我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:魔法少女の見る世界


003

なのはside

 

「とりあえず、帰ろうか」

 

 

管理局とやらの戦艦、アースラから降りてそう言ったのは、若菜ちゃんだった。

 

ユーノ君が説明してくれた管理局に対してのイメージと、実際は大きく違った組織だった。地球でいう警察や軍隊の役割を果してくれている、と言うことだったけどお兄さんとの会話を聞く限り、国会の役割も兼任しているようで、あまり信用ならないというのがわたしの本音だった。

 

なんのために日本が、アメリカが、ヨーロッパ諸国が権力を分立して統治していると思っているのだろうか。お兄さんの如月でさえ、深くは介入しないというのに。

 

あ、そういえば。

 

 

「ユーノ君って、同い年くらい?」

 

「えっ。あ・・・うん、多分・・・」

 

 

年齢を聞いたわけではないので、曖昧な回答になってしまった。けど、プラスマイナス一歳程度の違いである事だけはハッキリと分かった。

 

 

「もしかして、怒ってる? そんなつもり・・・じゃなかったんだけど。その・・・秘密にしてたみたいになっちゃって・・・」

 

「ううん。吃驚はしたし、ちょっと恥ずかしかったけど。怒ってはないよ」

 

「ごめん。・・・ありがとう」

 

「だけど、若菜ちゃんが許してないみたい」

 

「えっ。わ、若菜! まずはその拳を下ろそう! 人を殴るのは良くなっ──」

 

 

若菜ちゃんの折檻(チョークスリーパー)を受けるユーノ君を横目に、話を進めようと思う。

 

 

「なのはには悪いけど、ユーノはフェレットのままいてもらった方が良い」

 

「大丈夫。元々そのつもりだったし。家で預かってるんだしね」

 

 

難しいことは帰ってから考えよう。今、悩んだって状況が好転する良いことなんか浮かびはしないだろうから。帰って、晩御飯を食べて一息ついたくらいの、落ち着いた時間に考えてみよう。

 

 

「あっ」

 

「・・・・・・?」

 

 

陸君の声にそちらを振り向けば、ちょうどユーノ君が絞め落とされたところだった。結構長い時間耐えていた──というか、ギブアップの仕方を教えてあげれば良かったかもしれない。

 

満足そうに息をつき、姿勢を正した若菜ちゃんはユーノ君を見下ろすようにして言葉を紡ぐ。

 

 

「打撃系など花拳繍腿! 関節技(サブミッション)こそ王者の技よ!!」

 

 

どうやらさっきの技はプリンセス・チョークスリーパーだったようだ。お兄さんから聞いたことがある。とある世界に存在する、魔法使いが使う肉体言語──若菜ちゃんはどうやらそれを習得しているようだった。

 

魔法の呪文は「リリカル・トカレフ・キルゼムオール」なのかな。

 

side out

 

 

──時空管理局、巡航L級八番艦 艦内

 

「すごいや。みんなAAA(トリプルエー)クラスの魔導師だよ!」

 

「ああ」

 

 

先ほどの空の女王との戦いを、クロノ・ハラオウンと同僚らしき女性はモニターで確認していた。

 

 

「この白い服の子はクロノ君の好みっぽい可愛い子だし」

 

「エイミィ! そんなことはどうでもいいだろう!」

 

 

揶揄われているのがわかっているのか、窘めるクロノ。それだけで、彼らが気安い仲であることが伺えた。

 

 

「魔力の平均値を見てもこの子で147万! 黒い服の子で163万! 最大発揮時はさらにその三倍以上! 魔力値だけならクロノ君を上回っているね〜」

 

「魔法は、魔力値の大きさだけで決まるんじゃない。状況に合わせた応用力と、的確に使用できる判断力が必要だろ」

 

「そりゃもちろんだよ。信頼してるよ。アースラの最終兵器だもん。クロノ君は」

 

「んん」

 

 

照れたように顔をそらすクロノ。気安い仲ではあるようだが、クロノはちょうど思春期のようで、まっすぐに褒められることに少しばかりの抵抗があるようだった。

 

 

「そんなことより! 彼だよ彼! 如月奏音!」

 

「何をそんなに苛立ってるんだ」

 

「管理局が信用できないだの! 手柄を奪うなって! 私たちが悪者みたいに!」

 

