我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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副題:喫茶店での会合


002

「・・・えっと、どういうことですか?」

 

 

恐る恐るといった様子で訪ねてくるなのはに、軽く笑いが溢れそうになる。

 

・・・・・・そう言えば、プレシアとの対決──ジュエルシードの事件を解決する前と後では、なのはの僕に対する態度が大きく違うような気がするのは気のせいだろうか。

 

何処か余所余所しいというか、呑まれないように気を付けているような。まるで何かに抗っているようなそんな調子である。・・・まさか僕から、何か変なフェロモンでもでているのだろうか。

 

 

「じゃあ、少し例え話をしようか。君達が小説や参考書のような単行本を買った。するとその本は僕の蒐集書のように、文字がぎっしり書いてあるだろう」

 

「えっと。はい」

 

「うわっ。Mr.ドーナツまで蒐集してるんだ」

 

「本当にビッシリ書いてある・・・・・・」

 

 

フェイトとアリシア、なのはが興味津々といった様子で、蒐集書のページを開いてそこに書かれている文字を読んでいる。

 

ミッドチルダなどで使われている言語は、日本人からすれば"英語"や"ドイツ語"などの地球にある異国語の組み合わせで出来ている。あまりに方言が強かったりすれば聞き取れなかったりするかもしれないが、単語だけで見れば地球人にも読むことが出来るだろう。

 

もっとも、その蒐集書に書かれている文字は日ノ本語かブリタニカ語なので、ミッドチルダ語とは微妙に異なっている可能性は捨てきれない。

 

そんな大量の文字列を目で追っていたアリシアはふと顔を上げて、

 

 

「お兄さんってさ、暇人なの?」

 

 

そう言った。

 

思わず、失礼な。と返す。

 

 

「さて。今でこそその本は追い切れないほどの文字列が刻まれているけれど、僕が初めてその本を手に取った時、最初の一ページ以外はまっさらの状態だったんだよ」

 

「最初の一ページ以外は・・・?」

 

「蒐集書に一番始めに入っていたのは、君達もよく知っている管理妖精(Management-fairly)だけだったんだよ」

 

「もしかしてエネさん?」

 

「その通り」

 

 

この蒐集書が出来た当初は、その"エネ"という名前すらなかった。

 

蒐集書と、その管理妖精。異なる世界の「何か」を模したものとは異なる固有の特異性。しかし、僕の持つ「無制限の蒐集書」も完全なオリジナルではなく、似たような「モデル」は存在する。

 

そのモデルというのは、死神による専門学校が存在する世界における大魔導師"エイボン"が造った「エイボンの書」とその「目次」。持ち主は「世界の全てを収集する」と豪語する強欲な収集家。

 

コンセプトは大きく似通っているが、そのシステムは大きく異なっている。

 

"エイボンの書"が「収集」と「貯蔵」に特化しているとしたならば、"無制限の蒐集書"は「書物としての本」に特化していると言える。

 

本の固有性とは「記録」と「複製」であり、本は元々、記録したものを後から見返しやすいように発明されたもので、記録した内容を書き足すことで増やしたりする事も本の特性だ。

 

アイディアは頂いたが、一から十までそのままの力とは違うと言うことを理解してもらいたい。

 

強いからという理由で、創作物の力を、神を名乗る不審者から与えて貰っているだろう特異者と、僕は大きな違いがあると言っても良い。僕の力は与えられたものではなかったのだから。

 

それに、そもそも彼等とは生まれた星すら違う。

 

 

「誰かと同じ能力者かそうでないか。それが僕と彼らの特異者としての大きな違いだよ」

 

「なるほど。確かに、如月さんのような力を持った人が二人もいたら困ります」

 

「・・・・・・ははは。特異者の人数と能力を把握したところで、話を先に進めようかと思うんだけど、フェイト達は何故君達を巻き込んで過去に戻った理由は分かってるか?」

 

「はい」

 

「・・・たぶん!」

 

 

自信満々に言うことじゃないと思うんだけど。

 

 

「じゃあ、この過去戻りの目的達成のために障害となり得る特異者達とどう関わって、どんな風に事件の収束を迎えるべきか話し合っておこうか」

 

「どんな風に・・・?」

 

「この前までいた未来とは異なる形が前提なのは分かってるか?」

 

「・・・知ってる未来と同じにはならないって事?」

 

 

そういうこと。

 

なんか子ども達と勉強している気分になるな。

 

 

「なるほど。未来を知っているから、ある程度予定を決めて、自分の好きな結末に出来るのね?」

 

「如月さんはもしかして、もう結末を決めてたりします・・・?」

 

「決めてたら決めようなんて言わないよ。だけど、この場で提案できる未来のプランが一つある」

 

