我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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今回キャラ崩壊が酷いです。

副題:入学式の乱


003

少年、如月奏音はとある学校の体育館にて、式典に参列者として参加していた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

正直、奏音は今すぐにでもこの場から逃げ出したいほどの羞恥に追い込まれていた。

 

私立聖祥大附属小学校。それが今、奏音がいる学校の名前だった。

 

 

(・・・リリカルかぁ・・・)

 

 

現実逃避のためか、前世で知り得た創作の知識に思いを馳せる奏音。

 

その原因は、体育館で行われている小学校の入学式、そこに参列した如月由縁の保護者達の奇行にあった。

 

奏音自身も、こんな事になるとは微塵も思っていなかっただろう。

 

都市伝説として、語り継がれそうな入学式が始まった原因は、この日の朝に遡る。

 

 

 

それは、朝八時過ぎくらいのことだ。

 

奏音達は、これから入学する小学校の制服を身に纏った少女達と、玄関先で集まって最終的な身支度をしていた。

 

本日私立聖祥大附属小学校に入学するのは、

「イリヤスフィール・E・アインツベルン」

「クロエ・フォン・アインツベルン」

「朔月美遊」

「木之本桜」

「大道寺知世」

「ギルガメッシュ」

「ジャック・ザ・リッパー」

「ナーサリー・ライム」

「カオス」

「イヴ」

ほとんどが少女で、男は一人しかいない。

 

そんな彼女達を見守る保護者にも、奏音は不安があった。

 

 

「アイリ。もう一度確認させてくれ。僕の服装、おかしいところはないよね?」

 

「大丈夫よキリツグ。とっても素敵」

 

 

普段着ているよれたコートではなく、ぴっちりとした新品と見間違うくらい綺麗なスーツに身を包み、髭も剃った男がいた。傍には同じようにきっちりと正装をした一児の母とは思えない美しい女性がいる。

 

その傍では赤髪の少年士郎と、黒髪の少女がカメラを弄っていた。

 

 

「えっと・・・電池も十分ね」

 

「こっちも大丈夫そうだ」

 

「士郎、カメラはどうだい?」

 

「バッチリだよ、切嗣」

 

 

士郎はそう言って切嗣と呼んだスーツの男に、手に持ったカメラを見せる。

 

 

「よし、そのカメラで、僕と同じようにイリヤの勇姿を記録してくれ」

 

「・・・悪いけどじいさん。俺は美遊を撮ることにするよ」

 

「それじゃあ、私がクロエを担当するわ」

 

「ん? ああ、じゃあ頼んだ、凛」

 

「じゃあ、ジャックは私に任せて!」

 

「アリスは私が撮ろうじゃないか」

 

 

意気込む保護者達に、本日の主役といえる少女達は、小声で会話をしていた。

 

「お父さん///」

「切継ってば相変わらず親バカなのね」

「愛されてる証拠よ」

「お母さんは何してるの?」

「戦争の準備らしいわ」

 

 

そんなほのぼのとした空気を壊すように、混沌が這い寄るのではなく、飛び込んできた。

 

 

「雑種!」

 

 

黄金色の鎧ではなく、黒いライダースーツを身に纏った英雄王が、玄関を吹き飛ばす勢いで開けて出てきた。

 

それを見て、奏音は現実逃避をしようかと考え始めたが、用事があるのは己のようで、避けようがない事案であった。

 

 

「小さき(オレ)が小学校とやらに入学するらしいではないか。

 

「ならばその様を見届けるのも王の務めというもの。

 

「晴れ舞台というやつであろう。良い催しだ!

 

「我を誘わぬとはどういう了見だ? 雑種」

 

「いや、お前ルールどころかマナーすら守らないじゃん」

 

「当たり前であろう。我がルールだ! しかし、マナーくらいならば守ってやろう」

 

「えぇ・・・」

 

 

奏音は諦めたように息をつく。常時祭りのテンションで生きるゴージャスを相手にするのは、アーチャーを相手にする場合より疲れるのだろうか。アーチャーと比べて随分と丸くなってしまったゴージャスは、より予測不可能な危険生命体なのだろう。

 

 

