違うよっ!」

 

 

なのはは必死に頭を振って否定する。いつが初めてかは知らないが、どうやらユーノは自分が人間であることを伝え忘れていたようだった。

 

 

「は・・・はは・・・あはは・・・見られた・・・」

 

「なのは、大丈夫?」

 

「ぼ、僕が何を見た・・・あぁー!!」

 

 

どうしたユーノ。なんだ、その「やべぇ」みたいな「あぁ」は。なにかマズいことでもやらかしていたのだろうか。それならば、今すぐ謝っても・・・遅いかもしれないな。Don't worry.

 

 

「着替え・・・お風呂。そっか・・・それで、一生懸命拒否してたんだね・・・察しの悪い子でごめんね」

 

「なっ、なのはは何も悪くないよ! 僕がちゃんと報告してなかったのが悪いんだから!」

 

「ユーノ」

 

「わ、若菜・・・?」

 

「覚悟はいい?」

 

「良くなっ!?」

 

 

右腕に風を纏った若菜のコークスクリューが、変態的所業を成し遂げた男ユーノの腹部に刺さり、彼はそこを中心に回転しながら吹き飛び、廊下に倒れ込んだ。

 

 

「や、やりすぎでは・・・?」

 

「変態は成敗よ」

 

「容赦ないねぇ」

 

「そこまでにしてくれ。君達の事情はよく知らないが、艦長を待たせているので、出来れば早めに話を聞きたいんだ」

 

「あ・・・は、はい」

 

「ごめんなさい」

 

「すみません」

 

「では、こちらへ」

 

 

意識を失いかけて、再起不能のユーノを小脇に抱えて、そのままクロノに着いていく。

 

どうやら、今の茶番が行われた地点からさほど離れていないようで、"艦長室"と銘打たれた部屋の扉の前に既に俺達は立っていた。中へ入ればそこは日本かぶれの外国人の部屋──しかも、丁寧に調べあげたわけではなく、尚且つ文化を尊重しているわけでもない。ただ単純に自らの好きなもので飾り付けをしたような、そんな風な部屋だった。

 

 

「艦長、来てもらいました」

 

「お疲れ様。まあ、皆さんもどうぞどうぞ。楽にして」

 

 

どうやって?

 

この船の館長である女性は、俺達をにこやかに招き入れ、どうやら寛いでもらおうとしているようだったが、俺も含めてなのは達は、この部屋の雰囲気──盆栽や茶道具、鹿威しに毛氈。無理矢理詰め込まれたかのような「和風」に絶句するしかなく、そんな言葉しか出てこなかった。

 

 

「座りなよ」

 

 

クロノが着席を促したことで、俺達は全員が再起動して、あまりの光景に言葉が出ないままではあったが、とりあえず促された席に座ることができた。

 

 

「どうぞ」

 

「野点傘まであるのかよ・・・」

 

 

出てきたお茶──恐らく抹茶、に目を落としながらそんなことを呟いた。それだけこの部屋全てが異質である。近未来的な壁を背景に生えた盆栽とか。これぞ「和」という屋敷に長い間住んでいた身からすれば、これは和への冒涜とも言える。

 

そして、ようやく再起動を果たしたユーノが、現在に至るまでの経緯を説明する。とはいっても、ユーノ視点のユーノの解釈であるため、やはりというか。俺達にしか説明ができないことや、説明がそもそも不可能な出来事も多々あった。

 

 

「えっと・・・僕から説明できることは以上です」

 

「なるほど。ロストロギア──ジュエルシードを発掘した少年は貴方だったんですね」

 

「それで、僕が回収しようと・・・」

 

「立派だわ」

 

「だけど、同時に無謀でもある」

 

 

リンディ──アースラ艦長の女性の名だ。が、ユーノの勇気を称え、クロノがそれは蛮勇であると切り捨てた。だが、例えそれがどんな勇気でも、まずは持つことが大事だとそう思うことは間違いではないだろう。