 

僕が彼女達を連れて過去に戻ってきた理由。

 

つまり理由を説明する手間をほとんど省いた上で何をさせようとしていたかと言うことだろう。

 

聞いてきたのはフェイトちゃんだが、他もそれなりに気になるようで、聞く体勢になっている。

 

けど、僕の考えていたことはあまりにもお粗末で、最低かもしれないアイディアなんだけど。

 

 

「僕が最初に考えていたプランはね。酷い話かもしれないけど、プレシアとアリシアちゃんそしてフェイトちゃんの三人に、死んでもらおうかなって」

 

「「は?」」

 

「「「え?」」」

 

「ちょっと待ちなさい。聞き捨てならないわ。死んでもらうってどういうことよ!」

 

 

プレシアが怒るのも無理はない。というか、普通に考えて「死ね」って言われたら誰だってキレるだろう。うん。それが普通だ。けれど、勘違いしないでほしい。

 

 

「もちろん後で助けるよ。"管理局の記録上では死んでもらう"っていうのが僕のプランの目的さ。その後は如月の権力を使って君達の戸籍を作って、この街に住まわせるつもりだ」

 

「「・・・・・・?」」

 

「・・・なるほどね。理解したわ。確かにそれなら、私が頼んだことは全部達成できる」

 

「僕が考えたプランはこんな感じだったんだけど。何か良い案は他にあるか?」

 

「全員救うにはそれしかないんですか? 管理局の人達を騙すような・・・」

 

 

ユーノは次元世界の出身で、管理局の法治下で過ごした時間も長いから染まっているんだろうか。プレシアのように管理局に対する不信感を抱くきっかけもないからしょうがないか。

 

 

「管理局も一枚岩じゃないからな。ハラオウンがどれだけテスタロッサに親身になってくれても、上の指示には逆らえない。プレシアの予想通り母親は処刑、生き返った姉と作り出された妹は・・・

 

「実験対象、かな」

 

「うそ・・・」

 

「嘘じゃないわよ。恐らくそれが現実に起こりえる結果」

 

「皆丸く収めるには最低条件として、プレシアとアリシアは行方不明になってないといけない」

 

 

実際、それが一番上手く行った結末だ。こじつけなし、ご都合主義展開もなしで進める事も出来るけど、どうしてもそれは手段がとれる地球上に限られてしまうから。少なくても次元世界上では、プレシアと死んでしまっていたアリシアは行方不明の死亡扱いが望ましい。

 

 

「最初はプランを話し合って決めようと思ってたんだけど、戻ってきたことでイレギュラーが多数確認されているだろ? こうなってくると、修正力が怖いな・・・」

 

「修正力?」

 

「ああ。世界のな」

 

「・・・まるで、世界そのものに意思があるみたいな言い方ね」

 

 

嫌そうな言い方をするプレシア。だが、あながち間違っていない。

 

 

「世界そのものに意思なんてないよ。言い換えれば──少し違うが運命みたいなものだ。潮や風の流れに動力のない船が逆らえないように、世界の流れというものもしっかり存在しているんだよ」

 

 

机の上に一枚の紙を置いて話を続ける。

 

 

「例えば、"この世界"ならこんな風にね」

 

 

それは年表だ。

 

【  4/4(月) ユーノ、二個目のジュエルシードの封印に失敗、念話を飛ばす

   4/5(火) なのは魔法を習得し発動。動物病院近くでの戦闘

   4/6(水) 神社での戦闘

   4/8(金) プールでの戦闘

   4/9(土) 夜、学校で封印

   4/10(日) サッカー。街に大規模な被害。

        なのは、意志を固める

   4/16(土) 月村家訪問、フェイト登場、なのはと交戦。フェイトが獲得

   4/22(金) 温泉で二泊。

    ~24(日) 夜、フェイトと再戦。ユーノはアルフと交戦

   4/26(火) なのは、アリサと喧嘩。

        フェイトと街中で三戦目、RH&バルディッシュ破損。フェイトが獲得

   4/27(水) 朝、美由希の練習を見るなのは。

        フェイト、プレシアに報告。戦艦アースラ登場。

        夕方、海辺の公園でフェイトとの四戦目。ジュエルシードはクロノが回収。

        夜、桃子に報告。なのは、アースラに搭乗

   5/7(土) 海上の決戦。新たになのは三個(計九個)、フェイト二個(計六個)回収。

        残り六個は三個ずつクロノとアルフが回収

   5/8(日) なのは一時帰宅。リンディ、高町家訪問。

        アリサ、負傷したアルフを拾う

   5/9(月) なのは、バニングス家を訪問。アルフと再会。

        一時休戦し、協力的な体制へ

   5/10(火) 早朝、なのはとフェイト、臨海公園で決戦。

        時の庭園にて、プレシアとの決戦

   5/14(土) なのは帰宅。フェイトはアースラにて軟禁状態に

   5/22(日) なのは、フェイト達との別れ。ユーノは残留留               】

 

