我、無限の欲望の蒐集家也 作:121.622km/h
真理の扉から吐き出されるようにして戻ってきた、学習塾跡。そこではアリシアの体を中心にして錬成陣が敷かれ、光を放っている。僕が戻ってきたことに気付いた彼女が、軽く手を振ってきた。
現在行われているのは、作中で行われた最後の錬成と、ほぼ同じものである。作中でエドワードはアルフォンスを白亜の空間から「文字通り」連れて帰っていたが、そんな行為は兄弟だからこそ可能なのであって、そんな演出を今回の例に当てはめるのは間違っている。
クローンの可能性が出てきたので、プレシアが大切にしてきたアリシアの体(仮)さえ錬成の材料にしながら、アリシア・テスタロッサの人体錬成は進んでいく。
ある程度錬成が進んだところで、異世界系統の回復薬をアリシアの体にかける。瀕死手前の肉体を全快させる効力は、人体錬成時にも有効に働いてくれる。エリクサーはもはや蘇生薬だ。
ふと錬成陣の方へ目をやれば、電撃のようなエフェクトが迸っていて、順調に事が進んでいるのが確認できた。魂と体を正しい手順で錬成しているので、余計な心配かも知れないが、万が一両方の結び着きが弱かったときのために、還魂の霊薬も用意してある。
接着剤のような使い方をしたのは、僕が初めてかもしれないな。
そもそも霊薬自体、使うのが初めて──というより、使う機会が全くなかったのだが、その効力は蒐集書の解析機能が証明してくれているので、なんの心配もいりはしない。そもそも死んだひとを生き返らせた経験はない。死んだ事実を無かったことにすることは慣れているのだが。
錬成反応が無くなったところで、オレガノに頼んで状態を診てもらう。
「心拍数──
脳波──異常なし」
「意識は無し・・・か」
恐らくだが、イヤな予想の方が当たったのだろう。魂と体の結び着きが弱くなってしまったのだ。だからといって慌てるような状況でもないワケなので、落ち着いて霊薬をアリシアの体にかける。イメージとしては寝ている人に水筒の中身をかけるようなものだろうか。
かけたところで、実際に濡れてしまうわけではないので、不思議なものである。中身の無くなった霊薬の瓶は粉々に砕け散ってしまったが、これは見慣れたいつもの光景だ。
「──ん、んぁ!?」
目を覚ましたアリシアは、何かに驚いたように声を出す。
一体、どうしたというのだろうか。
「体内の伝達機能に極僅かながら障害を確認。類似状況、"足のしびれ"」
「あぁー・・・」
あれか。
長期間、体がない状態にあったために、久しぶりの体の感覚に色々な部分が戸惑っている、という具合の話だろう。本当に動脈や神経が圧迫されている、というわけではない。つい先程まで水槽の中で強制的にではあるが、擬似的な生命活動が行われていたのだから。
オレガノの献身的な回復手段──ただのマッサージ、によって、アリシアは変な声を上げている。声の上げ方も忘れたのか、出る声はあ行のみである。
「まあ、暫くそうしてな。お母さんを殴るのも、体がしっかりと回復してからだな」
「あうー」
なんと言おうとしたのか、判別不可能だが、恐らく肯定的な返事だと思いたい。この場で僕たちに反抗する意味がない。というのが、二番目の理由である。一番の理由はあまり言いたくない。
暫くそうして、復活したばかりのアリシアを待つ意味も込めて、体を休めることにした。
なのはside
空間が揺れて世界が一変して、お兄さんの持つ蒐集書の中に取り込まれたのは、フェイトちゃんのお母さんがいるお城に転送で乗り込んで「さあ行こう」と、思った矢先の事だった。蒐集書の中は今まで見たことのない町並みで、少なくとも海鳴やその付近の町ではないことはわかった。
そもそも、景色に触れるのなら、町全体からどことなく近未来感が漂っている事にも触れなくてはならない。陸くんと若菜ちゃんもこの町の不思議な空気に思わず息を飲んでいた。そういった作品が好きな人には堪らない光景でもある。
似たような景色が出る作品といえば──『とある魔術の禁書目録』とかだろうか。あれよりも少しばかり未来的と言うか、なんというか。
「来栖・・・地名か?」
「すでに使われていなさそうな案内表示ではあるけど、今は信用するしかないわ」
