我、無限の欲望の蒐集家也 作:121.622km/h
僕らの視線に耐え切れなくなった訳ではなさそうだが、優雅に珈琲を飲んでいたプレシアは、その手を止めソーサーにカップを置いて、一言。
「生き返ったアリシアは偽物よ」
と言った。
真顔で。
そう言い切ったのだった。
「「「えぇ!?」」」
「私偽物なの?!」
当然のように大混乱に陥った店内。アリシアに至っては、今一度自分を否定しようとする母に何をする気か、ペルソナ"アラクネ"を呼び出そうとして失敗していた。
そんな混乱の中、プレシアは依然落ち着いたままで、
「──と、言っておいたわ」
と、続けた。
「・・・・・・へ?」
「・・・ああ、そういう」
なるほど。それがジュエルシード事件の発端か。頭良いな、流石大魔導師プレシア・テスタロッサと言ったところかな。
「あんなことができたのも、如月さんの前例があったからよ」
「まあ、普通はあの反応が正しい。嫌な前例だっただろ」
「そうでもないわ」
「えっと・・・『プレシアは謎の女の力で生き返ったアリシアを本物と認めず、自分の手で我が子を生き返らせるためにジュエルシードを狙った』っていう筋書きですか?」
「その通りよ。如月の教育って素晴らしいのね」
「戦場における判断力の向上には頭脳の成長も必要なんだろ。詳しいことは知らん」
その場のノリと勢いで生きている僕に、頭の良さは求めないでもらおう。
素手スペックが高いことは多方面から突っ込まれてきたけど、これでも人生何周目って話だ。
「最初はアリシアが生き返ったことが嬉しかったけれど、胡散臭い女だったし、元々あった朧気な
「『あれは私のアリシアじゃないわ』って」
「へー。そんな事言ってたんだ。私に『フェイトとなるべく他人の振りをして』って言ったのも、何か関係があったりするの?」
「・・・流石だな。先の先まで呼んで行動できるとは。まさか、僕と同じ力を持ってたり?」
「それはないわ。人生にセーブ機能を持つ必要はないわ。あった方が辛いとき、あるでしょう?」
「・・・・・・全く、いくら年月を重ねても社会に出た大人には適わないんだよなぁ」
僕は未だに学生で精神が止まってしまっている。社会に出ていないからオトナには成れていない。ただ長生きしただけの子供ってわけだ。
ちなみに、如月に所属する英雄達は例外である。あいつ等は神話や物語の登場人物と、実際に居たかもしれない人物。現代人の思い込みによる脚色や妄想だらけで、とても現実を知っている大人とは言えない。むしろ僕よりもこどもなんじゃあないだろうか。
夢や想像を生きる英雄は、子供達の理想にしかなれない。
「・・・まあ、これで一先ず解決すべき問題が片付いたことはわかったな」
「えっと・・・・・・、その言い方だと問題がまだあるようなのですが」
「あるさ。問題なんてのは、人が生きる限りゴキブリのように消しても、消しても湧いてでてくるものだからな。苦手な人には本当に解決しづらいものだろう?」
「例えが分かりそうで分からない・・・」
そうか?