一覧とも呼べるその纏められた内容は、僕が知る限りのこの世界での出来事だ。

 

 

「・・・これは?」

 

「僕──如月家が関わらなかった場合のPT事件だ」

 

「え!? 何で知ってるの?」

 

「君達が一度目だと思っているあの歴史が、一体何度目だと思ってるんだ?」

 

「「「・・・なんか納得しました」」」

 

「そしてこれが、僕が関わったPT事件。比較的平穏に終わった君達にとっての過去だ」

 

 

机の上にもう一枚の紙を出す。

 

【  4/1(金) ジュエルシードが地球の海鳴市に降り注ぐ。如月がそれを感知。

        回収部隊を派遣する

   4/4(月) ユーノ、二個目のジュエルシードの封印に失敗、念話を飛ばす

   4/5(火) なのは魔法を習得し発動。動物病院近くでの戦闘、如月奏音の介入

   4/6(水) 喫茶アーネンエルベでの邂逅。ジュエルシードをかけた勝負をすることが決まる

   4/9(土) なのは達がカルデアを訪ねて、イリヤと戦闘。約束された勝利の剣に敗北

   4/11(月) プリズマデート。なのは達のカルデア式特訓開始

   4/12(火) なのは達の特訓二日目。イリヤの特訓も始まる

   4/16(土) 月村家訪問、フェイト登場、なのはと交戦

   4/22(金) 温泉で2泊。

    ~24(日) CSアルトリアと戦闘。なのは覚醒。フェイト拉致。訓練開始

   4/2?(?) 空白の四日間くらいが挟まっている

   4/26(火) フェイトと街中(鏡面界)で戦闘。結果は相打ち。奏音告白事件

   4/27(水) 夕方、海辺の公園でイカロスメランとの戦闘。アースラの介入。

        家族に説明。主脳会議開催

   4/28(木)

   ~5/9(水) 如月邸地下施設"カルデア"にてなのは達は訓練を継続

   5/10(火) なのはとフェイトVSイリヤスフィール臨海公園で決戦。

        時の庭園にて、プレシアとの決戦

   5/11(水) 如月兄妹の組み手。プレシアの訪問。                  】

 

そこに書かれているのは前回の歴史だ。

 

 

「・・・ユーノ君と会ったこととすずかちゃんの家に行ったこと、温泉お泊まりと、フェイトちゃんと戦ったのが一緒・・・・・・」

 

「細かいところは違うが、起きたことは大抵が一緒だろう?」

 

「もしかして。如月さんはこの歴史を──この流れを変えないように介入してきたんですか?」

 

「ああ。僕が知る限りの最初の一周目は、この一枚目の歴史だ。けど、特異者がいるのに一枚目の歴史のまま放っておいたら、彼らのせいで地球が滅びそう(バッドエンド)だったからな。介入してあの結末にしたんだよ。もちろんその間も何回か戻ってる。今のところあの歴史が一番上手く行っていたんだ」

 

「えっと・・・じゃあ、もしかして」

 

「今回戻ってきた事で越えるべき障害が更に増えたんだ。いやぁ・・・、厄介だよね」

 

 

正直な話、全部まとめて消し去ってしまった方が、とてもとても便利なんじゃないだろうか。

 

消し去るのは勿論、特異者だけだけど。

 

なんて、冗談めかして口にしてみれば、四方八方から止められた。

 

 

「・・・・・・事情は分かりました。つまり、今から私達はこの増えた問題に対処しながら、前回と似た歴史にしなければならないというわけですね?」

 

「・・・そういうことになる。けれど、神名陸と鏡橋若菜に関しては、前周で御する方法をある程度掴んでいるからそこまでの負担にはならないと思う」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。なのはやフェイトへ明確に敵対しない事もある。行動把握は案外簡単だと思う」

 

 

彼らも記憶持ちであればとも思わなくもないが、既に過去に戻ってきてしまっている以上、未来には戻れない。これはIFの話になるが、あの場で彼等が欠席しなければもう少し、やりやすくなった可能性はある。特異者への説明の仕方が複雑という欠点はあれど。

 

 

予測不可能条件(イレギュラー)は少ない方が良いわ。他に問題は?」

 

「現状、一番に解決すべきは高町なのはの魔法への関わりだな」

 

「え!? なのはは魔法に関わる運命なんですか!?」

 