「マジで十年近く点検とかされてなさそうなんだよな・・・」
『It was
ですから、何も間違っていません。と、レイジングハートは言った──文字通り、知っているかのようだった。
だから、聞いたのだ。
どうして、レイジングハートが知っているの? と。
『
と、誇らしそうに──もし、レイジングハートが人型であれば、胸の一つでも張っていそうなほど自慢気に、話してくれた。その内容があまりにも衝撃的すぎて、事実を飲み込み、理解するまでに想像以上の時間を要してしまった。
「え。レイジングハートって、ここの生まれなの!?」
『YES.』
衝撃の事実である。
ユーノ君から、レイジングハートはジュエルシードと同様に、発掘したものだとは聞いていたが、まさかお兄さんと同じ出身(?)だとは思わなかった。レイジングハートが、作り出された場所──製造場所を、人と同じように出生地と呼ぶのかどうかが不明だけど。
そんなことをしていたら、刻一刻と時間は消費されていた。意識の外れていた私たちを、強制的に切り替えさせたのは、付近のビルを貫いて登場した機械兵──ロボットだった。
「ロッ・・・ロボット!?」
「くっ。傀儡兵か! 人が乗って動かすような仕組みじゃない! 戦うときは思い切りだ!」
「「「はい!」」」
クロノ君の言葉を聞いて、全員で構える。ロボットは一体だけではなく、あちらこちたから何体も集まってきているようだった。
「くっ。どうやら取り込まれたのはこいつらも一緒みたいだな・・・」
ロボットに攻撃しながらクロノ君が冷静な分析をする。私は気づかなかったが、クロノ君は突入の中継にこのロボット達が映り込んでいたのを確認しているらしい。
これが自律的に思考する相手であれば、急激な環境の変化に混乱を起こし、冷静さを欠いたりするものだが、彼らロボットにはそんなことを期待するだけ無駄な気がする。
「場所は変わったが、僕達のやることは変わらない。事件の主犯、プレシア・テスタロッサの逮捕を最優先に行動すること。いいな!」
「「「はい!」」」
二人一組で役割を分担する。
与えられた役目を全うするために、私はレイジングハートを握りしめた。
side out.
たとえ時を越えることができたとして、君を愛することができるだろうか。
ほんとうの意味で、君を守ることが僕にできるだろうか。
僕の心を映し出す、白銀の空を見て考えてみよう。
今の僕が、君のために何ができるのかを。
「・・・・・・小田●正だね」
「オダ・・・?」
「そこのナルシストが詠っていた詩を書いたアーティストだよ」
本来はもう少し短い文言で構成されているんだけどね。と、彼女は幼い少女に説明する。詩なんて自由に詠えばいいと思うのだが、何か彼女の琴線に触れてしまったのだろうか、遠回しに遠慮なく僕のことをdisってくる。
長い付き合いでもないが、それなりに付き合いはあるし、誰よりも僕のことを知っていて、誰より僕が知り尽くしている彼女だからこそ、対してダメージにはなりはしない。
「体の調子はどうだい? アリシア・テスタロッサ」
「・・・・・・バッチリじゃないけど、元気になりました!」
そう言って、その場で軽く飛び跳ねるアリシア。完全回復とまではいかないにしろ、大分体機能が回復したことを体一杯使って示してくる。
「そうか。それはよかった。もしも何かしらの不調があったらすぐに言うんだ。なにしろ初めてのことだからね。人を生き返らせるなんて」
「はじめて・・・」
「気にする必要はないよ。そいつの場合、
吃驚した様子のアリシアに、彼女はケラケラと笑いながら声をかける。その気楽な調子に、空気が緩和する。死者蘇生や時間遡行を何でもないことのように笑い飛ばすことができるのは、僕と彼女くらいなものだ。
「・・・さて、と。ついさっき死より蘇ったアリシアに、今の状況を説明するからよく聞いてくれ。聞き逃しても、補講を受けさせている余裕はないからな」
「はい」
「今現在、起こっている事件はコア・・・じゃない。ジュエルシードを中心とした、魔法少女ものにありがちな二つの勢力のぶつかり合いだ。もし魔法少女アニメを見たことがあれば、現在の状況はまさに王道的な展開ともいえる。魔法世界の人は見たことがないかもしれないけどね。
