我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:戻ってきたいつも通り


010

今では慣れた、地球にある如月邸での朝。

 

古代日本の寝殿造りである六条院を模した邸宅の一室。和室ではなく洋室で作られた僕の部屋は、長年過ごし続けてもう見慣れたものだが、今日の朝は慣れたいつも、とはまた違ったものだった。

 

まどろみの中、朝食のいい匂いがするまで、布団に包まったまま待とうとしていた時、僕の視界が急激に左右に揺さぶられた。

 

 

「なっ、なななっ?!」

 

 

何だと発音しようにも、あまりにも慌てすぎて舌が回らず、情けなくも吃音しか出てこなかった。

 

何が起きたのかは、意外と早く判明した。

 

 

「兄ちゃん、朝だぞこらー!」

 

「いい加減起きないと駄目だよー! あ、これはあくまで一般的な見方で、わたしとしては起きなくてもそれはそれで・・・ウフフフ」

 

 

降り下ろされた健脚を躱し、僕はベッドから海老のように跳ね上がった。天井付近で体勢を整え、それはもう見事に十点満点の着地をした。

 

 

「兄ちゃん、いつの間にそんなことできるようになったんだ!? やっぱり遠いぜ!」

 

「あ~あ。起きちゃった。起きなかったらわたしのスペシャルなあれが発動したのに」

 

「お前達は僕をどうしたいんだよ!」

 

 

わんぱくな妹だなぁ。はっはっは。なんていうとでも思ったのか。

 

 

「お兄ちゃん。おはよう」

 

「お、おう。おはよう」

 

「兄ちゃん! 朝ごはん食べたら組手しようぜ!」

 

「いや、いいけど。お前等この状況に何の疑問も抱かねぇのかよ!」

 

 

まったくもって懐かしいやりとりだった。

 

それもそのはずだろう。昨日までは、こいつらはいなかったんだから。

 

昨日、この喧しい妹達は生き返った。生き返った・・・というよりは蘇生した・・・と言った方が正しいのかもしれない。

 

昨日、彼女達の自室を再現した部屋に置いてきたとはいえ、まさかあの頃と同じように目覚ましにくるとは予想してなかった。普通、自らの置かれた状況が理解できず、混乱してしまうと思うが、こいつらにはその常識は通用しないらしい。

 

 

「何か聞いてほしいの?」

 

「え、あ・・・いや」

 

「兄ちゃん。あたしたちから言えることはひとつだぜ」

 

「そうだよ」

 

「「ありがとう。お兄ちゃん」」

 

 

思わず、本当に情けなくも、泣きそうになった。

 

くそ。妹に泣かされるとは。僕も色々まだまだなんだと思い知らされた。

 

 

「お兄ちゃん。する?」

 

「しない。お前は実の兄に対してもう少し何かをもて」

 

「愛が足りない?」

 

「お前のそれは性愛だろうに。今すぐ一般的な家族愛にシフトチェンジしろ」

 

「わたし、世間体とか気にしないの」

 

「格好いい!」

 

 

堂々とした覚悟が特に!

 

・・・・・・でも、それとこれとは話が別だ。

 

 

「・・・・・・本当に、聞きたいことはないんだな?」

 

「もー。そんなに聞いてほしいなら聞いてあげるよ。あれから何があったの?」

 

「聞いてほしそうな態度をとったことは認めるよ。色々・・・本当に色々あったんだよ」

 

「へぇー。じゃあ、この家は何? わたし達が住んでた家じゃないよね?」

 

「あっ! 本当だ!」

 

「気付いてなかったのか・・・」

 

「流石。それでこそ火憐ちゃんだよ」

 

 

いつまでも部屋にいてもどうしようもないので、一度廊下に出てから説明を始める。

 

 

「・・・・・・えっと、だな。この家は日本の海鳴市にあって、もの凄く広い敷地面積を持ってる。更に言えばこの家を所有する者はこの惑星──地球の管理者で、日本の実権を実質的に握ってて・・・・・・えっと、その・・・"如月"っていうんだ」

 

「うーん? よく分からないんだけど。ここはお兄ちゃんの家なの?」

 

「そ、そうなんだよ。僕達の家なんだよ」

 

