我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:終演と開演の狼煙


012

立香side

 

私の名前は如月立香。肉体年齢は花の女子高生ではあるが、実際に過ごした年月は、既に三桁では収まらないかもしれない。

 

そんな私には兄がいる。私の兄、如月奏音は一言で言って変なやつである。

 

「私の兄は変だ」と、おおっぴらに言えば、兄妹関係は悪いのかと思われがちだが、私は兄のことが大好きだし、血の繋がりがないのであわよくば結婚したいと、思うくらいには兄に対して盲目的であることは認めようじゃあないか。

 

そして、そんな盲目的な私でも思う。兄は変人であると。

 

そもそも人じゃないのではないだろうかと、種族的な部分を疑えば、それが立証出来そうなくらいヒト科と異なる生物的行動が多すぎる。私達との出会いからして異常ではあった。突然、英霊でもないのに床に敷かれた魔法陣から突然現れたり、怪人二十面相でも無理であろう異性への完全変化をやってのけるし、伝説の英雄達と戦っても最終的に無傷で勝利したりするし。

 

神か悪魔か。

 

似たような存在だった。とは茶化すように言われたことがあったが、それを真に受けるくらいには兄はどこか掴めないというか、けっして手の届かない存在であるかのような気さえしてくるほど、普通じゃなかった。

 

普通じゃないと言えば、兄の戦い方も普通ではない。兄は『無制限の蒐集書』という名がつく本を持っている。その性能は本人でさえ分かっていないらしいけど、「入れたものを複製できる機能を持った際限のない倉庫」が一番わかりやすい説明らしい。

 

兄はそんな倉庫にしまい込んだお宝達の複製品を使って、英雄王とエミヤの戦い方を混ぜたような単純かつ派手な技を使うことが多い。白銀の波紋を背に背負い、無数の武器や破壊の権化を指一つで自在に操り、不死身の軍団が相手であっても蹂躙する。

 

それが、私の知る限りの兄の強さだった──そう、だったのだ。

 

確かに、兄はその派手な戦い方や肉体の頑丈さを活かしたパワープレイが目立つが、何も喧嘩慣れした一般人のような戦い方しかできないわけで無いことは知っていた。兄自身が「自分は合気道を主流にしたオリジナル武道を極めている」と、口にしていたから。

 

しかし、兄自身がその武道の技を滅多に使わない事や、大っぴらにしないこともあって、対人最強と豪語する割には、英雄達との戦いでは使用できない位なんだろう。とは思っていた。

 

けれど。

 

 

「やっぱり兄ちゃんは強いな! あれからも技の練習とかしてたのか?」

 

「ここ数百年はサボってたよ。試す時間もなかったしな」

 

「ん? じゃあ普段はどうやって戦ってるんだ?」

 

「まるでいつも戦ってるみたいに言うな。僕はお前みたいに、戦ってばっかりの戦闘狂じゃない。でもまあ戦法なら、ここ最近の僕は基本的に固定砲台してたな」

 

「コテイホーダイ? なんだそりゃ? どれだけかけても定額料金って奴か?」

 

「それは携帯電話会社の契約プランだ!」

 

 

何度も何度も見たことのある英雄同士の高速戦闘。それに勝るとも劣らない速度で打ち合いながら行われる、兄妹の世間話・・・というか、漫才にしか見えない掛け合いはなんなんだろう。

 

如月火憐と名乗った、兄の血縁者。兄自身も認めた実際の妹。彼女の攻撃力は英雄達には遠く及ばなくとも、召還時に弱体化してしまうサーヴァントと、同じくらいには強いらしい。つまり、床を破壊する攻撃力や、肉薄する瞬発力は彼女自身の肉体が持つスペックということになる。

 

兄は定期的に英雄達と戦っていたから、その速度を目で追えていたとしても、何もおかしくはないけれど、あの速度・威力の攻撃を素手や素足で対処する兄は一体何なんだろう。

 

隣でエミヤが「バカな・・・ッ」とか言ってる。

 

きっと何か驚くようなことがあったんだろう。

 

 

「あの子、変身した私達よりも強いらしいよ」

 

「えっ・・・素で?」

 

「うん」

 

 

恐ろしい──というか、凄まじい。あの兄妹は、二人して素手の戦闘能力が英霊並みとは、それはもはや人じゃないのではなかろうか。兄の言葉を信じるのなら、あの二人は私達から見て異星人ということになるけれど、住んでいた星が異なるくらいで、これほどの種族差が出るものだろうか。

 

もしかしたら、私達は勘違いをしていたのかもしれない。あの蒐集書を使っているから最強。なのではなく、本当の意味で兄は元々対人戦最強の存在だったのかもしれない。もし、複数人を相手にした場合でもほぼ同様の力が発揮できるとしたら。

 