「・・・エイミィ。彼の言っている事は間違ってはない」

 

「え?」

 

「僕達の立場からみれば、彼は管理局に刃向かった悪者だ。けど、調べたところ”如月”というのはこの星で一番の権力を持っていて、それを得る代わりに星を守護する契約を結んでいるらしい。

 

「彼の立場で見れば、僕達は存在自体が不確かな組織に属し、正義を掲げる信用ならない余所者と言える。彼はこちらに攻撃的に接する事で、管理局の内情を知ろうとしたんだろう。

 

「彼らには如月(彼ら)の正義があって、僕らには管理局(僕達)の正義がある。善悪のようにきっちりと線引きができるような事じゃないからこそ、僕達は彼とよく話し合う必要があるんだよ」

 

 

こういった時の場合、話し合いで解決できず武力を持って相手を制圧しようと動き出すと、結果的にそれは戦争と呼ばれる事態になる。

 

戦争というものは人の正義(エゴ)の衝突によって生まれるのである。

 

 

「とにかく、今は彼らと敵対するのは避けて、僕達の仕事で僕達の正義を彼らに示すんだ」

 

「うん。そうだね」

 

 

フェイトside

 

ついに、管理局が現れてしまった。

 

私は、自分が犯罪者側であることを知っている。・・・アルフに言われるまでは忘れかけていたけどもう大丈夫だ。如月さん達にもとてもよくしてもらったけど、もうこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 

十分、強くしてもらえた。あの子と一緒に訓練して楽しくなかったをいえば嘘になる。けど、私は私の目的がある。ジュエルシードを手に入れるための手段があれしかないのもわかっているけど、これ以上私の我侭に付き合わせるわけには──

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「!?」

 

「・・・カナタじゃないか。何しに来たんだい?」

 

 

び、ビックリした・・・。ベランダのガラスをまるで無いもののように通り抜けて、無遠慮に私達の家に乗り込んできたのは、管理局じゃなくて人となりもある程度知っている、如月さんだった。

 

迷惑をかけないようにしようと決意したばかりなのに、早速向こうから訪ねてきたのでどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

 

 

「何しに? いやいやチミ達こそ。一体何をしてるんだい?」

 

「・・・・・・?」

 

 

何かしてしまったのだろうか。決意したばかりなのに、すでに何かやらかしてしまっていた場合はどうすればいいんだろう。

 

鍛えてもらったおかげで増えた並列思考でも処理しきれず、思考が右往左往してしまう。

 

 

「どこに帰ってるんだ、って話なんだけど」

 

「あそこがあたしらにとって安全である根拠は」

 

「如月は管理局を信用していない」

 

「・・・・・・あんたは嘘はつかないから、信じたげるよ。しょーもない嘘はつくけどね」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

 

どういうことなんだろう。一応、当事者であろう私の意思を無視して使い魔との会話で契約が成立されていく。

 

 

「さ。行こうか」

 

「へ?」

 

 

体が浮き上がる。腰とお尻に誰かの手があって、私の身長以上の高さに目線が移動する。気付けば私は如月さんに抱き上げられていた。

 

少し顔を動かせば、目の前に如月さんの顔があって、思わず、恥ずかしくなって顔を背けてしまう──ってそうじゃなくて!

 

 

「おっ、下ろしてくださいっ!」

 

「下ろしたら逃げるだろ?」

 

「に、逃げませんっ!」

 

 

逃げたいとか、そういうことじゃなくって・・・!

 

 

「じゃあ、このまま連行するぞ」

 

「ま、待って。お、おしり・・・」

 

「安定する抱え方なんだよ? これが」

 

「で、でも」

 

「じゃあ横抱きにでもするか?」

 

「それは・・・おしり触られませんか・・・?」

 

「・・・・・・うん、膝裏に腕は通るけど」

 

「じゃ、じゃあそれが良いです」

 

 

如月さんは私の希望に軽い返事を返すと、なんて事ないように──それこそ「ふわり」なんて擬音が付くくらい、軽く私を抱く向きを変えて見せた。

 

元々、あってなかったような荷物を、持ってきたアルフが思わず拍手するほど。それこそ魔法でも使ったのかと思ってしまうほどだった。

 

 

「こ、これなら・・・」

 

