我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:テスタロッサの事情


005

白野side

 

奏兄がキレた。

 

イリヤが連れ去られたその瞬間。怒っているのか笑っているのか、今まで見たことないような表情になって、勢いよく握った拳が手の中に残った空気を握りつぶした異様な音が響いた。

 

そして、強く握った拳を解くと、こちらを振り向いた。その目は青く変色して、幾何学的な模様が浮かんでいた。

 

その目で見つめられたオルガマリーは、思わずといった調子で動きを止める。

 

 

「高次元空間にイリヤはいるって言ったな?」

 

「勝手な行動は許可できないわ! 正確な座標も確定していないのに、主であるあなたを単独行動させるわけにはいかないの!」

 

「それに、管理局との協定で、魔導師の犯人逮捕はあちらに一任しているだろう?」

 

「奴は”如月(オレ)”に喧嘩を売った。それだけで俺が乗り込む理由にゃ十分だ」

 

 

奏兄はそのまま、私達を一瞥するとなんの予備動作もなく転移して消えた。

 

恐らく、アースラに向かったのだろう。

 

 

「奏音君が過去戻りを使わないのは何故か。分かるかい? マリー」

 

「え。あ、そう言えば彼は過去に戻れるんじゃない! どうしてそうしないのよ!」

 

「・・・落とし前をつけるためさ。過去に戻って、なかったことにはできないほど、今回の事に怒りを覚えているんだろう」

 

 

兄いはヤクザか!

 

side out

 

 

時空管理局の戦艦。アースラに空間を繋げるようにして転移すると、魔力も何もなく突然現れた人に驚くことなく、当たり前のように俺が来たことに気づいたなのはが声をあげた。

 

 

「お兄さん! イリヤちゃんが!」

 

 

イリヤの心配をしてくれているなのはは、頭や腕に怪我を負っていてユーノが回復魔法と思われるものを必死にかけていた。

 

対するフェイトには若菜が回復魔法をかけていた。

 

 

「こっちでは実況までしてたんだ。そんなことは知ってるよ。おい、管理局。イリヤを拐った奴の居場所はわかってるんだろう? どこだ」

 

「君は魔法(こちら)には干渉しないと言う約束だったはずだが?」

 

「テメェは自分の家族に手ぇ出されて黙ってるような奴を信用できるのか?」

 

「それはNOだが。まあ、落ち着いてくれ。我々は今回の事件の犯人を突き止めたと言ってもいい」

 

「犯人とおぼしき人物の名は、プレシア・テスタロッサ。先の次元跳躍魔法を測定したから間違いありません」

 

 

テスタロッサ。やはり、フェイトの母親が事件の発端に深く関わっていたようだ。

 

 

「だから? 自分達に任せてじっとしていてください。と、そう言いたいのか?」

 

「ああ。彼女は我々が必ず助けよう。だから・・・」

 

 

そう言って、クロノが誘導するように視線を動かした先のモニターには、アースラに搭乗していたであろう魔導師部隊が、プレシア・テスタロッサの居城らしき空間で、プレシアの元へ向かう様子が映されていた。

 

 

「母親が逮捕される姿を見るのは辛いでしょう・・・」

 

 

他者目線からすれば、身勝手な同情にしか見えないが、本人たちはいたって真剣なのだろう。艦長リンディが悲痛な面持ちでフェイトを見やる。なのはもフェイトの傍を離れず、手を握っている。

 

そして、モニターの向こうでは武装した魔導師達が魔王の代名詞である王座に腰かけたプレシアの元へ辿り着いた。

 

 

『プレシア・テスタロッサ、時空管理法違反及び管理局巡航艦攻撃の容疑で逮捕する』

 

 

プレシアはつまらなさそうに、局員を眺めながら立つことなく状況を見渡していた。その姿には、ゲームでいうところのラスボスのような雰囲気が漂っている。その傍らには傷だらけの、気絶したイリヤが転がっていて、人質にする価値もない。と暗に言っているようなものだった。

 

 

『・・・・・・』

 

 

プレシアはまるで局員を嘲笑するように鼻で笑い、自らを取り囲む局員達を冷めた目で見ていた。乗り込んだプレシアの拠点を探索する局員達は、そうとは知らず彼女の目的と思われるものを発見した。それを見て、なぜイリヤを拐ったか。それも理解することができた。

 

何のために、願いを叶える力を付与されたコアクリスタルを欲したのか。その答えは、モニターを通してアースラにいる面々にも、フェイトの目にも届いていた。

 