「よっしゃいくぞ、イカロス。カオスの入学だ」

「はい。マスター」

「おい、スヴェン。早く準備しろよ」

「まぁ待て。焦るな。落ち着いてだな」

「落ち着けよ、スヴェン。ほれカメラ」

「おぉ、忘れるところだった」

「桜をバッチリカメラに収めるでー!」

「ケロちゃんは出ちゃダメなんだよ!」

「なんやてー!?」

「任せてください。桜ちゃんの姿はバッチリカメラに収めて見せますわ」

「知世ちゃんも式に出るんだよ? どうやって撮るつもりなの?」

「愛の力ですわ」

「ほぇ~・・・」

 

「・・・・・・普通の入学式じゃ済まない気がする」

 

 

その予感は的中することとなる。

 

 

 

そして、時は流れて九時前。

 

場所は私立聖祥大附属小学校に移り、飾り付けがされてある校門を通って受付に移動する。保護者達がそれぞれ、自治体から送られてきた就学通知書を提出し、子ども達とは別行動になった。

 

体育館に移動して、子ども達の写真を撮るための席取りが始まり、通路側には陣取れなかったり、そもそも座れなかったりしたものの、全員がここが良いという位置に着くことが出来た。

 

そして愛しき我が子達の入場を待つ間に最終準備が始まったのだ。

 

が、

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

奏音は他人のフリをするしかなかった。

 

それが出来るほど、他の面子が目立っていたのだ。

 

イケメンと間違いなく言い表せる英雄王は、「粗末な椅子よ」等と言いながらもしっかりと自らが定めた席に陣取り、王気──こう書いてオーラと読む、をいつもの倍出しているため、あらゆる人の視線が向く。

 

アーチャーの彼ならば、不敬と断じていただろうが、ゴージャスたる彼はむしろそれを歓迎しているようにも見える。

 

その近くで、高校生くらいの少年と一緒に座る同じデザインの制服を着た少女は、何故か背中から羽が生えており、これもまた注目を浴びていた。その高校生くらいの少年は、必死に羽をしまえと少女に言っているため、少しずつ羽が小さくなっていく。

 

そして、突然の参列者であった英雄王がドカッと座ったため、私は座るのを遠慮しておこうと言って後方に立った白髪の男は、テレビジョン放送で用いられているカメラを三脚で固定し、まるで取材班のように違和感なく撮影の準備をしていた。

 

唯一微笑ましいのが士郎や凛達高校生組の集まりで、美少女とイケメンの集まりではあるため、一定の目線を集めているものの、先述の彼等の方が目立つため、全体的での目立ち方はそうでもなかった。

 

出来ればあの辺に座りたかったなぁと、高校生組を微笑ましく眺める中、あまり目立っていない組の一つである奏音は、隣に座る青年と話していた。

 

 

「アイツ等目立ってんなぁ」

 

「俺はお前も目立つ組かと思ったんだけど」

 

「ああ、同感だ」

 

「酷ぇぞスヴェン!」

 

 

保護者が揃ってほとんど全員が着席した頃。時間にすれば九時半頃のことだった。

 

私立聖祥大附属小学校の新一年生の入場が始まったのは。

 

入場を告げるアナウンスが流れた瞬間。空気が引き締まったのを感じる。我が子の姿を少しでも記録に残そうとする、親たちの熱い気持ちだ。

 

それは、如月一門以外の保護者も当たり前のように持っている感情だ。

 

ピッとか、ピピッとか、ビデオの録画開始音とカメラを構える音がパラパラと聞こえ、引き締まった空気に、一体何が始まるんだと思った人もいたことだろう。

 

 

保護者の拍手と共に、新一年生が入場してくる。自分達の娘、息子の姿を記録するべく幾枚もの写真が撮られ、カメラがその姿を録画する。

 

 

「・・・・・・どこかで見覚えあると思ったら、『リリなの』か

 

 

───と、いうわけで保護者達の奇行は始まった。

 

 

始めに、いうべき人物はやはり英雄王だろう。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を開いて古今東西ありとあらゆる記録系の宝具を取り出し、この入学式状である体育館の隅から隅まで一瞬一瞬を全て事細かに記録し始めた。

 

奏音はそれを見て、何故今し出すと突っ込みを入れたくなった。せめて周りが準備中の時にしてくれればあまり目立たず済んだかもしれないのに。そう思った。

 