「そして、今回の事件の始まりとも言える要因は二つある。ユーノ・スクライアがロストロギア、ジュエルシードを遺跡で掘り当ててしまったこと。もう一つが魔力駆動炉の暴走事故とそれに伴う研究所周辺の空気汚染だ。
「そう、君が窒息死してしまった事故のことだ。と、事実を言っているだけだから君に原因があるわけじゃあないから、気にしないでいい。むしろ堂々と『私は悪くない』と言い切ってくれ。君に一切の非がないことは、誰の目からも明らかな事実だからね。
「それならば君の母親、プレシアが悪いのか──と、一口で言ってもこうなるまでに至ったのには大なり小なり複雑な理由があると思う。愛する一人娘が事故とはいえ死んでしまった。その原因は自分の携わる研究だった。地球の住人でも己の過去を嘆き、苦しみ、それでも最終的には弔って、それでおしまいだっただろう。
「しかし、プレシア・テスタロッサは魔法世界の住人だ。僕達からすれば、魔法は奇跡の象徴とも言えるけれど、彼女達にとってそれは当たり前にあるものだろう。しかし、それでも魔法世界にはレギオンの伝説やそれを肯定するかのようなロストロギアが遥か未来まで残っていた。
「だからプレシアは、伝説や奇跡に縋った。愛娘であるアリシアが、生き返るかもしれないという可能性に。様々な手段を調査し実行する中で、君の妹とも呼べる存在が生まれた。正確に言えば、記憶転写クローンというらしいけれど。僕は君の妹だと思う。君にとってもそうだろう?
「君と同じ血の流れた妹。名前をフェイト。だけど、別の命として誕生した少女は親の求める娘と同一であることを強要され、そして捨てられた。利き手が違う、資質があった。プレシアはそれに耐えきることができなかった。受け入れることができなかったんだ。
「だから、別の名前──クローンプロジェクトの名称を付けて、アリシアの記憶を消した。少女を使い勝手がいい娘として扱った。どうしたんだい、拳を握り締めて。プレシアは少女に鞭を打ち、ジュエルシードというロストロギアを集めさせようとした。
「何故かって? プレシアの願い──悲願とも言える想いを叶えるためだよ。・・・とは言っても、ジュエルシードに備わった「中途半端に願いを叶える機能」に頼るためじゃあない。彼女はそれを手段として扱い、アルハザードと呼ばれる伝説に辿り着こうとしたらしい。
「時を操る魔法や、死者蘇生の秘術があるとされた。理想郷ともいうべき場所へ。・・・・・・そうだ。プレシアはもう一度、君と過ごすために今回の事件を引き起こした。とはいえ、さっき言った通り君が気負う必要はない。魔法の呪文は『私は悪くない』だ。いいね?
「プレシアがどうなるかって? さあ、少なくとも事件が終わった後も今まで通り。とはいかないだろうね。既に魔法世界での犯罪者であるし、捕まってしまえばどのような刑を迎えるのか見当もつかない。なにせ僕は魔法世界には詳しくない身でね。
「大前提として話しておくけれど、僕はプレシアを助けるつもりは最初からない。彼女が僕に手を貸せというのならば、ある程度の援助はするつもりではあるけれど。結末は全てプレシア次第だ。例えアリシア・テスタロッサが介入したところで、どうなるか分からない。
「それに君は、魔導師達の戦闘に介入──この場合乱入か。乱入できる程の戦闘技能を持っているわけじゃあない。特筆すべき能力も、知識もないただの凡人だ。そして生き返ったばかりの万全、絶好調とは言い難い、その身体、体躯で、何ができるんだい?
「『例えそうだとしても、やらない理由になりはしない』か・・・。どうやら、君には魔導師として戦うための魔法資質はないようだけど、魔法少女として立つための素質が立派にあったようだね。ああ、気に入ったよ、アリシア。僕にできる範囲で力を貸そう。
「君にできることは限られているかもしれない。母親のように知識と魔力を全開にした戦闘は到底無理だろうけれど、世界には細かく分類してしまえば、数え切れないほどの戦い方が存在しているからね。何かしら手はあるさ。
「・・・・・・なるほど。じゃあそれでいこうか」
少女のアイディアに乗っかる形で、僕は頷いた。