「んー。待ってお兄ちゃん。聞き捨てならないことが聞こえてきたよ。地球? ついにお兄ちゃんボケたのかな? わたし達が住んでる星は重巡じゃなくて戦艦だってば」

 

「重巡チ級と戦艦レ級・・・・・・って言って誰が分かるんだよ! それに、僕は間違ったことは言ってない。ここは太陽系第三番惑星地球。僕達が住んでいた星は実質的に滅んだろ。覚えてないか?」

 

 

月火と火憐にそう問いかけ──って、火憐の奴は何処に行ったんだ? まったく・・・・・・じっとしていられない妹だなぁ。あんな自由奔放な妹、あいつ等に見られたらなんて言われるか・・・。

 

いや、待て。火憐は儽球随一の戦闘能力の持ち主だ。力の火憐・技の奏音と呼ばれたことがあったようななかったような・・・。もしかしたら戦闘狂共と気が合うかもしれないな。

 

あっ。

 

待った待った。

 

火憐がもし口を滑らせて、あいつ等に「兄ちゃんの方がずっと強い」なんて言ってみろ。これまでの戦闘訓練でずっと、抜けるだけの手を抜いてきたことがバレてしまうじゃないか。

 

もちろん本気を出せない理由もあるにはあったが、そんなことあいつ等に関係ないだろう。

 

確か、火憐の攻撃力はサーヴァントに勝るとも劣らないはずだ。若干、思い出補正がかかっている可能性もあるかもしれないが、かなり強かったはずだ。

 

僕の実力が上がっていない保証もないから、過剰評価かもしれないが。もし火憐が英雄達と互角に戦える実力も保有していてみろ。そんな火憐と互角以上に戦えていた僕は、英霊達にとっての良い標的になるじゃあないか。

 

・・・・・・まあ、先のことは追々考えれば良いか。今は月火だ。

 

 

「・・・うん。思いだしたよお兄ちゃん。あの日・・・目の前で何もかもが吹き飛んで、わたしだけが残ったこと。お兄ちゃんに沢山あたったこと。お兄ちゃんはなにも悪くないのに、火憐ちゃんが消えて、何もかもが腹立たしくて、何とかしろって、お兄ちゃんにいっぱい暴言吐いたのも思い出したよ」

 

「ああ。それは気にしてない。暴言なんて、ひたぎに沢山吐かれたからな」

 

「偽の恋人って最後まで言い張ってた戦場ヶ原さんだね?」

 

「ああ。脅しで付き合うことになってしまった戦場ヶ原さんだ」

 

「そっかー。ここ、儽球じゃないんだ」

 

 

目が覚めたら別の場所・・・というのはやはり寂しさを感じさせるのかもしれない。

 

ちょっと茶化してみよう。

 

 

「ああ。だから色々違って面白いぞ? 列車の最高時速がなんと五百キロ」

 

「ええ!? 遅っ!」

 

「まあ、宇宙開発も始まってないみたいだからな」

 

「え、じゃあ飛行機も・・・・・・?」

 

「千キロ程度だな」

 

「七分の一!?」

 

「そう考えると、重力錨の発明は偉大だったな」

 

「っていうか、というか。お兄ちゃん。いつの間に管理者になったの?」

 

 

そう聞かれてみれば、確かに気になるかもしれないな。なら答えておこう。今の僕はイエスマンで解説キャラだ。聞かれたことには素直に答えなければ役不足になる。

 

 

「経緯は面倒だから省くが、昔にお前達が僕に言ったこと、覚えてるか?」

 

「えっと・・・、どれだろう?」

 

「・・・・・・私達を看取るまで死ぬな。ってやつ」

 

「ああ。それなら言ったね」

 

「ほら、あの炅のせいで火憐も月火も看取れなかったって言われれば、看取ることが出来なかっただろう? 僕は死ぬことが出来なくなったんだ」

 

「ええ!?」

 

「その後、果てない宇宙をこの星を見つけるまで彷徨い続けた。そして、この星の土地に降りて、何故か神様になって、屋敷を建てたんだよ。そうやって長い間生きていたら、いつの間にか管理人──国の王様みたいになってた」

 

「ほえー。流石お兄ちゃんというべきか」

 

 