次点で語るべきは恐らく、この人。愛妻家にして親バカの衛宮切嗣。傍らに妻が用意したビデオカメラがあるというのに、一眼レフカメラのような上質なカメラを持ち出して無言のまま真顔で、自らの娘を高速で連写していた。

 

そして、その上で、

 

 

固有時制御(Time alter)四倍速(square accel)

 

 

魔術まで使って加速していた。

 

奏音の隣に座るスヴェンも、異常な速度での連写をしているため、恐らく彼の能力を使っているのだろう。

 

その目立ち方は、尋常ではなく、少なくとも常人の目立ち方では決してない。目立つように行動しているわけではなく、ただ自らの感情に従った上での行動で、ここまで目立つのはやはり普通ではないのだろう。

 

そして、そんな目立っている自らの保護者を見た少女達は、思わず目を逸らしたくなってもおかしくはない。

 

 

「・・・・・・小さな私も大変ね」

 

「・・・いーちゃんは向こうじゃなくて本当によかったのか?」

 

「当たり前でしょ。私は13なんだから」

 

 

そう言って奏音に微笑んだのは、切嗣の構えるファインダーの先にいるイリヤと同じ容姿をした少女。しかし、彼女の言葉を信じるのであれば、奏音より年下ではあるものの、今新一年生となったイリヤよりも年上であるようだった。

 

そんな会話をする中でも、常に続いている切嗣の奇行を冷めた目で見始めた二人。

 

 

「・・・イリヤがちょっと可哀想になってきた」

 

「同情するわ。キリツグもやりすぎなのよ」

 

「俺は大人しくこうやってビデオを回しておこう」

 

「それが良いわ。いくらお兄ちゃんでもあんな風に目立たれたら私、困っちゃうもの」

 

 

そして入場が終わった途端。一瞬にして静かになる館内。

 

奏音はこれ以上いくらビデオを回しても、これ以上何も写ることはないので、録画を停止し大人しく式の雰囲気を楽しむ事にした。

 

 

「・・・ふーん。入学式って案外ヒマなのね」

 

「逆にヒマじゃない入学式があったら教えてほしいね。式典なんてのは総じて厳かに執り行われるものさ」

 

「・・・ま、それもそうね」

 

 

一時間ほどで入学式自体は終わる。

 

 

「・・・倫理」

 

「・・・リストアップ」

 

「・・・プロトタイプ」

 

「・・・プリクラ」

 

 

ヒマでしょうがなかったのか、開始十分程からしりとりを開始していた奏音とイリヤ。

 

私立聖祥大附属小学校の校歌を在校生が歌い始めた辺りでそれを止めた。

 

プログラムでいえば「おわりのことば」が終わったことで、来賓と在校生が退場し、新一年生とその担任である教師が、集まって写真撮影を行う。

 

奏音の隣にいたイリヤが小学生と間違えられそうになったものの、それ以外はつつがなく終了し、教室で様々な物品を受け取った後、これから始まる学校生活についてとか、諸々の注意事項などを聞いて、解散となった。

 

そして、帰りに校門前で写真を撮ることになったのだが。

 

 

「よし、後はここに僕が入れば完璧だ。士郎、シャッターを押してくれ!」

 

「・・・・・・ああ」

 

 

こだわりが強い人。

 

 

「ふははは! 余すところなく貴様の勇姿を映してやる! 我と共にな!」

 

「ある意味で嫌ですよ、こんな可能性・・・・・」

 

 

ぶっとんだ自撮りを開始する人。

 

 

「え? また?」

 

「・・・まだ撮るの?」

 

「・・・まじでー?」

 

「も、もうよくね?」

 

「ある意味不幸かもしれない・・・」

 

 

ほとんど全員と一回ずつ撮る羽目になった人など、色々なことがあった入学式だった。

 

 

 

 

──そして。

 

場所は如月邸に戻ってきて、その居間での事だ。

 

冷蔵庫から取り出したばかりの麦茶をコップに注いだあと、飲んでいた奏音はふと呟いた。

 

 

「どうして、皆俺と撮りたがったんだろうか・・・」

 

「・・・どうしてって」

 

