我、無限の欲望の蒐集家也 作:121.622km/h
管理局の次元戦艦"アースラ"と、管理局員達が地球を訪れてから幾数日がたった。管理局に対して敵対心がある──自らが犯罪者となったために、フェイトが外出を渋って引き籠もっていたので、強制的に如月邸へその地下施設へと連行し、部屋を与え、訓練を続行させた。
自らを捜索しているであろう管理局員を警戒しているであろうフェイトには悪いが、世界中で一番安全と言っても過言ではないのが如月邸である。なにせ如月邸はその科学・魔術水準の高さから、その技術の秘匿性を上げているため、記録装置の類いを招き入れることをできない。
ユーノやなのはの協力元、サーチャーという観測魔法の類いも使用不可能になることを、確認済みであり、如月邸の中にいる限りフェイトは所在がバレることなく、存分に戦闘訓練が可能なのだ。
そもそも訓練云々の前に、フェイトは面倒を見なかったら一日の食事がコンビニで買えそうな十秒チャージにのみになりかねないのだ。そんな食生活、オカン属性を持った彼等が許すわけがない。それをふまえても如月邸に誘拐する以外の選択肢などないのだ。
"誘拐"は人聞きが悪い気がしないでもないが、事実を端的に述べるのであれば、正しい表現であることは間違いがないだろう。
そんな風に、フェイトが如月邸に来て数刻後。「親を説得した」と、なのはが転がり込んできた。小学生の娘を、一人で他人の家に寝泊まりさせるのを、親がよく納得したな。と思わないでもないが、よくよく考えれば高町家は如月信者なので、おかしな話でも無いかもしれない。
というわけで、結果として毎日顔を合わせて一つ屋根の下生活をし、互いが互いを意識する立場になったフェイトとなのはは、無事にライバルとして高め合うように訓練に取り込んでいるそうだ。
そうだ。という表現になったのは、人伝の話を聞いただけだからである。根掘り葉掘り聞くような情報でもなく、噂話程度で満足したからでもあったのだが、それ以上に自分のことで精一杯だったような気もする。
そんな彼女達と対する、と言えるのか。もしかしたら、存在自体を忘れられているのではないか。と、自分で考えて怯えているイリヤは、しっかりと訓練を続けている。イリヤ自身気付いていないが、時折廊下の向こうから睨みつけられていたりするので、存在を忘れられるどころか、しっかり意識されているようでなによりである。
さて、本日五月十日。
いよいよ魔法少女達が再び激突するときが来たのだ。
俺の現在地は如月邸地下施設。人理継続保障機関をそのまま移設した管制室に増設された、専用の席に座って表示されたモニターを見つめていた。
普段の俺であれば、興味のない事からは逃げることが多いのだが、自分から提案したことのため、今更興味ないの一言で逃げられるはずもなく。大人しく席に着いていた。
「・・・・・・」
本日の舞台は海鳴臨海公園。もちろん、何も無いだだっ広い海上で戦うのも味気ないので、如月の技術力を結集した結果「海面上昇によって高層ビルを残して沈んだ街」が出来上がった。しかし、あくまで戦うのは鏡面界になる。事後処理が面倒でないことと、比較的自由に戦えるのが理由だ。
前回の戦闘と違う点を上げると、イリヤVSなのは&フェイトであることか。一対多であるならば、陸や若菜も参加して良かったのだが、二人は自主辞退したので、なのはとフェイトの二人だけだ。
イリヤはルビーを使って、なのは達は美遊の持つサファイアで鏡面界へ移動する。"如月"のことをだけでなく、なのはやフェイトのことも知りたいであろう管理局の、観測魔法が鏡面界で使用可能なのか定かではないが、恐らくこの戦いを見ようとするだろう事は容易に想像できる。
さて、全員が鏡面界入りしたところで、戦闘開始だ。
『じゃあ・・・行くよ!』
『行きます!』
「三人とも、ちょっと待った。奏音くん」
──と思ったのだが。どうやらまた、恒例の開始合図を出さなくちゃあならないようだった。
「オッケー。任せナ」
軽い咳払いをして喉の調子を整え、蒐集書からマイクを取り出して握る。
「さ──」
「ああ、タンマタンマ! アッシュフォード式で行こうじゃないか」
「え゙。・・・どこでそれを?」
「C.C.君が教えてくれたよ。楽しそうな号令だと思わないか?」