私達は、蒐集物という枷をつけて戦う兄しか知らなかったのだとしたら・・・。

 

兄のポテンシャルは今、あの妹さんによって私達の目の前へ引きずり出されようとしていた。

 

 

「兄ちゃんは物知りだな!」

 

「お前が無知なんだよ」

 

「鞭?」

 

「振り回す方じゃないぞ、知識がないほうだ」

 

「へえ。兄ちゃん博識すぎんだろ!」

 

「お前が単純バカなんだよ!」

 

 

少なくとも、あのレベルの戦闘中に交わされるべき世間話ではないと思う。

 

それでも彼らはその軽い世間話ともコントとも呼べる掛け合いを続けながら、私達には理解の追い付かないほどの高レベルの技のぶつかり合いを行っていた。

 

 

「力が強い──結構。動きが速い──結構。だがそれじゃあ僕には届かない。言ったよな?」

 

「届かせてみせる!」

 

「相変わらず主人公属性持ちだな。カッケーよ、お前。でも、お前の力じゃ僕の技に届かない」

 

 

何故か分かるか? と、兄は問う。

 

私達に聞いているわけではないのは分かっているが、思わず考えてしまうが、理解できる領域の話じゃないので思考はエラーをはき出している。

 

そして、兄は相変わらずのとんでも理論で武装していた。

 

 

「お前が僕の妹だからだよ。兄に勝る妹などこの世に一人も存在しない!」

 

「兄ちゃん!!」

 

「それに、ピョンピョン跳ねる空手家に負ける気がしないってのもある。空手家ってのはどっしりと構えてなんぼだろうが。浮かされて喜んでる時点でお前は三流だよ」

 

「浮かんだ状態でも戦えるようにあたしは進化してんだ!」

 

「無駄無駄無駄ァ!」

 

 

アニメや漫画なんかでよく見る派手な戦闘でありながら、その実態はそんな単純なものではない。どう見てもわかりやすい大振りなのに、そこには何十にも意味があって、英雄達の暴力を見慣れた私には全く分からない駆け引きがあの雑談の最中にも交わされていた。

 

 

「ありゃまさに技だな」

 

「ああ。しかも小手先の技じゃない。極限までに研ぎ澄まされた一つの到達点。一種の芸術品だ」

 

「・・・・・・見えない」

 

 

右に同じく。

 

あれは本当に私の知る兄なのだろうか。

 

 

「ああ──やっぱり、お前には七割で十分だ」

 

「兄ちゃ──」

 

 

決着は着いた。

 

振るわれた兄の腕が、一瞬雷の鞭に見えた途端。妹さんに直撃して、彼女は地に沈められた。

 

 

「えぇ・・・?」

 

「少しはやつを理解したつもりでいたが──」

 

「やはりコレクターは訳が分からないな」

 

 

私の兄に常識は通用しないんだろう。

 

 

 

 

 

「ちょっとやりすぎたかな?」

 

 

七割で十分だと言っておきながら、瞬間的にではあるが八割の技"雷迅"を使ってしまった。まあ、一瞬だけだし。それでもとどめに使ったからアウトだろうか。

 

しばらくの間、火憐は立つことも出来ないだろう。なまじ気力だけで立てたとしても、背骨がねじ曲っているだろうから、ほとんど動き事も出来ないだろう。

 

大した汗もかいていないし、相変わらず火憐は単純だったな。

 

下手を打てば僕に妹殺しの不名誉な称号がつけられていたかもしれない。復活の際に火憐ちゃんも月火ちゃんも僕と似たような存在にしたから、この場で殺してしまったとしても、その後生き返るから厳密には殺人が適応されるのかも疑問だが──

 

──こんな事を考えているから、時折サイコパスなんて言われるんだろうな。

 

実際の結末として、気絶はしているけれど死んではいないし。妹にも容赦しない屑兄貴と思われるかもしれないな。それはそれで構わないか。

 

・・・でも、

 

 

「腕が疲れた・・・」

 

 

ビリビリする。一撃が重いんだよなぁアイツ・・・。

 

回復待つのが面倒だ。

 

波紋から撃ち出した二本の剣で両肩から先を切り飛ばした後、再生する。

 

 

「・・・よし」

 

 

腕の痺れは取れた。

 

周囲の人間が僕の行動にドン引きしているような気がするけれど、僕がおかしいんじゃなく、僕の生まれた惑星の常識がおかしいだけである。

 

流石に腕の痺れ程度ではやらないが、後遺症が残るかもしれない怪我の場合は、部位を取り除いて新しい肉体を生やした方が良いというのは、レギオン──儽球では常識である。

 

 

『・・・あー。カナタ君、楽しい兄妹喧嘩が終わったところで、お客さんだよ』

 

「・・・・・・客? 僕に? 分かった。すぐに行く」

 