 

 

「・・・あの。無謀とか言われても、貴女達管理局がもっと早くに行動してくれていれば、ユーノがその無謀な行動に出る必要はなかったし、なのはやわたし達が関わることもなかったんですが」

 

「それは・・・そうなんだが」

 

「私達は、先日まで輸送船の人員救助と、原因調査を行っていたの。こちらに来るのが遅くなってしまったのは確かだし、原因の特定も未だに出来ていないから、申し訳ないと謝るしかないわね。でも、幸いな事に死者はいなかったわ。事故処理の担当者が調査を引き継いでくれているし」

 

「・・・・・・なるほど。

 

「あなた方管理局は、こんな辺境の星の住民など、どうなってもいいと、そう言うんですね?

 

「原因なんて、安全が確保されてからでもできることでしょう。

 

「もし、ユーノ君が責任を感じていなかったら、ジュエルシードの回収を管理局に任せてしまっていたら。この星はジュエルシードによって滅んでいたかもしれないのに」

 

「なっ。そんな話はしていないだろう!?」

 

「今、艦長さんがされた説明はそういうことでしょう? それとも、管理局は手分けをするという発想すら不可能なほど、致命的なまでの人手不足──だったりするんですか?」

 

 

なのはのその言葉に、管理局の二人は押し黙った。慢性的かどうかは定かではないが、人員不足であることは間違いなさそうだった。それを言い訳にすることはできないし、そもそもの前提条件が間違っている気がする。

 

 

「話、進めて良いか。そちらさんが人手不足だろうが、俺達は欠片の興味もないんでね」

 

「貴方は・・・先程彼の話に出てきた。ジュエルシードの現保有者」

 

「如月奏音だ。よろしくしてくれなくて構わないぜ」

 

 

そもそも、俺達にはよろしくする気が微塵もないので、歩み寄られても困るのはこっちの方だったが、それさえ悟らせなければ、何の問題も生じない。

 

 

「やめろとも待てとも言われなかったので、話を進めさせてもらう。

 

「さっきの話の通り、コア・・・ジュエルシードは今現在、私、如月の名のもとに厳重に保管・封印をしている状態だ。そして、我々はこの現状を変えるつもりは一切ない」

 

「それが、どれだけ危険なことか分かっているのか」

 

「そっちこそ、現状を分かっているのか。地球からすれば、存在を疑う外世界の関わりも持たない管理局とかいう素性の知れぬ組織に、危険物をおいそれと渡すことができないんだよ」

 

「そちらの言い分も理解できる。だが、危険物だと分かっているのならなおさら、ロストロギアの危険性も熟知している我々に渡す方が、あなた方にとっても優位に働くのでは?」

 

「私達は貴女方がどのような組織なのか、それすら知らない状態だ。管理局とやらが獲得してきた信頼も、積み上げてきた実績もこちらは何一つ知らない。だから渡せないと言っている」

 

 

現在の日本でも試用されている貨幣制度も、元々は人の信頼によって成り立っていた物々交換を、国が運営・管理することでそれを使用することで、ほぼ無条件に信頼を得て交換を成立させるものである。

 

つまり、交渉の席について自分に有利な条件を引き出す上で大事なことは、相手の信頼をどれだけ勝ち取ることができるか。である。

 

 

「あの・・・ロストロギアってそもそも何なんですか?」

 

「あぁ。遺失世界の遺産・・・といっても分からないかしら。ええっとね」

 

 

ずっと気になっていたのだろう。なのはがコアクリスタルの別称、ロストロギアの意味を尋ねる。遺失世界の遺産、と聞いたなのはは恐らく、英霊達の宝具を思い浮かべていることだろう。だが、遺産なので宝具ではなく、聖遺物の方が近かったりすると思われる。

 

 

「次元空間の中にはいくつもの世界があるの。それぞれに生まれ育っていく世界」

 