「個人的には一番やりたくないかけ声だったんだけど・・・」
やらなければ話が進まないというのであれば、やるしかないだろう。自らを度外視し、他人のために身を粉にして活動するのは、昔から得意らしいし。
「・・・・・・にゃあ」
言ってみてこの発言に需要はあるのだろうかと疑問が浮かぶ。以前どこかで男の「萌えボイス」が発売されて、男が買った。みたいな話もあるが、そういうのはキャラクターやペルソナ前提の話であって、こう言う場合には当てはまらない気がする。
この言い方だと、需要があればいくらでも言うという風に聞こえるが、実際にその通りなので何も間違ってはいない。その解釈であっている。自信を持ってくれ。
そして、ディスプレイの向こうに目を向ければ、需要はあったようだとなんとなくそう思う。
イリヤとなのは。少なくとも、二人には。
『ルビー』
『一応、記録済みです』
『よくやった! これで今の私は絶好調だ!』
好戦的な笑みを浮かべイリヤは声を上げる。彼女の杖であるルビーを掴んだ手を振り上げ、巨大な魔力弾を形成した。対するなのは達は魔力弾をありったけの数形成し、射出体制に移る。
『
『
『
『
巨大な砲撃をなのはが数の暴力で消し飛ばし、水蒸気のように霧散した魔力を突っ切り、近距離に飛び込み斬撃を振るうイリヤ。フェイトがそれを受け止める。
先制攻撃を仕掛けたイリヤは、一度体勢を整え襲い来る魔力の暴力を相手取る。
「たった一人で二人を相手取るイリヤスフィール! 手の数は圧倒的に足りていないが勝ることはできるのか!?」
「・・・何故実況を始めた」
「しかし、落ち着いて対処ができているように見える! 流石はイリヤスフィールと言ったところでしょうか。その辺り、どうでしょう。解説の如月さん」
「あ、俺解説なんだ」
振られたネタには対応しなければ。完璧な解説を任されてやろう。
「多対一の場合。一人の方には、沢山の情報を処理する能力が、当然のことながら二人いる方より求められる。戦況を見極める目というものは、経験でしか身につかない。
「故に、なのはとフェイトは互いを知り、苦手なところを埋め合い、得意なところを伸ばしながら戦況を進めて行くことになるだろう」
「おおぅ。予想以上に本気の解説が来て若干萎縮してしまった・・・・・・。よしっ。おっと! ここで戦場の方に変化が訪れました。イリヤスフィールが早々に手札を切ってきました!」
イリヤが手に持つものは、白野や立香が戦闘の際によく用いる魔術礼装──サーヴァントカード。そこに描かれているのは本を持った少年の絵。
とは言っても、写実的ではなくあくまで抽象的に描かれているので、初見で「あっ、如月奏音」とはならない。
『私の修行の成果は、“これ”じゃないと分からない』
「サーヴァントカードを握ったイリヤスフィール。前回と違い、最初から──」
『“コレクター”──
「やってやれ、イリヤ」
『──今日の私は、最初からクライマックスだ!』
修行中に、ルビーに懇願されて製作したイリヤ専用の
どちらかと言えば大きなお友達向けのデザインである。
その名は、“
主武装は、上から
これら全てが俺の生まれた星の技術を使い、製作したものである。しかし、どれもこれも、個々で作られたものであるため、あの戦闘衣装は寄せ集めとも言える。
そして、コレクターを夢幻召喚したならば、やらなければならないことが一つある。
それは、あの我儘な蒐集書を味方につけることである。"従える"と言い方を変えることもできる。イリヤは自分のキャラに合っていないと言っていたが、あれはより強い欲望の持ち主に従うため、己が意思を心の底から叫ぶことが重要となる。
とは言っても、"叫ぶ"は表現の一つであるため、本当に叫ぶ必要などない。そして、無限の欲望の持ち主である俺以外に従うとも思えない。
だからまあ、思いっきり叫べばいい。
『際限無き蒐集書よ。我が意思に従い、力を貸せっ!』
「ん? おお!? イリヤスフィールが命令するのは珍しい! 一体何があったんだ!?」
「無制限の蒐集書を管理する妖精は随分と我儘でね。十全に使いこなすには、それこそ無尽の欲が要求される。しかし、ああして力の一端を借りるくらいなら、強き意思で命令するだけでいい」
『さあ、開け!