『地下の応接室に向かってくれ』

 

「ああ」

 

 

周囲の観衆に解散指示が出されているのを聞き流しながら、体育館を後にする。

 

その時、火憐の元へ駆け寄る看護チームとすれ違ったから、アイツは大丈夫だろう。

 

腕を切り落としたせいで血に濡れた服を着替えながら、地下施設にある応接室に向かう。

 

地下と繰り返してはいるが、それが何を指すかと言えば如月邸の地下、つまりはカルデアのことを指しているのであって、今いるこの施設のことをさしている。ならば何故わざわざ"地下施設の"という枕詞をつけたのかと言えば、地上施設である如月邸にも応接室はあるからだった。

 

 

「ハロー?」

 

 

異国かぶれの挨拶をしながら応接室に入ればそこにいたのは見慣れたツインテールだった。

 

っていうか、なのはとフェイトだった。少し目線をずらせば、今回起きた事件の中心人物の二人、プレシアとアリシアも一緒にソファに座っていた。

 

あれ、なんでユーノはフェレットなんだい?

 

 

「やぁ、待たせたかな? 誰かを待たせるのは随分と久しぶりでね。勝手を忘れてる。何か忘れていても気にしないでくれよ」

 

「いえ。気にするだなんてとんでもない。こちらこそ、突然押し掛けて申し訳ありません」

 

 

彼女達が座るソファの向かいに腰掛けて、目の前になった彼女達の顔を見る。なのはやフェイトは何故か緊張していて、一方でアリシアはユルユルと──むしろ堂々とソファに腰かけていた。

 

そしてプレシアは、これ以上なく普通の格好をして座っていた。

 

 

()()()()()()、プレシア・テスタロッサ。如月奏音だ」

 

「・・・・・・。はじめまして、如月さん。プレシア・テスタロッサです」

 

「まずはようこそ、如月家へ。何かご用かな?」

 

 

察しが悪いとはよく言われてしまうので、邪推をする前に用件を聞いておこう。

 

魔法関連のことなら、僕は何も分からないんだけどね。

 

 

「昨日の事件で、多くのご迷惑をおかけしたことについての謝罪です。・・・それと、アリシアと・・・フェイトのことについて、お礼を言いにきました」

 

 

申し訳ございません。と、プレシアが頭を下げる。フェイトが何故か慌てていて、アリシアが当然とばかりに胸を張っている。

 

何があったんだ?

 

 

「それくらいのことなら、わざわざ病み上がりの──昨日の今日で僕のところを訪ねてくる必要はなかったんじゃないか? 時間が経てば、また彼らに僕は呼び出されていただろうからね」

 

「管理局には関知されないように、如月さんにお願いがあるの」

 

「願い? まあ、聞くだけ聞いてあげるよ。管理局の連中に聞かれたくないって事は、次元世界の管理局がしく法の関係かな?」

 

「ええ。フェイトとアリシアの未来(これから)を。如月さんにお願いしたいんです」

 

「人体複製に死者蘇生・・・・・・片棒担いだ僕が言うのもなんだけど、君のところの娘さん達はかなり複雑だね。管理局の良い餌だろう」

 

「ええ。私の身体のこと、アリシアのこと。既に色々お世話になっているのに、こんなことを頼むのは、失礼なのはわかっています。ですが、管理局には頼れない・・・・・・。如月さん。私の娘達を、どうかよろしくお願いします」

 

 

そう言って、プレシアは再度──先程よりも深く頭を下げた。フェイトがつられて同じように頭を下げて、アリシアは何が何やら分かっていなかった。

 

 

「・・・そうか。プレシア、お前死ぬ気だな?」

 

「え・・・?」

 

「覚悟は決めているわ。けど、自死はするつもりもないの」

 

「・・・母さん?」

 

「いい? よく聞いて、フェイト。私は裁判にかけられた後、あなた達を狙う人間によって死刑になるかもしれない。もしそうなったら、あなた達が危ない。だから裁判が終わるまでここにいて」

 

「お母さんは・・・戻ってこないの?」

 

「その可能性はあるだろうな。なにせ管理局は一応司法組織だ。犯罪者に対して一切のお咎めなしとはならないだろうさ」

 

 

アースラに乗っているハラオウン一派がどんな対応をしようとも、裁判になってしまえば管理局が定めた法には逆らえないだろう。ともすれば、プレシア・テスタロッサは死刑になり、アリシアとフェイトは実験動物にされる可能性が十分にあった。

 

それだけではない。最悪の、考えたくもない可能性として、プレシアを盾にして「娘達の出頭」を求めてくるかもしれない。それだけは、人の良識的にしないと信じたい。

 

 

「き、如月さん! フェイトちゃん達を──」

 

「──助けないよ。君達が勝手に助かるだけさ」

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