そうかもな。我が家もゴキブリなんて出たことがないからよく分からない。自分で分からない例え話をするなっていう話だな。これは。
「さて、次は今回の事件の中心──ジュエルシードの話になるけど・・・」
「あ、そうだ。レイジングハート」
『All,right』
話を進めようと思った矢先、出鼻を挫く勢いでなのはちゃんがそう言って、レイジングハートから何かを取り出した。何かと言ってもそれはジュエルシード以外の何物でも無いのだが。
「これって・・・本物のジュエルシード・・・ですよね?」
「そういえば、初めの一個はユーノが持ってたんだったか? 安心しな、それはジュエルシードと似たような機能を持った偽物さ。発動も停止も、こちらが任意的に行うことができる」
海鳴に落下してきたその時に、ユーノが回収しようとする分だけ先に、コアクリスタルの改造品にすりかえておいた。
「すでに本物も回収は済んでいる。後でまとめてユーノに渡すことにするよ」
「え!? でも、前回は・・・危険だからって管理局にも渡せないって・・・」
「管理局に運んでも、この星に危害が加わる可能性は低いだろう? なら危険物は対岸に運んで、事故するにしろ遠くでしてもらったほうが気も楽だ」
「・・・・・・えぇー」
対岸の事故を見て盛り上がるのは地球人なら誰でもだろう。自分に関わりのない場所での火事ほど民衆が興奮する非日常もないだろう。
「それに、君達と一緒に戻ってきているんだから、あの特訓も必要ないだろう?」
「え、いや・・・」
「ジュエルシードを賭けて戦う必要もない。あの特訓はなんだったのかと言われれば、丁度今必要だろう? もし僕が、初めから君達と一緒に戻ってくることを知っていたら?」
「・・・・・・あ」
「『如月への信頼』、『戦闘技能の向上』、『戦略的思考の発達』。二周目に備えた教育だったと考えても、辻褄は合ってしまう。もっとも僕はそんなことは微塵も考えてなかったかもしれない。けれど、こうやって戻ってきたことで更に役立っているのは間違いないだろ?」
「そう、ですね」
全力を出したアイツの手にかかれば、もしかしたら、こうなることすら想定した物語を作り上げるかもしれなかったけど、僕には無理だ。
「っていうか、ジュエルシード回収するのすごく早かったんだね。どうやったの?」
「ああ。それにはちょっとしたコツがあってな。コツって言うか、知っているだけとも言えるか。実は、ジュエルシードがこの星に落ちた場所は、何故か最初の一回目から変わったことがない」
「それも、世界の修正力ですか・・・・・・」
「そこまで悲観的になる必要はないよ。カギとなる
その通過点を無事に通り過ぎることができるかも、また大きな課題なのだが、まあ心配は要らないだろう。何かあったら戻れば良い。僕はそうやって繰り返してきた。
「もし、戻ることがあるのなら、今度から私達も連れて行ってください」
「・・・は?」
「今回如月さんは前線に出る予定はないんですよね? だったら、私達も一緒に戻ります」
「・・・・・・そう来たか。了解、じゃあ次戻るときは君達の記憶を持ってくるよ」
「「はいっ」」
どうやら今回は心強い味方がいるようだ。
だけど、無条件の信頼ほど、恐ろしいものも嬉しいものも無い。
一体いつから、僕はこんな幸せ者になったんだ?
「・・・とりあえず、重要な通過点だけ説明しておく。4月16日、23日、26日、27日そして5月10日。計五日がジュエルシード関連の事件における重要なチェックポイントだ」
「意外と少ない・・・?」
「起きたイベントの総数で見たらな。前回の予定表と比べてみてみな。余計なイベントをほとんど省いた時系列になっているはずだ」
「本当だ」
通過点は絶対に起こるイベントだが、それ以外の出来事は起こさないように短縮も可能だった。
「僕が知る一周目の今日。4月6日は神社でジュエルシードが暴走する日だ」
「陸達が解決に向かっています」
「そう、前回は強制回収によって起こさなかったイベントでもある。なのはちゃんが魔法に関わる上で、それほど大事ではないイベントってことだ」
「・・・なんか、そう聞くとゲームみたいですね」
「実際ゲームみたいなものなんだよ。僕にとってはね」
人生がセーブ&ロードできる僕にとっては、ゲームと変わらないかもしれない。まあ、例えゲームのように思えたとしても、実際の対応はゲームのようにはいかないものである。