端的すぎる説明だった気もしなくもないが、流石月火。僕の妹だ。あっさりと信じやがった。っていうか今日の月火は真面目だな。いつもなら、というか以前ならもっと愛欲の強い少女だった気がするのだけれど。

 

いや、真面目な話の最中はキリリとできるいいこだったような気もする。もう昔のことだ。いくら昨日のように思い出せるといっても、実際は昨日ではないし、数え切れない程の時間が経過した上でのことだから、僕の記憶も摩耗してしまったものだ。

 

まあ、あの惑星での青春時代は、意識していなかったら環境のせいで、すぐに阿良々木暦のようになってしまうのもまた困りごとであり、一興でもあったが、その話はまたいつかということで。

 

 

「じゃあ、わたし達はお兄ちゃんのお陰で生き返ったんだね?」

 

「・・・・・・まあ、そういうことになるな」

 

「じゃあ、ちゃんと言わなきゃね」

 

 

何をだろうか。そう思ったとき、月火は笑顔で僕の方へ振りかえって。

 

 

「ありがとう、お兄ちゃん。大好きだよ」

 

「僕もだよ。月火ちゃん」

 

「よしっ! 言質はとったよお兄ちゃん! さあ、もっこり一発だ!」

 

「しまった!」

 

 

何がしまったなのか。もう僕にも分からないけれど、このよく分からないノリが僕達である証拠だから、こうあるべきだし、何も間違っていないので特に突っ込まない。ただし、その変態の手からは逃れさせてもらう!

 

っていうか、お前は女の子だろうが!

 

月火の魔の手から逃れながら、廊下をバタバタと走っていると、突然二つの影が飛び出してきた。

 

 

「ちょっと待って!!」

 

「お兄ちゃんに手出しはさせないわ!」

 

「・・・・・・お兄ちゃん。どうして、妹が増えているの?」

 

「月火、妹が増えることは親が頑張らない限りありえない。正確に言えば妹分だ」

 

「そうだとしても“お兄ちゃん”なんて呼ばせてる時点でアウトだよ!」

 

 

むむむ。言い返せない。決して強要しているわけではないが、訂正していない時点で、疑いようのない事実だった。いや、言い返す必要なんか、これっぽっちもなかったな。

 

 

「やっぱりお兄ちゃんはロリコンだったんだね! タレコミもあったし!」

 

「タレコミ!? 誰から! どんな!?」

 

「『小学生のメリハリボディ』」

 

「ん?」

 

「『かわいいなぁ!かわいいなぁ!もっと触らせろ!もっと抱きつかせろ!パンツ見ちゃうぞ!このこのこの』」

 

「えっ?」

 

「『暴れるな! パンツが脱がせにくいだろうが!』」

 

 

ああああああああああああああ──

 

 

「心当たりがあるようですね・・・」

 

「あは、あははは、何を言っているのか、さっぱりわからないなぁ」

 

「いや、お兄ちゃんじゃん」

 

「八九寺さんにセクハラしてるじゃん」

 

 

イリヤ達からいらない援護射撃が飛んでくる。いや、これは月火に対する援護射撃だな・・・?

 

そして突然、月火は包丁を取り出して僕に向ける。

 

え、包丁?

 

 

「お兄ちゃんが変態ストーカー触り魔ロリコン野郎だったなんて! まさか、レ○プまで犯してたなんて信じられない!」

 

「してねぇよ! 仲の良い友達とのスキンシップを過大解釈してるだろ! あと、傷害罪を犯そうとしている妹に言われたくねえよ!」

 

「慎ましい胸が好きだって公言してたけど、あれってやっぱりロリが好きって意味だったんだ!」

 

「違ぇよ! 同年代にもいるだろうが! 良い加減にしろよ。何度訂正させるんだこの言葉!」

 

「わたしと火憐ちゃんというものがありながら、他の人にセクハラするなんて!」

 

「実の妹がさらっとなにを言うんだ!」

 

 

とりあえず包丁を離せ! どっから持ってきた!

 

 

「当時はあれだけ愛し合ったのに!」

 

「厄介なヤンデレストーカーか己は! ありもしない過去を捏造するな!」

 

「Cは済ませたでしょ!?」

 

「いつの間に!?」

 

 

こ、こここ、心当たりがないんだが!?