──そこにあったのは、円柱の水槽にフェイトと瓜二つの少女が浮かんでいる光景だった。

 

 

「え? どういうこと!?」

 

 

状況の整理が追い付いていないのか、なのはは驚きを隠せないまま、フェイトの顔と画面の少女を見比べていた。勝手に比較されているフェイトも焦点の定まらない目で画面を見つめていた。

 

 

『私のアリシアに──近寄らないで!!』

 

 

詳細を確認しようとしたのか、水槽に近づいた局員にプレシアの怒号と魔法が飛び、吹き飛ばす。

 

その瞬間から後、プレシアの様子も静観ではなくなり、怒りを乗せた目で局員を睨み付けている。そして、持っているデバイスを構え、戦闘体勢に移った。

 

敵対者が戦闘体勢に移ったことで突入部隊である局員達も、戦闘体勢に移る。

 

 

『撃てっ!!』

 

 

号令と同時、一斉に射撃魔法を打ち込んだ部隊局員達だったが、障壁魔法らしきなにかに防がれ、プレシア本人には傷一つ着けることはできなかった。

 

 

『喧しいわね・・・・・・』

 

 

煩わしそうにデバイスを掲げたプレシア。攻撃が来る。と、身構える暇もなく局員達の頭上から、紫の雷光が襲いかかった。

 

 

「危ない!!」

 

 

艦橋内でのリンディの叫び虚しく、雷撃魔法がやむと無事なのはプレシアだけになっていた。

 

 

「急いで局員の転送を!!」

 

 

負傷した局員の回収の指示をリンディが出して、悔しそうに唇を噛む。どうやら、プレシアが予想以上の実力を持っていたようで、仮にも相手は大魔導士と言われた女性。いくら優秀な突撃部隊といえど、相手をするには荷が重すぎたようだった。

 

 

『・・・もう、時間切れね』

 

 

プレシアは水槽に浮かぶ少女を見ながら一人呟いた。その手にあるのは変質したコアクリスタル。景品だからイリヤに持たせていたんだった。

 

全部渡っちゃったよ。

 

一応、安全装置もついているから地球が滅亡するなんて事は起こらないと思うが・・・。

 

 

『思わぬ収穫が得られるかと思ったけれど、そう上手くは行かないものね。でも・・・、当初の目的、二十一個のジュエルシードは手に入った。私はこれでアルハザードへ辿り着く』

 

 

そこまで言って満足したのか、プレシアは一息着いて、モニター越しにこちらに話しかける口調で話し出した。

 

 

『私はもう、全てを終わらせるわ。アリシアを亡くしてからの暗鬱な時間も、アリシアの代わりに作った人形を娘扱いするのも』

 

「えっ!?」

 

 

プレシアの放ったその一言に、フェイトは弾かれたように顔をあげて目を見開いた。

 

 

『フェイト、見ているわね?』

 

「か、母さん?」

 

「艦長、サーチャーが乗っ取られました!」

 

 

アースラ端末から、送られてくる映像のコントロールが利かなくなったようである。そんなことで大丈夫なんだろうか管理局。恐らく──いや。十中八九プレシアの仕業だろう。フェイトは助けを求めるように、モニターに映し出される映像を見る。

 

しかし、その願いは叶わなかった。

 

願いを叶える宝石も、少女の願いは汲み取ってくれないようである。

 

 

『聞いていてフェイト? あなたのことよ?』

 

「!?」

 

 

フェイトは母の声に震えるように反応した。そんな事は知らないといった風に──実際、こちらの映像が届いていないのかもしれないが、プレシアは冷酷に告げる。

 

 

『・・・せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。それ以外は役立たずで、ちっとも使えない。私の・・・お人形』

 

 

その言葉を補足するかのように、エイミィは顔をうつむき加減にしながら口を開く。

 

 

「プレシアは、最初の事件の時に娘の・・・アリシア・テスタロッサを亡くしているの。そして彼女が最後に行っていた研究が・・・・・・、使い魔とは違う使い魔を超える人造生命の研究」

 

「「「えっ!?」」」

 

「そして死者蘇生の秘術。F.A.T.Eっていう名前は、当時彼女の研究につけられた開発コードなの」

 

『よく調べたわね。そうよ、その通り』

 

 

どうやら、音声は届いているようだった。文脈からは感心したような様子が伺えるのに、その声音からは相変わらずこちらに一切興味を示さない。夏場に開けた冷蔵庫のような冷気を感じた。

 