「とにかく、4月16日。この日までのイベントのことは、考えなくても良い。そう言えば聞こえは悪いかもしれないが、416までのイベントは、無視すればこの通りになるし、回避しようと動けばほぼ百パーセント回避できるイベントだから無視してもいいって言っているんだ。
「対照的に、通過点と呼んでいるこの五日間は、どう動いても似たような事件が起きるし、解決の際は高町なのはとフェイト・テスタロッサの両名が関わっていないと世界が滅びる可能性がある。つまり、どう足掻いても避けられないイベントだから気をつけてほしい。
「通過点以外のイベントも、言った通り放っておいたら似た事象が起きる。特に4月10日の被害は凄まじく、如月の人脈をほとんど使って、死傷者を出さないことに尽力したことがあるくらいだ。けど、それらの事件も起こさないようにすれば起きやしない。
「世界の認識的には、フェイトちゃんと出会うまでに、なのはちゃんが一定以上成長していれば、それでいいんだと思われる」
「・・・ってことは、もしかして、第一通過点までは"なのは"の成長イベント?」
合ってる。
長々とした説明を、そんな一言で纏められるのも癪だけど。
「簡単に──それもゲーム風に言えばね。だからこそ、前回はその成長イベントを無視するために如月で鍛えさせてもらった。だけど、今回はそうもいかない。特異者が多く、味方になりえる存在の区別がつかないからな」
加えて言えば、誰がどんな動きをするか、焦らずに対処しながら事を進める必要がある。
「あぁ言い忘れていたわ。レイシアはフェイトと一緒に行かせる予定よ」
「・・・・・・伝えてくれてありがとう。だが、これでまたややこしくなったなぁ・・・」
「特異者が五人も海鳴に・・・・・・」
「ここまで来るとミッドチルダにも何人か特異者がいると見て良いんじゃないかしら」
うんうん。
特異者自体は地球じゃない場所──ミッドチルダにもいたりして、そういう特異者は事件解決の際アースラで地球にくることもあれば、成長したなのはちゃん達にしか興味が無かったりする。
まあ、何にせよ。
「特異者全員がそうだとは言わないけど、なのはちゃんモテモテだねぇ」
「私、好きな人以外にモテても嬉しくありません」
「へぇ、意外。好きな人がいるのか。どんな人なんだい?」
「私が小さい頃に助けてくれた魔法使いさんです」
「へぇ~」
「・・・如月さんのことですよ?」
「何となく分かってた」
確かに魔法使いだと言った記憶はあるけど、僕は魔法使いじゃないんだよ。
童貞ちゃうわ!
初めては数百歳年上のロリババアでした。
「どんな風に助けてくれたの?」
「聞いてくれるのフェイトちゃん!? あれはね──」
はい。なのはちゃんの回想入りまーす。
──あれは、私、高町なのはがまだ小学校に上がる前だったの・・・・・・。
お父さんが大怪我をして、お母さんもお兄ちゃんも、お姉ちゃんも忙しくて。私は何もできる事が無くて、必然的に一人でいることしか出来なくて、皆に迷惑をかけないように公園に遊びに行っていた。
そこで、魔法使いさんに出会ったの。
魔法使いは泣いていた私に手を差し伸べてくれた。お父さんの怪我を治してくれると、そう言ったの。
「おにいさん、お医者さんなの?」
「いや、違うよ。俺はね、魔法使いなんだ」
魔法使いさんはそう言って、綺麗な雪のような色をした魔法を使ってお父さんの怪我を治してくれました。
お金は払っていません。何故なら魔法使いさんは、
「君の笑顔が代金代わりさ」
そういって、消えてしまったからです。
そうして、なのはは魔法使いさんと同じ、魔法の担い手に憧れるようになりました──
「ほぇー」
「素敵なお話」
「で? 如月さん、実際のところは」
「大まかなところはあってるが、会話文なんかは百パーセント捏造・妄想・空想の三拍子だねぇ。英雄譚と噂話はこんな風に脚色されて事実にされていくのか・・・初めて知ったよ」
僕から見た事実は、怪しげな取り引きだったわけだが、幼稚園児から見れば白馬の王子様が助けに来てくれたように見えたのかな・・・。幼女の想像力と記憶力って凄いなぁ・・・。僕なんか数日したら忘れてるよ。
「さて、話を逸らした張本人が何をと思うかもしれないけれど、議題に戻ろうじゃないか」
「「「はーい」」」