 

 

「お兄ちゃんが寝てる時だけど」

 

「睡姦逆レイ○!?」

 

 

寝てる時なんて毎日あることだし、一体いつ、僕は童貞を卒業してしまっていたのだろう。

 

 

「嘘だよ」

 

「嘘かよ! なんのための嘘なんだよ!」

 

「でも、Aはしたでしょ? しかもお兄ちゃんの方から。わたしが寝てる時に突然」

 

「あれは様々な事情があったんだって・・・。つか、あの時お前、怒るどころか襲ってきたろ」

 

「夜這いされたと思ったもん」

 

 

なぜこいつに既成事実を与えようとしていたのか・・・。本当に当時の僕はどうかしていたな。

 

 

「えぇ・・・。お兄ちゃん実の妹にキスしたの・・・?」

 

「サイッテー。実の妹に手を出しておいて、どうして義理の妹には手を出さないのよ!」

 

「最低って・・・。って待て待て。誰が義理の妹だコラ! お前等は妹分であって、戸籍上の妹とは訳が違うだろ!」

 

 

実のでも義理でもどちらにせよ戸籍上の妹。妹分は絆の繋がりはあれど、血の繋がりも戸籍という国からの証明もない。酷い言い方をすれば、妹を名乗る不審者。だろうか。

 

 

「ふーん。へぇー。ほー」

 

「・・・・・・なんだ、月火。その反応は」

 

 

少し、嫌な予感がする。

 

身近な人間が意味深な態度をとるときは特に。碌な事にならないのが経験則で分かっている。

 

 

「お兄ちゃん、わたし達以外に()()()()()()したことないんだ?」

 

「えっ・・・。いや、違っ」

 

「そっかー。そっかそっかー」

 

「確かに、あの炅以前と以降の出会いで、扱いの差があるのは認める! だけどそれには歴とした理由があって──」

 

「お兄ちゃんはわたしのモノというわけだね!」

 

「一体いつ僕がお前の物になった!? ・・・・・・って、その手を下ろせ!」

 

 

月火が両手をわきわきとさせながら迫ってくる。

 

マズい・・・。このままここに居たら妹に性的な意味で食われる!

 

妹に対し危機感を抱いた僕は、その感に従い瞬間的に反転し、クラウチングスタートをするためにしゃがむ時間も惜しいと、そのままの体勢からロケットスタートをして廊下を駆けた。

 

そのまま後ろを振り返ることなく、家の中を縦横無尽に駆け抜けて、暫くして後ろを振り返れば、月火は追い駆けてきていなかった。

 

ひとまず逃げ切った。そう言っていいだろう。次月火に接触する時は、また暫く時間を置かないと大変なことになる。

 

僕の貞操がデンジャラス。

 

盛り喰らうツキヒジョーへ変貌した小さい方の妹の相手なんか、僕に務まるはずもない。無謀にも挑んでしまえば、性的に喰われてGAMEOVERだ。だからこそそんなことが僕にできるはずもなく、僕はただ「もどり玉」を用いてキャンプに戻るしかできなかった。

 

G級に挑むのは早すぎるのか。

 

本音を言ってしまえば、久しぶりに会った妹にどう対応して良いか距離を測っている最中なのだ。事実だけを告げるのなら、つい昨日取り戻した魂と精神が憶えていた記憶が教えてくれているのだが、それは既に"楓"のものになっている。

 

如月奏音が切り離した分身が持っていた、いわば名前の異なる別フォルダになってしまっている。同名のフォルダに戻ってきても、そこには如月奏音が新たに過ごした年月が蓄積されていて、ついこの間のようにも、超久しぶりのようにも感じられて、どう接して良いのか分からないのだ。

 

まあ、長々と言い訳していてもしょうがないので、朝の用意と呼ばれる一連の行動──顔を洗い、歯を磨いて、服を着替えて、身支度を済ませて、朝食の場に向かう。

 

今日は屋敷ではなく天文台の食堂の方へ向かう。屋敷の台所──今はキッチンか、ではよく自分で料理をしたりもするのだが、本日は朝からドタバタしたせいで時間がなく既に空腹なので、食堂で注文する手軽さを求めにいく。