「パラレルワールド?」

 

「少し違うな。どちらかと言えば"異世界"だと思うが」

 

「ええ、その解釈で間違っていないわ。そんな中に、極稀に、進化しすぎる世界があるの。

 

「技術や科学。進化しすぎたそれらが、自分達の世界を滅ぼしてしまって。その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産」

 

「それらを総称して、ロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが使いようによっては世界どころか、次元空間さえ滅ぼす程の力を持つこともある。危険な技術」

 

「然るべき手続きを以て、然るべき場所に保管されていなければならない代物。

 

「ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物」

 

 

ジュエルシードは案外その危険性を周囲に知られているようだった。元々の機能が永久電池だとは誰も思わないほどの改造が施されているからしょうがないのかもしれないが。本当に、ロクな事をしない奴もいたものである。

 

 

「僕達から言わせてもらえば、君達が先程戦闘していた彼女も、ロストロギアに含まれる」

 

「だから? あれはこの星を護る盾であり、賊を排除する矛でもある。お前達の言うロストロギアだったとしても、使い方によっては世界に貢献する技術となる」

 

「例えそうでも、いずれ危険になるかもしれない」

 

「信用ならない。交渉において最も大事な"信用"がお互いかけているんだ。納得させようとしても無駄だというのがそろそろ理解できるだろう。俺も、お前達を納得させようと言葉を紡いでいる訳じゃあない」

 

「・・・・・・だが、ジュエルシードは渡してもらうぞ。それは管理局が保管すべきロストロギアだ」

 

「おいおいおい。大きく出たなガキンチョ。お前のそのチッコイなりで凄まれても、なんともないし、これまたお前に何ができるのかは知らないが、如月(俺達)に喧嘩を売るのだけは止めた方が良い。

 

「最も、喧嘩を売って愉快な美術作品(オブジェ)になりたいのなら、話は別だがな。それにジュエルシードが危険物だと理解しているのなら、余計に諦めた方が良い。俺の星を俺が壊すわけがないだろう。

 

「ああ、でも。地球観光くらいなら、いくらでもしていくといい。次元世界とやらには負けるかもしれないが、様々な観光地があるからな。でも、満喫したらとっととでていけよ。俺の地球から」

 

 

例え司法機関であろうが行政機関であろうが、自らの都合で知性のある生命体に何の断りもなく、自らのしいた法を適応させようとする方が無茶なのである。司法も行政も、ある程度は従う市民がいてこそ。出鼻を挫かれて尚、己が意見を通そうとするのならば──

 

 

──最悪の場合、管理局の消滅も視野に入れておこう。

 

 

「観光? でていけ? そんな事、出来ると思っているのか! 世界が滅ぶかもしれないだぞ!」

 

「貴様の方こそ、オツムが足りていないと見える。既にこちらの内で解決に向かっている事件を、重箱の隅を付くように刺激するなんて、蒸し返すなんて。管理局っていうのは、空気の読み方すら教えてくれないのかい?」

 

「・・・このっ!」

 

「クロノ! ──そこまでです」

 

「でも、かあさ! ・・・艦長!」

 

「如月さんの言い分も理解できます。が、我々も仕事できているのです。起きてしまった事件は、解決して帰らねばならない。そのためには、ロストロギアの回収が最優先事項なのです」

 

「そうか。でもな。今回の事件に関して、俺もボランティアで動いているわけじゃあないんだよ。

 

「正しい対価は既に受け取っているし、その上で彼等が俺達から信頼を勝ち取って、契約の元でジュエルシードを受け渡す。

 

「もちろん。それだけじゃあない。間違いを起こさない。万が一にも地球へ危害を加えない。様々な要因が雁字搦めに絡み合った上で成り立っているビジネスだ。人となりも知らない上に、信用できる要素すら皆無の君達に、無償で取引を成立させるわけにはいかない」

 