「入学を祝うための、記録に残すための撮影だったはず。何故、ほぼ全ての写真に俺が写ることになったのか」

 

 

そういって愚痴っていたが、確かに入学する新一年生以外とも写真撮影をしていたので、色々と可笑しな入学式のシメだったのだが。

 

 

「他の保護者様の目を見たか? 大体の人が微笑ましそうに帰って行ってくれたけど、ある意味で注目を集めてたからな? あいつ等が入場でやらかしてくれたから・・・!」

 

「お兄ちゃんが悶えてる」

 

「お兄ちゃん、目立つこと嫌いだから、しょうがないよ」

 

「・・・でも、一緒に写真が撮れて嬉しかったわ」

 

「「「確かに」」」

 

 

新一年生組にはどうやら好評だった模様。しかし精神的な疲れがそれで癒やされるかどうかは本人次第である。

 

 

「注文通りのポーズを撮ってくれるお兄ちゃん、モデルさんみたいだったね」

 

「流石お兄ちゃん」

 

「略して、さすおに」

 

「「「さすおに」」」

 

「・・・なぁ、新一年生のロリっ子達よ。君達、それは褒めてるの? それとも貶してるの?」

 

 

「さすおに」という略し方がどう捻れ曲がった解釈をされたのか、一度彼の頭を解剖してみてみたい疑問が口から出てきた。

 

それを聞いた彼女達は慌て始める。

 

 

「け、貶してなんかないよ!?」

 

「お兄ちゃんのこと貶すわけないじゃん!」

 

「どうしてそんな風に思うの!?」

 

「・・・前から思ってたけど、お兄ちゃんって鈍感だよね」

 

「おいおい、誰が鈍感だって? これでも俺は自らの敏感さはサーモセンサー並だと自負してるんだぜ?」

 

「・・・だとしたらそのセンサーは壊れかけね」

 

 

格好良く決めたつもりなのだろう奏音の一言は、近くにいた一三歳イリヤの言葉でぶった切られた。

 

 

「なしたのいーちゃん。怒ってる?」

 

「どーして私が怒らないといけないのかしら。いいのよ、カナタがドンファンなのは今に始まったことじゃないもの」

 

「おっ、ドン・ファンをお望みか? よし、聞いてください。『The world is Peapo (Super Infinite MIX)』」

 

 

突然立ち上がりパラパラを踊り出した奏音に、驚きはせずに呆れるだけの周囲。そんな事も気に留めず町を飛び出せ空に向かって星の彼方へと歌いながら回る奏音。

 

 

「そんな調子だから鈍感だって言ってるのよ」

「『好き』って伝えても子供の言うことだもんね。お兄ちゃんにとっては」

「大きくなったら良いのかな・・・?」

「C.C.さんの告白を『おっ、ピザの話か? 知ってるぞ?』なんて言った時点でお察しよ」

「子供の憧れの『好き』の延長線上」

「そう取られておしまいよ」

「そ、それって、伝え方が悪かっただけとか・・・」

私と付き合ってください(別パターン)で攻めたヤミさんもあっけなくやられたわ。『良いぜ。どこいく?』というあげて落とす戦法でね」

「うわ~・・・」

「羞恥で顔を真っ赤にした相手を、怒りで真っ赤に変えることができるのは、どこを探してもお兄ちゃん位よ」

 

 

少女達の会話を完全に無視して、ピーポーピーポー踊り続ける奏音。どうやら自分が楽しくなってきたようだ。

 

 

「雑種。舞を舞うのはそこまでにしておけ。準備が整ったらしい」

 

「・・・ん? 準備?」

 

「碌なものじゃない予感がするわ」

 

「・・・何の、用なんだ?」

 

「上映会を開くらしい!」

 

 

そう言って仁王立ちする英雄王の言葉を、反芻し理解した居間の面々、その反応は疑惑と困惑であった。

 

 

「え・・・?」

 

「あ・・・」

 

「まさか・・・」

 

「いや、流石に早すぎよ」

 

「で、でも可能性は・・・」

 

「ゼロじゃない」

 

 

そして、そのまま連れて行かれたシアタールームにて、本日の入学式で撮影されたビデオが見事な編集で映画さながらの迫力になったものが再生された。


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