 

決して自炊が面倒な訳ではない。

 

 

「えっみやーん! お腹すいたにゃー・・・・・・?」

 

 

意気揚々と、食堂に入った僕を待ち受けていたのは、衝撃的な光景だった。食堂に並ぶテーブルの一角に、色とりどりの円柱が立ち並んでいた。っていうか、皿の山だった。

 

何だ、あれ。

 

家にあんな大食いはいただろうか。

 

過剰表現かもしれないが、神原の家の本くらいは積み重なってそうだ。

 

 

「あら? どうかしました?」

 

「いや、あんなに食べるのいたかなって・・・」

 

「あぁ・・・。あれは彼女が彼らに挑んでだ勝負の一つ。だから、放っておいてもいいはずですよ」

 

「彼女? っていうか、敬語? もしかしてお前今日、体調でも悪いのか? いつもの罵倒はどこいったんだ。調子が悪いなら休めよ?」

 

「罵倒?」

 

「おいおい。本格的にどうしたんだよ、いつものお前なら僕を見かけたとたん、『こんなところに薄汚いゴミがあると思ったら如月くんじゃないの』くらいは言ってくるだろ、ひたぎ・・・・・・ぁ」

 

 

隣を見れば、そこにいたのは戦場ヶ原ひたぎではなく、青色の豪奢な和服を着た玉藻の前がいた。

 

 

「あ、いや。間違えた。ごめん、タマモ」

 

「いえいえ。英霊の中にも数人、声色の似ている人物はいますから、それが生者も含めるのならば一体何人同じ声がいることやら分かりません。ですので、お気になさらず」

 

 

にこやかに笑うタマモに焦りもどこかへ言ってしまった。ほう、と一息ついたところでタマモが。

 

 

「ところで。貴方様を日常的に罵倒した挙句、ゴミと間違える不届き者はどこのドイツです?」

 

 

オドロオドロしいお札を数枚ほど手に持って、笑って問いかけてきた。あぁ、改めて思う。笑顔は威嚇行動のひとつなんじゃないかって。

 

 

「あぁ、気にする必要はないぞタマモ。ソイツ、僕の元恋人・元カノだし。当時から付き合ってたから、いわば恋人同士の軽いスキンシップみたいなものなんだよ」

 

「例えそうだとしても、貴方様がゴミだなんてそんな言われようをしているのを聞くと悲しまれる方がいらっしゃいます。原因は排・・・お掃除しておきませんと」

 

 

排除って言おうとしたよな。言い直しても掃除って・・・、どう捉えても悪い意味にしかならない。

 

 

「その辺りにしておけ」

 

「あ、衛宮ん」

 

「その巫山戯た呼び名は今後使わないように。さて、奏音。朝食だろう、何を食べる?」

 

「えっと・・・。今日のオススメ定食お願いできる?」

 

 

メニューを見るためにカウンターに移動して、そのまま中に居るみんなにそう注文する。すると、僕の声に耳聡く反応した士郎が勢いよく降り返った。

 

 

「お、兄さん。今日はこっちなのか?」

 

「シロウ、おま・・・何その反応速度・・・怖っ・・・」

 

「は? 普通だろ」

 

「普通かぁ・・・? まあ、いいか。ところで・・・・・・あれ、なに?」

 

 

食事が出来る間の待ち時間潰しのついでに、わざわざ調理の手を止めてこっちに来た士郎のために話を振る。

 

 

「あれ? ・・・ああ。あれは確かお客様だったかな。さっきまでサーヴァント達と戦闘してたんだけど・・・今はああやって食事対決中・・・。貯蓄から出すのは難しそうだったから兄さんの蒐集書から借りてるよ」

 

「・・・いや、返さなくて良いよ。そんな全体の一パーセントにも満たないような数」

 

「奏音の知り合いだろう? 彼女に言い聞かせておいてくれないか? 水道から直接水を飲むな、汗も拭かずに廊下を歩き回るなと」

 

「汗!? あの水全部汗だったのか!?」

 

 

・・・その驚き方、ものすごく心当たりがある。

 

え、アイツ、行方不明になったと思ったらこんなところで何やってんの?