「・・・・・・なるほど。貴方の考えはよく理解しました。では、我々管理局がどういう存在か。行動で示すことにしましょう」

 

「具体的には?」

 

「ジュエルシードが地球に落ちた要因が、何者かによる襲撃であることは理解していますね?」

 

「ああ。ユーノ・スクライアから聞いている。輸送船が襲われたと」

 

 

聞くのは何度目になるだろうか。一度や二度ではない気もするが、数えるのが億劫になるほど多い気もしないこともないし、数えようとも思わないほど少ない気がしなくもない。

 

それにまあ、心当たりはあることだし。ユーノと如月以外で、ジュエルシードの存在を、その機能を知っているであろう人物。

 

 

フェイト・テスタロッサの母親。アルフの言とあわせて考えれば、プレシア。

 

プレシア・テスタロッサ。

 

ジュエルシードを何かしらの理由で狙う、ユーノの言う襲撃の主犯であろう人物だ。

 

だがまあ、馬鹿正直に教えてやる理由も俺にはないわけで、管理局という組織が信用できないのも事実で、ユーノには悪いが、やはり俺は俺のやりたいようにしか動けないらしい。

 

 

「その犯人の捕縛。その手間を我々が全て請け負いましょう。まずはしっかりと行政機関の一つであることを証明して見せます」

 

「・・・まぁ、元々その為に来たのだろうしな」

 

「そして、先程対価と言いましたね。どのようなものが対価となり得ますか?」

 

「・・・・・・艦長サン。この世で最も有名で、信頼の置ける簡潔な対価が何か、ご存じですか?」

 

「・・・・・・?」

 

「・・・お金。でしょ?」

 

 

アースラ艦長に問うたはずが、横のなのはから返答が帰ってきた。幼気な少女から世の中金じゃに通じる言葉を聞くことになろうとは、全くもって世の中は想像だにしない出来事で回っている。

 

 

「そう。お金。貨幣や通貨と言い換えることもできる。ほとんどの人間に対して与えられる平等な交換の媒介。つまりわかりやすい対価だ」

 

「なるほど。確かに。それは盲点でした」

 

 

単純で、当然だからこそ見落とすものもあるのだと言えば、聞こえはいいのかもしれない。嫌味を言うのであれば、こんな簡単な思いつきを小学生に負けるのか。と煽ることもできる。

 

が、そんなことをするとまた面倒なので黙っておこう。

 

 

「艦長サンが言いたいことは何となく把握した。だが──」

 

「──それって、私達にメリットはあるんですか?」

 

 

俺の言いたいことに被せるように、なのはが発言する。

 

場の空気を読んで自粛している──というより、下手なことを喋って管理局と敵対しないように気を付けている。ように見える陸達と違い、如月寄りの思考回路で、管理局に対してなるべく信用を置かないようにしているのか、粗でも探すかのように質問する。

 

 

「貴女達にメリットは──ないわ」

 

「か、艦長!」

 

「でも、仕事なの。分かってもらえるかしら」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

なのはは何かを考え込むように俯いた。確かに、なのは達にとっては、少しのメリットもないかもしれない。だけど。

 

 

「メリット──あるといえばある」

 

「え?」

 

「犯罪者を捕まえても、証拠を立件することが地球にはできない。その事実があるから、管理局は我が物顔で事件現場を荒らすんだろうしな」

 

「僕達は、荒らしてなんかっ!」

 

「言い方が悪かったな。謝罪するよ。俺が言いたかったのは、お前達はまるで──フィクションで描かれる国際刑事警察機構(インターポール)みたいなものだな。ってことだ」

 

 

よく分からない捜査権を振りかざし、世界中を飛び回る。一言で言い表すのなら、キャラクターを増やさないための処置の一つなのだろう。世界一つ一つで犯罪者を追う個々のキャラクターを作るのが面倒だから。

 

 

「ジュエルシード云々はまた後日決めようか」

 