空間が波打ち、白銀の波紋がいくつも展開される。人が使うのをこうして見るのは初めてではないが、どことなく絶望感が漂う光景である。
「そういえば、奏音君。今更なんだけど、どうして”無制限の”何て名前なんだい?」
「・・・それ、必要な解説なのか? まあ、いいか。あの本は書物の形をしてるけど、役割は受け皿に近い。止めどなく溢れ出る欲望を受け止めるためのな。無限の欲望を受け止めるためには、無限に広がる器が必要なのさ。
「ちなみにあの本は英霊の宝具と違って、使おうと思えば誰でも使えるものなんだけど。だけど、先に述べた通り、あれは"満ちる”ことを知らない、無限の欲望専用の器。イリヤのように一時的に借りるのではなく、本物を、原典を、生半可な欲で使おうとすれば──」
使おうとすれば。どうなるか言ってしまっていいのだろうか。無限の欲望と無制限の蒐集書。この二つの切っても切り離せない関係を。心の中で止めておくことにしよう。使えば、己の全ての欲を奪われる。吸い取られ──何も欲を持てない廃人に成り果ててしまう。成って果ててしまうのだ。
心の底から
『あー! それ、お兄さんの!』
『え。あれが・・・如月さんの・・・!?』
『穿て!』
その波紋から射出されるのは、全て宝具。
狙いは鋭く。
射出は疾く。
威力は強く。
イリヤに教えた──俺は、慢心する王様じゃない。
イリヤに教えた──俺は、英雄達の王じゃない。
イリヤに教えた──俺達は、凡人なんだと。
俺はただ──折れる心がないだけで。
俺はただ──諦めを知らないだけで。
天才と呼ばれる存在では、決してないと。
限りある時間を、好きな事をするためにつぎ込んでいるだけで。
できなかった事を、できるようにするために挑戦しているだけで。
俺達は、言い訳をしないだけなんだと。
だから、無制限の蒐集書を使うときは、一分一秒に自らの全てをつぎ込んで戦うようにと。
ただ、ルビーの武器選別が本家のそれに劣るしかないのは、諦めるしかないのだろう。
『いくよ! フェイトちゃん!』
『うんっ!』
「おおっと! イリヤスフィールの剣の雨! それを技で叩き落とす高町なのはと空中機動で躱すフェイト・テスタロッサ! この状況、きみならどう見る奏音君」
「上手く回避しているように見えるけど、よく見ればイリヤが直撃しないように気をつけているのが見てとれる。
「無制限の蒐集書の中身は、そのほとんどが殺傷能力の高い武器ばかり。万が一、直撃すれば死を意味する。だから、イリヤは当てるために攻撃を行ってない、とみていいだろう。回避させることの目的は疲弊か、その他に存在するのか」
「なるほど。じゃあ君から見て避けるのは悪手かい?」
「わざと避けさせているのならば、それに従うのは悪手に見えるかもしれない。けど、個人的には相手の策に乗った上でその予想の上をいってひっくり返すっていうのが最高に格好いいとは思う。
「だが、無尽蔵の武器を持つ相手との戦闘は、自分が詰まされないように戦う詰め将棋に似ていると、個人的には考えてる。詰め将棋のプレイヤー側はボードゲームのように相手を追い詰めるだけでいいから、普通は英雄王のように慢心しがちになる。だけど、イリヤにはそれがない」
修行の際、徹底的に油断したところをついてきたからな。
「慢心しない英雄王か。厄介だね」
「そうか? ギルガメッシュ相手ならそう苦労はしないぞ? アイツ、本気になっても、やっぱり剣士や魔術師にはなれないからさ」
「君の感覚がイカれているのにはもう驚かないよ」
「イカれているとか言うなよ」
ディスプレイに目を移せば、白銀の波紋から絶え間なく撃ち出される武器は単純な剣のみならず、槍・矢・戦斧・砲弾、多種多様な武器に渡っていた。当たれば即死のアイテムから、呪いのようにジワジワと体を蝕むものまで多岐にわたる。
というより、一番の問題はルビーが無制限の蒐集書を制御できていないことにある。無作為に選びとった複製品を撃ち出しているようで、数時間前の管理要請との喧嘩が響いているようだ。いや、それよりも喧嘩をしたことで自分勝手に蒐集書の中を探っているのかもしれない。
変なものを見つけなきゃいいんだが・・・。
──その願いは、最悪の形で裏切られることになる。
『イリヤさん、イリヤさん』