「今後どうするか。のことだけど──僕から言えるのは、なのはちゃんとフェイトちゃんは基礎のトレーニングをやること。応用は既に習っているはずだから、今は基礎をやっておけば良い」
「「はい!」」
うん。良い返事だ。流石"如月"の教育だな。
「私はその応援をしても良いのかしら?」
「応援は心の中で頼む。キツいかもしれないが、フェイトとレイシアを嫌々世話して、アリシアは放置。そのアリシアの世話を見かねたフェイトが・・・が、一番好ましい」
「キッツいわね・・・それ」
「その間も私とフェイトは他人の振りでしょー?」
苦々しい顔をするプレシアと対照的に、明るい調子でアリシアが続ける。
「ある程度したら姉妹じゃなくて友人くらいならオッケーだ」
「わかった!」
「4月10日くらいにもう一度ここにこうして集まって、通過点を超えられたかどうかを確認する」
「「「「はい」」」」
何故か僕が仕切って、僕の提案で方針が決まっているけど、話し合うことはこれで終わりである。これからは細かい調整をしながら、より良い結果に導いていく。
あ、そうだ。
「みんなジュエルシードって読んでるあの宝石のことなんだけど」
「え、はい。なんですか?」
僕はコアクリスタルを一つ、蒐集書から取り出してテーブルの上に置く。
「正式名称──魔力圧縮型連結核結晶、通称"コアクリスタル"。用途としてはただの魔力電池だ」
「じゅ、ジュエルシード・・・じゃない?」
「元はね。レイジングハートにコアクリスタル専用の格納場所があるだろ?」
『Yes』
「そこに格納して使うんだ。格納すればするほど魔力が増幅していく仕組みでね」
以前も説明したが、元はこれ単体で使うものではなかった。
「へぇ・・・」
「二十一コしかなかったの?」
「ナンバリングはされてなかったし、もう少しあったと思う。そもそも魔法文化自体がレギオンでは流行らなかったから、絶対数そのものが少ないんだけど・・・」
「どちらにせよ、ジュエルシードは改造品なのね」
「そういうこと。いつまでも僕の故郷の品の性能を勘違いされたままなのも嫌なんでね。この期に説明させてもらったよ」
コアクリスタルはタダの電池。安全ですよって事を知ってほしかった。
「・・・いえ、当然のことだと思います。でも、アルハザードと呼ばれる伝説の文明の遺産がこんな近くにあるなんて・・・」
「複雑か?」
「・・・・・・少し」
突然の発表に混乱しているかもしれないが、言いたいことや話したいことは全部話し終えたので、今日はこれで解散となる。
そう伝えればプレシア達が席を立つ。
「・・・なのはちゃん」
「なんですか?」
「携帯電話の番号教えておくよ。訓練がしたくなったら電話しておいで。蒐集書の中でなら戦闘を見てあげられるから」
「・・・はいっ!」
「あ、それと。僕、なのはちゃんに何かしたっけ?」
「へ? な、何でですか?」
「前まで「お兄さん」って呼んでたのに突然「如月さん」だから、何かしちゃったかなって」
「う、うぅん! 私の気持ちの問題なので! 如月さんは何もしてましぇん!」
「そっか、じゃあ気を付けて帰ってね?」
「ひゃっ・・・・・・ひゃいぃぃぃいいいいいいい!!」
なのはちゃんは耳まで朱色に染め上げたと思ったら、全力疾走で帰って行ってしまった。
その小脇に、フェレットになったユーノを抱えて。・・・って言うか大丈夫かな。
初期ステータスじゃあの子、何も無いところで転けるタイプの子だったような・・・・・・。
「魔性の男ね・・・」
「何を納得したように呟いてんだ、プレシア」
「いえ、何でもないわ。・・・じゃあ、また」
「ああ。気を付けろよ」
──その日の夜。高町家
なのはside
やった! やったやったやった! お兄さんの電話番号をもらっちゃった!
模擬戦って、二人っきりかな。二人っきりだよね。イリヤちゃんが自慢してた介抱とかもあったりしちゃうのかな! キャァアアアア!!
『
「当たり前だよ、レイジングハート。お兄さんの電話番号だよ。いつでもお話しできるんだよ!? いつでも、あえるんだよ」
『
「うん! ・・・あ、そうだ。レイジングハートは電話ってできる? お家の電話じゃ長話できないと思うから・・・・・・」
『
「わかった! じゃあ、その時はよろしくね!」
『Yes』
「あ、そうだ。レイジングハート」
『
「これからもまたよろしくね!」
『