「ああ。その方が良いだろう。君達も僕らも、ジュエルシードを使用する気はないようだからな。何らかの目的で奪おうとした犯罪者の捕縛を優先しよう」

 

「協力は必要かい?」

 

「いらない!」

 

「そうか。じゃあまた後日。犯罪者を捕まえられたら教えてくれ」

 

 

そんな感じで、管理局との初邂逅は終わった。

 

互いに悪印象しかないようなものだが、好印象しか抱けないというのも、それはそれで怪しさ満点な相手なので、険悪な関係から始めても悪い結果になる事はないだろう。

 

 

アースラから降り、それぞれの自宅に帰宅した後。

 

俺は如月邸地下に移築されたカルデアにある作戦会議室Rに足を運ぶ。

 

 

「帰ったか」

 

「では、始めましょう」

 

 

そこには既に、「如月」とそれに連なる組織のトップ、もしくは直轄の常識人達が集結していた。用意されていた円卓の一席に腰を下ろし、持ち帰った情報を表示させる。

 

これより始まるのは、"太陽系・第三惑星管理遂行機関「如月」"の首脳会議である。

 

本来は、大規模な反乱や宇宙からの侵略者などの、地球における平穏が崩れかねない事態を早期に収束するために行われる対策会議──という形だけのものだったのだが、ついに本格的に開かれる事態が起きてしまったわけである。

 

 

「・・・管理局」

 

「行動指針や細かい規定なんかは分からないが、次元世界の法の番人だ」

 

「それだけならまだしも、行政と司法の両方の役割を持っているのが組織として間違っているよ」

 

「"失敗しやすい"、"満足する成功が望めない"という地球における過去の事例があるだけで、その最高責任者の舵取りさえ間違っていなければ、組織としての意味は果たせているのでは?」

 

「行政と司法が一緒って事は、裁判時に検察官が裁判官も弁護人も務めるようなものだぞ。そこに公平性が存在するわけがないだろう」

 

「・・・如月も似たようなものでは?」

 

「民法なんかの細かいところまでは介入してはいないし、ある程度自主性に任せているとは言え、俺達の役割って世界政府と言われても過言ではないからなぁ・・・」

 

「カナタ。貴方なら、管理局がどういったものか、もう少し正確に把握しているのでは」

 

 

なるほど。俺がここより更に未来から持ち帰った情報か。

 

 

「俺個人の意見としては、管理局に信用は置かない方が良い。例えどれだけ戦力を消耗することになったとしても、抗うなら抗った方が良い」

 

「根拠は?」

 

「アースラに打ちこんだウイルスが、恐らく本部であろうコンピュータから持ち帰ってきた情報。推論も混じってはいるけど現在の管理局の在り方とさほど変わりないと思う」

 

 

その情報を全員分手元のモニターに表示する。暫く無言でその資料に目を通す時間が作られた。

 

 

「・・・・・・ハッ、なるほど。これは酷い。ほとんど国家と言っても過言ではない組織が、その自覚を持たずに好き勝手やっているのか」

 

「このままでは遠からず自滅しそうな組織ですね」

 

「うわぁ・・・うわぁ・・・」

 

「今回の事件、その首謀者──というか発端であるプレシア・テスタロッサ。彼女に関しても濡れ衣というか、これはもう国家ぐるみの隠蔽と言っても間違いじゃないぞ!?」

 

「一応、次元世界とやらを護っているという矜持はあるようだから、間違っても大量殺戮はしないと思いたいが・・・」

 

「した前例がある」

 

「え!? ・・・本当だ。管理外世界のロストロギア破壊のために世界ごと消滅・・・!?」

 

「正気か?」

 

「正気じゃないぞ、こんなもの! 正気であってたまるか!」

 

「できる事なら関わりを持ちたくない組織ではあるが、既に関わりを持ってしまった以上。何らかの対策を講じるのがこの会議で行うべき事項だと思うが」

 

 

そうして、夜は更けていった・・・・・・。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。