プレシアはアリシアと思われる少女の入った水槽のガラスを撫でながら、過去に思いを馳せるように言葉を紡いだ。

 

 

『・・・でも、ちっともうまくいかなかった。作り物の命は失ったものの代わりにはならないわ』

 

 

そして一転、憎たらしいといわんばかりの視線を観測魔法に送りながら言う。

 

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれた、アリシアはいつも私に優しかった、アリシアは・・・』

 

「やめて・・・・・・」

 

 

なのはは震える声で呟く。しかしプレシアの言葉が止まることはなかった。

 

 

『フェイト。やっぱりあなたはアリシアの偽物よ。せっかくのアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった』

 

「やめて、やめてよ!!」

 

『あなたは私がアリシアを蘇らせる間の、慰めのお人形・・・」

 

「もうやめてっ!!!」

 

 

なのはが必死に叫ぶ。フェイトは体を震わせながら、顔をうつむせながら聞いていた。

 

 

(私は・・・私は・・・)

 

『フェイト。最後に良いことを聞かせてあげるわ。私はあなたを作りだしてからこれまでずっと。あなたのこと・・・・・・大っ嫌いっだったのよ!!』

 

「・・・・・・か・・・あ、さ・・・・・・」

 

「プレシアァ!!」

 

 

アルフが咆えた。

 

だが、モニターの向こう側にいるプレシアには何も響いていないようで、平然としたままだ。

 

 

『話は終わったか、犯罪者。うちの魔法少女に一生ものの傷とかつけちゃいねぇだろうな?』

 

『ああ。貴方、そこにいたの。ねぇ、貴方。()()が持っていた魔道書の現物を持っているのよね。どうかしら。還魂の霊薬とやら私に渡す気はない?』

 

「俺を相手に取引か。答えはNOだ。うちのを返してもらおうか」

 

『霊薬と引き替えなら?』

 

「残念だが、還魂の霊薬は肉体と魂を結びつける薬だ。例え肉体があろうとも、魂がなければ蘇生はできない。あんたの庭園に、アリシア・テスタロッサがいるとは、限らないだろう」

 

 

その会話を最後に、プレシアはそう、と言っただけでサーチャーを破壊した。つまり、こちらには一切情報が流れてこなくなったわけだ。

 

 

「無知な俺達に教えてくれよ艦長サン。アルハザードってのは一体なんだ?」

 

「・・・・・・プレシアが行こうとしているアルハザードは、既に遺失した古代世界よ。卓越した技術と魔法文化を持ち、そこに辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷として伝承されているわ」

 

「死者蘇生までできるのか?」

 

「分からないの。何の情報もないし、アルハザードの存在自体、夢だと切り捨てる人もいるわ」

 

「ジュエルシードがロストロギア──遺失世界の遺産ということは言っただろう。アルハザードはその世界の方だ。まあ、僕は信じていないが。存在するはずがないだろう、時を操ったり、死者を蘇生したり。

 

「それに、そんな話をしだしたらあの少女、イリヤスフィールが使っていた武器も、ロストロギアといえなくもない。超感覚を意図的に起こす機械に、空間を歪めガントレット。君達と会ってから僕は頭痛が止まらない」

 

 

それはそれは。お大事にしてほしい。

 

だが、その情報で何かが見えてきそうな気がしてきた。

 

死者を蘇生するとまで言われた医療技術を。

 

時を戻すとまで言われた科学技術を。

 

俺は知っている。

 

死んだものが生き返ると言えば、今一番身近方法は永続的重複蘇生術式。

 

時を戻すと言えば、独立時間遡行唯一思考追体験が挙げられる。

 

しかし、そういう話じゃないんだろう。

 

キーワードを繋げて、分かりやすく纏めれば、どうなるだろうか。

 

 

──アルハザードは死者を蘇生し、時を戻す技術があり、今現在はその所在が不明な滅びた文明、または惑星である。

 

つまり、つまりだよ。

 

 

「いや・・・・・・まさか。でも・・・・・・」

 

「なんだ。はっきりしろ」

 

「如月さん。何か、分かったんですか?」

 

「最後に、一つだけ。ロストロギアが生まれる世界はどんな世界だと思う?」

 

「天才的な技術者が多く生まれ、なおかつ早期に世界に認められる世界。じゃあないか?」

 

 

ロストロギア。

 

過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称。

 

そして。

 

そんなものを作り出すのはよっぽどの天才(バカ)だけだろう。

 

 

「・・・そうか。そういうことだったのか!」


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