「よし。じゃあ行くぞー」

 

「は、はいっ?!」

 

「ん?」

 

 

か、顔が。さっきより近くないのに、さっきより恥ずかしいのはどういうことだろう。とりあえず顔を両手で覆って着くまでの間我慢しよう。そうしよう。

 

 

side out

 

 

 

なのはside

 

 

晩ご飯も食べ終えて、わたし達の結論としてはこのままお兄さんのところで鍛えてもらいながら、最終的にジュエルシードを手に入れる方が良いとの結論になった。

 

というのも、一度始めたからには例えどんな理由でも、かの英雄達が解放してくれるはずもなく。わたし達は当初の目的を達成するまで終われませんという、フィクションにしか存在しなさそうな──あってもテレビの企画くらいだと思う、状況なのだった。

 

そして現在。警察(管理局)が出てきて、そろそろ事件も佳境に入ってきただろうという予想から、如月邸へ一時的に居を移させてもらって、本格的に修行した方が良いのではという結論にいたった。

 

 

《なのは。オッケーをもらったよ。あのフェイトって子もくるみたい》

 

《えっ》

 

 

フェイトちゃんがお兄さんと一つ屋根の下・・・!?

 

これはうかうかしていられない!

 

お父さんとお兄ちゃんが裏山へ修行をしに行く。それにお姉ちゃんが着いて行ったのを見送って、お母さんと二人きりになったところで、数刻前に予約しておいた大事なお話の時間がやってきた。

 

 

 

「・・・それじゃ。大事なお話って、なぁに?」

 

「あ・・・うん」

 

 

キッチンからリビングのソファーに場所を移して、お母さんに今回のことを説明することにした。それが、今のわたしにできる精一杯の親孝行だから。

 

 

「わたしね。少しの間、学校も休んで家にも帰らないくらい専念したいことができたの。

 

「それはね。とっても危険なことだってことは十分に理解してるよ。聖祥は進学校だから、授業を欠席することが、どれだけ今後に影響するかも。・・・全部、お兄さんが教えてくれたから」

 

「・・・・・・そう、なの。そんなに?」

 

「うん。ユーノ君を拾ってきた日のことなんだけど。ちょっとした事件に巻き込まれたのが始まりだったの。

 

「それはお兄さん達も出動するくらい大きな事件なんだけど、普通の人には理解できないくらいの領域で起きてる不可思議な事件で、それにわたしが深く関わっちゃって・・・」

 

「ここのところ、何かに一生懸命だったのはそれね? 大丈夫だったの?」

 

「うん。それは大丈夫。お兄さんが居たし」

 

 

そのお兄さんのせいでもっと大変なことになっているような気もしなくもないけれど、愛の鞭だと考えれば嬉しく思ってしまう。わたしの感情はとても現金なやつだった。

 

 

「その事件で、なのはは何かがしたいの?」

 

「うん。事件で危ない目に遭わないように、少しでも自分の身を護るために、お兄さんのところで如月邸に泊まり込みで修行しようって話になってて・・・。

 

「だから、心配をかけちゃうかもしれないんだけど。大切な友達もできたし、何か力になりたい。その気持ちはずっと変わらないから」

 

「心配は心配よ。だって、お母さんですもの。だけど、滅多にないなのはの我儘だから」

 

 

そう言ってお母さんは微笑んだ。

 

わたしって、そんなに我儘を言わない子だったっけ、とも思ったけど小学校に上がる前のお父さんがまだ遷延性意識障害──重度の昏睡状態、植物状態だった頃。お母さんから言われた「いい子でいなさい。そうしたらお父さんが帰ってる」といった旨の話を聞いたことと、お兄さんのおかげで本当に回復したことで、いい子でいれば良いことがあるという先入観が生まれたのかもしれない。

 

思い返せば、お兄さん関連以外では、比較的手のかからない子なのかもしれなかった。

 

お母さんはその後、送り出す言葉と共に激励をくれた。

 

必ずやり遂げなさい、と。

 

お母さんに本当のことは話せない。ユーノ君の正体や魔法のこと。未知や不思議を忌避する傾向のある大人に今の事情を飲み込んでもらうのは、時間がとれるときでいい。

 

最低限の着替えと貴重品を持って、夜の町へと飛び出した。

 

side out


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