 

正直に言って、今あそこに関わりに行くのはある種の自殺行為に等しいだろうが、エミヤから直接頼まれてしまったのだから、声をかけに行くぐらいはしないと駄目だろう。

 

もしかしたら、万が一・・・いや、億が一の可能性でアイツじゃない可能性もあるので、恐る恐る、皿の山のテーブルの向こう側に回り込む。

 

そこにいたのは、先程僕の部屋からいなくなった、大きい方の妹、火憐だった。

 

 

「・・・・・・何してんだ、お前」

 

「・・・ん? おぉ! 兄ちゃんじゃないか! どうしたんだこんなところで」

 

「それはこっちのセリフだよ馬鹿。一体全体何やってんだ」

 

「勝負だ!」

 

「食べ物で遊ぶんじゃありません!」

 

 

怒るポイントが全く違うことは分っていたが、一回言っておかないといけない気がしたのだ。

 

 

「安心しろよ兄ちゃん。この程度の量、全部食べきってみせるから」

 

「お前そんな大食いキャラじゃなかっただろ。本当に食い切れるのか?」

 

「ん・・・? ああ。なんか目が覚めてから妙にお腹が減っててさ」

 

「それだけの理由で大食いにチャレンジするなよ馬鹿か」

 

 

やっぱり単純な妹である。お腹が異常なほど減ってるからって、異常なほど食える訳ないだろう。

 

少なくとも普通の人は食べられない。

 

 

「・・・・・・っていうか、傷だらけじゃないか。一体何があったんだ」

 

「まったく、兄ちゃんは心配性だな。全部掠り傷だから安心しろよ。所詮模擬戦だし、兄ちゃんの使う"時間停止"とか"方向転換"とかに比べたら、「技より力!」って感じがして楽しかったぜ」

 

 

楽しんだもんがちとは言うが、まさにこいつのためにあるような言葉だな・・・。

 

 

「楽しかったのは良いが、怪我してるのは減点だな。僕は兄として妹の将来が心配だよ」

 

「ほえ・・・ほえぇぇえええ!? お兄ちゃん、妹さんいたの!?」

 

「うおっ。び、吃驚した・・・。って、僕にだって妹の一人や二人、いるに決まってるだろ! 年下女子の扱いが上手い男子は大体妹持ちだ!」

 

 

偏見である。

 

しかし、僕の女子との付き合い方は大体が、幼馴染みと妹との生活の中で培われたスキルなので、僕に関して言えば間違いではない。

 

というか、さくらのやつ、流石に失礼じゃないか? 僕に妹がいただけでそんなに大声上げて驚くほどだろうか。僕にだってお前達と出会う前に家族がいるのは当たり前だろうに。ん。もしかして攻略したはずのない少女が好意を寄せているのは対妹スキル(これ)のせいなんじゃ。

 

まあ、根拠のない理論は誰も信じないから、提唱はしないけれど。頭の片隅にでも置いておこう。

 

 

「兄ちゃん兄ちゃん。兄ちゃんは妹だからじゃなくて、誰にだって優しいだろ?」

 

「うーん。何かそんな言葉を以前、誰かさんに言われたような気もする」

 

「事実だから言われてもしょーがねーんじゃねーの?」

 

「まあ、そう言われたらそうなんだが」

 

「でもやっぱり兄ちゃんはスゲーや。あの人達に完勝できるんだろ?」

 

 

鑑賞? いや、"に"という接続詞がつくんだから干渉かなぁ・・・。

 

もしかして、いや、まさか・・・。

 

 

「もしかしてお前、僕があいつ等に無傷で勝てると思ってる?」

 

「当たり前だろ?」

 

「何も当たり前じゃねーよ! お前は自分の兄を過大評価しすぎだ!」

 

 

大きくなりすぎてマクロスに及びそうな期待である。

 

 

「なら兄ちゃん。久しぶりに闘ろうぜ!」

 

「・・・・・・いや、別に良いけどさ」

 

「よし。じゃあ、さっきの人たちに頼んでくるぜ!」

 

「何を・・・って、おいちょっと待て! この料理の山はどうする気だ!?」

 

「おっと、まずいまずい。完食してからだな!」

 

「・・・・・・ああ、そうしてくれ」

 

 

なんか、朝からもう疲れたよ。


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