『うーん?』
楽しそうに話しかけるルビーに、戦況を見渡すイリヤは生返事を返す。
『愉快なものを見つけました! 七色に輝く薬品です! かなりの効果が期待できますよ!』
『えー? 何かわからないものを使うのは・・・・・・』
「おっと? あの薬品はなんだい?」
え。「七色に輝く薬品」で該当するものは数個あるけど。丸底フラスコに入ったものと言えば。
「あー・・・。ありゃ還魂の霊薬だな」
「カンコン?」
「冠婚葬祭じゃあないぞ。
”魂と肉体を結びつけるための霊薬”だから、肉体が存在していても魂がないと意味がなかったり、魂が存在していても肉体が朽ちていたら意味がないとか、他にも色々制約はある。それと同じ様に抜け道も色々と存在しているが、今はいいだろう。
言ったからどうなるってわけでもないだろうし。
「君は何でも持っているとは思っていたけど、そんなものまで持っていたのかい?」
「備えあれば憂いなし。コレクターは集めるのが本分だ。例え偽物だろうと興味惹かれたら蒐集。それが常だった。まあ、今回の場合は本物だったっていう、なんとも言えない結果だったんだ」
『そんなもの使わないから、とりあえずしまってしまって!』
『わかりました~』
『──っ。ルビー!』
『フェイトちゃん!』
『なのはっ!』
『ディバイーン・・・・・・バスターッ!!』
イリヤに迫る桜色の魔力砲撃。回避に動けばその一瞬で直撃する勢いがあったが、今のイリヤにはその心配が必要ない。
冷静に左手をディバインバスターに向けて、心のトリガーを放つ。
『──圧縮、解放。エア・ブラストっ』
低く唸るような音に続いて、何かが爆発するような音が響き渡る。その瞬間ディバインバスターは壁にぶつかったかのように、イリヤに直撃することなく四散した。
「おっとぉ!! ディバインバスターが直撃前に四散したぞ!? あれは一体何なんでしょう」
「実況キャラはまだ続けるのね。あれはエア・ブラスト。アームギアの中に溜めて圧縮した空気を打ち出す技だ。圧縮した空気に物理的な壁が生じるのは知ってるだろ? 空気の壁にぶつかって、ディバインバスターは消えたんだ」
「ぶっつけ本番で?」
「しっかりと修行内容の範囲だよ」
コアクリスタルを組み込んだレイジングハートの、ディバインバスター千本ノックの九十九本目でイリヤが見つけたディバインバスターの攻略法その一つである。
その圧縮空気を打ち出すまでにも血が吹き出るような──文字通り腕から血が流れた、努力を経ているから、イリヤのことを誉めてやってほしい。ここだけの話だが、骨も何度か折れている。
『今の私は兄と同じ万夫不当の蒐集家。蒐集家からものを奪いたければ、全身全霊で挑み──その命を懸けるくらい気張らないとダメだよ』
魔法少女達も気を引きしめなおし、白銀の波紋の壁を背負うイリヤに挑もうと武器を構えた。
その時。
計測器がなのはやフェイト以外の魔力反応を感知した。
「まさか、鏡面界越しに直接攻撃ですって!?」
「イリヤスフィール! 戦闘を一時中断。周囲の警戒をして攻撃に──」
「備えて」。その言葉は、イリヤに届くことはなかった。
次元を跳躍し、どこからともなく飛んできた、紫電と呼ぶべき紫色の雷魔法が、少女達に落ちる。
「イリヤ!」
なのはとフェイトには直撃。何とかかしたイリヤは、直撃とはいかないにしろ、七割程ダメージを受けてしまっていた。そして、目的は不明だがその隙をついて、転移魔法らしき何かが、イリヤをどこかへと連れ去ってしまった。
「イリヤスフィール!!」
「心配なのはわかるが、なのはちゃん達の回収も急げ!」
「くそっ! 一体何だって・・・・・・!」
「高次空間に構造物を確認! そこからさっきの雷撃も転移してきたようだ」
「高次空間? そこにイリヤを攫った奴がいるのか!」
機械のようと形容される切嗣も、我が娘の事となると普段からは考えられないような取り乱し方をするらしい。もっとも、怒っているのは俺も同じだ。
魔法での怪我に詳しいであろう、管理局になのは達を預けるためにアースラへ向かう。正直な所、アースラに行かず、直接乗り込んでやりたかったのだが、犯人逮捕は任せるといった手前、約束を破るわけにはいかないのだ。
報復は何も生みはしない。
冷静になろうじゃあないか。