「ああ。・・・もちろん、可能性を潰す中で、高町なのはが魔法に関わらないという歴史もあった。だけど、4月10日(水)──そう、この日。この日までになのはが魔法の力を手にして、なおかつ使い慣れていないと駄目なんだ」

 

「サッカー・・・」

 

 

そういえば、そんなことがあるって聞いたっけ。と、なのはが四月十日の出来事を思い出す。

 

 

「如月が介入して、なのはの保護をどれだけ行っても、なのはが魔法に関わらない歴史は要らないとばかりに、世界は高町なのはという存在を抹消しようとしてくる」

 

「え、えぇ!?」

 

「事故だったり故意的な殺害であったり、英雄を使って守らせても、世界の意思には逆らえない」

 

「・・・私、死んじゃったんですか?」

 

「何言ってんだ。君はそこで生きているだろ」

 

 

何にせよ、"高町なのは"という存在は世界にとって、主人公(タイトルロール)に他ならない。だから、4月10日までに高町なのはは魔法を手にしておく、言い換えれば"魔法少女高町なのは"になっておく必要がある。

 

 

「とにかく、時間がない。そういうことだと納得して、今は飲み込んで貰えるか?」

 

「はい」

 

「分かりました。なのは、レイジングハートだ。呪文は覚えてるね?」

 

「うん。大丈夫!」

 

 

フェレット姿のユーノから赤い宝石。レイジングハートを受け取ったなのはは、それを両手で包むように持った。

 

 

「【我、使命を受けし者なり

  契約の下、その力を解き放て

  風は空に、星は天に

  そして、不屈の(こころ)はこの胸に

  この手に魔法を

  レイジングハート、セット・アップ!】」

 

 

レイジングハートの起動呪文だったか。改めて聞いてみると、案外長いものだ。最初だけ長くて、後半になってくると「セットアップ」の一言で起動するタイプの文言だろう。

 

変身するときはもっと単純に・・・、そうだな僕だったら「メイクアップ」とか、「変身!」とか、「デュアル・オーロラ・ウェーイブ」とかそういった呪文にするけどな。

 

それはそうと、魔法少女と言えばお馴染みの変身バンクである。基本的に虹色のオーラなどを使い放送上の都合で大事な部分は隠されてしまうものだし、一瞬で完了という設定もあったりするが、僕の目はその変身シーンを一フレームの誤差もなく捉えることができた。

 

まあ、お約束を楽しんだわけなのだが、何故かそれが(エネ)の粋な──余計な、計らいで動画ファイルとして蒐集書に集められてしまった。何やってんだ、エネ(アイツ)は。

 

今後なんらかの問題になりそうな火種ができたりはしたが、魔法の契約は無事に完了したようで、光が晴れると──一瞬だから光ったと思ったらが正しい表現だ、そこには私立聖祥大附属小学校の制服を模した見慣れたバリアジャケットを身に纏うなのはちゃんが立って居た。

 

 

「よし。これで目下の問題、その一が解決されたな」

 

「その二もあるんですか?」

 

「・・・・・・ある。アリシア・テスタロッサが生き返っていることだ」

 

「えっ。それのどこが問題なの?」

 

 

心底不思議そうなのは、当事者──というか本人の、アリシアである。

 

 

「プレシア・テスタロッサはどの世界でも一貫して、アリシアを生き返らせるための手段のため、ジュエルシードを欲していた。その理由が死んでいなかったら、そもそも事件は起きないだろ」

 

「あ・・・・・・」

 

 

プレシア・テスタロッサは、実の娘であるアリシアを生き返らせるためにジュエルシードを欲したのに、その彼女が生き返ってしまっていたら、"魔法少女リリカルなのは"は始まらない。

 

 

「理由はなくなったのにも関わらず、ジュエルシードは前回通りにこの星にバラ撒かれて、如月が回収した。・・・・・・どういうことか、説明してくれないかな、プレシア」

 

「・・・プレシア」

 

「・・・・・・母さん」

 

 

アリシアが生き返っていることを議題に出した辺りから、何故か口を閉ざして無駄に優雅に珈琲を飲んでいたプレシアに目を向ける。反応を見るに、他のみんなも意見を求めているようだった。




現在の歴史

4/1(金) ジュエルシードが地球の海鳴市に降り注ぐ。如月がそれを感知。回収部隊を派遣する
4/4(月) ユーノ、2個目のジュエルシードの封印に失敗、念話を飛ばす
4/5(火) なのは、ユーノと合流。記憶を取り戻し魔法に出逢うこと無く、第三者によって助けられ、その場を乗り切る
4/6(水) 喫茶アーネンエルベでの舞台裏打ち合わせ←イマココ

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